石田衣良、著、『池袋ウエストゲートパーク』(I.W.G.P.作品集)

 石田衣良さんの「池袋ウエストゲートパーク」は、連作小説のシリーズ名。連作の最初の作品集の書名でもある。
 東京池袋のウエストゲートパーク(西口公園)をポータルのようにして、ストリートと都市を遊動するキャラたちのエピソードが、テンポのいい語り口で紡がれてくシリーズだ。

 TVドラマ『I.W.G.P. 池袋ウエストゲートパーク』(脚本、宮藤官九郎さん、2000年初放映)の原作でもある。もちろん小説とTVドラマは別作品。
 この作文では、ドラマ版未見の人も想定して、小説版、最初の作品集『池袋ウエストゲートパーク』の紹介をします。

Cover image
(文春文庫版、書影)

----
 作品集『池袋ウエストゲートパーク』には、表題作を含めて4作が収められていて。概ね、主人公格のマコト(真島誠)が、地元の工業高校を卒業した年から、その次の年にかけての出来事が語られている。
 マコトの実家は、ウェストゲートパークから「歩いて5分」西一番街の小さな果物屋って設定。

 高校卒業後プラプラしてたマコトだけど、幾つかの事件に関わることで、ストリートのトラブル・シューターとして知られるようになっていく。作品集を通して読むと、そんな流れも読める。

 収録作はいずれも、物語の語り手キャラでもあるマコトが、作中に語られる出来事が終わった後の時点から、回想を語る形式になっている。

 表題作『池袋ウエストゲートパーク』は、仲間と一緒にプラプラ遊んでた時期のマコトと、マコトのグループの1人が殺された事件を中心にしたストーリー。マコトは作中のメディアが「ストラングラー(首絞め魔)事件」と呼んだ連続殺人事件を解決するが……。
 物語の冒頭で、マコトは、自分のPHSの裏側に貼ってあるプリクラ、1年前の仲間たちの「最高に面白い冗談を今聞いたばかりって顔が並んでる」画像のことを、「なにがそんなにおもしろかったのか、おれはおぼえていない」と、語ってる。この語りを含んだ冒頭の断章では、事件が起きた年の翌年のマコトの視点が、ストレートに出されてて。
 軽快な感じで語られる物語だけど、ちょっとセンチメンタルな感情も読みとれる語り口。決して、ベタベタには流れないのが、隠し味みたいな、いい感じになってる。

 2番目に収められてる『エキサイタブルボーイ』では、ストラングラー事件の後、家業を手伝うようになったマコトが、ストリート・ギャングGボーイズの仲介で、行方不明になった暴力団組長の娘を探すことになる。Gボーイズは、ストラングラー事件を解決しようとしたマコトに全面的に協力してた。その時の借りがあるから、と暴力団を嫌ってるマコトは依頼を受けることにする。

 この作品のクライマックス前後では、マコトが暴力団を嫌ってる気持ちが察せられる描写が続いてて、読みどころの1つになってる。今では暴力団の若衆(組員)をやってるマコトの中学時代の級友サル(斉藤富士夫)も登場。マコトとサルの絡みもおもしろく読める。

 語られた出来事は、概ねストラングラー事件と同じ年の「秋の終わり」頃。マコトが物語を語ってる時点は、『池袋ウエストゲートパーク』の物語を語った時点より後。やはり語られた事件の翌年になってる。

 3番目に収められてる『オアシスの恋人』でマコトは、中学時代の級友で今はヘルス嬢をやってる千秋の依頼を受ける。ヤク(薬物)の売人に追われてる千秋の恋人、イラン人のカシーフを助けようとするけれど……。
 この作品は、採録4作の内で、1番軽妙な作品で、アタシ(紹介者)も好き。マコトが、友人の間から選んだメンバー「あきれたボーイズ」と動く様子もはじめて描かれてる。

