『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その2:GNドライブ

 初代の『機動戦士ガンダム』の動力源は、核融合炉であった。その後、ガンダムセンチュリーなどでミノフスキー粒子の科学的側面も明らかになり、それを利用した小型の核融合炉という形でSF的に美しい設定に発展している。

 ちなみにSF的に美しいというのは私の個人的な趣味で、SF設定が互いにリンクしているパターンを言う。もともとSF設定というのは、言ったモノ勝ちなところがあるため、むやみに濫用すると「なんでもアリじゃんか」となってしまう。逆にひとつのネタを作品全体に敷延していけば、スジが通っていて説得力が増すのだ。代表的なものとしては、アイザック・アシモフの『神々自身』だ。

 さて、機動戦士ガンダム00GNドライブに話を戻そう。
 第一話冒頭で、光の羽根をまとったガンダムが空中に浮かんでいる。
 浮かんでいる――これがまあ、実にやっかいなのだ。
 空を飛ぶだけならば鳥にも虫にもでき、飛行機も気球も空に浮かぶ。私たちだって、短時間であれば、ジャンプしたり飛び降りることで空中に浮かぶことができる。

 が、地球には重力がある。ナニもなければいずれ地上に落ちる。地上に落ちないためには、それなりに努力がいる。鳥や虫なら、羽ばたいて空に浮かぶ。飛行機ならプロペラを回したり、ジェットを噴射する。軽いものであれば、あまり努力せずに宙に浮かぶ。重いものであれば、けっこうな努力が必要になる。

 その視点で第一話冒頭のガンダムを見てみよう。

 光の羽根(GN粒子の副産物?)という、なんかそれっぽい努力はあるが、どこか不自然には感じないだろうか?
 あのガンダムの重量は不明だが、けっこう重いはずだ。オフィシャルサイトのガンダムエクシアの重量は57.2t。自衛隊の90式戦車(50t)よりも重い。
 90式戦車が、光の羽根をふよふよさせて、あんな風に浮かんでいたと脳内MADを作ってみよう。かなり不自然である。
 光の羽根がどんな不思議パワーを出しているにしても、戦車を空中に浮かべるほどの浮力が得られているようには思えない。
 初代ガンダムは背中のランドセルからロケットを噴射して空中にジャンプする描写があるが、それと比べるとどうもなんか勢いが足りない。

 では、逆にどんなモノであったら、あの光の羽根で空をふよふよしていても不思議ではないだろうか。
 他のものに置き換えてみよう。たとえば少年兵時代のセツナ君だったらどうだろう? いけそうだ。実にかわいらしく、素晴らしい。成長した後のセツナ君でも悪くはない。無愛想であるがゆえに、いじめられる場面が妄想できてそそる顔立ちである。
 つまり、人間サイズの重量であれば、あの光の羽根でもなんか納得できそうだということになる。

 そう、つまりは重量の問題なのだ。
 ガンダムの重量が軽減できれば、光の羽根も不思議ではない。
 ではどうなれば重量は軽減できるだろうか。ダイエットというのは、やってみればわかるがきわめて難しい。
 重量を減らすことができないなら、浮力をつけて補うという方法もある。でかい飛行船や気球が空に浮かぶのは、気球部分に空気よりも軽い気体(暖められた空気や水素/ヘリウムなど比重の軽いガス)が入っているせいだ。たとえば、初代ガンダムシリーズにあったミノフスキー・クラフトは、そういう浮力をつけることで機体を軽くするものだ。

 が、もう一度ガンダム00を見直してみよう。本編でガンダムエクシアが空に舞い上がったりする場面があるが、あれは軽くしているだけの動きではない。加速して――推力を得た動きをしている。そして、普通ならそこにつきものの、ジェットだのロケットだのの噴射はない。GNドライブ、ただそれだけである。

