『ジャガイモの世界史 ~歴史を動かした貧者のパン~』伊藤章治 果たして賢狼ホロはジャガイモを食べたか?
本書は、ジャガイモがいわゆる『新大陸』である南米でどのように主食として食べられ、それがヨーロッパ経由で世界中に広がっていく過程で歴史にどのような影響を与えたかについてつれづれに綴った内容となっている。
ジャガイモはアイルランドの地に根付いて人々の主食を支えるほどのカロリー源になり、同時に病害で全滅に近い被害を出したことにより、ジャガイモ飢饉なる惨事を招いた。
いまだプロイセンと名付けられた新興の軍事大国では富国強兵の一環としてジャガイモの増産が奨励され、そのプロイセンとの七年戦争で捕虜になったフランス士官が中心となってジャガイモはフランスでも育てられるようになり、ナポレオンの時代に大量に食されるようになる。
そして、産業革命。
たびたび発生した冷害による飢饉のたびに、寒さに強いジャガイモは荒政作物として脚光を浴びて作付面積が増え、やがては昔からヨーロッパにいたかのような顔をして各種郷土料理にちゃっかりその地位を示すようになっている。
なお、ドイツ語のジャガイモ=カルトッフェルは、元はトリュフから来ているらしい。つまりドイツにおけるジャガイモは「地中のキノコ」の仲間ということだ。フランス語のジャガイモ=ポム・ド・テールは「地中のリンゴ」で、オランダ語のジャガイモ=アールド・アッペルも同様。他にも「地中のナシ」という表現もあるそうな。
英語のジャガイモ=ポテイトウは、原産地でのジャガイモの呼び名パパが語源である。
さて、そういうわけで、本書は世界各地でジャガイモどうやって普及したかのエピソードを中心にまとめられており、読んでいて面白い。新しい知見があるというタイプの本ではないが、なんとなくタイムマシンを利用した世界旅行という感があって、私はこういうのが好きである。エピソード単位なので、いわゆるデートで食事をする時のちょっとした小話のネタにもなる。
ところで、本書を紹介しているコラムの中に、ゲームサイトの4gamerにおける 『ゲーマーのための読書案内』がある。
その第39回で、この『ジャガイモの世界史』が紹介されていた。> こちら
そこの枕にこう書かれている。
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個人的にはつい先日も微妙な体験をした。近世初頭のヨーロッパ社会をベースにしたファンタジーアニメにジャガイモが登場したのは,まあぎりぎりセーフの可能性があるとしても,その数百年前にも食べられていたことを示唆するセリフが流れるに及んで,少々当惑した次第だ。原作小説には当たっていないので深い追及はできないが,虚構とはいえ子供達が喜んで見るアニメ作品である以上,細心の注意を払ったほうがよいとは思う。
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これは『狼と香辛料』(支倉凍砂)における1巻のp86~88の部分(アニメでは第二話か?)についてのお話であろう。
ここを読んで、私は思わず苦笑いをしてしまった。なぜなら、私もまた本を読んでいて少し気になった部分であるからだ。
私が苦笑いをしたのはそれが『狼と香辛料』の価値を損なうとか、面白さを奪うとか、そういうネガティブな気持ちからではない。
むしろ、そうしたコトが気になってしまう設定や考証におけるマニア心理のままならなさ――つまりは、同類を見かけたゆえの共感と、お互い苦労してるよなあ、という同病相憐れむという感じの苦笑いである。
さて、それでは歴史のifだ。
もしも、古代ローマ帝国の帝政初期の頃に。
ヨーロッパに、ジャガイモが存在していたら?
これはもの書きのircチャットでもネタにしたものである。ログは以下のurlにある。
http://www.cre.ne.jp/writing/IRC/write/2008/04/20080407.html#160000
みんな生き生きとバカ話を繰り広げていて私はこういうノリが大好きである。
ローマ帝国における飼料作物として家畜の餌に使われ、ローマ人が肉を食うようになってパワフルになったのではないかとか。
ジャガイモの存在がローマの穀倉としてのエジプトの価値を押し下げた結果、ローマ分裂時にエジプト王国が復活、それらの影響が後のイスラム革命を押しつぶしてしまったのではないかとか。
もし同時期にジャガイモやトウモロコシがローマ帝国経由でアフリカなどに広まっていたら、それらの普及はアフリカの歴史を変動したのではないかとか。
果ては、ジャガイモがキリスト教修道院で育てられてワインならぬ芋焼酎が修道院の特産品になってミサも焼酎でやったとかの冗談ネタまで飛び出している。
この手のifとは、「かくあるべし」で他者や作品を否定していては発想が貧困になる。ブレインストーミングよろしく、広げていくことによって豊かになるというものだ。
それこそが設定マニアが己の能力を最大限に生かせる方向だろうと、私は思うのである。

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