奥瀬サキ(原作)、目黒三吉(漫画)『低俗霊DAYDREAM』8,それは冒涜だったのかもしれない
原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さんの「低俗霊DAYDREAM」は、「口寄せ屋」崔樹深小姫が、心霊の関わる事件へ「対策」をしていく物語。舞台は、現代の日本だ。
8巻で、小姫は、いよいよ「この世に開いた/死者の門」YUO〔ユオ〕と直接対峙していく。
全10巻のマンガを8巻から読み始める人は、そうはいないよね(?)。
あなたが、もう7巻までを読んでたら、8巻から10巻までは、一気読みすることを、是非、お勧め。
8巻掲載の「ウェルテル」で、深小姫はYUOの挑戦に直面する。7巻掲載分をプロローグのようにした「ウェルテル」は、8巻を経て、9巻、10巻に続いていく。
紙数的には長いけど、高速緊迫展開の物語なので、一気読みした方が絶対面白い。
8巻には、他に「犬神」も採録されてる。4巻採録の「橋の上の幽霊」に登場した船越さんの「対策」を描いた作品だ。
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不必要なネタバレは避けながら、8巻の読みどころや大筋を紹介しようと思うけど。
7巻までの内容は、必要に応じて触れますので、よろしく。
(用語:低俗霊DAYDREAMから、色々レヴュー記事もたぐれます。よければ、どうぞ)
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深小姫が、サイドジョブで女王様をやってる六本木のSMクラブ“Murmure”。深夜“Murmure”の控え室を訪れた警視庁の峨田警視は、「複数の自殺関与の疑い」で井荻ユオを通常逮捕した、と深小姫に伝えた。
井荻ユオは、YUOのハンドル名を使い、深小姫が「対策」を施す心霊的な事件に、しばしば陰で関わっていた相手だった。
「彼は心を病んでいます」「彼には我々の言葉は届いていません」と語る峨田は、深小姫にYUOの口寄せを依頼。
深小姫は、「口寄せ屋は精神科医でも刑事でもないわ!!」「生きている人間の口寄せなんかできるわけないしする意味がない!!」と取り合わない。
口寄せなら、峨田のパートナー、ハルにやらせれば、と言いかかけた深小姫を遮り、峨田は、ハルの死を告げた。
激して峨田に掴みかかる深小姫。
「自分のやり方が/間違っていたと認めるか!?」
「あんたの性急な/やり方がハルを/死なせたと/認めるか!?」
「認めます」「ハルを殺したのは私です」と応じる峨田に、「行くわ」と、深小姫。
「私は自分の意思で行く」「誰の依頼でもない/だから私は自分のやり方でやる」
これが7巻採録の「ウェルテル」、エピローグ相当部分の大筋だった。
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「ウェルテル」8巻掲載分は、ミツル(藤原充)の実家、琶成神社の朝の情景から始まり、続く場面では、登校中のアイ(椚アイ)がミツルに呼び止められる。
人気のない朝の公園に移り、「今までいったい/どこにいたの?」「深小姫さんも…/みんな心配/してるよ?」と言うアイ。ミツルは「胎霊」の6巻掲載分で失踪して以来、1週間ほどぶりで姿を現したらしい。
「頼みが/あるんだ」とアイに切り出したミツルは、「自殺掲示板“Rock'n RollSucide BBS”の主催者井荻ユオ」が「自殺関与の容疑で逮捕され用賀署に拘留されている」と語りはじめる。
さらに、峨田警視のパートナーだったハルが、「ユオの口寄せをして死んだ」こともアイに語るミツル。
「……峨田は/死んだハルの/代わりに」
「深小姫様にユオの/口寄せをやらせようと/している」
〔中略〕
「椚 お前から/深小姫様に
ユオの口寄せを/止めるように/言って--」
「どうして私に/そんな事言うの!?」と、ミツルの話を遮るアイ。
アイは、あるいは、ミツルの失踪にYUOが関わっていたとは聞かされていなかったかもしれない。しかし、短いミツルの言葉に何かを察知したかのように取り乱した。
「…藤原君/死ぬ気/でしょう?」
「藤原君 私に/お別れを言いに/来たんでしょ?」
「私ね/わかるんだよ/だって
私も/口寄せが/できるんだよ」
「藤原君の/こと、」
「みんな/わかっちゃうん/だよ?」
この、朝の公園の場面は、読みどころの1つだ。
「……もう……」
「ダメなんだ/…………」
アイから顔を背けるようにして、ミツルは応える。
「もうダメなん/だよ椚……」
「オレの心は/穢れている…」
「穢れた心で/見る世界は/何もかもが/曖昧で」
「地面にまっすぐ/立つ事すら/できない」
「…ここは…」
「この世界は/夢だ………」
もしかしたら、引用したセリフだけでは、キャラクターの思いつめに白けたり、苦笑したりする人もいるかもしれない。
『低俗霊DAYDREAM』の物語を1巻からここまで読んでくれば、ミツルの思いつめの根に、自殺した義理の妹に対する負い目のような感情が抱え込まれてる、と察せる。
ミツル自身、混乱したままと思えるけど。その負い目を無理矢理整理してみると、情緒不安定だった義理の妹を突き放し、自殺するのを黙視した、みたいな負い目だ。ミツルの妹が、琶成神社の境内で自殺をした顛末は4巻採録の「幻覚」に描かれている。
