石田衣良、作、『西一番街テイクアウト』(『骨音』池袋ウエストゲートパークIII所収)

『西一番街テイクアウト』は、石田衣良さんによる「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)連作の1本。本編3冊めの作品集『骨音』に採録された中篇で、採録4作の内、2番めに収められてる。

 セミ・プロのコラム・ライターになったマコト(真島誠)は、ある年の1月、めずらしく「コラムを書いてるストリートファッション誌から、書評を頼まれた」。ウエスト・コーストの黒人ラッパーのぶ厚い評伝を読むには、さすがにウエストゲートパークのベンチでは辛いと、大噴水があるサンシャインシティ・アルパの広場に出かける。

 広場には、何故か夜遅くまで1人で本を読んでる小学生の女の子が常連のようにしていて。時々サンシャインシティ・アルパを徘徊してるマコトとも、一応、顔見知り。彼女は、マコトがラッパーの評伝を読んでた夜、風邪の高熱で倒れてしまう。

----
『西一番街テイクアウト』は、安定感がある作品。作品集を3冊めまで楽しんできた人なら、やっぱり楽しく読めるはず。仮に、この作品だけ単独に読んでも楽しめる人は多いと思う。

 広場でマコトと顔見知りだった小学生の女の子、香緒(桜田香緒)は魅力的に描写されてる。石田さんて、子どもを活き活きとしたイメージで描くの上手いなあ(I.W.G.P.連作の『少年計数器』、あるいは、シリーズ外の『4TEEN』、『うつくしい子ども』など)。

 さて、『西一番街テイクアウト』で、マコトは、香緒ちゃんの母親ヒロコさんのトラブル解決を請け負う。
 ヒロコさんは、マコトがトラブル・シューターとして、割と有名とか知らなかった様子で。これまでだって、ボランティアでトラブル・シューティングをやってきたマコトだけど、今回は、少し強引に、押し売り気味にトラブル解決を請け負う。

「街ではトラブルが人間同士を結びつける」んだそうだ。マコトらしい言い回し。

「あんたはあの店を辞めるつもりはない。それに連れだしだってやめるつもりはない。それでいいんだな」
ヒロコは不思議そうな顔をしてうなずいた。おれは足元においた高級ブランドの袋を親指の先で示した。
「それなら、こいつは遠慮なくもらっておく。おれが、さっきのやつらをなんとかしてやるよ。これがギャラね、金いらないから」
 ヒロコはなにいってるのという表情をしていたが、おれは説明しなかった。

 ヒロコさんは、風邪でぶっ倒れた娘の面倒を見てくれたお礼だ、と言って、マコトとおふくろさんにブランドものの高いコートとバッグを買ってきた。
 うン十万はする品を「受け取れない」とマコトは断るけど。ヒロコさんは「いいことをしたら、いいことが返ってくるって、昔神父さんがいってた。マコトちゃんはいいことしたんだから、それくらい当然だよ」とか言って、果物屋(マコトの実家)の店先に置いていく。
 で、店に戻って来たおふくろさんに「こんなもん受け取れない」と言われたマコトは、寒い中、果物屋がある西一番街から歩いてほんの数分にある、どん詰まりの通りまで出かける。通りにあるパブの1つが、ヒロコさんの勤め先だ。
 そこでヒロコさんが巻き込まれてるトラブルを知ったマコトは、「高級ブランドの袋」を「ギャラ」だ、と言って受け取ることにしたわけ。

 ヒロコさんは、場末っぽいパプでホステスしてるんだけど。その店は、お客さんがホステスさんを連れ出すのもアリの連れだしパブ。つまり、ヒロコさんは、ホステスさん兼売春婦で「あたしは客を選んでるから、ほんとうのプロとは言えない」とか言う、経験豊富なお姉さん。

 最近、連れだしパブのある通りは、縄張りが、暴力団の間で草刈場になって、新しく小さな暴力団(大手組織の4次だか5次だって設定)が、入り込んできた。
 親組、子組って言い方で言うと、4次ならひ孫(そんな言い方しないだろうけど)。物語の頃、関東賛和会の本部長代行にまで出世していたマコトの旧友サル(斉藤富士夫)によると「ワンルームマンションでしこしこやってるんじゃないか」って暴力団。
 そんな暴力団、多和田組の新しい仕切りで、ヒロコさんは連れだし禁止の嫌がらせを受けて困ってた。
 マコトがヒロコさんに「なんとかしてやる」と言った「さっきのやつら」は、多和田組のこと。

 つまり、今回マコトが解決を請け負ったトラブルは、ヒロコさんが売春をする権利を、暴力団から護ること。
 こう書くと、なかには、なんだかなと、眉を顰める人もいるだろうけど。
 さっき引用したカ所の前、マコトが無理矢理のように依頼を引き受けることにした動機が暗に語られてるあたりは、読みどころの1つになってる。結構長いやりとりだから、長々引用はしないけど。

「みんなにバカにされて、酔っ払いのおやじに身体さわりまくられても、あたしは自由でいたいんだ。この街で自由に生きたい。昔みたいに施設で暮らすのは嫌だよ。頭悪いし、明日の見とおしだって立てられないけど、あたしの自由をなにより一番にしたい。そのためなら、いくらなぐられたって平気だよ」

