仮題『インポッシブル!』長編プロット

 GA文庫テーマ大賞向けに書きはじめたプロット「エートレインでいこう!」プロットの大幅改良版です。
 いろいろ考えて、なんとか短編にまとめる方法はないものかと思ったのですが、
【第三章の(2)裏切り、そして恋心──俊の決心】
 このシーンを書くためには、短編で収まる分量では不十分だと判断し、中・長編用にプロットを書き直しました。
 まだ未整理な部分もありますし、はっきり言って第三章の(3)あたりはかなりアバウトで再考の余地がありありかと思います。今のうちに直しておいたほうがいいと思われる部分や、差し替えのアイディア等ありましたら、是非ご意見お願いします。

 で、じゃあ、テーマ大賞用の短編はどうするのかというと、この長編を書いてから取りかかろうか、それとも、取りあえず長編は長編でおいといて、今は短編用のべつの話に取りかかるべきか。どっちがいいか悩み中です。

※このプロットは大部分を箇条書きにまとめてあります。
「エートレインでいこう!」プロットを読んでない方には、わかりにくく、読みにくいかもしれません。

 仮題『インポッシブル!』長編プロット 約30ページ

●第一章-------------------鰐淵家の人々

【1:リンとの出会い・見知らぬ屋敷:俊の不安】

・俊は一枚の切符を手に、見知らぬ駅に降り立った。その切符は数週間前、裕子という女性から渡されたものだ。
「私の住む町にきたいなら、その切符を持って電車にお乗りなさい」
・そう言われて電車に乗ったのだが、なぜこんな寂しい駅に降りたのか、寝ぼけまなこの俊には電車での記憶がない。
・その駅では、リンという少女が俊の訪れを待っていた。
「あんたがこの町の住人になれるかどうかは、わたしがこの目で見極める」
・そう言うと少女は、俊の持っていた切符を取りあげてしまった。俊のことを女の子だと思っていたらしいリンは、俊が男の子だとわかったとたんに態度が柔らかくなる。わけがわからないままにリンに案内され、裕子の住まいだという通称鰐淵屋敷に着く。バカでかくてオンボロの屋敷は、まるで吸血鬼の館。その上停電しているのか、どこもかしこも真っ暗闇だ。その闇の中、蝋燭の明かりにハンスという化け物めいた大男の姿が不気味に浮かびあがり、俊もリンも絶叫する。
・裕子が不在だとわかると、リンはさっさと屋敷を出ていってしまった。
・この町に、そしてこんな屋敷にきてしまったことを軽く後悔しながらも、そうせざるを得なかった家庭環境などを振り返り、固く目を閉じて眠る俊。

【2:理解不能な人達:トラブルの予感】

・翌朝遅くに目覚めたら、食堂のテーブルには裕子の書き置きと粗末な食事が置いてあった。ぼーっとしていたら電気屋がどかどかと現れて停電の修理。邪魔だと追い払われた俊は、外で黙々と畑を耕すハンスを見つけてちょっかいをかける。ハンスは見た目と違って気が優しいが、「う」としかしゃべらない。口がきけないんだろうか。
・修理を終えた電気屋は、ハンスや俊に請求書を押しつけると意味もなくいばり散らして帰っていった。屋敷の中は電気工事で見るも無惨に散らかされたまま。頭にきた俊は、様子を見にきたリンに促されて、しぶしぶながら片付けをする。
「おなかすいた。ごはん食べよう」
・と俊は言ったが、リンが珍しく黙っている。なにか怪しいと思ったら、案の定、俊のためにとテーブルに用意されていた食事は、みごとに食べ尽くされていた。「だって三日間なにも食べてないんだもん」とリンは悪びれた様子もなく、ちゃっかりと入浴まで済ませて帰っていった。
・がしかし、俊の空腹は収まらない。食べ物を探して屋敷を徘徊していたらあまりの部屋数の多さに迷子になり、地下室に迷いこんだところで吸血鬼ならぬ裕子さんに遭遇し、びっくりするやらほっとするやらで気絶する。
・目覚めると、裕子とハンスのひそひそ声。狸寝入りをして聞き耳を立てていると、二人は俊を大鍋で茹でて食べようという相談をしている。恐怖に身も縮む思いをしたがそれは完全に俊の誤解で、二人はタコを茹でる話をしているだけだった。食事をしながら会話していると、裕子さんは、食料にも事欠くほどの貧乏なのだとわかってくる。「なんでそんなに貧乏なの?」「借金が、たくさんあるから」それじゃまるで俊の両親と変わらない。なんで裕子さんは、お金もないくせに僕をこの町に呼んだんだろう。
「じゃあ僕、学校には行けないの?」
・裕子はびっくりした顔をする。「まあ俊くん、学校なんかに行きたいの?」「あ、いや、そういうわけじゃ」俊は家庭崩壊のどさくさで、この町にくる前から学校には一ヶ月以上行っていない。それに、はっきりいって勉強は死ぬほど苦手だが。やはり遊び相手は欲しかった。
「勉強したければ屋敷にある本を読めばいいわ。この屋敷にはなにもないけど、本だけはたくさんあるから。全部読めばきっと誰より賢くなれるわ。とにかく俊くんはこの町にきたばかりなんだから、しばらくは屋敷でのんびりして、わたしの話し相手になってちょうだい」
・いや、だから、勉強がしたくて聞いたわけじゃないんだってば裕子さん。
・そのあと裕子は、仕事だと言って、夜だというのに出かけていった。

