『七姫物語』高野和 七都市の数値評価
可視化と数値化。
このふたつは、モノゴトを理解するのにも、理解した気分になるのにも、理解したつもりで誤解するのにも、たいへん役に立つ。
従来、ウォーゲームの世界ではこのふたつが大いに問題になってきた。
動かすユニットに「戦闘力3-移動力2」という風に数値をつけ、地図の上に駒を並べる。戦争をシミュレーションするために必須のこの可視化と数値化は、だがしかし、結果として幾つも現実にはありえない=シミュレーションできない展開を生む。
彼我の戦力のあからさまな数値化は、無駄な戦いをプレイヤーに忌避させた。ナニが悲しゅうて、長篠の合戦における武田軍が兵力と火力に勝る織田=徳川軍に攻撃を仕掛けねばならんのか、という奴である。
そして、戦場を俯瞰どころか偵察衛星で眺めるかのごとき神の視点は、敵の兵力の集中から敵の攻勢主軸、さらには作戦意図を読み取ることを可能にしてしまった。
島の周囲にアメリカ空母が三隻もうろうろしとるハズなのに、ミッドウェイ島に爆撃を繰り返す南雲機動隊プレイヤーなど存在しないのである。
可視化と数値化を残したまま、『戦場の霧』と呼ばれる曖昧さや不確実性を出すために、ゲームデザイナーは多くのアイディアと試行錯誤を繰り返してきている。ダミーカウンターやユニットをひっくり返すことで数値を見えなくしたり、手札として持っておいて戦闘時に使えるチットやカードによる数値変動、さらにはどの部隊が次に動くかを、ランダムにチットを引くことでプレイヤー自身からも隠蔽する、などなど。
ちなみに、これらのスマートな解決策としてコンピュータを利用するというアイディアはSSIの初期のコンピュータゲームが出た時点ですでにあり、私も大学時代には当時最新鋭の8ビットコンピュータの64kByteメモリをいかに利用してウォーゲームを……ああいやまあ、そんな過去の話は置いておいて。
とりあえず、地図という可視化の次は数値化である。
七都市のそれぞれを、政治力、経済力、軍事力で表現してみよう。A~Eまでの五段階評価である。
やはりこれまた、地図同様に本編を元に脳内ででっちあげた数字なので、三割話として受け取っていただきたい。
■一宮シンセン市:
政治力:C
経済力:A
軍事力:A
(空)軍事力と経済力はさすがですね。
(黒)中央政府であるシンセンは国力だけで言うのならば、他を圧していますからね。
(空)でも政治力が低いのはどうしてですか? エライ人がたくさんいるのに。
(黒)ええ。手腕も経験も識見も、いずれも立派な方が大勢おられます。そしてそれゆえに、国内がまとまらないのです。立派な人がたくさん集まった組織は、むしろ弱体化する良い例ですね。
(空)(もしかしたら今の東和の現状を、シンセンは自らの中に取り込んでいるのかな?)
■二宮スズマ市:
政治力:A
経済力:B
軍事力:A
(真)すべてAだと思っていたのですが……不本意です。
(空)でもすごいですよ。高いレベルでまとまっています。特に政治力Aは他にないですよ。
(真)スズマはシンセンの失敗、シンセンの影から生まれた都市ですからね。「ああなってはいけない」意識から、もてる力を効率よく使えるように自らを改革し続けてきたのです。
(空)(正しい道を押し通しているはずなのに、この人が一番不安な感じがするのはなぜなんだろう?)
■三宮ナツメ市:
政治力:C
経済力:D
軍事力:C
(永)政治力と経済力はしょうがないが、武門の姫としては、せめて軍事力だけでもBが欲しかったな。
(空)戦時の軍事力として実際に戦うとなると兵の質はともかく、数が問題だということらしいです。
(永)それは分かる。けど、練度の高い兵を揃えているという評判は威信を高め治安や安全保障を高める効果がある。平時の軍事力評価も合わせてB-(マイナス)ぐらいにならないものか。
(空)あ、それは政治力にプラスして評価してあるそうです。
(永)……つまり、上乗せがないとうちの政治力はD評価だったのか。
(空)(言えない。政治力がE評価だったなんて、言えない)
■四宮ツヅミ市:
政治力:E
経済力:B
軍事力:D
(華)ツヅミは大河のほとりにあり、物流の中心地ですから。
(空)地図を見ても位置的には最適ですよね。経済力が高いのもうなずけます。
(華)それも平和な時代であればこそです。逆に乱世であれば、周囲のどの都市からも要地ゆえに狙われることになります。ツヅミの政治が安定しなかったのは、常に外部から物や人、お金と共に働きかけがあったせいです。
(空)(すいません。うちのふたりが、それにつけ込む真似をして)
■五宮クラセ市&六宮マキセ市:
政治力:B
経済力:C
軍事力:E
(水)私たちはふたつでひとつの評価ですね。
(香)それでも軍事力は再弱という評価ですか。妥当なラインですね。
(空)でも政治力Bは立派ですよ。四都同盟が成ったのも、おふたりやハルセさんの尽力あってのことですし。
(水)ハルセ・サイは良い人ですから。
(香)幸せになって欲しいですね。
(空)(つまりそれは今はあの人が不幸せだというのを認めている発言のような気がします)
■七宮カセン市:
政治力:D
経済力:D
軍事力:D
(空)……どれひとつとっても、ろくなものがありません。
(永)新興の都市だしな。テン・フォウとトエル・タウ――性格の悪いふたり組がなければ、そのまま消えていく存在でしかない。
(真)ええ。あのふたりは本来もつべきでない力と役割を、カセンに与えている気がします。この状態は、間違っています。
(水)それゆえに、敵にすべきではなく、取り込むべきと考えました。
(香)おふたりが存在と結果を出せたのは、カセンという小さな器にいたから。
(永)つまり、大きな流れの中に入れてしまえば、カセンの力は相対的に埋もれてしまうから大丈夫だと? 道理ではあるな。
(華)おふたりが、本当にカセンの人間としてであれば――それもかないましょう。
(永)どういう意味だ?
(華)おふたりは、野心家であられます。カセンは、彼らにとって成り上がるための踏み台だったのではないでしょうか?
(真)そこが私にも気になります。彼らの野心はいったい何のため――誰のための野心なのでしょう。あのふたりには、ヴィイとは違う底の知れなさを感じます。カセンどころか、この東和そのものすら、目的ではなく、手段であるかのような……
(永)おい、七宮。お前が一番あのふたりを知っている。教えてくれ。
(空)えっと、そうですね。たぶん、真姫の言うことに近いと思います。ふたりは、カセンや東和がどうこうでなくて、全力で何かができる世界が欲しいんだと思います。
(水)その何かができるというのは、自らの武を示すことですか?
(香)あるいは、自らの政を行うことですか?
(空)武も、政も――もしかしたら、私たちの本当の仕事である祭や、絵描きさんの芸、ハルセさんの商も。みんながみんな、全力で何かができる世界。
(真)さっぱり分かりません。
(永)意味不明だな。
(空)す、すみません。私も何を言ってるのかよくわからないんです。でも、政治力、経済力、軍事力のすべてが劣るカセンから私たちが何かをやっていることには、きっと。大きな意味があると思うんです。
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