ネタバレ・レヴュー「御呪子(onoroko)」(『低俗霊DAYDREAM』原作:奥瀬サキ、漫画:目黒三吉)

「御呪子(onoroko)」は、全10巻のマンガ『低俗霊DAYDREAM』(原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さん)のファイナル・エピソード。
 最終巻(10巻)に採録されてて。紙数は、133頁。

 7巻~10巻と続いた「ウェルテル」のクライマックス落着後、半年ほど後を描いた「御呪子(onoroko)」では、これまで語られずにいた主人公(催奇深小姫)の母親が描かれ、深小姫の事情に関わる新たな謎も提出された。

 そして、深小姫が再起するドラマも描かれている。 

Cover image

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 この記事では、ネタバレは避けません。
 ネタバラシ自体を目的にした作文ではないですけど。必要に応じて、「御呪子(onoroko)」だけでなく、全10巻のあちこちに言及します。

 ネタバレが嫌な方は、別に書いた10巻のレヴュー(ネタバレ無し)や、用語:低俗霊DAYDREAMからたぐれるレヴュー記事を、よければどうぞ。

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 霊感を活かし、心霊が関わるトラブルを解決する「口寄せ屋」をやってる主人公、深小姫は、集団焼身自殺「大直の鑽火」から辛うじてミツル(藤原充)を救い出した後、あてどなく旅に出た。
 ミツルは、以前から深小姫に付きまとってた高校生で、腐れ縁的な関係を通り越して、深小姫の方でもミツルの依存心をある程度許容してたような相手だった。
 旅に出た深小姫が、音信不通になって半年。この辺りまでは、10巻巻頭に採録された分の「ウェルテル」での出来事。

 「御呪子(onoroko)」で、深小姫は、半年ぶりに会った惣一郎(柧武惣一郎)に謝ってる。

“惣一郎/ごめん”
“ただ/しばらく忘れて/いたかったんだ/
全部”

 惣一郎は深小姫に「口寄せ屋」稼業を発注する東京都生活対策課の職員で。本来なら、深小姫のお目付け役のはずなんだけど。幽霊の類を極端に怖がる性格から、深小姫にはアシスタントのようにこき使われてる、そんな力関係(笑)。
 深小姫から惣一郎へのものにしては、珍しくも素直な感じの「ごめん」のセリフは、多分、「半年も連絡しないで、ごめん」とか、「心配させて、ごめん」とか、そんなニュアンスで読んで構わないでしょう。

 深小姫のセリフで、旅に出た心情のようなものが語られてるのは、このヵ所だけのはず。
 しかも、これ、惣一郎の回想カットのセリフで。恋人が交通事故にあったと、携帯メールで知った深小姫を、惣一郎が病院まで送った直後のもの。
 病院に入ってく時のセリフを、中までは付き添わなかった惣一郎が、多分、深小姫を案じながら回想してるようなカットで。深小姫の顔も、あっさりしたラインだけで描かれてて、表情はほとんど描写されてない。

 惣一郎に対する深小姫のセリフとしては、かなり素直な感じが珍しいんだけど。多分、状況と惣一郎への感謝とが、言わせた素直さなんじゃぁないかな。

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 自殺志望者たちの集団焼身自殺「大直の鑽火」事件を描いた「ウェルテル」で、計画阻止に動いた深小姫は「もう/誰一人/死なせない!!」と宣言してた(8巻)。
 けれど、結局は、惣一郎と共に警察に協力しても、ミツル1人を救うことができただけだった。
(ミツルと同じ高校の生徒、椚アイを救ったのは、ミツルと、おそらくはユオの霊の共謀だった)

 30人ほどはいたと思える自殺掲示板“Rock'n RollSucide BBS”のメンバーたちは、警察車両の足止めを狙ってバイク特攻をかけ、主要メンバーたちは、ユオの霊がアイに憑依して執り仕切った式次第に則り、焼身自殺をしていった。