【3:不自由な軟禁生活:謎は深まるばかり】

・裕子はいつも不定期に外出する。外でなにをしているのだろうと、俊は裕子のあとをつけようとするが、いつもハンスに邪魔された。なんとか外出したい俊は、畑仕事を手伝ってハンスの機嫌を取ろうとするが、ハンスに付け入る隙はない。
・ぐってりと疲れて風呂に入ると、突然の停電。俊は裸で風呂から飛びだす。「ハンス! ハンス! 明かりを持ってきてよハンス!」
・蝋燭を持ってハンス登場。素っ裸の俊を見て立ち尽くしている。「どうしたのハンス」と聞いても返事をしないハンスは心なしか顔が赤い。「ううっ、ううっ」と唸りながら、乱暴に俊の体を拭くと衣服まで着せてくれた。(ハンスは俊が男の子であることをこのとき知った)急に世話をやかれて俊はとまどう。早く寝ろとばかりにベッドに押しこまれたが、畑仕事で疲れすぎたせいか俊はなかなか眠れない。裕子さんは夜中なのに帰ってこないしと、俊は明かりを持って書庫に向かう。書庫には本当に、山ほど本はあった。が、いずれもお堅い本ばかり。当然のことながらマンガなどは一冊もない。
・ぶ厚くて古い背表紙を見つけ、よっこらしょと引っ張り出す。ずっしりと重い、それは古いアルバムだった。白黒やセピア色の写真がズラリと貼られているけれど、全部外国人のような出で立ちの人ばかりが映っている。あ、これハンスじゃん。ハンスって昔っから全然変わってないんだな。えらく古い写真だけど、いったいいつのものだろう。それともこれはハンスの先祖か? 
・裕子さんも発見。裕子さんも今とちっとも変わってないけど、身につけている服は、昔のお姫様が着るような、洋風の豪華なドレス。
・やっぱり、よくわからない人達だ。
「あら、まあ」
・という裕子の声で目が覚めた。俊はアルバムを拡げたまま寝てしまっていた。裕子との質疑応答。はっきりと裕子は言わないが、裕子はどうやら由緒ある家系のお嬢さまだったらしい。
・そしてハンスは人間ではなく、この屋敷に古くから住みついている屋敷の守護霊なのだという。ついでに女嫌いらしい。そういえば、リンはハンスを恐がっていた。

