GA文庫テーマ大賞向けプロット 冒頭サンプル
GA文庫テーマ大賞向けプロット 冒頭サンプル(400字詰原稿用紙9枚)
※これは、前回投稿したGA文庫テーマ大賞向けプロット「エートレインでいこう!」から必要だと思われる要素を抜き出し、本文冒頭のサンプルとして書いたものです。
「この話はラブコメで、この二人がどうなるんだろうって思いながら読んでもいいお話です」ということが、読者に伝わるようにと書きました。
お試し版というよりは、いわゆるプレゼンの一環かな?
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俊はホームに立っていた。
リュックサックを背中にからい、腕に大きな枕をかかえて。
ここはどこの駅だろうと、寝ぼけまなこを袖口でこする。
電車はいつのまにか走り去り、誰もいないホームには、薄桃色の花びらだけが渦を巻いて舞っている。
本当に、人っ子一人いない駅だ。駅名の書かれた看板さえも見あたらない。
僕、なんでこんな駅に降りてしまったのだろう。
ぼんやりとした頭で空を見あげた。
よく、晴れている。
「ちょっと、あんた」
急に背後から呼びかけられて、俊はビクッと体を震わせた。誰もいないと思ってたのにと、恐る恐る、声のしたほうを振り返る。
「あんたよ、あんた」
声はすれども姿が見えない。
目をこらして、よく探した。
ホームのフェンス越しに、大きな桜の木が立っている。その、ひっきりなしに花びらを落とす枝の下から、獣みたいな鋭い目で、こちらをうかがっているものがいる。
「誰?」
思わず、あとずさりした。
人? 動物? まさかとは思うけど、もしかして、マジで怪獣?
さらによく目をこらすと、木の下に立っているのは、どうやら俊と同じくらいの背丈の──少女だ。
長い髪を花吹雪にそよがせて、にこりともせず俊を見ている。
俊はもう一歩、うしろにさがる。
少女はひらっとフェンスを跳び越え、みるみる俊に近づいてきた。その速度が異常に速い。
「ねえ」
目の前に、少女の顔。
「うわっ!」
口から心臓が飛び出すかと、俊は本気でそう思った。
少女がすっと目を細める。その背丈は、ほんの少しだけ俊より高い。つまり俊は、ほんの少しではあるけれど、少女に見下ろされていた。
「あんたさぁ」
「な、な、なに」
「なんで枕なんか持ってんの」
「な……」
なんでって、言ったって……。
この枕でないと、僕は眠れないんだから。
そんなことを言ったって、バカにされるだけだと思った。
「まったくもう。返事くらいしなさいよね」
いつまでたっても俊が返事をしないので、少女が、ふっとため息をついた。
「もういいわ。じゃあ、切符」
「は?」
「切符よ切符。持ってるんでしょ、さっさと出して」
なんでこの少女はこんなに態度がでかいんだ。駅員でもあるまいし。と、徐々に落ち着きを取り戻してきた俊が、心の中で毒づいているのを知ってか知らずか、
「残念だけど、この駅には駅員はいない。あんたがこの町の住人になれるかどうかは、あたしがこの目で見極める」
少女はきっぱり言い放った。
「だから、切符」
手のひらをグイと突きつけてくる。
その手は目的を果たすまでは、なにがあっても引っこめられることはなさそうだ。
しぶしぶ俊は切符を見せた。握りしめた拳を開くと、しわくちゃになった一枚の切符が、頼りなさそうに姿を現す。
さっと少女にかすめ取られた。
「あ!」
奪い返そうと手を伸ばす。
ひょい、と少女に飛びのかれた。
ひょいひょいひょい。
少女は身軽に俊をかわしながらも、念入りに、切符を裏まで確認する。
俊はショックを受けていた。自分より身の軽い女の子がいることに。いくら枕をかかえている分、俊のほうが不利だとはいえ、俊の名前は行徳俊だ。俊足の俊に俊敏の俊。勉強が苦手な俊の自慢は、逃げ足の速さと変わり身の早さだけなのだ!
と、一人で盛りあがっている場合でもない。
「返せよな!」
ついに怒鳴った。
少女に向かって。
少女が切符から目を離す。
「……あんた」
鋭い目が、ますます細く、とんがった。
「あんた、まさか」
「な、なんだよっ」
「──男の子、なの?」
「……」
華奢な体型、生まれついての赤い髪。声変わりを迎えていない俊の声はまだ高く、肌が白くて目は大きくパッチリと。
女の子と間違えられてしまうのは、いつものことだ。
俊は慣れている。
「そうだよ。悪かったね」
ふてくされたいきおいで、少女に詰め寄る。
「返せよ、それ」
「返すわよ」
あっけないくらいあっさりと、少女は切符を返してくれた。その目からは、さっきまでの鋭さが消えている。
「あたしはリン。あんたの名前は?」
俊は返事をしようとしない。
「あんた、この町にくるって、自分で決めてきたの?」
「……そうだけど」
「だけど?」
「うるさいなぁ。なんで、そんなこと聞くんだ」
「自分で決めてきたんなら、あたしには、なにも言うことはない。あんたのこと、この町の住人だって、認めたげる」
「認めてもらったって、うれしくもなんともないんだけど」
「かわいくないなー」
「かわいくなくて、けっこう。僕のことはほっといて」
ダッとホームのコンクリを蹴った。
駅を出ようと改札を探す。駅員はいないとあの少女は言った。その言葉通り、出口らしいところには改札もなく、建物の向こうに拡がるのは、見たことも聞いたこともない、町の風景。
ここは本当に、俊がこようと思っていた場所なのか?
外に飛びだした俊は、ポケットから切符を取りだし、書かれている文字をもう一度見る。
『この世界←→あの世界』
「……」
最初から、意味は不明だった。
だけどあの日──裕子と名乗る女の人が、俊に切符を渡しながらこう言った。
『私の住んでる世界にくるなら、この切符を持って、近くの駅から電車にお乗りなさい』
そして今日、俊はこの駅に着いたのだ。
「待ちなさいよ」
行く当てもなく歩きだした俊の横に、当然のように少女がいた。
「なんでキミがついてくんだよ」
「なんでって、あたしはこの町の水先案内人よ。なにをどうしてどうすればいいか、この町にきたばっかりのあんたには、右も左もわかんないっしょ」
「いいよ、自分でなんとかするから」
歩く速度を二倍にあげ、俊はもくもくと前に進む。
すでにどこを歩いているのか、駅はどちらの方向だったか、俊にはかいもく見当がつかない。
「意地っ張りなのね。あんた、裕子さんに会いにきたんでしょ」
「え」
立ち止まり、俊の斜め前をうしろ歩きしている少女の、よく見たら浅黒い顔をしげしげと見た。
「裕子さんを、知ってるの?」
「知ってるわよ。だからあんたを迎えにきてやったんじゃない。あんた、名前は?」
「……俊」
「フルネーム」
「うるっさいなあ。行徳俊だよっ」
俊と少女の、それが謎の出会いだった。
だが、あっという間に、少女は謎でもなんでもなくなってきた。
「まだかよ」
「まだよ」
*****つづくのだった*****
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