 そんなことがあって、深小姫は“全部”を“しばらく忘れていたかった”。
 この心理は、理解はできるけど、おこないは無責任かもしれない。
「ウェルテル」の10巻採録分には、事件後入院しているミツルのところに通っているらしいアイの様子も描かれてて。比べれば、こっちの方が無責任では無い。

 ただ、アタシ(紹介者)としては、「幽霊タクシー」(3巻)の事件の後、「口寄せ屋」を廃業しようとか考えて旅に出た時よりも、深小姫は逞しくなってるように思える。

 なぜ、そう思えるかと言うと、「御呪子(onoroko)」のクライマックスにあたるあたりで、次のような深小姫のセリフを読めるからだ。

「もう恨み廻向は/させない」
「あなたには/もう誰も/殺させない」

「恨み廻向」と言うのは、多分、作品オリジナルに設定された隠語で、「非業の死をとげたものの恨みを何某〔なにがし〕かの依代に乗せて廻向して/人を呪い殺すこと」と、語られている。
(「廻向」は、仏教系の言葉で、本来は「死者の成仏を願って供養をすること」などを意味する)

「御呪子(onoroko)」では、「恨み廻向」を生業とする者が「恨み廻向師」と呼ばれる、とも語られる。

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“全部”を“しばらく忘れていたかった”間の深小姫は、めぐり合わせのような何気なさで心と体を許しあった恋人を得ていた。恋人、平塚ルウナが交通事故を起こしたのは、恨み廻向師の呪詛が原因だった。
 このことが、深小姫再起のきっかけになる。

 ルウナを死に追いやった恨み廻向師は、ハエを依代(媒介)にした呪詛が得意なようだ。

 深小姫が病院に駆けつけたシーンでは、シーツに覆われたルウナの遺体を見おろしている深小姫に、屍体が事故死の様子を切れ切れに語りだす。
 そして、シーツを食い破って屍体から這い出したウジの群れが、見る間にハエに羽化すると部屋を満たしていった。
 深小姫は、依代に使われていたらしい一匹のハエを両掌でつぶし、幻視を破るが。掌を開いてみると、つぶしたハエの頭部は、苦しんでいる恋人のものにみえた。

「非業の死をとげたものの恨みを何某〔なにがし〕かの依代に乗せて廻向して/人を呪い殺すこと」

 恨み廻向の呪詛の陰湿さが、強烈に印象付けられる場面だ。

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 病院に続くシーンでは、呪詛されたルウナが、事故に追いやられた現場を、歩道橋の上から見下ろす深小姫が描かれる。そんな深小姫に「恨み廻向師の案件には関わるな」と、催奇課長(深小姫の父)からの伝言を伝える惣一郎。

「気にいらねえ」と、深小姫は呟いた。

「気にいらねえ」
“たった/数時間前に/ここで一人の命が/消えたんだ”
“それなのに/ここには/何一つ/残っていない”

 この「気にいらねえ」は、もちろんダブル・ミーニングだけど。前後の描写を踏まえると、腸が煮えてるような深小姫の怒りが込められてるように読める。

 さらに続くシーンでも、シャワーを浴びてる深小姫が、自分の掌を見ながら、“…許さない”「絶対に許さない」って独り言してる場面があって。この場面の深小姫の形相にも、復讐心のようなたぎりが感じられる。

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 惣一郎の調べで、深小姫は、恨み廻向師に呪いを依頼した者が自殺をした廃屋に出向く。
 ハエを使う恨み廻向師は、自殺した依頼者の恨みをハエに憑かせて、呪詛の依代に仕立てるのだった。

