『きみとぼくが壊した世界』西尾維新 メタなフィクションの向こうに見える、リアル(?)な黒猫さんと様刻くん

 『きみとぼくが壊した世界』は『きみとぼくの壊れた世界』で登場した黒猫さんと様刻くんの物語だ。
 本書はそのメタな構造に特徴があるが“上から目線”で言えば、それは表層的な見方に過ぎない。
 むしろ、本作品の真のポイントは第三者(笛吹)が描き出した黒猫さんと様刻くんというキャラクターにあると言える。

 というのも、本書を読んでいて私はずっと違和感がぬぐえなかったからだ。

 黒猫さんも、様刻くんも――おかしくない。

 『きみとぼくの壊れた世界』でのふたりは、もっと異常だった。性格や能力ではなく、人のありようとして、かなり外れていた。外れ具合でいえば、戯言シリーズのいーちゃんたちもそうだが、彼らはもとより“あっち側”の住人である。世界そのものが、異常であるところの住人なのだ。

 黒猫さんと様刻くんは、あれだけ異常なのに普通の世界に存在している。ふたりが世界に疎外感を抱くのも当然である。彼らは本来、あんなノーマルな世界に住むべきではないのだ。

 ところが、『きみとぼくが壊した世界』ではふたりの異常性はすっかり影を潜める。黒猫さんも、様刻くんも、ちょっと特殊ではあるが、世界に溶け込んでいる。にじみでるような狂気がない。これはなんとしたことか。私は首をひねりながら本書を読み続けた。

 そして最後に出た謎解きで、ふたりの異常性がない理由が明らかになるのだが――が。
 これは逆ではないか、と思う。

 もしかしたら、『きみとぼくが壊した世界』で描かれた、(作品)世界に相応しい黒猫さんと様刻くんこそが、ふたりの実像に近くて。
 『きみとぼくの壊れた世界』で描かれた黒猫さんと様刻くんは、あれこそ、保健室でふたりが書いた小説か何かではないかと、そんな風にも考えたのである。

>>>妄想開始

「病院坂、いくらなんでも、この夜月の扱いはひどいぞ。僕が妹ラヴな兄であることは認めるが、こんな妹ならいらねえ」
「今はキモウトと呼ばれるくらいの病んだキャラが人気だそうだよ。それより何かね、この琴原りりす嬢のきみへのベタ惚れ具合は。きみはどこかのエロゲの主人公と自分を混同していないか? このままだと僕まできみに惚れていることにされてしまいそうだ」
「そうでもしなきゃ、このトリックが成立しないだろうが。それにしても、これだけ嘘だらけの話で、本当にあったのがきみが屋上から転落しそうになった部分だけというのが笑えるよな」
「最初の設定では殺人現場は屋上だったからね。騒動になったおかげで屋上が完全に閉鎖されてしまい、あの画期的な屋上脱出トリックがボツになったのは残念だよ」
「……いや、バンジージャンプ式脱出トリックはボツになって正解だと思うぞ」

>>>妄想終了

 こういう、ほのぼのな病院坂黒猫と櫃内様刻による『きみとぼく』もなかなかに面白いと思うのだが、さて。

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