『幻の連合艦隊Z作戦 -米艦隊撃滅を期した決戦構想-』瀬戸利春(『歴史群像No.88』より) 終わりの見えない「失敗するプロジェクト」を何とかしようとした作戦指導

 1943年8月15日。
 『連合艦隊Z作戦要項』が連合艦隊司令部より各部隊に下達された。
 ミッドウェイの敗北から一年と少し。
 ガダルカナルの戦いの敗北から半年あまり。
 もはや劣勢覆い隠すべくもない、日本海軍がたてた起死回生の決戦たる作戦がこのZ作戦である。

 開戦前に日本が意図していた、アメリカ海軍を艦隊決戦で撃滅するという邀撃作戦の焼き直し――では、決してない。
 有力なるアメリカ艦隊が出現した時に、これを連合艦隊のもてる総力でもって迎撃し、この決戦に勝利することによって……

 勝利することによって……どうなるというのか。

 このときの連合艦隊が保有する戦力は、決して小さなものではない。
 むろん、空母戦力はミッドウェイの敗北などで、かなり衰えてはいる。航空部隊も、増産と増強に努めてはいるが、消耗が激しい。
 しかしそれでも、連合艦隊が誇る大型水上艦は、まだまだ残っている。戦艦も、巡洋艦も――長い間、日本海軍が主力として鍛え上げ、国家の経済力からすると大きすぎるほどの金と資材をつぎこんだ艦隊戦力は、その多くが健在なのだ。

 にもかかわらず、日本海軍の誰もが、その戦力を生かす方法を見いだせない。
 Z作戦は、その象徴ともいえる。
 作戦そのものは決して悪いものではない。航空部隊と艦隊戦力を有機的に統合して、迫り来るアメリカ艦隊を迎撃するというものだ。アメリカ艦隊がどこから近付いてきた場合でも対応可能なように、考えられてもいる。

 実際には、重油などの燃料の不足、そして燃料を運ぶタンカーなどの支援艦艇や島嶼における航空基地の能力不足などにより、作戦通りには展開しなかったが。知恵を絞った作戦であるのは間違いない。
 それでもこのZ作戦には、本質的な点で問題がある。

 勝利したところで……どうにもならないのだ。

 第二次世界大戦において、日本が多くの過ちを犯したのはよく知られている。その中には、日本人が作る組織や、日本人のもつ性向、あるいは当時の戦争指導をしていた個人の資質に由来する過ちがあったのではないかと思われるものもたくさんある。

 だが、必ずしもそうではないのではないか。
 私は、この記事を読みながら考えた。

 いわゆる、ビジネスの現場で「失敗するプロジェクト」というものがある。この「失敗するプロジェクト」においては「成功するプロジェクト」でなら大活躍する同じ人間が、その才能をまるで使えずに終わることがしばしばだ。
 プロジェクトは失敗したが一部のメンバーはがんばった、というコトもなくはないが。才能があろうがなかろうが、やることなすこと精彩を欠くことの方が多い。
 そして、「失敗するプロジェクト」に共通するのが、プロジェクトの終わりが見えないコトである。もちろん、プロジェクトであるからには、終了する条件や目標がきちんと決められており、参加メンバーにも伝えられている。

 けれど、「失敗するプロジェクト」では、それが参加メンバーの現場の作業とつながらない。各自の作業を積み重ねた先に、プロジェクトの終わりが見えないのだ。

 まるでゴールの見えないマラソンである。

 何を、どうやればプロジェクトが終わりに近付くのか。逆に、何をやっちまうと、プロジェクトが終わらずにいつまでも続くのか。
 そもそも、どっちに向かって走ればいいんですかね? てなものだ。

 太平洋戦争における、日本の戦争指導も、そうした「失敗するプロジェクト」に似ている。
 どうやれば戦争が終わるのか。何が戦争終結への役に立つのか。
 それが誰にも分からない。誰にも答えられない。
 そんな戦争は始めなきゃよかったわけだし、戦争に突入したという時点で、当時の日本という国家の組織的な欠陥や、指導者のミスは確かにあるだろう。

 しかし、Z作戦を立案し、それを遂行しようとした連合艦隊司令部に、私は同情せざるをえない。
 作戦に甘さはある。ミスも多い。トラックなどどうせ守れないんだから陸軍が提案したように放棄しちまえとも思う。
 「い号作戦」「ろ号作戦」のような、無駄に消耗するような戦いにあたら戦力を投入したのは間違いだったろうとも思う。

 けれども、それらのミスの背景にある、「失敗するプロジェクト」に共通する部分――

 自分が何をすれば、この戦いが終わるのか。

 それが見えないままで戦い続けた彼らを、ミスゆえに断罪する気には、とてもなれないのである。

 終わりの見えなかった戦争(プロジェクト)が終わるのは、『Z作戦要項』が出されたちょうど2年後のことである。

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