 単に重量を軽減したり浮力で相殺したのではない。それだけでは浮かぶだけは可能でも、空中機動型のモビルスーツと戦えるようにはならない。
 ならば答えはひとつ。ガンダムとGNドライブは、慣性の法則を自在に操っているのだ。
 慣性の法則と、それが示すものはこの宇宙における基本ルールだ。何かが動くにはパワーがいる。重いものが素早く動くにはたくさんのパワーが必要だ。戦闘機が空を飛ぶ時のロケットやジェットの噴射や轟音は、そのパワーを示すバロメーターだ。
 1話のガンダムエクシアの空中戦を見てみよう。くるくる自在に飛び回っているがパワーの演出はない。そしてそれこそが、GNドライブというありえないテクノロジーの演出なのだ。
 GNドライブは世界の法則に作用して、それをねじ曲げる。自らに使えば、現実にはありえない空中を飛んだり跳ねたりが可能だ。また、敵から攻撃を受けた場合にも、たとえば銃弾の動きをそらし、爆発のエネルギーを拡散させることで一種のバリアーとして高い防御力を発揮することも可能だろう。
 触れた相手にこの力を応用できるのならば、格闘戦で相手の重量を0にして軽々と持ち上げてぶんなげ、地面に叩きつけるときに重量を何倍にも増やしてダメージを増やすこともでき、けっこう反則である。

 すごい能力を秘めた無慣性駆動であるが、SF全体として見ると、それほど珍しいギミックではない。
 有名な『レンズマン』(E.E.スミス)のバーゲンホルム機関をはじめとして、設定や存在は広く知られており、ガンダム00で使うのも不思議ではない。

 しかしそれはあくまで作品世界全体における汎用のギミックとしてだ。こちらが無慣性駆動を持てば、相手も無慣性駆動を持つ。量産技術は持たないまでも理論は共有しているというのが、無慣性駆動が“作品世界において珍しくない”パターンである。

 ガンダム00は、そうではない。GNドライブ、無慣性駆動システムはソレスタルビーイングのみが保有する超技術だ。実はガンダム00での最大の謎はガンダムの持つ性能や戦争を根絶するという謎目的ではなく、このGNドライブにこそある。

 こんな超技術がどこからきたのか。

 E.E.スミスの『宇宙のスカイラーク』では、X動力という超技術はとある天才科学者の新発明である。ロボットアニメでいえば、『マジンガーZ』の光子力エンジンや『ゲッターロボ』のゲッター炉などがそうだ。GNドライブも天才科学者による新発明という設定の可能性はむろんある。

 あるいは、『ドラえもん』を考えてみよう。ドラえもんとそのポケットにあるアイテムは、未来から来たものだ。未来の技術であるがゆえに、この世界には存在しない。だからドラえもんだけが独占して持っていてもおかしくはない。
 また、『フルメタル・パニック』のラムダドライバはどうか。ウィスパードという特殊な能力を持つ人々が生み出したという点では天才科学者のパターンに類似しているが、あの世界が我々の世界から時間軸が分岐しているというあたりには、ドラえもんにも似た未来からの歴史改変の匂いがしている。

 ガンダム00も『歴史改変』の雰囲気は漂っている。
 無差別な武力介入によって戦争を根絶するという題目が真の目的ではなく、未来における悲劇的な出来事を回避するために、歴史改変が行われている――そのための、GNドライブというのは、十分にありえるネタなのだ。

 では、その悲劇的な出来事とは何か?

 私は、現時点で“軌道エレベーターの倒壊”ではないかと考えている。軌道エレベーターの倒壊は『レッドマーズ』などのSF作品でいくつか見受けられるが、実にとんでもない大惨事である。

 たとえば、静止衛星軌道のステーション部分で、軌道エレベーターがちょんぎられたとしよう。軌道エレベーターというのは、地上側とアンカー衛星との間で「引っ張って」形をまっすぐにしてある。
 それがちょんぎられると、アンカー衛星側は宇宙の彼方にすっとんでいき、残りの地上側は重力に引っ張られて地球に落下する。

 長さ3万6000kmにもおよぶ巨大なムチが、大地に振り下ろされることになるのだ。それもまっすぐ落ちるのではなく、ぐるりと地球にまきついて――大地と海を叩き割るのだ。
 その衝撃は、ガンダム世界ではおなじみのコロニー落としに勝るとも劣らない。人類が滅びることはないにしても、未曾有の大災害は文明を崩壊させる可能性が高い。

