『MC☆あくしず vol.6』発売記念 『奥様は最強01 僕とラプンツェルとF-22ラプター』

※解説
 以下はMC☆あくしず6号の特集記事『F-Xは俺の嫁』のイラストをイメージ素材にしたラブコメ戦記短編小説です。
 はるかなる未来、一度文明が崩壊した後の地球における戦記物です。『未来放浪ガルディーン』(火浦功)のようなものだとお考えください。
 MC☆あくしずの記事では『パーフェクトな最強お嬢様』としてじじさんが描いた美麗なイラストを愛でつつ読んでいただければ幸いです。

『奥様は最強 僕とラプンツェルとF-22ラプター』

 城はすっかり包囲されていた。
 敵の火槍兵の放つ赤い炎が城門を焼く。負けじと櫓の上から味方の擲弾兵が青い閃光を放つ雷撃弾を投げる。
 赤と青の勢いは今のところ互角。でも城門が破られるのは時間の問題だ。
 戦況を僕が説明すると、ラプンツェルは不思議そうに首をひねった。ツインテールにした髪が揺れ、広がったナノスキンの匂いが僕の鼻をくすぐる。

「なぜです? あの城門は元は古代帝国時代の戦艦の装甲板です。火槍ごときでは焦げ目もつかないはず」

「うん、扉部分はそうなんだけどね。支える柱の方はけっこう脆いんだ」

 僕は彼女の匂いに陶然となりながら言葉を重ねる。この匂いを独占できるのが自分だけである幸せと共に、一回の出撃に必要なナノスキンにかかる経費が新品の重擲弾兵8機分の価格と同じであるという、今ひとつ幸せでないそろばん勘定が浮かぶ。貧乏城主の悲しい性だ。

「何ですかそれは! 外見だけ立派でも中身が伴わないんじゃ意味ありませんわよ!」

 外見も中身も立派なラプンツェルがぷりぷりと怒る。ああ、彼女の中身といってもそれは彼女の生身の部分の方ではない。ナノスキンの下の彼女の肢体はというと――まあ、あれだ。凹凸には乏しい。

「何か今、失礼なコト考えてたでしょ!」

 ラプンツェルが僕の顔を下からのぞき込むようにして言う。唇を尖らせたその表情も、たとえようもなく愛くるしくて。

「だいたい、あなたは――きゃっ」

 僕は思わずラプンツェルの身体を抱きしめていた。

「ななななな、こんな時に何をするのですっ」

「ラプンツェル、君だけならまだ脱出は可能だ。ここを攻めているロンハン軍は城門部分に集中しているからね」

 抱きしめるラプンツェルの肢体は本当に、小さくて、きゃしゃで。
 大切な人を戦わせることへの不安と。
 最愛の女性が傷つくことへの恐怖で。
 僕の胸が痛む。胃のあたりが重くなる。

「望むのならば、君は今でも父上の元に、家に帰ることができるんだ」

 だから半ば本気でそう耳元にささやく。情けないことを言っていると彼女に叱られるのは覚悟の上で。
 けれど、ラプンツェルはいつものように烈火のごとく怒り出すのではなく、僕の背中に手を回して強く抱きしめ返してくる。

「私の家は、ここですわ。夫であるあなたのいるこの城が、私の家です」

「ありがとう、奥様」

 僕はさらにきつく彼女を抱きしめる。距離を置いて泣いている顔を見られるのが恥ずかしいという気持ちもある。もっとも、鼻声だからラプンツェルにはばればれだろう。

「ならば城主として命令するよ。今も言ったように敵軍は城門に集中している。だから君は地下の秘密通路を通って迂回して、敵の本陣のさらに後ろにある補給段列を攻撃してくれ」

「ねらいは、火槍兵用に蓄積されている弾薬と燃料ね?」

「その通り。これは時間との勝負だ。敵が君のねらいに気づくのに5分。本陣の兵が補給段列の守りを固めるのに15分。20分以内に半分は焼き払ってくれ」

「任せて。10分で全部焼き払ってみせるわ。私と、私のF-22で」

 彼女の自信満々な宣言に答えるかのように、彼女の愛機が整備場から運び出されてきた。
 F-22ラプター。古代帝国最強の空間制圧戦闘機械。現在、地球上で稼働状態にあるのはこの機体を含めて3機しかない。

「いつ見ても美しい機体だ。辺境を預かる新米城主の持ち物としては少々、不釣り合いだけどね」

 最強の機体であるラプターは代々、太平洋同盟の盟主である神聖合衆国の王族にのみ伝えられる。
 この機体の現在の主であるラプンツェルは王弟の娘だ。他の2機は彼女の従姉と叔父が保有している。それぞれ位は伯爵夫人と大公だ。ちなみに僕は男爵ということになっている。