「非業の死をとげたものの恨みを何某〔なにがし〕かの依代に乗せて廻向して/人を呪い殺すこと」。
 確かに、恨みを呑んでの自殺は「非業の死」だろう。

 自殺の現場に足を踏み入れた深小姫はショックを受ける。

「何もない」
「ここには/何も残されていない」
「自殺した者の/怨嗟の声も」
「この集落に以前は/あっただろう人々の/生活の記憶も/
空っぽだ」
「これが/『恨み廻向師』の/仕事か」
“環七のルウナの/事故現場と一緒だ/空間の記憶が/根こそぎ持って/いかれている”
“人が死んで/こんなふうに何も/残らないなんて”
「惣一郎……」
「抱きしめて/くれないか」
「勝手ばかり言って/ごめん」
「でも/頼むよ」
「このままじゃ/私もお母さん/みたいに」
「壊れてしまいそうだ……」

 ここまで読み進んできて、歩道橋の場面の深小姫のセリフ「気にいらねえ」に、新しい意味が浮かび上がって来る。
 歩道橋の場面では、“たった数時間前にここで一人の命が消えたんだ”“それなのにここには何一つ残っていない”は、風景を見おろしている深小姫の視野に、物理的な痕跡が「何一つ残っていない」って意味に思える。
 東京の環状七号線まで交通量が多い場所でなくても、今の日本なら、ことに都市部なら、珍しいこととも思えない。

 けれど、霊感を持つ深小姫にとっては、「人々の生活の記憶」や「怨嗟の声」が「何一つ残っていない」ことが気に食わなかった。

 多分、深小姫は、廃屋に足を踏み入れた時、自分の恋人を呪って死んだはずの自殺者の「怨嗟の声」を聞く覚悟はできてた。過去の活躍の描写を読んでもそうだろうと思えるし、廃屋に入る場面でも、きりりとした表情からは、そんなふうに思える。
 けれど、深小姫にとっては、そんな「怨嗟の声」を聞くよりも、「空間の記憶が根こそぎ持っていかれている」空っぽさの方が、「壊れてしまいそう」なほどショックだった。

 こんな体験をした深小姫は、名前も知らない恨み廻向師に対峙して言う。
「もう恨み廻向はさせない」「あなたにはもう誰も殺させない」

 憤怒の形相の「絶対に許さない」から、引き締まった顔つきの「もう恨み廻向はさせない」へ。
 深小姫は、このように再起した。

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 この作文では、物語の網の目から、「深小姫の再起のドラマ」の筋を寄り出して紹介してるので、あちこちハショってる。

 廃屋のシーンのセリフ「このままじゃ私もお母さんみたいに」「壊れてしまいそうだ……」は、深小姫の先輩口寄せ屋で、今は引退してる平塚さん(平塚蓉子)に、生きていることを教えられた母のこと。

 深小姫の母、莢内深巳〔さやない みき〕は、やはり霊能者だった。
 生きてはいたけれど、心が壊れていて、三浦半島にある施設に入院していた。
「何かとてもおそろしいもの」を身に宿して、心が壊れてしまったようだ。

 物語の頭の方で、深小姫が母親のいる施設に行った場面では、やはり平塚さんから連絡を受けてやって来た催奇課長と深小姫が、これまでの行き違いを、少しだけ埋めるようにして会話を交わす。この、手探りのような父娘の会話は、読みどころの1つだ。

 こんなふうにして、深小姫と父親(催奇課長)との不仲の理由や、なぜ、幼い頃の深小姫が祖父母に育てられたかなど、深小姫の事情も、その大筋が描写された。
 深巳の姓については5巻に採録された「霧」に、深小姫の「母は私が幼い頃に離婚しました/だから殆ど覚えてないんですけど--」ってセリフがあるけど。父は、心の壊れた母のことを、娘が大人になるまで伏せておきたい、と考えていたようだ。

 父と娘の会話でそうした事情は腑に落ちる形で描写されたけど、新たに、深巳の心が壊れた事情はどんなものだったのか? といった謎が、提出された。

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 物語のクライマックスで、深小姫は、ハエ使いの恨み廻向師を罠にかけ、呪詛を失敗させる。

