石田衣良、著、『骨音』(I.W.G.P.III)「お互いが干渉してるようでしてない」ストリートの「ヘンな空気」
『骨音』は、石田衣良さんの連作小説「池袋ウエストゲートパーク(I.W.G.P.)」本編3冊めの作品集。
語り手キャラのマコト(真島誠)は、東京池袋のウエストゲートパーク(西口公園)近くで、実家の果物屋の店員をしながら、雑誌でセミ・プロのコラム・ライターもやってる。マコトは、ストリートのトラブルをボランティア的に解決していくトラブル・シューターとしても知られてた。
3冊めの作品集では、I.W.G.P.ワールドの池袋の「ヘンな空気」を楽しめる。
清潔で明るいゾーンから猥雑なダーク・ゾーンまで、いろんなエリアの描写を重なり合せるときに読めるストリートのリアリティが「ヘンな空気」だ。
----
作品集『骨音』には、表題作を含めて4作が収められてる。
採録順で言うと、表題作の『骨音』、『西一番街テイクアウト』、『キミドリの神様』、『西口ミッドサマー狂乱〔レイヴ〕』の4作。
----
『骨音』で、マコトは、池袋の街のホームレスの顔役から、直で依頼を相談される。
その夏から多発してたホームレス襲撃事件の内、特に悪質な「骨折り」犯を探してほしい、という相談だった。
主に、9月中旬から、4、5日間の出来事が語られる。おそらく『水の中の目』(『少年計数機』所収)で語られた7月~8月に続く、9月の出来事なのでしょう。エピローグ的なパートでは、続く「秋の終わり頃」の出来事も語られてる。
(語り手の今は、定かで無いけど。エピローグ相当パートで語られた「秋の終わり頃」よりは後であるはず)
この作品では、マコト独特の、鋭敏な感覚をフィルターにした情景描写や、心象描写が目立ってる気がする。マコトを語り手にした本編連作では、よく見らる描写だけど。この作品では、ことに目立つように思える。表題に使われた「骨音」との絡みかもしれない。
2番目に収められた『西一番街テイクアウト』で、マコトは、顔見知りの小学生、香緒ちゃんの母親、ヒロコさんのトラブル解決を請け負う。ヒロコさんが勤めるパブのある、場末っぽい通りでのヤクザ絡みのトラブルだ。
ギャラと言えるほどのギャラも無いけど、珍しくマコトの方から強引に、トラブル解決を買って出るような行きがかりで。タカシ(安藤崇)が、Gボーイズ抜きで個人的にマコトを応援。サル(斉藤富士夫)まで手を貸すって豪華キャストのお話。
物語は、主に1月頃の2週間ほどの出来事。この1月は『骨音』で語られた出来事が起きた年の翌年、と思っておくのが素直な読み方でしょう。
(語り手の今は、定かで無いけど。物語で語られた一連の出来事よりは後であるはず)
3番目に収められてる『キミドリの神様』でマコトは、池袋のNPO団体代表から、依頼を相談する携帯を直で受ける。
「頼む。これはぼく個人やうちのセンターだけの問題ではなく、この街に暮らしている人すべてにかかわるトラブルだ。きみはこの街の若者のためになるなら報酬などなくても全力を尽くすときいた」
あらためて言葉にされると、カッコよすぎて照れてしまう。わかるやつにはわかるということか。おれは目一杯鼻の穴をふくらませ、やつを見あげた。
「わかった。実際あんたのいうとおりだけど、誰にそんな話を聞いたんだ」
嬉しい噂の情報源なら確かめておく必要がある。〔中略〕
「うちに出入りしてる安藤くんだ。彼はきみのことを高く評価していた」
「安藤って、タカシのことか」
「そうだ。池袋の少年たちの親睦団体を代表しているといっていたな」
全身から力が抜けていく。若い女たちでも街の噂でもなく、Gボーイズの王様のひと言。かなり黒に近い灰色だ。考えてみるとストリートギャングの集団だって、非合法NPOには違いないだろう。
物語で語られるのは、主に「寒さもゆるんだ三月半ば」から1週間ほどの出来事。エピローグ相当パートでは、「四月の初め」頃までの後日談が、飛び飛びに回想される。
(語り手の今は、定かで無いけど。エピローグ的な「四月の初め」よりは、後のはず)
作品集の最後に収められてる『西口ミッドサマー狂乱〔レイヴ〕』は、他の3作が雑誌掲載作の採録であるのと違い、おそらく単行本刊行時に書き下ろされた作品。
マコトは、商業レイヴを企画運営してる「ヘヴン」からの依頼を受ける。ストリート・ギャングGボーイズのタカシ(安藤崇)に「池袋のGボーイズの頭脳」と紹介されて、Gボーイズと一体のようにして、依頼にあたる。
ヘヴンの運営する商業レイヴの会場から、ドラッグ・ディーラー「ウロボロス」を排除するって依頼だったけど。マコトは、池袋だけでなく、東京中を騒がせるドラッグ騒動に関わっていくことになる。
この物語は、採録作の内で1番長い。盛りだくさんなのに、高速、高密度の展開で、I.W.G.P.らしい魅力があふれる物語。
主に、8月の土曜日から1週間ほどの出来事が語られる。物語内の今からみた、過去についての語りも織り込まれてるけど。主要な出来事は1週間ほどの間にスピーディーに展開。
(語り手の今は、定かで無いけど。エピローグ相当パートでの回想より、さらに先の時制であるはず)
「ドラッグにもレイヴにも興味はなかった」マコトは、怒涛の事件に関わった1週間ほどの間に、ヘヴンの看板シンガーとの激しい恋愛と別れを体験し、友達の1人を失う。
