ネタバレ・チェック:峨田警視の事情(『低俗霊DAYDREAM』原作:奥瀬サキ、漫画:目黒三吉)

 峨田警視は、マンガ『低俗霊DAYDREAM』(原作、奥瀬サキさん、漫画、目黒三吉さん)に登場する脇役の1人だ。
 脇役だけど、強烈な印象で描かれてて、読者によって好き嫌いの分かれるキャラと思える。
 ただ、好き嫌いを置いてみると、物語内、特に終盤で、かなりの重みを示すキャラクターになってる。

 この作文では、峨田警視のキャラクター性をチェックするために必要なネタバレは避けません。
 ネタバラシ自体を目的にした作文ではありませんけど。必要に応じて、プロットや描写などには言及していきます。

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 峨田警視は、4巻採録の「幻覚」に初登場した時点で、既に自殺掲示板“Rock'n RollSucide BBS”の主催者YUO〔ユオ〕を追っていたキャラとして描写されていた。
 例えば、「今『Rock'n RollSucide BBS』は何版までいってる?」と問うミツルに、「6版」「スーサイドリストは今日の二人を合わせて/34人になりました」と即答している描写など。

 その後、警視は「霧」の5巻採録分と、7巻10巻に渡った「ウェルテル」とに登場。

“Rock'n RollSucide BBS”と、YUOを追う峨田警視は、主人公の「口寄せ屋」崔樹深小姫とYUOの対立のドラマに、深小姫とは少し違った立場から絡む。
 深小姫とYUOのプロットを主旋律としたら、要所で副旋律のように絡んだのが、峨田警視のプロットだ。
 峨田警視の言動は、深小姫の言動と対照的に描かれ、互いに互いの描写にくっきりした効果を与えあっている。

 例えば、「ウェルテル」の大詰めでは、決行された集団自殺に直面した時、深小姫は自殺者の群れめがけて駆け出し、峨田警視は立ち尽くしている。
 この作文では、こんな峨田警視のキャラクター性をチェックする。

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◎「幻覚」の峨田警視
 峨田警視は、「幻覚」でミツル(藤原充)の義理の妹、尼亜ともう1人の少女の首吊り屍体が、琶成神社の境内で発見された場面の後に初登場する。
 初登場の後、アイ(椚アイ)とミツルが屍体を発見する直前YUOから携帯メールを受けていたと知り、2人に警告を告げる。

「YUO」は/君たちを追い詰めて/自殺に追い込もうと/罠を張り巡ら/せている

 さらに「幻覚」では、「ダムゴースト」(2巻)の頃から霊感に目覚めて間もないアイに「口寄せ」を用いて捜査協力するよう、無理矢理のように“要請”するなど、強引な態度も描かれる。

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◎「霧」の峨田警視
 4巻末から5巻にかけて採録された「霧」では、強引な振る舞いに対して、割ともっともな抗議を唱える惣一郎(柧武惣一郎)を、にべも無く退けている。

--目の前で/次々と犠牲者が/カウントされて/いく中で/
あなたのように/呑気なことを/言っていられない/のです

 この場面の峨田警視、アイに薬物を用いたやり方を「虐待だ」と非難する惣一郎に、所轄警官の面前なのにまず拳固で応じるとか、あまりリアルな描写とも言えない。けれど、キャラの強引さと、YUOに対する執着心は印象付けられる。

「霧」からは、峨田警視のパートナーである霊能者ハルも登場し、峨田警視と行動を共にする様子も描かれていく。(ハルの事情は、別にチェックしていきたい)

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 峨田警視が用いる薬物の性質は、「感覚を鋭敏にして」「対象との同化を促します」だそうだ。
「霧」では、峨田警視が芦ノ湖湖上でハルに「口寄せ」をさせようとした場面で、同種と思える薬物を自分に注射する。彼は、霊感の類が皆無では無いようだ(能動的に使えるとは思えないけど)。

 湖上での「口寄せ」は、芦ノ湖で集団入水自殺をおこなった“Rock'n RollSucide BBS”のメンバーの意識からYUOの情報を得ようとしたものだったようだ。
(「口寄せ」失敗後の峨田警視のセリフによれば、「ここ〔湖〕にはもう錯乱した悪意の塊があるだけです」とのこと。1キャラクターの意見にすぎないけれど。幻視のシーンに、幽霊のような姿で登場するキャラは、必ずしもまとまった人格を持っているとは限らないらしい)

