石田衣良、作、『電子の星』(『電子の星』池袋ウエストゲートパークIV所収)改訂版
『電子の星』は、石田衣良さんによる「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)シリーズ、本編の1作。本編4冊目の作品集に収められた表題作で、採録された中篇4本の最後に収められてる。表題作らしく盛りだくさんの作品
マコトは、見知らぬ相手から突然に、人探し依頼のメールを受け取る。ネットでマコトの噂を聞いたらしいメール差出人は、ハンドルネームで“DOWNLOSER”(負け犬)と名乗ってた。
この記事では、中篇『電子の星』の内容について、不必要なネタバレを極力避けながら、読みどころをご紹介してみます。2008年2月に初公開した旧版を、2009年2月に大きく改稿しています。
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『電子の星』は、盛りだくさんの作品だけど、評価は読者によって別れそう。盛りだくさんな分、無理が目立つような感じになってるからだ。
池袋で行方不明になった、地方出身者の若者。
そして、池袋のストリートに流れていた、スナッフヴィデオ(殺人ヴィデオ)の噂。
不審な手紙を最後に、音信不通になった友人キイチ(浅沼紀一郎)を心配し、上京してくる引きこもりのネット中毒テル(園部照信)。
テルは、“DOWNLOSER”のハンドルネームで、ワレズをやって小遣いを稼いでる、って設定。
“ワレズ”について、マコトは作中で「有償のソフトを無断でコピーして、無料でつかうことだろう」とか言ってて。テルがワレズでダウンロードしたソフトを転売して小遣い稼ぎをしてる、と聞いて“Gボーイズなんかとは、まるで違う形のギャングのようだ”とか思う。
時代は変わるものだ。テルはGボーイズなんかとは、まるで違う形のギャングのようだった。ソフトウェアの国の無法者で、リアルの世界では引きこもりの自称負け犬。なんだかストリートで頭の悪いガキがなぐりあったり、ナイフで刺しっこしていたころが遠い昔に思えた。
友人の行方を捜そうと、上京して来るテルは、途中でメールをマコトに送ると、いきなり西一番街の果物屋(マコトの実家)に押しかけて来る。ストリートのトラブル・シューター、マコトの噂をネット上で目にしてのことらしいけど。マコト本人は、自分の噂がネットで広まってるなんて知らなかったぽい。
マコトは、“DOWNLOSER”からのトンチキなメールを読んだ時には、イタイ文面から、“ネットがあまりにダイレクトだから、相手との距離を測れなくなってしまった電子的な距離感喪失症”、“まともな人間関係というのが結べなくなったガキ”と予想。
3本めのメールでの予告どおり、果物屋の店先に現れたテルをみたマコトの第1印象は、“幽霊みたいに存在感がなかった”。
“やつの丸く落ちた肩からは圧倒的なマイナスのオーラがにじみでていた。負け犬。これ以上わかりやすいハンドルネームの由来はない。”とも。
「三週間くらいまえから、キイチとは連絡がとれなくなったんです。携帯もパソコンも手紙もダメ。まったく返事がもどってこないし、つながらない。それで一週間してから実家の郵便貯金の口座にいきなり三百万円振りこまれてきた」
おかしな話だった。一発あてるつもりでマグロ漁船にでものりこんだのだろうか。もっとも合法的な仕事なら、しばらく部屋を空けると家族に連絡するはずだ。〔中略〕「キイチはちいさなころから、ぼくのあこがれみたいなものだったから。ちいさなころぼくは虚弱体質で、田舎ではいじめられるんだ。キイチは近所に住んでいたこともあって、いつもかばってくれた。だから、今度の失踪はほんとに信じられない。キイチはなにかから逃げるようなやつじゃなかった。いつだってまっすぐにぶつかっていくタイプだったんだ」
「わかった」
おれはそういって立ちあがった。〔後略〕
依頼の筋も、引き受け方も、マコトらしい。
キイチの行方を捜すパートは、サスペンス感もある。
そして、キイチの行方探しは、偶然のように、スナッフヴィデオの噂とつながっていく。
サスペンス感、疾走感、軽妙さなど、I.W.G.P.本編らしい語り口が楽しめる作品です。
ただ、盛りだくさんなだけに、無理が目立つ話になってるみたい。
もちろん、この辺の評価は人によってわかれるはずだけど。
例えば、作品中盤に、マコトがテルを励ます場面がある。
ここ、作品の読みどころの1つのはずなんだけど。
アタシ(紹介者)には、やりとりに無理が目立つように思えました。
『エキサイタブルボーイ』で読める、マコトと和範(森永和範)とのエピソードと比べると、やっぱり無理はあると思える。
『エキサイタブルボーイ』の和範も、『電子の星』のテルもどちらも引きこもりって設定。
ただ、和範はマコトの元同級生、つまり同世代で東京の人間。テルの方は、経済が“完全に沈没した”地方の人間で、マコトよりも若い世代。
作品中盤で、マコトがテルを叱咤激励するやりとりは、例えば、世代の差、生活環境の差などを越えて届いた、ってお話になってる。けれど、アタシには唐突感があるように思える。
『エキサイタブルボーイ』で和範を励ました時のマコトは、励ましに数日もかけた描写だったけど。『電子の星』でのテルへの叱咤激励は、キツイ言い方をすると安直な感じすらする。
そんなことは、別に気にならない、って人もいると思うけど。
アタシとしても、『電子の星』、軽い読み物として楽しむ分には充分な出来とは思います。
ただ、残念だけど、作品集の表題作にしては無理が目立つ作品、って紹介になります。
マコトの語りは、軽妙だけど、時として話を綺麗にまとめすぎる弱点があって、中篇『電子の星』は、その点が裏目に出たような作品。アタシとしては、そんなふうに思っています。
再読、再々読に堪えるか? と言うと、正直、疑問。
『西口ミッドサマー狂乱』(文庫版で154頁)、『水のなかの目』(文庫版で144頁)や、『サンシャイン通り内戦』(文庫版で142頁)くらいの長さで書いてもらえてたら、もっと読み応えのある物語になってたかもしれない。そんなふうにも思います。
ちなみに、『電子の星』は、文庫版で102頁ほど。雑誌「オール讀物」の2003年7月号に掲載された。
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書誌情報:
石田 衣良,『電子の星』(池袋ウエストゲートパーク4),文芸春秋,Tokyo,2003.
ISBN 4-16-322390-8
石田 衣良,『電子の星 池袋ウエストゲートパークIV』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2005.
ISBN 4-16-717409-X
備考:
物語内の今=語られる主要な出来事は、ある年の夏の“ほんの十日間”ほどのできごと。
連作間の前後関係を、直接特定する手がかりは作中には見当たらない。『黒いフードの夜』で語られた出来事に続く夏(2003年の夏)の出来事、と思っておくのが素直な読み方だろう。
語り手の今=語り手の今は、エピローグ相当パートで語られた出来事が起きた時点よりは後。
冒頭の断章での語りは、メインの物語で語られた出来事が終わった後、ある程度時間が過ぎたような印象もあるが、どれくらい後の語りかは定かでない。
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