【4:リンと親交を深める:リンといるとほっとする】

「おなかすいたー。なんか食べさせてー」
・と歌うように言いながらリンがやってきた。二人で台所をあさり、やっと食べられそうなものを見つけたがそれは固く干された大豆だった。大豆はすぐには食べられない。つぶして粉にして、砂糖を混ぜたらおいしいかもとやってみるが、肝心の砂糖がない。もさもさした粉はとても飲み込めたものではないのでお湯に溶かしてみたものの、これはこれでまずくて飲めない。しかもちょっぴりカビくさい。
「まーでも、カビは体を殺菌するって聞いたことあるし」
・嘘かホントか知らないが変なうんちくを垂れたあと、リンは気合いを入れて大豆ジュースを最後の一滴まで飲み干した。……すげーなこの子。と俊は感心する。
・リンの話によると、裕子が貧乏なのは、鰐淵家が落ちぶれたからで、この屋敷もとっくの昔に競売にかけられていた。しかしどういうわけか入札希望者が誰一人として現れない。それにはあの電気屋が一枚噛んでいるらしいが、いったいどんな手を使っているのかはリンたち子供にはわからない。
・とにかく電気屋はそんなこんなで親切面して裕子に取り入ろうとしているが、この屋敷はしょっちゅう停電するので、修理代金が五年分たまっていて、けっこうな金額になっているという。
・問題は、電気屋は、なんでそういうことをしているのかということで、リンの推理では、電気屋はいずれこの屋敷を手に入れて、裕子を自分のものにしようとたくらんでいるに違いないという。
・なんとかお金を貯めて、この屋敷が人手に渡るのを防ごうと、リンは屋敷を出て働いている、リンだけではない。この町には俊と同じように、裕子に誘われてこの町にやってきた少女たちがたくさんいる。みな、一日も早く裕子と一緒に暮らせる日がくることを願いながら、それぞれが働いて、お金を稼いでいるのだという。
「うっそだぁ~」
「うそついて、なんの得になるっていうのよっ」
「だってみんな子供なんだろ? この町では子供は学校に行かずに働いていいの? ほかの子はちゃんと学校行ってるんだろ?」
・しごくもっともな俊の問いに、リンが複雑な顔をする。
「あんたにも、そのうちわかってくるわよ」
・それ以上聞いてはいけないようなリンの答えだった。
「それよりさ、あたし、ずっとずっと、男の子の味方が欲しかったんだ。裕子さんがこの町に連れてくるのは、なぜかみーんな、女の子ばかりだったから」
「え、じゃあ男の子は僕ひとり?」
「そう。だから駅であんたに会ったとき、男の子だってわかって、あたしホントにびっくりしちゃった」
「そうか、男の子は僕一人だけなのか」
・学校にも行けない上、男がたった一人なら、当分遊び相手は見つからない。強いて言えば、ハンスくらいか。俊はションボリしてしまう。
「元気出しなさいよ。頼りにしてんだからさ」
「勝手に頼らないでよね」
「まじ。女の子だけでは、できないことが多すぎるんだ……」
・リンの真剣なまなざしに、俊は目をそらせてしまった。
「あのさ」
「なあに」
「おなか、痛くならないの?」
「ぜーんぜん」
・リンは体が丈夫らしい。

●第二章-------------------俊の苦難

【1:少女たちの強さ:俊のコンプレックス】

・裕子は二、三日帰ってこないが、俊は、ついに外出に成功した。女嫌いのハンスは、俊が男の子だとわかったからには態度が変わるだろうという読みが的中し、夕方までには帰るという約束で、駅に向かった。
・駅は、俊がきたときとまるで様子が違っていた。なにより人でごったがえしているし、きたときにはなかった改札があり、無人だった駅には駅員がいる。
・どういうことなのか理解できないまま、フラフラと改札をくぐろうとした俊は駅員にとがめられ、小競り合いの末、大声をあげられる寸前でリンに助けられる。
「ごめんなさい! この子、まだ、この町にきたばっかりで!」
・駅員に詫びを入れるその様子は、これがリンかというくらい卑屈な態度だ。ものすごい力で俊の腕を引っ張るリンは。はじめて会ったときと同じ、獣のような恐ろしげな目で、俊のことをにらんでくる。
「この! バカ! もう! バカを通り越してあほっ!」
・リンは興奮していて、なにを言っているのか俊にはサッパリだ。
「なにそんなに怒ってんの」「なにって、なにじゃないわよまったく、もう!」「だってあの駅、なんか変だよ」「どこが」「駅員さんが立ってたじゃん。駅には駅員はいないんだって、あのときキミ、言ったよね」「言ったわよバカ!」
・路地裏に連れこまれた。
「裕子さんに言われなかった? 落ち着くまであのお屋敷から出ちゃいけないって!」「言われなかった」「うそよ!」「ゆっくりしてなさい、とは言われたけど」「それがつまり、屋敷から出るなっていう意味なのよっ」
・そんなの、わかるかよ。
「わかるように話してくれよ。なんで、きたときにはいなかった駅員が、今日は改札に立っているのか……」
「だから!」
・だから、そういうことが、なんとなくわかるようになるまでは、屋敷を出てはいけなかったのだ、と。
「みんな、そうしてきたんだから」
・リンは肩で息をしている。
・この町には、俊と同じく裕子から切符を渡された子が、電車に乗ってやってくる。そういう子が駅に着いたとき、迷子にならないようにと、リンは駅まで迎えにくる。
「それで?」
「あと、さっきのあんたみたいに、電車に乗って帰ろうとする子を引き留めたり、とかね」
「なんで引き留めるのさ。帰りたい人は帰ればいいじゃん」
「簡単に言わないでよ。帰りたくたって、あたしたちは帰れないのよ、もう」
「もうって、なんでさ。そんなんじゃ、ちっとも説明になってないじゃん」
「とにかく裕子さんはね、あたしたちの命の恩人なのよ」
「命の恩人? おおげさだなあ」
「おおげさじゃない。この町にきた女の子はみんな、死ぬような目にあってるところを裕子さんに助けらたんだから。そんな命の恩人と仲間を置いて、自分だけ、もとの世界に帰れるわけがないじゃない」
「死ぬような目って……」
・ここでリンの仲間、先輩格の梓が登場。
「あんたらの声、向こうの路地まで筒抜けよ。不幸話は、もうちょっとしみじみとした声でやんなさいよね、リン」
「……ごめん、梓ちゃん」
・リンは梓の前では低姿勢だ。
「この子? 口ばかり達者で女みたいな顔してヘラヘラ笑う、やせっぽちの新入り男っていうのは」
・梓という少女は、口はリンの数十倍悪いらしい。
「ふん」
・梓は俊を見おろして、綺麗な顔をつんつん尖らせる。この町では、なんでこうも、顔はかわいいけど恐ろしく気の強い女の子ばっかり現れるんだと俊はげっそり。
「わたしたちが、もとの世界でどんなにひどい目にあったのか、うそだと思うなら見せたげる。私はね、親に、ごはんが食べたいって言ったばかりに殴る蹴るされたあげく、アパートの部屋から追いだされ、大雪の夜に電柱に縛りつけられて、凍死する寸前のところを裕子さんに助けられた。これがそのときの凍傷のあと」
・長袖長ズボンの下から出てきた梓の手足は、指が二、三本なくなっていて、奇妙な形に変形していた。あまりのひどさに俊は吐き気をもよおしてしまう。
「これで満足?」
・それみたことかと梓は俊を見下してくる。俊はそら恐ろしくなった。俊自身は、もとの世界で、そこまでひどい目にあったわけじゃない。母親が蒸発し、借金まみれの父親が自殺未遂をしただけで、誰かに暴力をふるわれたことなど一度もない。孤児院に連れていかれそうになって、逃げだしてきただけだ。
・いったいこの少女たちは、どんな暮らしをしてきたんだろう。そしてそんな少女の命を救って歩いている裕子さんは何者なのか。そしてこの町の持つ理不尽さはいったい……。
「梓ちゃん、もう、そのくらいにして」
・控え目にリンが止める。梓はまくりあげた袖や裾をさっさと直した。
「わかったならいい。みんなで闇鍋やってんだ。あんたたちも食べにおいで」
「わお! 鍋、ひさしぶりィ!」
「新入り苛めには、もってこいだろ」
「もー、梓ちゃんたらー」
「僕、帰る」
「帰るったって、あんた一人で大丈夫?」
「僕を子供扱いするなよな!」
・俊の胸が、きゅっと縮んだ。