「なら、釣り合いの取れる男になってください」

「まずは、君のお父さんに認めてもらわないとね」

 駆け落ちして、というか王都防衛隊を繰り出してまで阻止しようとするのを強行突破して結婚してしまったのだ。
 今さらごめんなさいでは通らないし、そのつもりもない。

「では行ってきます、あなた」

 敬礼して愛機に駆け出すラプンツェルを僕は見送った。
 王都で僕は彼女に出会い、恋に落ちた。
 それまでの僕は父の後を継いで城主となり、平穏無事に西方辺境を守りぬく以上の望みなど持っていなかった。
 富も、地位も、名声も、欲しいとは思わなかった。
 けれど僕は彼女を手に入れると決めてしまった。彼女と一緒にいるために富が、地位が、名声が必要ならば――

 いいだろう、そのすべてを手に入れて見せよう。

「まずは将としての名声だ」

 僕は城門に群がってくるロンハンの軍勢に視線を向けた。辺境の城ひとつを攻めるには分不相応な大軍がひしめいている。

「ありがたいことだ。苦労した甲斐があったな」

 ロンハンの宮廷に手を回し、大軍で僕の城を攻めてくるように政治工作をした。
 わざと稚拙な戦いをしてみせてその大軍を領内奥深くまで誘引した。
 城門を補強すると同時に、その弱点がそれとなく敵の諜者に伝わるようにした。

「だから君たちは今、城門に強襲している。時間をかけて包囲するには自軍の数が多すぎて補給が苦しいし、力攻めでも押し切れると踏んで」

 そうでなくとも補給に負担のかかる大軍が、徴発や略奪すらできない辺境の地深くに入り込んでいるのだ。
 数が多ければ多いほどに、その実態は脆い。敵軍がもしも半分だったら、僕に勝ち目はなかった。

「悪いが、君たちには僕の踏み台になってもらう」

 この戦いで僕は雲霞のごとき大軍を小城で撃退した、若き知将としての評判を得る。そして、それを足がかりにさらなる名声と富を手に入れる。

 敵軍の動きが不意に止まった。ラプンツェルとラプターが後方に突如出現したからだ。
 数体の火槍兵がこちらに背を向けて本陣の側へ戻ろうとする。どうやら本陣を守る兵すら攻撃に振り向けていたらしい。だが、城門を前にしての不用意な転進がうまくいくはずがない。
 擲弾兵の攻撃にさらされ、2体の火槍兵が擱座した。

 それからきっちり10分後、敵本陣のすぐ後ろで大きな爆発が起き、黒煙がたちのぼった。

「勝ったな」

 潮が引くように敵軍が下がっていく。追撃はしないが、すでに軽装の遊撃隊が敵の後方で補給線を断つべく行動を開始している。
 おそらく、撤退の過程で敵戦闘機械の半数以上が補給を得られず、故障を修理することもできずに脱落するはずだ。それらを鹵獲して自軍に編制……いや。

「売却して、戦費にあてるしかないな」

 僕は苦笑した。戦って勝って、それで終わりというわけにはいかない。これで名声は得たかもしれないが、城の金庫はほぼ空にもなった。
 早く次の手を打って今度は富を得る算段をせねば破産してしまうし、何より愛するラプンツェルに不自由な思いをさせてしまう。

 城内のあちこちから歓声があがった。剣をかざしたラプターが意気揚々と凱旋してきたのだ。
 開いたコクピットから、ラプンツェルが身を乗り出した。僕に向かって大きく手を振っている。
 うれしくはあるのだが、ナノスキンに包まれた肢体は兵には目の毒だろう。

 難問は山積みだし。この先どうなるかも分からないけれど。
 僕とラプンツェル、そしてF-22ラプターがいれば何とかなるのではないか。
 そんなことを、得意満面なラプンツェルの笑顔を見て僕は思っていた。

【おしまい】

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お嫁に選んでもらえなかった、メイドさんのお話。

「……若君……っ」
 岸辺の茂みに隠した、小舟の中で。
 私は、お城の中で苦戦しておられるであろう若君のことを思い出していた。
 思い出すと、自然と、震えが止まる。
 私に、あともう少しの勇気をくれる。
 いつ来るとも知れない(来ないかも知れない)『そのとき』まで、待ち続ける、勇気を。
 
 
 
