『冬の巨人』古橋秀之 大団円なダーククリスタル・エンドになぜか感じる物足りなさ

 本棚に並べるとなぜか目立つ、徳間デュアル文庫な1冊。
 テキストは古橋秀之で、イラストは藤代陽。舞台でありメインキャラでもある巨人(ミール)の設定資料のラフも収録されていて、お買い得感たっぷり。
 内容も、古橋秀之さんの安定したストーリテリングが、巨人の死と再生という神話モチーフを見事にライトノベル風に仕上げている。
 最後が『ダーククリスタル』エンドであったのには驚いたが、まあ、これだってダイダラボッチ(巨人)が花咲爺さんになった『もののけ姫』みたいなものでアリといえば、アリである。

 文句をつける場所はどこにもなく、誉める場所は随所にある。
 あるのだが……

 なんだろうか、この物足りなさは。
 確かに全体構成は安定しているし、個々のどの場面演出、どのキャラの言動も、すべてが腑に落ちる。が、何かどこか、あまりにきれいすぎるという違和感があるのだ。
 幼児の頃にお母さんが語ってくれる寝物語が急転直下なハッピーエンドを迎えたような違和感とでも言うべきだろうか。

「それで、その後で三人はどうなったの?」
「そうね。その後は、誠君と世界ちゃんと言葉さんは、三人でいつまでも仲良く暮らしました。おしまい。さ、もう寝なさい」
「……? ちょ、ちょっとお母さん! それ納得できないよ。それ、絶対にうまくないって! 何か間違えてるよっ! 包丁は? ノコギリは? ねえ、お母さんってばっ!」
「いいから、もう寝なさい」

 単にお母さんが眠くなっただけなのだろうが、それまでの伏線を放り出したハッピーエンドには子供心にも納得できず、眠れぬ夜を過ごしたものである。

 それに比べると、『冬の巨人』にはどこがどう、という穴はない。伏線はすべて回収されているし、展開に無理はない。お話は面白いし、キャラも生き生きとしている。

 だがやはり、私にはどこか物足りない。なぜとは知らねど、これは古橋秀之ではないという感じがひしひしとするのである。
 だからといって、最後の展開が『星の大地』(冴木忍)だったら満足だったかというと、それはそれでなんか違う気がする。『ブラックロッド』三部作の最後もこんな感じのエンドだったじゃないかと言われると、それもそうだと思ってしまう。

 それでもやはり感じるのだ。何かが違うと。
 面白いし、楽しいのに、なぜか私は満ち足りないのである。
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 狂人率が足りない

 狂人率が足りないとか。

確かにキチガイは足りない

 狂人率が足りない。

 ――うむ、それは納得のいく意見であります。

 作中のディエーニン教授であれば、「なるほど、見事な着眼点だ!」と大仰すぎるほどに誉めてくれるかもしれません。

 本作で狂気のかけらなりと見せていたのは、ウーテシチさんです。
 が、彼の狂気は他の古橋作品であれば普通なのですが、今作ではどこか「無理をした狂気」に感じられてなりませんでした。つまり、作品のどこかに狂気を廃する、狂気を良しとしないものがあったのやもしれませぬ。


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