 語られた出来事は、概ねは『池袋ウエストゲートパーク』『エキサイタブルボーイ』で語られた出来事の翌年、2月から5月にかけてのこと。「語り手の今」が、いつ頃なのかはよくわからないけど、一連の出来事が終わった後の時点に語られている。

 作品集の最後に収められてる『サンシャイン通り内戦』は、作品集の半分弱を占めてる長めの中編。マコトは、池袋のストリートでエスカレートするGボーイズと、新興のグループ、レッド・エンジェルズとの暴力の応酬をやめさせようと、奔走する。

 この物語は、TVドラマ版でも本編終盤の長いプロットに使われた。良くも悪くも「池袋ウエストゲートパーク」って物語のイメージを決定付けたエピソードだと思う。

 小説版もテンポよく緊張感が高まっていって読み応えがある。並行して、マコトとフリーの女性映像ジャーナリスト加奈(松井加奈)との恋愛プロットも編みこまれてて楽しめる。

 語られた出来事の概ねは、『オアシスの恋人』の事件が終わった後の5月下旬から7月の上旬にかけて。エピローグ相当パートはもう少し後に渡ってる。「語り手の今」は、エピローグ相当パートで語られた今よりも、さらにもう少し先だと思える。

 各作品の「語られた今」と「語り手の今」をザッとみたのは、採録作はいずれも語られた出来事を回想している語り手(マコト)の意識と、語られてる出来事の時差を意識すると、面白く読める箇所が多いからだ。
「時差を意識すると、面白く読める箇所」の多寡は作品によってバラつきもあるけど。どの物語も、軽妙な語り口を楽しんだ後で、行きつ戻りつしながら再読すると、2度、3度と楽しい。
石田さんの断章形式は、行きつ戻りつ読む読み方にも向いてるし。

----
『サンシャイン通り内戦』のラストはこんなふうに締められてる。

 ラジオもケンジもシュンも和範もサルも千秋も、この街でみんなそれぞれの形で元気だ。もちろん、おれもね。あんたが元気をなくして学校や会社が嫌でたまらなくなったら、池袋にきてみたらどうだ? 最初はちょっと勇気がいるかもしれないけれど、ネクタイや制服のえり元をゆるめて道端に座ってみる。そうしたら、今までに見たことのない世界がきっと見えてくると思うよ。
 ストリートはすごくおもしろい舞台で厳しい学校だ。おれたちはそこでぶつかり、傷つき、学びちょっとだけ成長する(たぶんね)。街の物語には終わりがない。
 だから、おれもさよならはいわない。いつか、どこかでまた会おう。それまでにおもしろいネタをたくさん仕込んでおくよ。見つからなかったら、でっちあげればいい。
 俺の嘘がうまいのは、ここまで読んだあんたならよくわかってるだろ?

 Gボーイズの協力を得て、ストラングラー事件を解決したマコトだけど、「池袋ではGボーイズの自警団」が解決したって話にになってた(『エキサイタブルボーイ』)。指揮をとったのはマコトだけど、街の噂も間違いでは無い。以来、マコトの元には、人探し、トラブルの解決、ガード「ときどきおかしな依頼が舞い込むようになった」(『エキサイタブルボーイ』)。

『池袋ウエストゲートパーク』の採録作は、そうした“ストリートのトラブル・シューター”としてのマコトのストーリーではある。ただ、家業の果物屋で働くようになったマコトは、依頼に対して「おれは別にプロじゃない」と言う(『オアシスの恋人』)。実際、採録作の内では1番の大事、サンシャイン通り内戦にも、マコトはボランティアとして関わっていく。

 ボランティアのトラブル・シューターって、結構際どい立場なんだけど、マコトは独特のバランス感覚でなんとかしのいでいく。
 小説版のマコトは、行き詰ったり煮詰まったりすると、やたらストリートを歩き回ったり、ボーッとウエストゲートパークに座ったり、後、繰り返しCDを聞いたりする。こう書くと、変な奴みたいに聞こえるだろうけど。小説で読むと、際どいとこをなんとかしのいでくマコトの描写は、面白い。