 さて、何度目の軍議だったか。指揮官たちにお茶を飲んでいただこうと仕度を……しようとして、既にお茶のような嗜好品なんて切らしてしまったことに気がついて、仕方ないからせめて白湯だけでも、仕度していたときのこと。
 ウチの若君は、ワザと相手に『包囲される』のだと、言っておられた。
 いや、はっきりと口に出したわけではない。
 でも、敵の大群が押し寄せてくるとわかったときの、若君の指揮の一言一言が、私にはそのように聞こえたのだ。
 けれども指揮官たちにはそうは聞こえなかったらしく、なんだか、もはやこれまで、だとか、せめて一太刀、だとか。縁起でもないことばかり漏らして、それぞれの持ち場へと戻っていったのだけど……。
 私は、そのあと、円卓の中央に張り出された城のまわりの見取り図の、若君の指し示したあたりを、じっと見つめていた。
 そして、
「あ」
 思わず、声に出してしまった。
『空耳』なんかじゃない。若君は、勝つつもりの指揮を下したのだと、確信した。その気持ちが、思わず声に出てしまった。
「気づいたかい?」
「ひゃぁう!?」
 不意に、声。
 なんと、若君は私の耳元で、声をおかけになったのだ。
「わ、わわわ、若君っ!?」
「ああ、ごめん。驚かせてしまったね」
 あわてる私がそんなに愉快なのか、若君はくすくすと微笑まれながら、小声でこう仰った。
「ライナ……いま、君が気がついたことは、誰にも言ってはならないよ?」
「ひゃっ、ひゃぁいっ!」
 はい、と言おうとして、声がひっくり返る。ポットをひっくり返さなかったのは、長年のご奉公のたまものだ。
「『このこと』は、知らない者が多いほどいいんだ」
 耳元で、若君の言葉が紡がれ続ける。殿方の吐息と汗の香りが、わたしの鼻をくすぐっていく。
 さらには、若君の手が、私の肩に……
 ……てえええええええっ!?
「わっ、若君……っ!?」
 だ、だめっ、心臓がっ、心臓が壊れるっ! それか頭の血管がぶちぶちぶちってちぎれちゃうっ!
「でも、君は『気づいて』しまった。『気づいた』のは、今じゃないね? おそらく、軍議の最中には、わかっていたんじゃないかな?」
 私の体と心がどうにかなりそうなのに、気づいておられるのか、おられないのか。
 若君は、私を問いただす。
「あ、あの……っ」
 でも、言葉を返せない。だめ、だめなのっ、若君の、お顔がっ、お顔近すぎっ!
「だから、君に頼もうと思う」
「え、あ、あの、それ、それはっ……」
「君の命、僕に預けて欲しいんだ」
 そ、そんなっ! そんなことっ!
「そんなっ、それはっ、若君にはっ、姫さまがっ!」
 若君が、私の顔を、ご自分の方に向けさせる……って、手っ、若君の手がっ、頬にっ、ほっぺにぃっ!
「君と、君の……『胡蜂』を」
 
 
 
 で。
 そのあとすぐ。私は内密にお城を出て、小舟で水路を上流へと向かった。
 水路は非常に狭かったけれども……幸い、私と『胡蜂』は『そういうのが』得意だったので、特に差し支えはなかった。ちょっとお尻引っかかりそうだったけど。
 そして、岸辺の茂みに隠れること、実に3日。
 私はひたすら、待ち続けた。
 若君は、何一つ具体的なことを仰らなかった。
 だけれども、もし、狙い通りのことを私がさせていただくとすれば。
 じっと待つのだ、そのときを。
 遠くから砲撃の音が聞こえるたび、身体が震えた。
 けれども、あのときの、若君の手のひらの暖かさを思い出すと、辛抱できた。
 若君がお触れになった私の頬を、手のひらで包み込むと、それだけで、若君の香りが蘇ってくるようで。
 幾度も、それを繰り返した。
 
 
 
 そして。
『そのとき』は、来た。
 今までとは、全く違う方向からの、爆撃音……ちがう、火薬が連続して暴発する音だ。
 お城ではない。この方角は……敵の本陣後方、補給段列!
 どうやったのか、わからない──いや、おそらくは、若君がお選びになった、あの方が、成し遂げたのだろう。
 敵の補給段列に痛恨の一撃を与え、城を攻め落とそうと集まった大軍を、維持できない状態にする。
 若君の『次の一手』が、あの方……姫君の手によって為されたのだ。
「ならば……」
 次は、私の番。
 若君と姫君が成し遂げたことを確実にするために。
 若君にお仕えする、この私が。
 出来ることを。
 輸送機械があれば、これを爆撃し!
 戦闘機械が迎え撃ってくるならば、これを討ち滅ぼし!
「ご奉仕させて、いただきます!」
 小舟から、一気に飛び立つ。
 船からの出撃は、本来、城に配備される空間制圧戦闘機械の得意とするところではないけれども、私の『胡蜂』──F/A-18E/F『スーパーホーネット』ならば!
 スーパーホーネットは、爆音を響かせながら、あっという間に私を大空へと運んでいった。
 
 
 
 
──
若君がF-22ラプターさまをお嫁さんにお選びになった、ということですが、選ばれなかったメイドさん・F/A-18E/Fスーパーホーネットさんもがんばってるんだよね、きっと! と信じて、書き下ろしてみました。『ライナ』という名前は、F/A-18E/Fの非公式愛称『ライノ』を女性形にしたもの。日本語で言えば『犀子』さん?


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