「佐藤さん」GA文庫テーマ大賞用プロット 序盤。

 登場人物
 三ツ木 誠人(みつきまさと) これといって取り柄のなさそうな男。175cm
 佐藤 こまき(さとうこまき) 謎の少女。155cmくらい
 八木田 明輔(やぎためいすけ)その名前とふてぶてしい面から、人はヤギと呼ぶ。呼ばれると嫌がる。170cm

「ち、遅刻するっ」
 慌てて大学へと向かう誠人。
 入学式当日だってのに、寝坊をしてしまったのだ。
 しかも慣れないネクタイにスーツという格好になるのに、余計に時間を食ってしまう。
 朝食も食べる時間がなかった。
 誠人が駅に着き、改札を越えてホームへ向かうぞ、と角を曲がった瞬間。
 何かにぶつかった。
 あまり衝撃は大きくないが、走って体力も消耗しいたせいもあってか、ぶつかった『それ』と一緒に倒れてしまう誠人。
 視点がぐるぐると回り、気がつくと天井から吊るされたホームへの指示板が見える。
 そして誠人の体の上には少女が居た。
 ちょうど誠人の上に倒れこむ形だ。
「うわっ。すまん!」
 慌てて誠人が立ち上がり、女の子を立ち上がらせる。
「君、大丈夫か」
 誠人が見たところ、背の低い女の子は高校生、いやひょっとすると中学生かもしれない。
 とりあえず大学生にしてはちんまりし過ぎているということは間違いない。
 誠人に劣らず頭が起きてないのか、表情に乏しい顔で誠人を見上げる。
 とりあえずケガがなければいいんだが、と誠人は少女の様子を伺う。
「……」
「……」
 奇妙な沈黙の末。
 ぐるぐる。
 と誠人の腹が鳴った。いや何もこんな時に鳴らなくったっていいんだが、鳴ってしまった。
「あ、いや。朝飯食ってなくって」
 と初めてあった少女に場違いなコメントをする誠人だったが。
 それを見た少女はごそごそと鞄から何かを取り出す。
「はい」
 砂糖だった。ビニール袋にパッケージされた、1kgのアレだ。
「これを、どうしろと」
 呆然としている誠人をよそに、鞄からハサミを取り出してちょきちょきと上の部分を丁寧に開ける少女。
「……」
 砂糖と誠人の間に、視線を交互にやると。
 次の瞬間、砂糖を誠人の頭からぶちまけていた。
「のわっ。な、何をするんだ!?」
「……?」
 首をかしげる少女。
「エネルギーを」
 いや確かに糖分は必要だが。
 使い方が間違っているぞ。
 相変わらず無表情な少女は、自分の仕事に満足したかのように何度か頷いた。どことなく得意げな風すら見える。
「それじゃ」
 と一言置いて、少女はホームへの階段を下っていった。
 電車の発車ベルが鳴り響く中。誠人は呆然と少女を見送った。
 砂糖にまみれながら。

 インターミッション。
「とまあ、そんな目にあったんだ」
「ははあ、だから入学式のとき居なかったのか」
 誠人は講義で知り合った、八木田に謎の少女との出会いを説明した。
「そらさぞかし、あまーい出会いだな」
「冗談じゃない! あんなのもう二度とごめんだ」
 八木田は誠人を茶化すように言った。
「本当か? 実は結構、可愛かったりしたんじゃないのか」
「くどいぞ!」
「砂糖だけにな」
「うまくねえよっ」
「旨み成分はグリコーゲンじゃなくてグルタミン酸だからな」
 いや確かに可愛かったのは可愛かったんだが。というのは誠人は口に出さなかった。
 それを口にしたらまたあの少女に出会いそうで。
「でもまあもう一度くらい会うだろうな」
「うるせーよ……」
 八木田の無責任な発言がずっしりと肩に掛かった。