----
 I.W.G.P.の連作は、『池袋ウエストゲートパーク』の後も『少年計数器』、『骨音』と続いていって、今も書き継がれている。
 『池袋ウエストゲートパーク』でストラングラー事件をきっかけに新聞を読むようになったマコトは、『オアシスの恋人』で購入した安い中古Macで文章を書くようになって、『サンシャイン通り内戦』冒頭の5月頃には、「文字だけで埋まった本!」を読むようになる。
 連作のさらに長いプロットでは、加奈に紹介されたストリート雑誌に、コラム形式で“内戦”のことを書いたら評判が良くて、コラム・ライターとして連載を請け負うことになる。
 こうして、マコトは、生業は家業の果物屋、セミ・プロのコラム・ライターで、ボランティアのトラブル・シューターって役柄になっていくんだけど。それは、2冊目の作品集『少年計数器』以降の話になる。

 ただ、『サンシャイン通り内戦』の物語をマコトが語った「語り手の今」は、連載が決定した後で「へとへとになりながら自分の部屋でマックに文字を打ちこむ毎日」の頃らしい。
 これがいつ頃かは詳しくは語られてはいないけど。「毎月の締め切りは矢のようにやってくる」と書かれているので、少なくとも2、3回目の締め切りを迎える頃か少なくともそれよりは後なんだろうな、と思える。

 この辺、マコトが回想をしている時期の特定は、大まかに察する以上のことは期待されていないんじゃぁないかな、って思える。けれど、その程度の推測には充分な手がかりも、また、物語の内に編みこまれてる。

====
書誌情報:
石田 衣良,『池袋ウエストゲートパーク』,文芸春秋,Tokyo,1998.
ISBN 4-16-317990-9

石田 衣良,『池袋ウエストゲートパーク』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2001.
ISBN 4-16-717403-0

この記事へのトラックバックURL:

http://drupal.cre.jp/trackback/1469
りゅうちゃんミストラル から 日, 2009-12-06 19:20 受信

石田衣良のデビュー作、「池袋ウエストゲートパーク」を読んだ。(この記事葉ネタばれあり)      なぜ今になって池袋ウエストゲートパーク(以下IWGP)なのか。それには...

Drupal.cre.jp から 木, 2008-01-24 19:18 受信

『小年計数機』は、石田衣良さんの連作小説「池袋ウエストゲートパーク(I.W.G.P.)」本編2冊めの作品集。
 語り手キャラのマコト(真島誠)は、東京池袋のウエストゲートパーク(西口

Drupal.cre.jp から 木, 2007-12-27 20:28 受信

『サンシャイン通り内戦』は、石田衣良さんの作品集『池袋ウエストゲートパーク』に採録された4作のラストを飾ってる作品。
『池袋ウエストゲートパーク』は、同名のシリーズの1冊

Drupal.cre.jp から 木, 2007-12-27 20:28 受信

『オアシスの恋人』は、石田衣良さんの作品集『池袋ウエストゲートパーク』に採録された作品4編の内の3作め。『池袋ウエストゲートパーク』は、同名のシリーズの1冊めの作品集だ。

Drupal.cre.jp から 木, 2007-12-27 20:26 受信

『エキサイタブルボーイ』は、石田衣良さんの『池袋ウエストゲートパーク』に採録された4編の作品の内の2編め。『池袋ウエストゲートパーク』は、同名のシリーズの1冊めの作品集だ

Drupal.cre.jp から 木, 2007-12-27 20:26 受信

『池袋ウエストゲートパーク』って、タイトル名を聞いたことある人、知ってる人は多いと思う。
 石田衣良さん作の小説連作のシリーズ名で、TVドラマ『I.W.G.P. 池袋ウエストゲートパ


この記事をブックマーク

人気コンテンツ