【2:事件発生:裕子への不信】

・屋敷に戻ると、えらい騒がしい。なんと電気屋が重機に乗って、ハンスの畑をめちゃめちゃに荒らしている。身の軽い俊が運転席に飛び乗ると、電気屋に一撃で跳ね飛ばされた。俊は懲りない。しつこく飛びかかっていくと電気屋も辟易としたのか重機ごと敷地から出ていった。
・ハンスは荒らされた畑に四つん這いになって咆哮する。その悔しさ無念さが俊にも伝わり、大きな背中をなでてやった。もう暗くなるから明日にしようとハンスをなだめて屋敷に入ると、中も以前以上にめちゃくちゃだった。ハンスを励ましながら片付ける。片付けながら、悔しさだけがこみあげてきた。
・蝋燭の明かりを頼りに、やっとあらかたの片付けが終わったころ、裕子が帰ってきた。
「あらまあ、また停電したのね。電気屋さんはたしか、今日にでも家中の配線を点検しようと言ってくれてたと思うんだけど。電気屋さん、きてくれなかったの?」
・裕子は脳天気なのである。
・ハンスは涙ながらにジェスチャーで訴えた。
「なあに? あの電気屋は、悪い男だ、ですって? まあ、そんなこと言っては電気屋さんに失礼よ。え? 騙されている? わたしが電気屋さんに? ハンス、世の中には言っていいことと悪いこととが……なんですって? 家中の、配線を替える必要などないはずだ。あの男は工事代を騙し取ろうと、修理の必要がないところまで修理しているにに違いない……。ハンス、ちょっとここにお座りなさい」
・裕子さんは怒っているつもりだろうけど、全然迫力というものがない。だけどハンスは裕子の足下にひざまずき、裕子に言われた通り従順に、手を胸の前で組んで頭を垂れた。
・裕子はハンスの頭に手を載せた。「汝、疑うことなかれ」そう言うと、なにやらごにょごにょ口の中でつぶやきはじめた。なにを言っているのかさっぱりわからないのは、外国の言葉だからだろうか。ハンスはじっと耐えている。そしてときどき裕子の問いかけに頷いたり首を振ったりしながらも、大きな肩が、しだいにプルプル震えてくる。
・きっとハンスは、電気屋が畑を荒らしたことが言いたくて、でも裕子さんに、そのことが言えなくて、それで悔しくて震えてるんだと、俊も悔しい。
「さあ、心が綺麗になったでしょう?」
・裕子の天使のような微笑みに、ハンスは畑のことは言わずじまいで、うなだれて部屋を出ていった。
「留守中、ほかに変わったことはなかった?」
・にっこり微笑む裕子に俊は聞く。
「裕子さん、教えてよ」
「あら、なあに?」
「裕子さんの連れてきた子供は、なんでみんな学校に行かずに働いてるの?」
・それは……と言ったきり、裕子は返事をしてくれない。
「じゃあ、なんで僕をこの町にさそったの」
「俊くんが、困っていると思ったからよ」
「でも、裕子さんが連れてきた子は、みんな女の子ばかりだったんでしょう。リンが言ってた。なんで僕だけ男の子なの」
「俊くんのこと、てっきり女の子だと思ったから……」
「……」
「でもね、男の子でも女の子でも、そんなことは関係ないの。先祖代々わたしの家系は、不幸な子供を救うことが仕事だから。困ってる俊くんを、黙って見過ごすことが、できなかっただけ」
「でもみんな、学校にも行かずに働いてんでしょ。そんなのおかしいよ。それに、もとの世界に帰りたくても帰れないなんて。ひどいじゃないか」
「リンちゃんが、そう言ったの?」
「そうだよ。いくら死にかけてたところを助けてもらったって、この屋敷は、ごはんも食べられないくらい貧乏だし、子供なのに働かなくちゃなんないなんて。そんなの、助けられたって、いい迷惑だよ」
「まあ……」
・絶句した裕子の顔には、動揺の色が浮かんでいる。ふーっと長い息をついた。
「そうね、俊君の言うとおりかも、しれないわね」
・しょんぼりとした声でつぶやいた。ちょっと言い過ぎたかなと、俊も気が退ける。
「わたしには、子供を救う資格なんて、ないのかもしれないね」
・裕子は静かに去っていった。