 峨田警視とハルは、「口寄せ」に失敗して幻視に引き込まれ、深小姫とアイ、惣一郎とミツルの一行に命を救われることになる。
 峨田警視やハルが取り込まれた幻視の場面は、臨死状態での幻想のようなものと思われる。こうした幻想の内で死を体験すると、本体も死ぬかもしれない危険があることは、後に深小姫の口から語られる(9巻)。

 幻視の内で、峨田警視は、少年時代に兄の首吊り屍体を発見した時の追体験をする。
 追体験の後、自殺した“Rock'n RollSucide BBS”メンバーの1人イザナミにそそのかされるようにして、峨田警視は、高層ビルから飛び降りる。そこを救うのが深小姫だ。

「逃げるな!!」
「まだガキだったあんたが!」「お兄ちゃんの死に!」「悲しみに 喪失感に頑張って堪えたんじゃないのかよ!」「どんなに辛くても必死に耐えたんじゃないのかよ!」「今のあんたがそれを無にしてどうすんだ!」
「バカ!!」

思い出せ!
こうしている今にも/ユオは弱い人々を/追い詰めて
自殺に/追い込んでるん/だ!

 この幻視に関連した現実の出来事は、朦朧としながら湖中に沈んでいく峨田警視が、深小姫と惣一郎に引き上げられる出来事として描かれている。

 引用したヵ所では、YUOのおこないに対する評価は、峨田警視のそれと、深小姫のそれで、あまり変わらないようだ。
「弱い人々を追い詰めて自殺に追い込んでる」は、そのままYUOを追う峨田警視のセリフとしても、おかしいものではない。

 峨田警視と深小姫の言動は、かなり違う様子が描写されてきてるけど。2人のポリシーがいかに違うかは、深小姫が峨田に続けてハルを救おうとするヵ所あたりから、明瞭化される描写が増えていく。
「口寄せをするつもりなら無駄です/ここにはもう錯乱した悪意の塊があるだけです」

〔前略〕
「----/やめなさい!!」
「無駄だと/言っている/でしょう!!」
「口寄せは/死者のために/するんじゃない!!」
「生きてる人間の/ために/するんだ!!」

 湖上で、呼吸と心拍が停止したハルを蘇生させるため「口寄せ」をおこなうとする深小姫を、峨田警視が制止しようとした時のやりとりだ。
 直前の幻視場面で、峨田警視が意識を取り戻すきっかけを与えたように、深小姫は、ハルの意識を取り戻させようと「口寄せ」を試みる。
 深小姫に救われたハルは、深小姫たちと別れた後で、幻視の内で知った情報を峨田警視に告げる。それは、ハンドル・ネームYUOで知られていた少年の素性を、警察が掴むに充分な情報だった。

「口寄せをするつもりなら無駄です」って峨田警視のセリフからは、警視が深小姫の意図を理解した上で制止したことがわかる。
「呼吸停止が10分以上続けば蘇生率は限りなく0%に近くなります」。だから、湖上から岸に戻って病院に運んでもハルを救うことはできない、というのが、峨田警視の判断だった。

 単純化して読めば、リスクと期待されるリターンをはかって、「口寄せ」のリスクを高すぎる(無駄)と判断する警視と、そうは考えない深小姫の食い違い。
 峨田警視は「蘇生の可能性が限りなく0%に近い」のだし、その場の状況(ここにはもう錯乱した悪意の塊があるだけ)からも「口寄せ」は無駄だ、と言っている。
 深小姫の方では、呼吸と心拍が停止しているハルを、まだ「生きてる人間」とみなしているようだ。

 実は、深小姫のセリフ、口寄せは「生きてる人間のためにするんだ!!」は、カッコイイけど、この場面での峨田警視とのやりとりの上での、売り言葉に買い言葉的なものがある。
 やりとりの文脈上では、意味をなしてるセリフだけど。深小姫のポリシーの表現としては、一面的だ。

 例えば、3巻採録の「ヒルガオ」では、深小姫は、行きずりの霊からの依頼を受けたような形で口寄せをしている。あるいは、6巻採録の「ヒゲ」では、もっと明瞭に霊からの依頼を受けている。
 深小姫は、生きてる人間のため「だけ」に口寄せをするわけでは、必ずしもない。これは、深小姫と峨田警視とのキャラの相違点の1つだ。

 峨田警視の方は、おそらく、死者たちの世界と一定の距離を置くことを原則にしているように思える。
 例えば、4巻でアイに薬物を注射したことを、惣一郎に「虐待だ」と非難されたときのこと(5巻)。
「私のしたことが彼女にとって虐待であったかどうかは」「彼女自身に尋ねてみるといいでしょう」。

「以前よりも/この世ならざるものに/対して 一定の距離を/保てるようになったのではないですか?」
「その距離が/近くなったか/遠くなったかは/ともかくとしてです」

