十二月お題:ひとりぼっち(かな?) 「遅刻」
夏の暑さも弱まり、秋の侘しさもまだ見えない穏やかな朝の通学路。
ハッハッハッ……。
リズミカルに息を吐きながら、少女がアスファルトを蹴り、駆けている。
アスファルトを駆ける靴は赤いラインの入ったアスリートシューズ。
彼女が着ている、茶色と黒を基調としたブレザーとスカートの制服と比べてみると、ずいぶんとそこだけが浮いたように見える。
制服だけを見てみれば、実におしとやかそうに見えるのに、走る彼女とアスリートシューズからは微塵もそんな印象は出てこない。
そして不思議なことに、辺りで制服を着ているのは彼女だけだった。他の生徒が、まったく存在しないのである。
そんなことはお構いなしに、一人っきりの通学路を彼女は駆ける、駆ける、駆ける!
赤信号に変わろうと点滅している横断歩道を切り抜け、ちらりと腕時計を見る。
「……くっ、まだいけるはず!」
荒い息の合間にそう呟くと、彼女は前を向き、スピードを上げた。学校のある方角へ。
一方。
「おっと、もう時間か」
校門の端に立っていた風紀委員長が、腕時計を見て時間を確認すると金属製の門扉に手をかけた。その時。
「ちょっと待ったぁ!」
門の外から爆走してくる声と影があった。しかし既に、門扉が閉まるまでには数センチの隙間しかない。
「残念だったなー、早間ー」
委員長は走る少女にそう告げて、最後の数センチの隙間を閉めようとした。しかし少女は足を止めるどころか、スピードを緩めることすらなく門へと向かってくる。もちろんこのままでは門に激突する!
「おいおいおい!」
慌てた委員長が何とかしようと考えているうちにも、なおも少女は近づいてきている。少女が激突しようとするのを知らせるかのように、予鈴のチャイムがやかましく響きだした。
門の正面から向かってきていた少女はその軌道を門の端、ちょうど委員長の方へと変えて走りこんできた。まるで委員長をロックオンしたミサイルが飛来してきた様相である。
「ちぃえすとぉおおお!」
「待てっ、早間! 早まるなっー!!」
もう門にぶつかる! というその寸前で、少女はぐいいっと空気抵抗の少ない胸を大きく反らせた。
大きくバンザイをするようにして……ジャンプ!! 手にしていた革鞄が放り投げられた。
体を水平に、仰向けになるようにして頭から門の上へ! 上半身を抜けると同時に腰を下に引いて、足を高く、門を避けるように飛び越えた!
背面跳び……大成功!!
そのまま頭から地面に着地すると思われた少女は、頭を抱えて丸くなり、後転するようにごろごろと地面に転がった。
どさり、と革鞄が委員長の近くに落ちる。ォオンと予鈴が鳴り止んだ。
間。
沈黙に耐えかねたように、委員長が不安そうに声をかける。
「……だ、大丈夫か? 早間、おい」
その声に反応したように、がばぁっと起き上がり様、両手を水平に広げて少女の開口一番。
「セーフ!!」
「なわけあるかーっ!」
ばすんっ! 少女の革鞄で頭をはたく委員長、強烈なツッコミ。
「うぇ!? だってチャイムに間に合ったよ!」
びしっと数センチ開いたままの門を指差して。
「ほらほら、まだ門閉まってないし」
「つうか制服で背面跳びなんかしてんじゃねー! 何考えてんだ!!」
再び、びしっと親指を立てて。
「大丈夫! スパッツはいてるから!」
「そういう問題じゃねーよ!」
「え……はいてないほうがよかった?」
急に赤くなる少女。
「べ、別に委員長ならいいかな……なんてキャー!!」
返してもらった革鞄でばしばしと委員長の体を叩き始める。照れ隠し?
「違う! なんかすんごい方向に間違ってる!! そして痛てぇ!」
そんなやり取りをしてる間に。
すっかり朝のホームルームは始まっているのであった。
なむさん。
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