“おれはこの女をちょっと見直していた。いくら穢れても、この街で自由でいたい。おれやGボーイズのガキどもの台詞と同じだった”と思ってマコトは、ヒロコさんのトラブル解決を引き受ける。

 とりあえず、いい、悪いの評価を置いておくと、このトラブル・シューティングはマコトらしい。だって、警察とかに相談できる筋の話じゃぁないもの。
 強引に依頼を受けたことにする動機も、マコトらしい。マコトは、自分の生活を「池袋の底に張り付いて生きている」と、考えてるから(『骨音』)。
 だいたい、ヒロコさんの売春については、本人が嫌がっていないなら、とやかく言うマコトじゃあない。昔の級友だって本番ありの風俗に勤めてるし(『オアシスの恋人』)。

----
 この物語に無理が目立つ部分があるとしたら、1つには、小学生の香緒ちゃんが、ヒロコさんの生業をどう思ってるかのあたりでしょう。作者はその辺も描写してます。そこも読んで、作品をトータルでどう評価するかは、もちろん、読者がそれぞれに判断するところ。

 紹介者のアタシとしては、「おとぎ話みたい」なところもある話の1つとして、いい物語だと思います。
 シリーズの別作品のレヴュー記事でも触れてるけど、「池袋ウエストゲートパーク」本編の作品は、いずれも、多かれ少なかれ「おとぎ話みたいな」エピソードやプロットも含んでる。
『西一番街テイクアウト』では、香緒ちゃんとヒロコさんの関係に、「おとぎ話みたい」な感じが集中してる。その関連では、作品の魅力と、無理があるところが、裏腹になってる。そんな作品です。

 付けたしのようになっちゃいますけど。
 小説シリーズを読んできた人のお楽しみは、まずは、マコトがトラブル・シューティングの応援に呼んだのが、タカシ(安藤崇)とサルって豪華メンバーなとことかでしょう。
 これまでの作品でも、この3人が顔を合わせることはあったけど。大抵は、サルが暴力団絡みの依頼をマコトにふってとか、タカシがマコトに仲介してとか。
 タカシは、今回はストリート・ギャングのGボーイズ抜きで、個人的にマコトの応援をします。サルは、タカシに借りがあるからと、応援(多分ね)。タカシやサルが、マコトと違う視点から池袋のストリートを観てる様子がうかがわれるようなやりとりとか、おもしろい。

『西一番街テイクアウト』のマコトは、時々軽薄なセリフも口にしてる。
 マコトの語り口は、饒舌気味で、いつも軽薄そうに見えるけど。内には、言いづらいことを直裁に言おうとしない言い回しや、照れ隠しのような表現、それにマコトの鋭敏な感受性に見えたり聞こえたりすることをなんとか表現しようとする言い回し、などなどが混ざり合ってて。全体として饒舌気味になってる。(饒舌だけどテンポよく読めるのは、作者の腕だよ)
『西一番街テイクアウト』では、旧友2人と一緒に動けたので気が緩んでるのか(?)。ちょっとマコトらしくないようなセリフも2、3見られるんだけど。タカシやサルが入れる突っ込みで、作品としてはバランスがとれてる感じ。この件は、細かな部分だけど、面白い読みどころ。

 大づかみな読みでは、マコトの活躍場面、おふくろさんに食われてる気もします。
 タカシヤサルとマコトとの関係描写同様に、マコトとおふくろさんの関係の描写もおもしろい。
 あるいは、おふくろさんが、はじめヒロコさんを嫌ってる感じだけど、一肌脱ぐことにするあたりもおもしろいです。マコトは、物語の語り手だけど。やる気満々のおふくろさんに、うろたえたりして(笑)。これもこれでマコトらしい。

----
『西一番街テイクアウト』の初出は、「オール讀物」2002年2月号、とのこと。

====
書誌情報:
石田 衣良,『骨音』(池袋ウエストゲートパーク3),文芸春秋,Tokyo,2002.
ISBN 4-16-321350-3

石田 衣良,『骨音 池袋ウエストゲートパークIII』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2004.
ISBN 4-16-717408-1

備考:
物語内の今=『西一番外テイクアウト』の物語内で語られる出来事は、主に、ある年の1月頃の2週間ほどの出来事。それ以前に、マコトと香緒は顔見知りになっている。あるいは、2人が互いの顔を覚えたのは、メインに語られる出来事の前の年のことかもしれない。
連作を通じた時間経緯は定かでは無いが、外伝の『赤・黒〔ノワール・ルージュ〕』で語られた出来事よりは、後のこと。『骨音』で語られた出来事の翌年1月、と思っておくのが、素直な読み方だろう。
語り手の今=語り手の今は、あまり細かくは特定できない。物語で語られた一連の出来事よりは後であるはず。印象としては、さほど時間はたっていないような気配もするが、定かでは無い。
連作を通じた時間経緯は、明らかに『骨音』の物語を語った「語り手の今」よりも後のはず。

この記事へのトラックバックURL:

http://drupal.cre.jp/trackback/1526


この記事をブックマーク

人気コンテンツ