『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その18:宇宙経済と太陽光発電

 機動戦士ガンダム00を見て、出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの18回目。

 いよいよ第一期の最終回が近付いた今回は人類が宇宙に進出するための最大の障害について語りたい。
 それは何かというと、言うまでもなく金である。マネーである。
 よって、今回は宇宙経済と太陽光発電について語りたい。
 いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいきたい。

 宇宙計画にはべらぼうな金がかかる。
 理由は色々あるが、その最大のものは、輸送コストである。重力井戸の底から軌道上に人や物を持ち上げるには、べらぼうな金がかかる。

 なぜかというと、第一回の軌道エレベータの時にもちょいと触れたが、質量比=ロケットに含まれる燃料の割合の問題である。
 スペースシャトルにせよ、H2ロケットにせよ、化学燃料を使う場合、地球の重力を脱出する11.2km/secの速度を出すためには質量比16を上回る計算になる。つまりはロケットの重量のうち94%ほどが、燃料となるわけだ。
 1000tのロケットのうち宇宙に持ち上がるのはロケット本体も含めて60tしかないわけだ。その中にはロケットエンジンやロケットの構造体なども含むので、搭載する荷物や人に割り当てられるペイロードはさらに下がる。

 ちなみにスペースシャトルは2000tを超える質量のうち、貨物として運べるのは30tそこそこである。シャトル1回の打ち上げ費用はNASAの予算から推測して4~5億ドルであるから、1トンのペイロードを打ち上げるのに15億円かかる計算になる。
 スペースシャトルは人間も運び、再利用のため徹底したメンテナンスや安全基準をクリアするので高コストだが、貨物のみ運ぶ無人の使い捨てロケットでも、やはりトン当たり億円単位のお金が出ていくのは間違いない。

 こんだけ金がかかるようでは、気楽にほいほいと宇宙へ行くことはできない。しかも冷たい方程式的に質量比というものは修正がきかない。ツィオルコフスキーの公式に例外はないのである。我々が、反重力だの慣性制御だの反物質燃料だのの超技術を手に入れるまでは、打ち上げロケットの9割以上が燃料で占められるというルールに縛られざるをえない。
 余談であるが、この中で一番可能性が高そうな超技術は反物質燃料である。どうやって作るかは別として、反物質は存在が確認されている。反重力や慣性制御のようにまだ海の物とも山の物ともつかぬ曖昧とした存在ではないのだ。

 そこで、ガンダム00でも登場する軌道エレベータが脚光を浴びる。一昔前までは、リニアカタパルトで宇宙へ行くというアイディアもあったが、よくよく考えてみると、地球からの打ち上げに使うリニアカタパルトそのものが、全長1000kmで射出口の高さ100km(!!)などというそれこそ、素材工学的な大革命がないと作れそうにないことが分かってきたので、どうせ同じ大規模建築物なら、軌道エレベータの方がちとましだろうかという考えが現代の主流である。なお、その素材工学的な大革命があったという前提で書かれたSF小説が『ふわふわの泉』(野尻抱介)である。

 さて、軌道エレベータを建造できれば万事解決かというと、これがまた難しい。
 確かに打ち上げコストは安くなるが、建造コスト、維持コストについては天文学的な数字になりかねない。
 特に建造コストはべらぼうなものになると思われる――世界の生産力と資源の少なからぬ割合を、軌道エレベータ建設が占めるほどに。
 月面に工場を建設し、建設資材を作り上げる。これまた月面にリニアカタパルトのマスドライバーを建設し、資材を打ち出す。そのための工作機械や人間は、従来通りのロケットで高いコストを払いつつ地上から持ち上げるのだ。

 とにかくそうやって最初は一本のワイヤーを通すことができれば、それを伝って物資を宇宙に上げつつ建設を続行することはできるだろうが、それまでも。それからも。大量の物資と技術と人材が必要なのは変わりがない。

 そこまでやるには、何か理由が必要だ。
 人類がそのもてる力を振り絞ってでも、軌道エレベータを建設せざるをえない、何か理由が。

 それが太陽光発電である。

 ガンダム00では、それは化石燃料の枯渇――実際になくならなくとも、掘り出すコストが高くなれば、燃料として使用することが割に合わなくなる――が軌道エレベータ建設の理由となっているらしい。
 化石燃料のかわりに、太陽光発電システムによって、人類のエネルギー需要を満たす。そのために軌道エレベータを世界中の頭脳と資産を費やして建設するという流れである。

 そして、その太陽光発電システムの基礎を作り上げたのが、イオリア・シュヘンベルクであるという。ここに、何やら秘密が隠されていそうな感じだ。
 というのも、イオリアがおらず、太陽光発電システムが採算がとれるかどうか分からない場合、人類はどうしたか、である。

 化石燃料はどちらにせよ枯渇する。その時に核融合発電が不可能であるのならば、やはり21世紀の現在と同じく、核分裂反応を利用した原子力発電を使うしかない。もちろん、風力発電や地上における太陽光発電などもあるだろうが、電力需要や安定供給を考えれば、原子力発電だ。

 もしも――そう。もしも、イオリアが未来情報を知る立場にあったとしよう。彼が最初に知った未来は、宇宙には進出せず、原子力発電を使い続けた人類が、テロや戦争により、地球規模の放射能汚染によって滅びる未来かもしれない。

 それを食い止めるためには、あらかじめ21世紀末の段階で、原子力発電にかわる安全で低コストの太陽光発電という回答を示しておく必要があるとしたらどうだろうか。

 これで人類は救われる。そう安堵したイオリアが再び知った未来情報が、今度はこれまたテロか戦争によって、軌道エレベータが倒壊して人類文明が壊滅的なダメージを受けるという未来であったならどうだろう。
 それを防ぐために、いくつかの布石を打ちはしたが、やはり最終的にはテロか戦争によって、人類が滅びるという未来しか見えなかったなら。

 そう、そのためにソレスタルビーイングは作られたのかもしれない。

 世界政府の樹立、それによって得られる数十年か数百年の時間的余裕。それだけあれば、人類はさらに宇宙に進出し、たとえ最終的にテロか戦争によって地球文明が崩壊することがあっても、宇宙に進出した人類に生き残るチャンスを与える。
 そのために人類共通の敵としてソレスタルビーイングを作ったのだとしたら。

 しかし、とすると。
 その未来情報はあまりにもどこか、作為的な感じはしないだろうか。

 何かが。誰かが。

 意図的に人類を滅ぼすことを決意し、そのために人類の歴史にいくつもの滅びの因子を仕込んでいるような、そのような悪意が感じられはしないだろうか。
 確かに人類の歴史は戦争の歴史である。
 20世紀の二度の世界大戦の後も、戦争や紛争はおさまる様子もない。が、我々の周囲を見回しても「人類が滅ぶ」兆候はどこにもない。確かにバラ色の未来とは言えないが、だからといって滅亡どころか、文明の崩壊すら、可能性としては少し突飛にすぎる。

 イオリアは何を見たのだろうか。何を知ったのだろうか。
 まるで、『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍)の『シ』ような、滅びを司り、その方向へと世界を導く存在を彼は見つけたのだろうか。アトランティスの司政官オリオナエ(プラトン)が見いだしたような、阿修羅王が戦ったような。

 もしそうだとするのならば、それこそが刹那の言う、『世界の歪み』なのかも知れない。

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