『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その4:モビルスーツ

 ガンダム00の第2話のビデオを見た後、フィットネスプラザで週末恒例のトレーニングをしていると、高校生ぐらいの少年が、うんうん言いながらチェストプレスを動かしていた。
 少年の負荷は私よりも低い。が、これは“私の方が強い”ことを意味しない。
 少年は小柄だが引き締まったよい身体付きをしている。水球部だろうか? もしもこの少年と戦ったらおじさんの私はあっという間に負けてしまうだろう。
 ウェイトトレーニングの機材は、人間の個々の筋肉を鍛えるためにピンポイントで負荷をかけてくる。利用すればパワーは上昇するが、それは肉体全体としての機能向上を意味はしない。ようは、バランスと連携の問題なのだ。

 そして、バランスと連携という点で言うと――1Gという重力下において人型をそのまま巨大化して作業用や戦闘用にすることには、それほど意味はない。

 全長を拡大した場合、表面積は自乗に、体積は三乗におおむね比例する。たとえば、ガンダムエクシアと身長1m80cm、体重70kgの人間と比べると全長は18mでおよそ10倍だが、体重は57.2tで817倍となる。
 その重量が、あの2本の足によって支えられ、足の裏の地面がそれをもろに受けているのだ。岩盤やコンクリで固めた地面でなければ、歩くだけでぼこぼこになる。
 重量が大きいなら、接地面積はそれに合わせて大きくしないと運用上はむしろ制約が大きいのだ。たとえば、第二次世界大戦におけるソ連の傑作戦車T-34は幅の広いキャタピラを使うことで機動性を向上させている。

 もちろん、ガンダム00におけるガンダムは慣性制御能力を持つであろうGNドライブを保有している。自分の重量を軽減させ、場合によっては浮力まで得て浮かびあがるのだから、走ろうが踏ん張ろうが、それほど地面や足に負荷がかからないのはわからないでもない。

 これが2話に登場した人類革新連盟モビルスーツティエレン」になると、ほぼ同じサイズで重量は100tをこえるらしい。もちろん、慣性制御の技術はない。AEUユニオンの機体と比べて足の裏は広いから接地面積あたりの荷重は小さいだろうが、やはりなんというか、一緒に行動する車両は地面をこねくりまわされて大変なんじゃないかとも心配になる。

 また、地面の影響は無視したとしても、激しい機動をした時に膝関節や股関節などにかかる負担は尋常ではない。まあ、300年未来の技術であるからそのあたりはなんとかできる設定はつけられるが、同時にそこまで技術的な苦労や無理をしてまで人型である必要があるのか? というと実はあまりない。

 だからダメだ――というわけではむろんない。
 つまり、これは、こういうものなのだと考えるべきだと私は思う。
 巨大人型ロボット兵器は、そうしたウソの上に存在していいのだ。水戸黄門暴れん坊将軍などの時代劇が、ジョン・ウェインなどの西部劇が、その作品世界でのみ通用するウソの上にドラマを構築するように。

 モビルスーツは、どんな理屈とも無縁に戦闘機や戦車よりも優れているのだ。それがガンダム世界の大前提である。
 人型ならではの機動性とか汎用性とかそういうのは、「もっともらしさを増やす要素」であって、それでウソが消えてなくなるわけではないのだ。後は、作品を見る人が自らそのウソに騙されてオッケーになれるかどうかである。

 もちろん、そのウソが許せない人、あるいはウソをうまく隠してくれないことが許せない人もいる。
 このへんは各自のコダワリによるので、できれば互いに相手のコダワリを尊重しあえば、いさかいのない平和な世界になるかとソレスタルビーイング的に見果てぬ夢を抱いたりもする。

 が、ウソの許容はガンダム00においてアンビヴァレンツな部分も含む。
 他でもない、ガンダムがなぜ特別なのかを説明する時の納得力という点でだ。無骨なフロントミッション風デザインで、明らかに旧式なイメージのある人類革新連盟の「ティエレン」であれば、ガンダムより劣るのはわかりやすい。だが、2話の最後ででてきたユニオンのモビルスーツ「ユニオンフラッグ」あたりになると、「え? こいつこれで慣性制御してねぇの?」というのが絵的に伝わりにくい。確かに別系統のデザインではあるのだが、実にスマートな可変モビルスーツに空を飛び回られるとGNドライブの慣性制御がそれほどにはすごくないのではないかという気分にもなる。
 モビルスーツは特別というウソの上に、ガンダムはさらに特別というウソを重ねているがゆえの、曖昧さであろう。

 絵のもつ納得度はとても大きい。自分の身長よりも大きな剣を小柄な少女がふりまわす構図であっても、馴れればこれはこういうものだと思ってしまう。
 しかし、それが前提になってしまうと作品内ルールがシナリオの都合で変更されてしまう――たとえば傷ついた仲間を運ぶのに重くて「オレを置いていけ」みたいな展開になる――と違和感の種になるのだ。

 作品世界内でウソをつくなら、ウソを突き通す。これはなかなかに難しいが大事なことなのだ。

 なお、2話の時点で一番危険なウソは、すでに多くのガンダム作品で皆が馴れているモビルスーツではなく、ソレスタルビーイングの「武力介入による戦争根絶が目的」というウソである。いや、これがウソではないなら問題ないのだが。
 私自身はというといつこのウソが暴かれるかわくわくして待っているのだ。
 すでに脳内では第一部ラスト(26話)では軌道エレベーター倒壊という歴史改変の失敗が、そして来年秋にはじまる第二部はレイズナー第二部よろしく、あれから3年が経過してガンダムXのような荒廃した大地にガンダムが降り立つという1話の焼き直し場面が妄想MADとしてくっきりと浮かんでいるのである。

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