【3:仲間からの援助:芽生える独立心】

・停電したままの不自由な生活は延々と続いた。電気が使えないと井戸水を汲み上げるポンプも動かない。屋敷の守護霊であるハンスは敷地内から一歩も出ることができないらしく、水の調達は俊の役目となってしまう。近くの川や近隣の家から畑の水や飲み水を運ぶ仕事を、見かねたリンが手伝いにきてくれた。
・梓も様子を見に来てくれた。女嫌いのハンスも少女たちに感謝して、いつもは見せない笑顔を作るが、それがかえって不気味すぎる。とにかくみんな、はらぺこだった。
・よし。と言って出ていったあずさが、弁当などをたくさん持って帰ってきた。怪しいと思い、俊は梓を問い詰める。
「うるさいなあ。あのね、あたしたちは姿が消せるわけよ」
「あ、あ、梓ちゃんっ、それはまだ……」
「す、姿が?」
「そう、姿が。いいじゃないのリン、どうせ遅かれ早かれわかることなんだし」
「でも!」
「じゃあさ、まさかとは思うけど念のために聞くだけだけど、もしかしてそれって」
「もしかして、なによ」
「盗んで……きたの?」
「さあ? そう思うなら、食べなくていいのよ」
・梓は気分を害したらしく、盗んできた食料を持って出ていった。裕子さんには内緒よと言い置いて、リンが梓のあとを追う。ハンスが恨めしげな目で俊を見るが、盗んできたものを食べる気には俊はなれない。
・なんとか停電を直そうと、屋敷の蔵書を探しまくる。三日かけて、やっと電気関係の本を探しあてた。読めない文字を辞書で引き、なんとか内容を理解する。素人がへたに修理をすると感電すると書いてあった。
・ハンスなら人間じゃないから感電しないかもしれない。
「というわけでハンス」
「ううー、ううー」
・脂汗たらたらのハンスは、結果、みごとに感電した。
「お医者さんを呼ばなくちゃ!」
「ううっ、ううっ!」
・ああそうか、人間じゃないのに医者に診せても意味がない。
「ごめん、ハンス、ごめん」
「うううーうううー」
・俊はつきっきりで看病した。そんな中でも、本を持ってきてハンスの枕もとで読む。勉強なんか大嫌いな俊が、心の底から学校に行きたいと思った瞬間だった。