----
作品集『骨音』の文春文庫版には、I.W.G.P.ドラマ版の脚本家、宮藤官九郎さんの解説も掲載されてる。I.W.G.P.ファンなら、読んでおもしろい解説だ。
〔前略〕とにかく「人生に必要ない事はだいたい池袋から教わった」と言っても良いくらい、池袋は特別な町だったので。とりあえず原作本をカバンに入れて池袋へ足を運んだりしました。
そうするうちに、石田さんの文章に隠れていた『池袋的』なものが見えて来たというか、これをクローズアップすれば、いわゆる小説のドラマ化とは違う、何かヘンなものになりそうだなと確信したのです。それは西口公園が出来て若者が集まるようになったエリアと、風俗があり、サウナがあり、青果店があり、ヤクザの縄張り争いがあり、ホームレスが段ボール集めているエリアがほぼ重なっているという、お互いが干渉してるようでしてない、ヘンな空気が池袋にはあるんじゃないか……とまあ、今だからこんな偉そうに分析してますが、当時はもう、ただただ原作本を読んで「どうしようどうしよう」って言ってただけなんですけど。とにかく結果的には『池袋ウエストゲートパーク=IWGP』というヘンなドラマが生まれました。
宮藤官九郎さんの解説は、「すいません。いきなり謝っちゃいます。石田さんの本、実は全部読んでないんです。すいません。直木賞を受賞した『4TEEN』ですらまだなんです」と、語り始められてるけど。
「ほぼ池袋のシリーズしか読んでない僕ですが、その読んだ回数では誰にも負けてない筈です。そりゃそうだ、だって脚本書いたからね」と続く。
I.W.G.P.ファンでなくても、読みがいのある解説だ。
----
作品集『骨音』に収められた作品を通して読むと、I.W.G.P.ワールドの池袋の、「お互いが干渉してるようでしてない」重層したエリアのあちこちを楽しむことができる。
断片的に描かれたストリートのエリアそれぞれの描写は、必ずしもリアリスティックでもない、とアタシ(紹介者)は思う。それぞれを、個別に見ると、カリカチュアされてるような感じもする。
けど、各エリアの空気を削ぎだしたような断片が集積されると、コラージュの全体からは「ヘンな空気」のリアリティが読みとれる。そんな作品集だ。
特に、マコトとタカシの絡みを面白く読める作品が集められた作品集にもなってて。
たまたまそうなったのかどうかは、アタシにはわからない。タマタマだったとしても、無かったとしても、どっちでも構わないような気もする。
マコトとタカシの絡みは、描かれるといつも面白いとは思うけど。作品集『骨音』では、ことに、ストリートに重層してるいろんなエリアが断片的に描かれてるので。マコトの視点からの描写に、タカシのコメントが絡むと、空間の奥行き感が深まっていい感じ。
----
『骨音』に採録された作品は、雑誌掲載作が「オール讀物」の2001年11月号、2002年2月号、5月号とに掲載されてて。単行本は2002年10月に刊行された。
表題作の『骨音』は、TVドラマ版『池袋ウエストゲートパーク I.W.G.P.』のスペシャル・ドラマ(「スープの回」)で、主要なソースのように扱われた。
「スープの回」は、ドラマ本編の初放映が終わってから3年後、2003年の3月に初放映された。
元々、小説版とドラマ版とは別作品なんだけど。「スープの回」あたりになると、小説版とドラマ版が別の作品であることが、いよいよはっきりして面白い。
ドラマ版未見の人には、あまり関係無いお話かもしれないけど。この辺の事情も、作品集所載の解説で言及されてて、興味深く読めると思います。
====
書誌情報:
石田 衣良,『骨音』(池袋ウエストゲートパーク3),文芸春秋,Tokyo,2002.
ISBN 4-16-321350-3
石田 衣良,『骨音 池袋ウエストゲートパークIII』(文春文庫),文芸春秋,Tokyo,2004.
ISBN 4-16-717408-1
この記事へのトラックバックURL:
『西口ミッドサマー狂乱〔レイヴ〕』は、石田衣良さんの「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)連作の1本。3冊目の作品集『骨音』の、巻末に収められてる書き下ろし。
多分、単行
『キミドリの神様』は、石田衣良さんによる「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)連作の1本。本編3冊目の作品集『骨音』に採録された中篇で、採録4作の内、3番めに収められてる
『西一番街テイクアウト』は、石田衣良さんによる「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)連作の1本。本編3冊めの作品集『骨音』に採録された中篇で、採録4作の内、2番めに収めら
『骨音』は、石田衣良さんの「池袋ウエストゲートパーク」(I.W.G.P.)3冊目の作品集の表題作。
採録4作の内、巻頭に収められてる。
「西一番街の果物屋の店番とちまちましたコラム

最近のコメント
17時間 39分前
18時間 55分前
2日 18時間前
2週 5日前
2週 6日前
3週 2日前
4週 5日前
6週 5時間前
7週 10時間前
8週 2日前