ミツルには、養女として引き取られてきた妹に近親相姦的な欲望を覚え、情緒不安定な妹からの性的な挑発を避けるように家出、年上の女との情交に溺れた過去があった。
「きれいな心を/取り戻すために/
この悪夢から/目覚めるために…」
「もう/他に方法は/ないんだ」
ミツルの不幸は、混乱した思いを解きほぐしていくのに必要な話相手を、近しい関係に見出せなかったことだと思える。
抱え込んだ苦しみについて、たぶん、深小姫にすら語ることができずにいたようだ。例えば「胎霊」の6巻掲載分での、深小姫の回想を読むと、そう思える。
「きれいな心を取り戻す」って思いつめを、“青い”といったニュアンスで受けとるのも、た易い理解かもしれない。
けれど、ミツルの事情を考える時、混乱した思いが混乱した結論に到った経緯は、痛ましいと思える。
「もう他に方法はないんだ」と言うミツルの言葉を聞きながら、アイは、ミツルに憑きまとってる、かつての情婦、油島ひじりの霊を幻視していた。
「--私も/行く」
「私も/行くわ」
「決めた」
こうして、アイはミツルとともに、YUOのグループと共に“大直の鑽火”決行に加っていく。
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「ウェルテル」の8巻掲載分では、これまで断片的な描写で、読者に暗示されていた出来事が、ある程度整理され、キャラクター間での理解の共有もある程度なされる。
例えば、ミツルがYUOに拉致されたのではなく、自らYUOのグループと行動を共にしはじめたらしいことは、用賀署に向かう車中で、惣一郎(柧武惣一郎)の口から深小姫に告げられる。
「てめぇなんでそれをすぐに言わなかった!?」と惣一郎を締め上げる深小姫。
「あっあの時は…っ」「スタンガンで気を失う直前であれがミツル君だと」「確信が持てなくて……っ」
苦しい言い逃れだ。
「バカヤロウ!!/ミツルがユオと一緒に/動いてるって事は」
「ミツルも/死ぬつもりだって/事じゃねえか!!」
「ですから!!」
「ユオと接触した/人間はみんな/死ぬんです!!」
「ユオは/この世に開いた/死者の門そのもの/なんですよ!!」
「僕…………/
うっ」
「だから…………/深小姫さんに何か/あったら…………」
「うっ」
「ち/
うるせえ/馬鹿!!」
「泣くな/馬鹿!!」
「気合/入れろ/馬鹿!!」
さらに、用賀署に入った深小姫と惣一郎は、捜査スタッフとのブリーフィングで、井荻ユオ逮捕の経緯を知らされ、“大直の鑽火”が、集団焼身自殺計画だ、との推測を告げられる。
決行予定時刻は翌日未明だと、YUOは刑事たちに告げたが、その後は完全黙秘を続けていた。
峨田警視が、深小姫に「口寄せ」を要請した主旨は、集団焼身自殺の決行地を探ること。
井荻ユオの来歴も知らされた深小姫は、拘留されているYUOと、取調べ室で直接対峙する。
「はじめまして/カワカムリ」
過去に幻視や遠めで垣間見たこともあった2人だが、直接対面するのは、これがはじめてだった。
「もしかしたら/僕は/間違ってるのかも/しれない」「だから/貴女を呼んだんだ」と深小姫に告げるYUO。
「僕のしてきたこと、/これからやろうと/していることの/善し悪しを判断して」
「もし/僕が/間違っていたら/
後に続く/者たちに/それを/伝えてほしい」
「貴女なら/地上のモラルに/縛られることなく」
「貴女だけの/それが/できるはずだ」
「…女王様を/連れてきて/くれて、」
「ありがとう/
峨田警視」
集団焼身自殺を阻止する、と決意している深小姫だが、YUOが「これからやろうとしていること」は、深小姫自身が自分の「口寄せ」について深い部分で抱いていた不審をダイレクトに突くものでもあった。
もしかしたら、深小姫の「口寄せ」は、「詭弁を弄して/死者の魂を冒涜/しているのかも/しれない」。
根深い惑いを抱えている深小姫の幻視に、死んだハルが姿を顕す。
ハルが伝えた手がかりを導きとして、深小姫は、さらに深くYUOの魂を幻視すべく、5歳のユオが父親に無理心中を迫られた八ヶ岳に向かう。
「大直の鑽火」決行まで 13時間13分
その頃、“大直の鑽火”決行を準備しているグループは、メンバーを着々と集合させているのだった。
以下、9巻。
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8巻の巻末に採録された「犬神」には、深小姫は登場しない。
まったくの独立中篇として楽しめる物語だ。
連作の一編として読むと、東京都生活対策課の性格をかなり掴めるエピソードになってる。
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『低俗霊DAYDREAM』8巻採録分は、雑誌「月刊 少年エース」(角川書店)の、2005年1月号~3月号、7月号~9月号、2005年12月号~2006年1月号に掲載された分、との事。
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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』8(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2006.
ISBN 4-04-713779-0

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