 深小姫のことを「口寄せ屋」か、と言い当てたハエ使いは、「悪いことは言わない一刻も早くこの場をされ」と告げる。
 罠にハメられダメージを負った「この状態では」「正確に恨み廻向をする自信がない」と。
 その言葉が終わる頃、飛来する異常な数のハエの群れが遠望される。

「もう恨み廻向は/させない」
「あなたには/もう誰も/殺させない」
「どうする? 行き場を/失った呪いは」
「縁の無い者にも/禍をもたらすぞ」

 暴走したハエの群れは、一部を深小姫が散らし、残りを恨み廻向師が引き受ける。

 ハエ使いは、深小姫が自分の髪を編み込んで新たに作った式神「白鬼縫」で依代のハエを撃ち落とすのを見て、「その絹縄を式神として使う術は誰に習った?」と訊ねる。
「大直の鑽火」事件の時に焼失していた鬼縫が、元は母親の式神だったことを告げる深小姫。

「そうか……/お前は/莢内深巳の…」
「行け……」
「あとは…/私の仕事だ……」
「あなたはお母さんを/知っているの?」
「恨み……/廻向師で…」
「莢内深巳を知らぬ者は…」
「ない………い……に…」
「いけ…」
「は やく……」

 こうして、恨み廻向師は、廻向に失敗した呪詛を自分の身に引き受けて(多分ね)、名も告げずに死んでいった。
「恨み……廻向師で…」「莢内深巳を知らぬ者は…」「ない………い……に…」という謎を残して。

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 10巻のカバー袖に記された原作者からのメッセージよると、「これで催奇深小姫の物語は一旦幕を閉じます」「催奇深小姫は次のテーマを見据えている」とのこと。
「また、いつか、催奇深小姫が暮らす世界を表現できる機会が訪れることを願っています」ともあって。
 期待したいと思います。

 ただ、「催奇深小姫は次のテーマ」が、もし「DAYDREAM」を越えるハードで毒の味がする物語に展開されなかったら、多分、アタシは満足できないだろうと思う。

 YUO〔ユオ〕も歪んではいたけど、ポリシーのある敵役だった。それだけに深小姫も苦しまされたわけだけど。

 ハエ使いの恨み廻向師は、陰湿な呪詛を使う、悪役らしい悪役だけど。それでも、呪い師らしいポリシーを強烈に見せ付けて死んでいった。
「行け……」「あとは…私の仕事だ……」とかね。けじめのある悪役って渋いよね。

 名も無い恨み廻向師で、これだけのキャラが描かれちゃったんだから。もし、催奇深小姫の新作が描かれるなら、「恨み廻向師で莢内深巳を知らぬ者はない」の謎を巡って「DAYDREM」以上に深小姫が追い込まれるハードな物語や毒のピリピリした味を期待しちゃう。

 読者のワガママって言われても構わない。だって、期待するなって方が無茶ってものよ。

 アタシとしては、『低俗霊DAYDREAM』は充分以上に堪能してる。
 特に「御呪子(onoroko)」では、本編全体のクライマックスでもあった「大直の鑽火」で、集団焼身自殺の阻止には失敗した主人公(深小姫)の再起が描かれ。これまで、断片的な描写しかなかった深小姫の事情を補完する描写が描かれ、父と娘の関係も変わってきた。
 全編のファイナル・エピソードに相応しい内容で、しかも、恨み廻向師の登場や、新たな謎の提出で、物語の新しい始まりを予感させるような内容も兼ねてる。

 もし、深小姫を主人公にした新作が走るなら、歓迎するけど。満を持しての続編でなかったら、暴れちゃうかもしれない。
 こっちが、本当の読者のワガママだけど(笑)。期待してます☆
 あ、そーだ「催奇深小姫が暮らす世界」の物語で、深小姫が脇役的に出てくる新作、でも、アタシは読めたら嬉しいな。

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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』10(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2008.
ISBN 4-04-713853-4

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