 ハルをパートナーにしている峨田警視は、「この世ならざるもの」が生者に及ぼす影響力について、無視はしていない。ただ、一定の距離を保つよう警戒しつつ、この世の存在ではあるYUOや“Rock'n RollSucide BBS”メンバーたちを追っている。
 その動機の根には、幻視シーンで描かれた自殺した兄の首吊り屍体を発見した時のショック経験がある。
 深小姫が「悲しみと喪失感」と呼んだ経験だ。

「ウェルテル」の7巻掲載分には、峨田警視の次のようなセリフもある。

「ハル/決して奴には/心を開くな」
“死神に/隙を見せるな”

 峨田警視は、「弱い人々を追い詰めて自殺に追い込んでる」ものとして、YUOのおこないを強く“憎んでいる”かのようにも思える。
“憎んでいる”っていうのは、さしあたりのアタシの表現だけど。峨田警視の描写から、事件に対する敵愾心や執着心を読取ることはできるはずだ。

 一方で彼は、近しい人間が自殺したら、誰でもが経験するだろう「悲しみと喪失感」も抱えている。
 アタシが思うには、峨田警視の抱えている「悲しみと喪失感」は、きっかけさえあれば誰でもが呑み込まれれざるを得ない感情だ。
 アタシには、キャラクターが「悲しみと喪失感」を押し殺すようにしながら、「弱い人々を追い詰めて自殺に追い込んでる」ものとして、YUOを追っているように思える(隙を見せるな)。
「悲しみと喪失感」を押し殺すようにして、隙を見せまいとしていることが、峨田警視の心の弱みを形作っているようにも、アタシには思えるんだけど。どうだろう。

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◎「ウェルテル」の峨田警視
 YUO、こと、井荻ユオの逮捕の後、ハルは自殺してしまう。7巻でのことだ。
 ユオが計画していた“大直の鑽火”を阻止しようと、峨田警視は深小姫に捜査協力を要請。ハルの代わりに、ユオの口寄せをしてほしいって要請を、深小姫は了承する。ただ「私は/自分の/やり方でやる」と宣言して。

「ウェルテル」の8巻掲載分では、冒頭の方で、捜査協力のため用賀署に出向いた深小姫と惣一郎が、“Rock'n RollSucide BBS”捜査チームからブリーフィングを受ける場面が、割りと長めに描かれる。間に回想などを挟みながら45頁。

 このブリーフィングの場面では、全編のクライマックスになる“大直の鑽火”に向けて、物語内の出来事や背景がかなり整理した形で語られる。例えば、“大直の鑽火”が集団焼身自殺計画だろう、との推測が深小姫たちに告げられるのも、この場面でのことだ。
「馬鹿な!!」「一体なんでそんな事を!!」と、驚く惣一郎。
 深小姫の方は、予期でもしていたかのような平静さで「ウェルテル…………」と一言つぶやく。
 ゲーテの小説『若きウェルテルの悩み』が公刊された後、ヨーロッパで、若い読者の自殺が相次いだことから、著名人の自殺をきっかけに連鎖的に自殺が多発する事象が「ウェルテル効果(Werther effect)」と、呼ばれている。

「そう/
“ユオ”の狙いは/ウェルテル効果/----すなわち」
「連鎖自殺で/あると/考えます」
「自殺の中でも/激しい苦痛を伴う/焼身自殺を/集団で行う事で」
“自殺そのものの/敷居を一気に/下げる---/そして、”
「生の隣には常に/穏当な死があり」
「それは自殺という/手段によって/いつでも選択が/可能であると、」
「人々に/思い出させる/事----」
「それが/“YUO”の/目的です」

 長めに引用したけれど。ブリーフィングの場面で、峨田警視が整理して述べた「“ユオ”の狙い」についての推測(~考えます)は、重要だ。
 ただし、これがYUOやその追随者たちの動機として正確な説明だから重要だ、というわけではない。
 実は、“大直の鑽火”の動機は、峨田警視が言うようにウェルテル効果を社会に及ぼすことではないだろう、と暗示する手がかりは、作品内の複数のヵ所で描かれてる。

 最も明瞭な手がかりの1つは、例えば、9巻掲載分に見られる。
 ユオが逮捕されてなお、集団自殺計画の決行に動き出した、“Rock'n RollSucide BBS”メンバーたちと、ミツルとの会話だ。

「コスプレ巫女に/暴走族か/
学芸会/以下の/茶番だ」
「こんなもので/世の中を動かす/ことなど/できやしない」
「移動するのは/世の中では/ありません」
「私たちが/移動/するのです」

