『ベン・トー サバの味噌煮290円』アサウラ 半額弁当を巡る肉弾小説
このサイトのヌシにして我が敬愛する友人のsfさんこと古谷俊一さんが、
「この本は、アカガネさんの気に入ると思います」
と珍しくも太鼓判を押した本。
歴史とか科学とかのいわゆる雑学的な本(『古代の発明』やら『東ユーラシアの生態環境史』など)ならともかく、こと小説、それもライトノベルでsfさんがそこまで言うのは珍しい。
先の週末、本屋で新刊のコーナーに『ベン・トー2 ザンギ弁当295円』が置いてあった時にsfさんの推薦を思い出し、1巻を取り出して口絵の部分をちょろりと読んでみた。
どれどれ……ぶはっ。
思わず吹き出してにやけてしまった顔を隠しつつ、私が1巻と2巻を一緒にレジに持っていったのは言うまでもない。
さて。
本書の内容はつまるところ、スーパーの半額弁当を巡る戦いである。それも、ガチンコな肉弾戦だ。拳やら蹴りやら掌底やら頭突きやらで相手をぼこぼこにして半額弁当を手に入れるのだ。
基本的におバカな話であるが、おバカな話というのはバランスが実に難しい。
本気で戦う理由が半額弁当であればなおのことだ。
本書では、そのバランスをふたつの方法でとっている。
・登場人物の誰も半額弁当を巡るガチンコ戦いを疑問に思わない
・超人的な戦闘能力が発揮されるのは、半額弁当を巡る戦いの時だけ
疑問を抱かないのと状況の限定は「ありえない」ものを「ある」ように書く方法としては定番だ。ただ、読者と一緒に主人公を半額弁当を巡る戦いに連れて行くために、序盤では「半額弁当の売り場で何が起きているのか、主人公も分からない」という手法をとっている。
本書において一番危険な部分は、ここである。主人公の持つ「なぜ半額弁当でここまでやるのだ」という疑問は読者もまた当然のように持つ疑問であり――まともな回答など、存在しない。だから、最初の50ページは読んでいてやはり少しばかりツライものがあった。
これがツラくなくなるのは、半額弁当を巡る戦いに納得のいく答えが導き出されるからではない。
単純に、出てくるキャラが全員「ヘン」なので、半額弁当を巡る真剣勝負が相対的に「ヘン」でなくなってきてからだ。
何かあると怒りまくるクラスの委員長。高校一年生にしてすでに引き返し不能点をはるかに超えた腐女子の相棒。主人公にしたところで、その言動は両親含めて明らかなキジルシであり、メインヒロインたる『氷結の魔女』だって、孤高を気取ってカッコいいセリフを使いながらかなりのさびしがりやさんである。
特にメインヒロインの『氷結の魔女』が、なぜ格闘技どころかスポーツ全般が苦手なのに大の男を吹き飛ばすほど強いかと問われて答える理由が素晴らしい。
>>>
「本能的欲求、敵に挑む覚悟、唸りを上げるほどの空腹……この三つだ」
>>>(『ベン・トー』p89)
よりにもよって――唸りを上げるほどの空腹、である!
しかも、なんか納得できるのが困る。クライマックスの演出で使えてしまいそうだしっ!
>>>妄想開始
「これで、このスーパーの半額弁当は我らのものでございますな。ひょっひょっひょ」
「ふふふ、我らを豚と蔑む狼どもの無念の叫びが聞こえるようだな」
「さようでございますとも……おや? この音は?」
地鳴りにも似た低い振動が、足下から伝わってきた。震源はスーパーの床に倒れ伏した狼の身体。
「ち……目、覚めちまった……」
「ば、ばかなっ!」
「この状態で、まだ立ち上がるというのかっ」
完全に断たれていたはずの男の意識が。
筋肉内の最後のATPすら使い尽くした男の身体が。
自らの腹の音によって目覚め、立ち上がる。
「腹ぁ……減った……な」
>>>妄想終了
どいつもこいつも、魅力的なおバカであり、今さら常識を口にするのもバカバカしくも頼もしい。
1巻で一番のお気に入りは、腐女子の白粉ちゃん。主人公をモデルにした『筋肉刑事(まっするでか)』というホモ小説を書いている。
>>>
「ち、違います! あれは純粋にお弁当が欲しくて! それに佐藤さんじゃありません! アレはサイトウさん! サイトウヒロシさん! 交番勤務だったのを上腕三頭筋の美しさを認められて『筋肉刑事』に引き抜かれた新米刑事! 功績ゼロのダメダメですが、男性経験はすでに四!」
「四ってもう四回もやられてんのかよ!? 『筋肉刑事5』ってあったな、ってことは何か、一本ごとに僕は一発やられているのか!?」
「一人一発とは限りません!」
>>>(『ベン・トー』p85)
2巻も実に楽しみである。

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