【4:挫折:逃避】

・明け方に帰ってきた裕子に、再度、学校に行きたいと申し入れる。裕子は悲しげに首を振るばかり。俊がしつこく食い下がると、裕子が決意したように言う。
「俊くんは、この町では、普通の人間として暮らせないの」
「それって、どういうことなんだよ。普通の人間じゃないって」
「この町では人間としての権利を認められていないから、俊くんたちは、ただの労働力として扱われる」
「そんな……」
「リンちゃんたち、姿を消すことができるでしょう? 俊くんも一緒よ。俊くんたちは『魂』だから、ほかの人間には、見えたり見えなかったりする。でも気をつけてね。姿を消せることがバレたら、この町にはいられなくなる……」
・俊は屋敷を飛びだした。帰ってやる。電車に乗って帰ってやる。こんな町に、これ以上いられるもんか。
・気がついたら駅にきていた俊は、店のショーウィンドゥに自分の姿が映っていないことに気づく。僕はどうなっちゃったんだろうと思いつつも、本当に誰からも見えないのかを確かめるために改札をくぐる。
・駅員は見とがめもしなかった
・絶望的な思いのまま、到着した電車に乗る。いろんな駅で降りてみたけど、たどり着くのは全部、桜の花が満開の、あの日リンと出会った駅……。
・頭の芯がじーんと痺れる。気を失って、ホームに崩れた。

●第三章-------------------ありえない結末

【1:リンの想い:俊の責任感】

「もとの世界に帰りたい?」
・リンの声だ。気がついたらどこかの小屋の中。さめたスープを与えられ、人心地ついた俊に、リンがしんみりとした声で言う。
「これ、あんたに返したげる」
・俊に切符を渡してきた。俊がこの町に着いたとき、取りあげられてそのままになっていた切符だ。
「これを持ってれば、多分帰れると思う。あんたの持ってきた切符、往復切符だったから」
「往復切符?」
「この切符を持って電車に乗れば、もとの世界に帰れるはず」

・リンによる説明シーン(会話で)-------------------
裕子は各地の教会で施しを受けて賛美歌を歌ったり聖書の朗読をしたりする。そのかたわら、不幸な子供を見つけては、この町にくる切符を渡してその場を立ち去る。それはほとんど片道切符で、この町に着いた少女はもとの世界には帰れない。つまりこの町に一歩を踏み入れたとたん、もとの世界での消息が絶えたことになる。
なぜ俊だけは往復切符だったのか。それは、俊を必要とする人物がむこうの世界にいるからで、リンもそうだった。リンが、待っててくれる祖母のために帰ろうと思ったとき、往復切符は片道切符になってしまった。それによってリンは祖母の死を察知したのだが──。
それ以来リンは、ひまさえあれば駅を見張っている。往復切符を持ってこの町にやってきた子が、自分と同じように、帰りたいと思ったときに帰れなくなるという悲劇をなくすために。
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「あんた、姿が薄くなってきたんでしょ。やばいよ。もしかしたら待っててくれる誰かがあんたのことを忘れかけているのかもしれないよ。だから、帰りたいなら早く帰りな。手遅れに、ならないうちに」
「だけど」
「あんたはやっぱり、ここにきちゃいけない子だったんだ」
・とりつく島もなさげなリンに、俊はやるせない思いを抱く。切符を握りしめ、駅に走った。が、どうしても帰ることができなかった。
・立ち尽くしているうちに夜更けてしまい、屋敷にも帰れず行く当てもない俊はとぼとぼと歩き回る。
・路地裏で女の悲鳴が。
「やめて! 助けて! 誰、誰なの? なにも見えない!」
・通勤帰りらしい大人の女性が、目に見えない誰かに襲われている? 梓たちが姿を消して、女性のバッグを狙っているに違いない。
「やめろ」
「助けて、きみ、誰か大人の人を呼んできて!」
「やめろったらやめろーっ!」
・俊の叫びに梓らが犯行の手を止めたのか、女性はわけがわからないといった顔つきで逃げていった。

【2:裏切り、そして恋心:俊の決心】

・これは黙っていられない。裕子さんにやめさせてもらわなきゃと屋敷に帰ると、なぜかハンスが仁王立ちに。
「どうしたんだよハンス。僕を中に入れてくれよ」
・どんなに言ってもハンスは壁のように俊の前に立ちはだかる。その背後から、下品な笑い声が。電気屋だ。裕子の借金返済が遅れ、今日から電気屋が、この屋敷のオーナーとなった。つまりハンスの主人は電気屋ということになったという。主人に忠実なハンスは、俊を絶対に中に入れようとしない。信じられない。あんなにひどい目にあったのに、主人が変わったからといって、ころっと態度を変えるなんて。ハンスの立場はわかるけど、昨日の味方は今日の敵ってのは、いくらなんでも悲し過ぎる。
・ハンスは僕の味方じゃなかったの?
・俊の無言の抗議に、ハンスのいかつい顔がゆがむ。
・俊はリンを探して走る。さっきの小屋にはいなかった。もしかしてと駅に行ったら、リンは桜の木の上にいた。
「あんた、電車に乗らなかったの……」
・リンは泣いていた。
「今はまだ、帰らない」
「でも」
「電気屋をやっつけて、裕子さんを助けるんだ」
・俊の言葉に、うれしさを隠せないリン。
「手遅れになったって知らないからね」
「手遅れになったって後悔しなけりゃいいわけだろ。今この町を離れたほうが、僕はずっとずっと、後悔しそうだ」
「だけどあの電気屋はしたたか者よ。いったいどうやって、やっつけるの」
「いいからいから」