 メンバーたちの間で発言力の強いキリは、自殺によって「世の中を動かすこと」などは眼中にはないようだ。

 8巻で、峨田警視が「“ユオ”の狙い」を述べた場面でも、愕然とした表情で描かれている惣一郎の隣で、深小姫は横を向いて座り、表情すら描かれていない。

 惣一郎が疑問を唱えている場面もある。ハケ岳に向かう途上の車中(9巻)でのことだ。
「深小姫さん」「ユオの目的って…」「本当に峨田さんの言った通りの事なんでしょうか?」
 あれこれと、自分の推測を語る惣一郎を、深小姫は遮る。

「んなの/知ったこっちゃ/ねぇよ」
「消防士に/放火犯の動機に/思いを巡らす/余裕はない」
「目の前で/燃えてる火ぃ/消すのが先決/だろ」

 じゃぁ、峨田警視が推測した「“ユオ”の狙い」が正鵠を射てはいないとしたら。それでは、全10巻の物語のクライマックスにもあたる「ウェルテル」って物語の題名は、何を含意したものなのだろうか? とは、思う。
 けれど、今、ここでは、疑問を記しておくに留めて、その件は、とりあえず置いておきたい。

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 この作文の目的は、物語に描かれた峨田警視のキャラクター性をチェックすることだ。
 峨田警視のキャラクター性描写の焦点は、おそらく9巻冒頭で、警視が彼の後ろ盾と思える警視監と会談する場面だ。
「車内〔なか〕で話そうか」と言われた峨田警視は、集団自殺計画についての記者会見を開き「市民に警戒を呼びかける」との上申を黙殺される。直後の、峨田警視の歯軋りをしているかのような表情は、読みどころだ。
 長くなるけど、車中でのやりとりのセリフを、引用していきたい。

「これからさらに/富裕層と/低所得層の/二極化は進む」
「まだ/しばらくは」
「中流意識の/抜けきらない負け組に/自殺は増え続けるだろう」
「しかし それと/現在インターネットを/媒介として起こって/いる集団自殺は別物だ」
「彼らは/必要以上の/保護と待遇を/享受しながら/
それでも/社会から/逸脱していく/者たちだ」
「心の病と/言って/いいだろう」
「一時的な/憐憫の情から/手を差し伸べても」
「いつか必ず/その手を引かねば/ならない時が/来るだろう」
「それは/わかっています/--しかし/このままでは」
「井荻ユオの/計画通りに/事が進み--」
「それは/君の/解釈だ」
「私の/考えは/こうだ」
「『三十人からの/残党が過激な/集団自殺を/したとして』」
「『それは彼ら/自身によって/選択された/結果であり』」
「『被害者の/描いた絵は/修飾にすぎない』」

 警視監が「それは君の解釈だ」と言っているのは、もちろん、集団自殺計画の目的がウェルテル効果を社会に及ぼすことにある、との峨田警視の「考え」のことだ。

“-峨田くん”
“はい”
「君の身辺でも/色々あった/ようだが」
「いつまでも/過去の亡霊に/取り憑かれては/いけない」
「そう/思わんか/峨田くん」

 このヵ所では、「そう思わんか峨田くん」というセリフを無言で聞いている峨田警視の横顔と、(彼の脳裏の)飛び降りたハルの遺体のイメージ、首を吊った兄の遺体のイメージとが構成されている。

“被疑者は/もう逮捕されて/いるのだ”
“君は/よくやった”
“そろそろ/自分の人生を/歩んでもいい/頃だ”
「警察庁に戻る/気があるなら/然るべき役職を/用意する」
“-つまり、”
「つまり/“大直の鑽火”に/関する記者会見を/開いて」
“市民に警戒を/呼びかける/許可は”
「いただけないと/いう事ですか」

「君」「峨田くんが降りる止めてくれ」

 降車した峨田警視は腰を折って、警視監の自動車を見送るが、この時下に伏した顔に脂汗を浮かべながら、目を見開いて歯軋りしているような表情は、なんとも言語表現しづらい表情で、読みどころだ。

 車中での警視監のセリフは、あるいはカリカチュアされているかもしれないけれど、よく出来ている。
 一連のセリフは、“被疑者はもう逮捕されているのだ”“君はよくやった”を焦点に据えて読むと、掴み易いだろう。
「自殺教唆の被疑者は逮捕した」だから「残党が過激な集団自殺をしたとして/それは彼ら自身によって選択された結果であり」、被疑者(ユオ)に教唆された「被害者の描いた絵は修飾にすぎない」。

