奥瀬サキ(原作)、目黒三吉(漫画)『低俗霊DAYDREAM』10,一旦の終幕
原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さんの「低俗霊DAYDREAM」は、「口寄せ屋」崔樹深小姫が、心霊の関わる事件へ「対策」をしていく物語。舞台は、現代の日本だ。
10巻では、いよいよ、集団焼身自殺計画を巡る「ウェルテル」の物語が落着。
さらに半年後の深小姫を描く「御呪子(onoroko)」、他が採録されて、物語は「一旦、幕を閉じる」。
バイクに乗ったYUO〔ユオ〕のシンパに、自殺前提の妨害を受けた深小姫が、「大直の鑽火」決行地を知ったのは、決行予定時刻の30分ほど前だった。
その頃、自殺掲示板“Rock'n RollSucide BBS”のメンバーたちは、行動を開始していた。
「心配しないで」
「ユオは/必ず来ます」
「ユオは決して/私たちを/見捨てません」
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不必要なネタバレは避けながら、10巻の読みどころや大筋を紹介しようと思うけど。
9巻までの内容は、必要に応じて触れますので、よろしく。
(用語:低俗霊DAYDREAMから、色々レヴュー記事もたぐれます。よければ、どうぞ)
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10巻の巻頭から採録されてる「ウェルテル」最終パートは、102頁。内、74頁で「大直の鑽火」事件の落着までが描かれる。
深小姫と惣一郎(柧武惣一郎)は、八ヶ岳から東京への帰路途上、妨害を受け、警察車両で用賀署に帰り着いた。
深夜2時10分頃、“Rock'n RollSucide BBS”のメンバーたちは、計画決行の最終GOサインを出していた。
「それでは出発いたしましょう/むこうでユオが私たちを待って/くれています」と、巫女装束のイミビヤメ。イミビヤメは、BBSメンバーの内でも深くYUOに心酔している娘だ。
「でもユオは警察に拘置されているんじゃ……」と問うアイ(椚アイ)。
「心配しないで/ユオは必ず来ます/ユオは決して私たちを見捨てません」。
「コスプレ巫女に暴走族か学芸会以下の茶番だ/こんなもので世の中を動かすことなどできやしない」
ミツル(藤原充)の言葉にメンバーの1人、キリが応える。
「移動するのは世の中ではありません/私たちが移動するのです」
キリは、メンバーの内でイミビヤメに次ぐ発言力、影響力を持つ学生だったが、ユオの拘置にも動じないイミビヤメと違い、「口寄せ」のできるアイを「大直の鑽火」執行のために、受け入れた男だった。
移動する大きめのワゴン車の車中で、キリとミツルがしばらく言い合ってると、アイ(椚アイ)が、突然短い悲鳴をあげ、イミビヤメは、「ユオ」と小さくつぶやく。
おそらく、午前2時15分頃、取調べ室のドアノブを握ろうとした深小姫がいる廊下に、室内から銃声が漏れた。
あるいは、特殊な能力を使ったのか、捜査員から掏り取り隠匿していた拳銃で、YUOが自殺したのだった。
「大丈夫か/椚!」
「!」
「大丈夫よ/藤原君」
「ユオの魂は/とても--/
とても/優しいわ」
取調室に入った深小姫の前には、頭部を撃ち抜き机に突っ伏したユオの屍体があった。
離脱し、背中から背後の闇に引き寄せられていくユオの霊に、手を差し出し駆け寄る深小姫。
闇の中から腕を伸ばした、油島ひじりの霊に誘われ、深小姫の意識は幻視に引き込まれる。
こうして、深小姫は、「大直の鑽火」決行地を知ったのだった。
決行予定時間、午前2時45分の、およそ30分ほど前のことと思われる。
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「ウェルテル」9巻採録分ラスト近くで、深小姫がユオの霊に駆け寄る場面は印象的だ。
“時間までに君が僕の前に戻ってこられたら/「大直の鑽火」が/執り行なわれる場所を/教えるよ”
ユオは、深小姫との約束も、イミビヤメたちとの約束もたがえなかった。
10巻の「ウェルテル」採録分は、集団焼身自殺阻止に走り続ける深小姫、惣一郎、と警察、自殺前提でバイク特攻をかけてくる“Rock'n RollSucide BBS”メンバーたち、アイに憑依して、着々と「大直の鑽火」を執り仕切るユオの霊、と、緊迫の内に展開。
30分ほどの物語内時間の出来事が、102頁中74頁で描かれ、こうしかならないよね、と思えるような展開を見せ、落着する。
「君のしていることと/僕らのしていること/どちらが本当の意味で彼らをすくうことになるのか/そろそろその答えを出すときだとは思わないかい?/崔樹深小姫。」
5巻でユオが投げかけた問いの応えを、深小姫が出したのか、出さなかったのか? 出したとしたら、それはどんな応えなのか?