【3:思いもよらぬ事実発覚:俊の立場が一転する】

・リンに命じて、少女全員を集めさせた。
「こんなにいたのか……」
「こんなにいるんだよ。さあ、どうやって電気屋をやっつけるのか、もったいぶらずに早く教えな」
・梓にせっつかれ、俊は言う。
「鰐淵屋敷を幽霊屋敷にしてしまうのさ」
「幽霊屋敷ィ~?」
「みんな、せっかく姿が消せるんだから、幽霊になりすまして、電気屋が二度と屋敷に入れなくなるまで、とことん脅かしてやればいいんだ」
・なんでそんな簡単なことに今まで誰も気づかなかったんだろうと俊の意見は満場一致で採択される。作戦を練り、電気屋がいない隙に屋敷にしのびこむことに決まった。
・俊はまだ、任意で姿を消すことがうまくできない。リンから特訓を受けて、ようやくなんとかマスターする。
・屋敷に侵入した俊、リン、梓の三人は、ハンスを誘導して地下室に閉じこめた。気の毒だがハンスを敵にまわしたくはない。
・少女たちが全員戻ってきたものだから裕子さんは大喜び。ピアノを弾いて、全員で賛美歌を歌う。至福のひととき。
「ねえみんな、この屋敷で一緒に仲良く暮らしましょうよ。食べるくらいなら、どうにかなるわよ」
・その、食べるくらいがどうにもならなくなったからこそ、みんな外に出てしまったのだが……。と思って聞いていたら、裕子さんの衝撃的発言が。
「わたし、電気屋さんと結婚するわ」
「だめーっ」
「だって、この屋敷はもう電気屋さんのものになってしまったのよ。ご先祖さまの残してくれたこの屋敷を、わたしは離れるわけにはいかないの。電気屋さんと結婚すれば、いつまでもここにいることができるでしょう。お金の心配もなくなって、みんながひもじい思いをすることもなくなるわ。みんなのことを電気屋さんに話して、一緒に住めるように頼んでみる」
「そんなの無理に決まってるよ。それに裕子さんには、いつか王子様が現れるんでしょ。その人が現れるまで、誰のものにもなっちゃダメだよ」
「王子様?」
・俊にとって、その話は初耳だった。
「そうよ。裕子さんは各地をさすらいながら、広い世界のどこかに必ずいるはずの王子様を探しているの」
「で、最初に見つけた男性が、裕子さんの王子さまなんだよね!」
「そうそう。最初に見つけた男性が」
「最初に……男……」
「うそ……」
「まさか、ねえ」
・少女たちの顔が引きつってくる。裕子にはなんのことだか全くわかっていない様子だが。
「まさか俊が、裕子さんの王子さま!?」
「えええええーっ!」
・一番びっくりしたのは裕子だった。たしかに俊は男の子ではあるけれど、まさか女の子と間違えて誘った子供が、長年探し歩いた最初に見つけた男性、それがすなわち裕子の王子様だなんてっ!
「でもそれが、先祖の定めた、わたしの宿命なのだから……」
・裕子は、ものごとにこだわらなさすぎる。
「な、なに言ってんのさ裕子さん。まさか、だって僕ってまだ十歳だよ。結婚なんてできっこないじゃん。それに、それに僕は」
「十歳っていったって、俊くんはきっとすぐに大人になるわ。わたしは四百二十八年間生きてきたのよ。待つことには慣れている」
・うわあああ。裕子さんも化け物だったのか……。
「冗談じゃないっ! そんなのだめ!」
・リンがいきなり怒りだした。
「俊は、俊はね」
「俊は、なにさ」
・梓の冷たい視線にも負けないリンはついに叫んだ。
「俊は、あたしのものなんだからーっ」
・なんですって、勝手に独り占めしなさんなよと、ほかの少女たちが怒り狂う。そんなことで揉めている場合じゃないんですけどと思っても、俊は少女らをまとめきれない。
・そのとき車の音がした。電気屋が帰ってきたのだ。
「みんな、早く姿を消すんだ! 裕子さん、僕たちがここにいることは死んでも電気屋に言っちゃだめだよ」
「わかったわ俊くん」

