『エル・シッドとレコンキスタ 1050-1492キリスト教とイスラム教の相克』デヴィッド・ニコルPhD著/アンガス・マックブライド彩色画 アンガス・マックブライドさんのストーリー性あふれるイラストが魅力
読書を趣味にしている人は日本人全体の割合で言えば少ない。多くの人は娯楽のためではなく、「役に立つ」から本を読む。まあそれはそれでアリであろう。
ではあなたは、どこで本を読むだろうか?
通勤通学のバスや電車? ありだろう。
朝晩のトイレの中? 同居人に怒られないようにな。
昼休みにメシを食いながら? ファーストフードに偏らないようにな。
ちなみに私はこのすべてである。我に本を与えよ。ただただ本を与えよ。
さて、そのノリでフィットネスプラザにおいても私は本を持ち込んで自転車漕ぎながら読んでいる。この夏までは『朝日百科世界の歴史』をちまちまと読んでいたが、全冊読み終えたので最近は面白かったのを読み返したり、他の雑誌を持ち込んだり、フィットネスプラザにおいてある『月刊ボディビルディング』だとか『格闘技通信』だとかを読んでいる。
自転車漕ぎながらだと、文庫は広げにくく、ごついハードカバーや厚い雑誌も不向きなので薄い本が一番だ。そういうわけで、今日はただいまプレイ中のMEDIEVAL2 TOTAL WAR用に、『エル・シッドとレコンキスタ 1050-1492キリスト教とイスラム教の相克』(オスプレイ・メンアットアームズ・シリーズ)である。
この巻のイラストはアンガス・マックブライド先生だ。この人のイラストは実に素晴らしい。絵の中にしこたまストーリー性があるのだ。Amazonでも一枚だけ表紙絵が確認できるので見て欲しい。
中央に立つ男がエル・シッド。スペインの英雄である。足下に倒れているのはアンダルシアの指揮官(中級士官)だ。エル・シッドの後ろにいるのは彼の友人(アルバル・フェニェス・ミナヤ)だ。
このシリーズは取り扱った歴史上の装備品や使われ方を解説とイラストの両方で楽しむという本であるから、資料的にもたいへん役に立つ。
たとえば負傷し、打ち倒されたムスリム(イスラム教徒)の兵士を前に剣を握ったエル・シッドは後ろの友人と比べると軽装であるが、11世紀のイベリア半島ではそう珍しくもないのだ。
もちろん、やがてはイベリア半島でも西のフランス人(やつらは馬まで重装甲しやがるのだ)の影響でみな重い鎖帷子を着込むようになる。ただ、ヘルメットだけは中世の騎士といえばコレという犬面なバシネット兜はイタリアやフランスからの輸入をのぞくと普及しなかったようだ。全体的に、フランスやイタリア、ドイツなどとくらべて軽装騎兵中心であったのである。
エル・シッドもアンダルシアの指揮官も、左腕に丸い盾をベルトで固定し、赤いマントを羽織っている。これもまた当時の史料からイベリア半島ではキリスト教徒イスラム教徒のどちらもよく使っていたという。馬は鎧をつけず、鞍も低い。フランス風重装騎士だと鞍の前後がえらく高いのだ。
でまあ、描いてある内容については本書には解説入りで書いてあるからこのへんにしておくとして。この本で“必要”な部分はそこだけである。
が、アンガス・マックブライド先生のイラストにはそれだけではない、ストーリー性というのがあり。これが私にとってはたまらない魅力なのだ。
エル・シッドは剣こそ握っているが、両腕を広げて己の乗馬や友人を押さえるポーズをとっている。いかめしい顔で敵を見下ろしているが、どこか英雄にふさわしい慈悲の心が見えるようだ。
一方の倒れた敵兵は左腕で己の脇腹(負傷した?)を押さえている。手には戦斧に伸びているがしっかりと握っているわけではない。エル・シッドが自分をここで殺そうとしているわけではないのが分かったのだろうか。後ろにいるエル・シッドの友人は油断なく敵とエル・シッドを見ているが武器に手を伸ばそうとしないあたり、内心で「甘いぞ、エル・シッド」などと思っているのかも知れないがエル・シッドへの信頼がかいま見えて面白い。
本書で他に興味深い記述としては、北アフリカからきたアル・ムワッヒド軍の戦術であろう。
軍鼓を指揮に使う彼らの戦術は、彼ら自身の言葉ではこうだ。
「われわれは平らな土地に方陣を敷いた。4面のすべてに長槍の列を配置した。その後ろには槍とジャヴェリンの2列目が立ち、その後方には石の袋を持った兵(投石兵)がいた。さらに後方に弓隊が立ち、方陣の中心には騎兵隊がいた。いつアル・ムラービト騎兵隊が攻撃してこようと、長い穂先の槍、ジャヴェリン、石、矢しか目に入るまい。ある者は死に、ある者は逃げようと背を向けると、すかさず歩兵があけた口からアル・ムワッヒドの騎兵が突撃をかけ、傷ついたり倒れたりした敵にとどめを刺す。アル・ムラービトが重ねて攻めてくれば、彼ら(アル・ムワッヒド騎兵隊)は穂先の森の奥へ避退する」(p24)
模式図にするとこんな感じか。
アル・ムワッヒドの陣形
方陣を堅く守るということは戦力の有効活用という点ではムダも多そうな戦い方だが、当時の貧弱な指揮通信システムでは華麗に部隊を動かそうとしてもうまくいかないのが当然なのでこれはこれで当時としてはよく考えた陣形ではなかろうか。
古代ローマ軍の強さがいざというときに防衛拠点にもなる宿営地の設営ノウハウにあったコトも合わせると興味深い。
なお、イベリア半島では昔から羊などの放牧が盛んな場所で、カウボーイよろしく生活の中に軽装騎兵の伝統が息づいていた。そこに、アラビア人経由でビザンティンの軍事教本から得た騎馬の円錐隊形(突撃隊形)導入を13世紀の『賢王』アルフォンソ10世がすすめたという記述もあり、こうしたイスラム教徒との戦いの伝統から、後のテルシオパイク兵が出てきたようにも思う。
戦術的にもあれこれ考えるネタになる本である。

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