『特設艦船入門 海軍を支えた戦時改装船徹底研究』大内建二 戦争ドラマに最適な特設水上機母艦
タイトルにある“特設艦船”というのは、商船を改造した戦争に必要とする艦船である。
砲艦や機雷敷設などの後方支援から、改造して通商破壊、果ては空母として大活躍などその種類は多岐にわたる。
本書の第二章に記載されている太平洋戦争時の日本の特設艦船を並べるだけでも以下になる。
●特設巡洋艦
大きな商船にそこそこ強力な武装を施し、航路の警備や通商破壊に使用したもの。
●特設航空母艦
大型で高速の商船を大改造して空母にしたもの。「飛鷹(ひよう)」「隼鷹(じゅんよう)」の二隻は正規空母として使われたが、小型のものは油圧カタパルトがなく航空機運搬艦として使われた。
●特設水上機母艦
商船を改造して水上機を搭載したもの。日本の水上機の高性能とも相まって戦争の序盤において大活躍する。
●特設潜水母艦
商船の中に潜水艦用の燃料や弾薬を積み込み、洋上の補給拠点としたもの。
●特設砲艦
商船を改造して武装を施したもの。特設巡洋艦の小型版。航路の警備に使用された。
●特設航空機運搬艦
商船を改造して航空機やその整備用機材、ガソリンなどを搭載したもの。
●特設敷設艦
商船を改造して機雷を積み込み、航路や港を防衛するための機雷敷設を行うもの。
●特設工作艦
商船を改造して工作機械や資材を積み込み、損傷した艦船の修理などを行うもの。
●特設病院船
いわゆる病院船。商船を改造して医者や医療器具を積み込んだもの。治療ではなく、患者の内地への搬送用の船も含む。
●特設給油艦(船)
商船を改造して重油やガソリンなどを搭載したもの。元は捕鯨母船(鯨油搭載のためのタンクがある)という変わり種も。
●特設運送船(雑役)
雑役とあるように、荷物運びに使うための商船はとりあえずこちらに。武装は陸軍の徴用船は陸軍の砲と兵員を、海軍の徴用船は海軍の砲と兵員をそれぞれ搭載した。
●特設特務艇
特設監視艇や特設駆潜艇など。小型の漁船(捕鯨船)を改造して、日本のはるか東にずらりと配置。敵の襲来を警戒させた。漁船の漁師さんがそのまんま軍属として乗り込み、B-29の襲来などを本土に知らせてくれた。邪魔なので潜水艦やB-24などに襲撃される。その多くが「敵と交戦中」の無線連絡を最後に、日本に戻ることはなかった。407隻の内、307隻が沈められ、軍属扱いの漁師さん1万人が亡くなられたと推測される。
特設監視艇のドラマは宮崎駿さんの『雑想ノート』収録の『最貧前線』というイラスト・ストーリーで扱われている。
さて、これらの特設艦船の中で戦争ドラマ向けというと私は特設水上母艦をあげたい。
特設水上機母艦というのは、普通の空母とはちょっと違う。
搭載する水上機というのは、水上を滑走して離着陸する機能を持ち、第二次世界大戦では戦艦や巡洋艦でも、カタパルトから射出して偵察などに用いた。着陸は海の上で、クレーンで回収するのである。
ではその水上機の性能はというと、日本以外の国では偵察能力さえあればいいやみたいな感じでさほど目立った活躍はしないのだが、我が日本は凝り性で貧乏性な民族である。たとえ水上機といえども、なんか使えないかと運動性能を上げていった結果、水上機でありながら当時の戦闘機並の空戦性能を発揮したり、軽爆撃機として地上や艦船への攻撃ができるようになったのだ。
こうして日本の水上機は水上機母艦と共に戦争初期の侵攻作戦において大活躍することになる。
侵攻作戦は、空からの攻撃に弱い。敵は飛行場を持ち、こちらは持たないからだ。そこで、水上機母艦が進出して手近な島や環礁に陣取り、そこから水上機で味方の部隊や艦船を空から支援するのである。敵機がいなければ偵察や陣地攻撃も可能だ。
水上機母艦の搭載機数は10~12機。侵攻作戦では搭載機は海岸に下ろして、水上機母艦は機材や燃料、弾薬の補給、そして搭載する高角砲や機銃で防空や周辺のパトロールなどを行ったのだ。
これを読んで私が脳裏に浮かべたのが、機動戦士ガンダムのホワイトベースである。ホワイトベースには強襲揚陸艦と名前はついているものの、搭載しているのはガンダム、ガンキャノン、ガンタンクの3機のみ。その後もモビルスーツは増えずにGファイター(コアブースター)を搭載しているが、どうにも数は少ない。
とはいえ、ここで数だけ増えても主人公とガンダムの役割が薄くなってしまうわけで、あの3機というのはドラマ的に良い設定であったと思う。
そして搭載機数からいっても、戦場の役割からいっても、ホワイトベースは空母や強襲揚陸艦ではなく、水上機母艦の一種と言えなくはなかろうかと考えるのである。それも、商船改造ではなくて戦艦改造型であれば、重武装の説明もつく。
水上機母艦活躍の時期は短かった。
水上機は離着水のためのフロート部分を手放せず、速度や運動性能においてどうしても陸上機よりも不利である。戦争がはじまって急速に進化する連合国の戦闘機を相手に水上機では太刀打ちできなくなったのだ。
また性能の格差がなかったとしても、すでに数が違っていた。水上機母艦に搭載できる数では、防空すらままならなくなり、生き残った特設水上機母艦はもとの商船に戻されて特設運送艦となり、そしてそれも沈められていったのである。
戦争の終盤において敵地への侵攻作戦を行ったのは今度はアメリカ軍の方であるが、では彼らはどのように上陸部隊の航空支援を行ったかというと。
水上機母艦のようなものに頼らなくとも、彼らは山のように護衛空母を持ち込み、これで空からの支援を行ったのである。
レイテ作戦では、マッカーサーの上陸部隊を支援するために、護衛空母16隻と戦艦6隻が陣取り、空の守りと対地攻撃において猛威をふるった。(これとは別にハルゼー提督の主力部隊がいる)
護衛空母1隻あたりの搭載機数は30~36機。500機をこえる航空機で上陸支援である。
「戦いは数だよ兄貴」
水上機母艦を無用な存在としたのは、まさしくこの言葉であった。


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