 そんな未来を食い止めるために、GNドライブがもたらされたのだとすると。最初にも言ったようにSF的には実に美しいのだ。

 なんとなれば、クライマックスで軌道エレベーターがちょんぎられたならば。悲劇を止める唯一の技術が、慣性をねじ曲げ質量を打ち消すことのできる、無慣性駆動――GNドライブだからである。

 逆襲のシャアで、サイコフレームの光がアクシズの落下を止めたように。
 ガンダム00で、GNドライブのGN粒子による光が、落下する軌道エレベーターを止めることがあれば。
 SFファンとして瞠目すべき場面になるのではあるまいか。

※修正(2007年10月15日):慣性駆動>無慣性駆動に置換

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長さ3万6000km ?

長さ3万6000km


静止軌道の高度だね。

>長さ3万6000km
>?

静止軌道の高度だねえ。
利便性から考えても、ステーション部分を重心付近におくのは自明のことであるからして、《地表-ステーション》間のビーンストーク(エレベーター部分)の長さは静止軌道の高度にほぼ等しくなる(材料の伸縮や撓み等を考慮して若干異なるかも)。

ステーションより上の部分(及びアンカー衛星)は、ステーションより下の部分に対して、ステーションを重心とするカウンターマスとして作用しているので(故に軌道エレベーターの宇宙側の端は静止軌道よりも高くなる)、重心部分で折れたら大変なことになると。

この辺、てこや天秤で考えるとわかりやすいかもしれません。

wktkであります

燃える展開ですのう。
そう言えばスペースコロニーが無い世界でしたものな。
アレは落ちると見て間違いないでしょう(決めつけるな(笑)

豆知識と予想

スペースコロニーが存在しないといっておりましたが、実は存在します、アニメに出てくるエクシアなどのガンダムは、”第三世代”とされていて、また、そのテストベットとして作られた”第二世代”があり、そのガンダムは”クルンテープ”という、スペースコロニーで作られていたという設定があるので一応存在します。また、ガンダムがなぜあの重さで浮くのかというのを、及ばずながら予想させていただくと、”第二世代ガンダム”の”プルトーネ”という機体に搭載されている技術の一つに、”GN複合装甲”というものがありそれは、セカンドプランの計画にあり”装甲内部にある限定空間にGNフィールドを生成する”というものでその計画を採用したことにより、高い防御力を獲得することができたという設定がありました、自分はこれがお話の中にあった、ガンダムの重量の軽減に関わるものなのではないのではないかと考えました。 この、GN複合装甲が採用されたことにより高い防御力を得るだけでなく、気球でいう暖かい空気などの浮くための浮力を獲得できたのではないかと考えました。(文章がうまく書けていないと思います、すみません、後、長くなってしまいすみませんでした。)

情報ありがとうございます/スペースコロニー&GN粒子の浮力

 エクシアスさんへ
 情報と考察、ありがとうございます。

 なるほど、第二世代のガンダムからの“GN複合装甲”で浮力をつけたというのは興味深い考察です。
 それで思い出すのが、宇宙世紀ガンダムを扱った、松浦まさふみさんの漫画『アウター・ガンダム』でのモビルスーツ開発でしょうか。
 核融合炉を搭載するモビルスーツを作ると、自重が大きくなりすぎて失敗ばかり。そこで、ミノフスキー粒子を用いてミノフスキークラフト的に機体に浮力をつけることで、技術的な困難を解決するという、『プロジェクトX』ばりな漫画でした。

 もちろん、嘘理論ゆえに数字を出していけば、いろいろとツジツマの合わない部分もあるのでしょうが、こういうのはやはり納得力です。
 “GN複合装甲”という語感もいいですし、GNフィールドを装甲内に展開することで、強度も増すし、軽くもなるというのは「ふたつの目的がGNフィールドひとつで達成できる」という、すっきり感があって好きです。

 スペースコロニーについては、第二期の第一話からスペースコロニーやその建設現場がメインの舞台で登場したりと、なかなか面白くなりそうです。
 あることないこと、また書いてみましょう。

 何かありましたらまたお気軽にどうぞ。


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