読み解くのは、アタシやあなた、読者の1人1人だ。
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10巻後半に納められた「御呪子(onoroko)」133頁は、「大直の鑽火」から半年後の物語。
“ただしばらく忘れていたかったんだ/全部”と、言っていた深小姫が再び起つ物語だ。
「幽霊タクシー」(3巻)の事件の後、「口寄せ屋」を廃業しようと考えていた深小姫は、「霧」(4巻、5巻)の事件に関わり、その後は「大直の鑽火」まで一連のハードな事件に対処してきた。
「ただしばらく忘れていたかった」半年の間、深小姫は、母親が生きていると告げられ、母親も霊能者で「何かとてもおそろしいもの」を身に宿し、心が壊れてしまっていることを知る。
「--深小姫が/まだ幼かった/頃には/
中学生に/なったらこの事を/告げようと/思っていた」
「深小姫が/中学生になったら/今度は」
「二十歳になったら--と思うようになった」
「……大丈夫よ」と、深小姫は父に応えた。
「……大丈夫よ」
「会って何か/特別なことを/しようという/わけじゃない/
鬼縫も/燃えちゃった/しね」
“ただ”
“娘として/純粋に/お母さんの姿を/見ておきたい/
私に似てるかな--/--とかさ”
“それだけ”
深小姫に母のことを告げたのは、霊能を失い、「口寄せ屋」を引退していた平塚さんだった。
深小姫は、平塚さんの娘、レズビアンのルウナに口説かれ、受け入れ、一緒に暮らすことにする。
一緒に暮らし始めるはずの日の前夜、ルウナは事故で死ぬ。
“……許さない”
「絶対に/許さない」
病院でルウナの遺体に、突然の死が呪詛によるものだと告げられた深小姫は再起する。
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「大直の鑽火」決行の前日、用賀署でユオは深小姫に告げた。(8巻)
「僕のしてきたこと、/これからやろうと/していることの/善し悪しを判断して」
「もし/僕が/間違っていたら/
後に続く/者たちに/それを/伝えてほしい」
「貴女なら/地上のモラルに/縛られることなく/
貴女だけの/それが/できるはずだ」
アタシ(紹介者)には、深小姫に「地上のモラルに縛られること」のない、独自の(貴女だけの)善悪判断ができるかどうかは、わからない。
ただ、深小姫は、世間的なモラルを知りつつ、その拘束感に抗うように「自分なりの」善悪の判断を持とうと、惑い、苦しんできた、とは思う。
だから、復讐なのか制裁なのか(おそらく意図して)動機の描写が曖昧なところから描かされた、深小姫の再起のドラマは興味深く読める。
だいたい、深小姫は正規の依頼でなく動く時や、依頼の趣旨よりも深くのめり込む時の方が面白いし。
「御呪子(onoroko)」ってタイトルの含みにも、あれこれ妄想を刺激するものがある。
さしあたりは、深小姫の母、莢内深巳〔さやない みき〕が、その身に宿している(らしい)「悪い子供たち」「何かとてもおそろしいもの」のことが示唆されてるのかなー(?)とか思う。
ただ、その悪い子供たちと、深小姫の関係など、今のとこ定かで無いことの方が多い。割とヘンなタイトル。
だって、他に「御呪子(onoroko)」が示唆してそーな対象と言えば、物語内には、深小姫当人くらいしか見当たらない!?
この件は、巻末に収められた「Epilogue」を傍証にして、あれこれ思いを巡らせると、ドキドキ、クラクラしてきちゃう(笑)。
こうして、『低俗霊DAYDREAM』は、1つの物語の終わりが、別の物語の始まりであるような、そんな形で「一旦、幕を閉じた」。
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『低俗霊DAYDREAM』は、「月刊 少年エース」(角川書店)の、2000年8月号から雑誌掲載が始められ、途中数度の休載も挟みながら、2007年11月号まで連載された。
最終10巻は、2008年1月26日に、初版、初刷が刊行された。
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10巻のカバー袖に記した原作者からのメッセージよると「これで催奇深小姫の物語は一旦幕を閉じます」「催奇深小姫は次のテーマを見据えている」とのこと。
期待したいと思います。
「また、いつか、催奇深小姫が暮らす世界を表現できる機会が訪れることを願っています」ともあって。
こちらも、期待。
ただ、「催奇深小姫の次のテーマ」が、もし「DAYDREAM」を越えるハードで毒の味が盛られた面白さの物語に展開されなかったら、多分、アタシは満足できないだろうと思う。
いやはや、読者とゆーものはワガママなのだ(笑)。
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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』10(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2008.
ISBN ISBN 4-04-713953-4

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