【4:鰐淵屋敷の反乱:ハッピーエンド】

・そして電気屋は、まさか子供たちが姿を消して潜んでいるとは夢にも思わず、この屋敷が今まで人手に渡らなかったわけを裕子に自慢げに話して聞かせる。この屋敷には幽霊や妖怪が棲んでいて、所有者は間違いなく祟られるとの噂を流したので、買い手が全くつかなかったのだ。
・ポカンと音がして、電気屋が頭をかかえる。少女たちの攻撃がはじまったのだ。目に見えない敵の姿に、自分の流した噂は本当だったのかと怯える電気屋。やがてバチン! という音とともに、屋敷は停電、真っ暗闇に。
「おかしい。停電するはずがないんだ」
「まあ電気屋さん、それはいったいどういうことなの」
・珍しい裕子の怒声に電気屋がうろたえて白状する。
「停電なんて起きるはずがない! もともとこの屋敷は、漏電なんて起きたことはなかったんだ! 幽霊だ、妖怪だ、化け物の仕業に違いない!」、
・地下から這い上がってきたハンスにそれを聞かれ、理性を失ったハンスは大暴れ。暗さでハンスだとわからない電気屋は、気が狂わんばかりとなって、ほうほうの体で逃げだした。
・「俺、あいつだけは我慢できなかった」なんとハンスがしゃべった。一旦は電気屋を主人と仰ぎ、仕えようと思ったものの、相当心が痛んだハンスは、電気屋の悪事をあばこうと、地下室にある電気のブレーカーを切ったのだ。
・門番は、しゃべれないほうが都合がいい。そういう理由でハンスはしゃべれない振りをしていた。

・後日、おそるおそるやってきた電気屋に、裕子さんが報告する。
「電気屋さん、わたしの未来の旦那様を紹介するわね」
・俊みたいなガキを本気で生涯の伴侶であると言う裕子はきっと狂っているに違いない。電気屋にとって裕子は可愛さ余って憎さ百倍。
「借金だけは一生かけても返済してもらうからなっ!」
「もちろん。俊くんが、一生かけて支払います」
・冗談でしょう、裕子さん……。
・すべてが終わり、鰐淵屋敷にかりそめの平和が訪れた。はずなのだが。
・俊が王子様だと思いこんでいる裕子は俊を猫かわいがり。将来のご主人さまは俊であると、ハンスも俊の従僕に。
・おさまらないのが、そう、リンだ。
「もー、あったまきたっ! あんた、とっとと電車に乗って、もとの世界に帰りなさいよね」
「え、でも、帰ってしまったら、僕たち二度と会えなくなっちゃうよ」
「……会えるわよ」
「どういうことさ」
「往復切符だなんて、あんなのうそよ」
「へ?」
「もとの世界に比べれば、ここは楽園。みんな帰りたくなったらいつでももとの世界に戻れるけれど、帰る気なんてさらさらないから、ここにいるだけ」
「騙したのか! 僕を!」
「あんなふうに言えば、あんたは絶対帰らないって思ったのよ」
「ひどいや。てっきり本気にしてたのに、ひどいよリン」
・俊が本気で怒りかけたとき。
「恋の駆け引きに、うそは必須よ」
・リンの小さなささやきが。
「え?」
「とにかく裕子さんなんかに、俊は絶対渡さない!」

-------------------めでたしめでたし-------------------

目次

●第一章-------------------鰐淵家の人々
【1:リンとの出会い・見知らぬ屋敷:俊の不安】
【2:理解不能な人達:トラブルの予感】
【3:不自由な軟禁生活:謎は深まるばかり】
【4:リンと親交を深める:リンといるとほっとする】
●第二章-------------------俊の苦難
【1:少女たちの強さ:俊のコンプレックス】
【2:事件発生:裕子への不信】
【3:仲間からの援助:芽生える独立心】
【4:挫折:逃避】
●第三章-------------------ありえない結末
【1:リンの想い:俊の責任感】
【2:裏切り、そして恋心:俊の決心】
【3:思いもよらぬ事実発覚:俊の立場が一転する】
【4:鰐淵屋敷の反乱:ハッピーエンド】

・章立て
-------------------
起)鰐淵家の人々
承)俊の苦難
転結)ありえない結末
-------------------

・エピソードの流れ
-------------------
起)リンとの出会い・見知らぬ屋敷
  理解不能な人達
  不自由な軟禁生活
  リンと親交を深める
承)少女たちの強さ
  事件発生
  仲間からの援助
  挫折
転)リンの想い
  裏切り、そして恋心
  思いもよらぬ事実発覚
結)鰐淵屋敷の反乱
-------------------

・コンセプトの流れ
-------------------
起)俊の不安
  トラブルの予感
  謎は深まるばかり
  リンといるとほっとする
承)俊のコンプレックス
  裕子への不信
  芽生える独立心
  逃避
転)俊の責任感
  俊の決心
  俊の立場が一転する
結)ハッピーエンド
-------------------

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