 もちろん、残党の集団自殺を防げればそれに越したことは無いはずだ。
 けれど「“大直の鑽火”に関する記者会見」などを開く必要はない。
 なぜなら、ウェルテル効果云々は「君の解釈」にすぎないからだ。

 警視監のセリフから伺われるものの考え方には、官僚風の不遜さが随所に伺えて、あるいはカリカチュアはされてるかもしれないけれど、不快な不遜さまで含めて、出来がいい表現だ。
 メディアや第3者がいない車中での密談だと、これくらいのことは言うかもしれない、と思える程にはもっともらしい。

 警視監は、要するに「まだしばらくは」「自殺は増え続けるだろう」が、それは「心の病と言っていい」もので、必ずしも警察の管轄では無い、と言いたいようだ。
 警察の管轄は、例えば「インターネットを媒介として起こっている集団自殺」であって、その“被疑者はもう逮捕されている”“君はよくやった”のだ。
 こうした「主旨」には(ものの考え方の不遜さを置いておくなら)、かなりの理はある。

 ウェルテル効果云々があろうとなかろうと、「まだしばらくは」「自殺は増え続けるだろう」。
 峨田警視が、警視監のセリフに、「それは/わかっています」と応じた時点で、“市民に警戒を呼びかける許可”を求める理は、すでに詰められていたように思える。
 アタシが思うには、もし、峨田警視が「市民に警戒を呼びかける許可」を得られるとしたら、少なくとも別の理路を持って上申にあたる必要があったのだろう、と思える。

 車中でのやりとりからは、峨田警視が、本来は警察庁に属していたこともわかる。この事情は、暗示も含めて、この箇所ではじめて明かされたもののはずだ。
 おそらく、峨田警視は“Rock'n RollSucide BBS”の活動を知ったことで、警察庁での立場や将来よりも、YUOを追うことを選んだのだろう。

 さらに、警視監は、峨田警視の個人的な事情もかなり把握しているらしいこと、その上で警視の能力をかなり評価しているらしいことも、伺われる。

 そうした事情を踏まえたやりとりの後での、峨田警視の、なんとも表現しづらい表情は、読み応えがある。

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 アタシが思うには、集団自殺計画が連鎖自殺を狙ったもの、という解釈に、峨田警視はそれでも確信を持っているように思える。

 ただ、峨田警視や警視監のものの考え方では、その解釈は警察から「市民に警戒を呼びかける」理由にはならない。
 なぜなら、それは自殺教唆という犯罪とは異なり、影響を被るのは「心の病」を病んだ人々にすぎないはずだから。

 アタシが思うには、峨田警視の、なんとも表現しづらい表情は、こうした思考ロジックの罠に絡め取られていることに気づいた者の表情のような気がする。

 もちろん、上に書いたのは、峨田警視の表情を手がかりにしたアタシの解釈にすぎない。
 けれど、上のように解釈すると、例えば10巻掲載分のウェルテルで、焼身自殺の決行現場で峨田警視がみせる喪失感のような表情も、アタシには呑み込み易くなる。

 目の前で焼身自殺を目撃した時、深小姫は駆け出し「ミツルてめえっ」「勝手にイクんじゃねぇ-----!!!」って叫びながら、辛うじて、ミツル1人だけは助け出すことが出来た。惣一郎の手も借りたけど。
 峨田警視は、立ち尽くして、自殺者たちを見送ることしかできなかった。

「ウェルテル」の物語では、峨田警視と深小姫とは“大直の鑽火”阻止って目的を共有し行動を共にしていた。
 けれど、大詰めで決行された集団自殺に直面した時、2人のキャラクターのキャラクター性の違いは、このように描かれた。
“大直の鑽火”事件も、このような形での落着が描かれ、エピローグ的に数ヵ月後のキャラクターたちの様子が描かれて、「ウェルテル」の物語は幕が閉じられた。
 ただし、峨田警視の数ヵ月後は描かれていない。

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書誌情報:
奥瀬 サキ 原作、目黒 三吉 漫画,『低俗霊DAYDREA』1~10(角川コミックス・エース),角川書店,Tokyo,2001-2006.
1巻=ISBN 4-04-713398-1
2巻=ISBN 4-04-713445-7
3巻=ISBN 4-04-713493-7
4巻=ISBN 4-04-713512-7
4巻=ISBN 4-04-713512-7
5巻=ISBN 4-04-713560-7
6巻=ISBN 4-04-713645-X
7巻=ISBN 4-04-713730-8
8巻=ISBN 4-04-713779-0
9巻=ISBN 4-04-713858-4
10巻=ISBN 4-04-713953-4

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