 そんな大学初日から数日。
 またも誠人は少女に出会う羽目になる。
 それは大学の帰り道のことだった。
 ばちんばちんばちん。
 少女は何故かペンチを片手に、空き地への有刺鉄線に穴を開けている最中だった。
 出来れば……出来ればこのまま無視して通り過ぎたい!
 けど、けども。
 やっぱり止めないとダメだろう。社会的にも、こいつにも。
 葛藤に勝った誠人は、少女に声を掛けた。
「おい」
「……」
 少女は誠人をしばらく見つめると、鞄をごそごそと探り、誠人の分のペンチを取り出した。
「俺の分はいい」
「……そう」
 またも穴あけに戻ろうとする少女。
「じゃなくって! 何をしている!! 何を!?」
「あっちの」
 少女は指をさしながら言った。
「スーパーに行くための道を作っている」
「作るな。出来てる道を歩け」
「……理論的には問題ない」
「人道的に間違ってんだよ!」
 しばらく少女は考えこむと。
 近くにあったマンホールをずらして、そこへ降りようと足をかけた。
「だから何をしているっ?」
「大丈夫、地下水路は頭に入っている」
「いやだから普通に道路歩いてくれよっ。そのほうが早いだろ!?」
 少女は腕時計をちらりと見て言った。
「もうすぐ特売が始まる」
 淡々と続ける少女。
「それまでに既成道路を通過してたどり着くことはできない」
「ひょっとして、道がわかんないのか?」
 こっくりと頷く少女。
「既に一週間が経過した」
「どんだけ迷ってんだよっ!?」
 無表情のまま、ちょっと俯く。
「もうすぐ特売が始まる……」
「……」
「とくばい……」
「あああもうっ、仕方ねえな」
 ぐいっと少女の手を引っ張るとそのまま、件のスーパーの前まで連れて行く誠人。
 肩で息をつきながらも一気にしゃべる誠人。
「まず道に迷ったら警察を探せ! もしくは人に聞け! 勝手に道を作るな! 危ない下水とか通るな! もしも駄目だったら……」
 ごそごそと自分の持ち物を探る誠人。肝心なものはこういう時に見つからない。
「紙とかペンとかねえか?」
 聞いて少女はすっと鞄からメモ帳とボールペンを取り出す。
 そこに誠人が自分の携帯の番号と名前を走り書きした。
「最悪駄目だったらここに連絡しろ。以上だっ!」
 言い切ってから、大きく息をつく誠人。
「……」
 何故か、穴が開くほどメモ帳を見つめる少女。
「どうした?」
 少女が顔を上げて誠人を見つめる。
「卵1パック95円の栄光をあなたにも……」
「いらんいらんそんな栄光」
 手を振って答える誠人。
「とっとと行けよ。俺は帰るからな」
 そう言って誠人は少女から背を向けて歩き出した。

 インターミッション。
 連絡先を渡してしまったことを後悔する誠人。楽しそうに眺める八木田。
「とんでもねーことしちまった……」
「ほら見ろ、やっぱり出会ったろ」
「本当に連絡とか来たらどうすればいいんだ」
「内心、期待してるんじゃないのかー。えー?」
 ぐったりと机に伏しながら誠人は言った。
「いやだよあんな奴」
「でもまあ、二度あることは三度あるって言うからな」
「不吉なこと言うなよ……」

 それからしばらく経って。
 八木田が誠人に尋ねた。
「なあ三ツ木、聞いたか?」
「その言葉から始まる時って、大抵なんか厄介な事だよな」
「まあ良いから聞けよ。大学中で持ちきりの話題なんだぜ」
「へえ……じゃあ聞いてみるか」
「すごい新入生がいるって噂だ」
「すごいって、どんな風にだよ?」
「この大学始まって以来の天才らしいぜ、しかも美少女」
「ほう」
「ところがこの美少女、まだ誰もその姿を見たことがないらしい」
「……は?」
 誠人が疑問を口にする。
「そんなすごい子なら入学式の時に前に出てくるんじゃ?」
 俺は見てないけど、と続ける誠人。
「どうやら、辞退したらしい。恥ずかしがりやなんだろなー」
「授業は?」
「まだ出たことがないとか」
「進級できんのか、その子……?」
「でも名前だけはわかってるんだ、佐藤さんって言うらしいぜ」
「ふうん、どこにでも居そうな名前だな」
 八木田は誠人の話を聞いてないかのように続ける。
「いいよなー、謎の美少女だぜ?」
 ちらっと誠人の頭にあの砂糖の少女のことが浮かぶ。
「俺は普通の子がいいなあ……」
「ちぇ、お前はいいよなー。女の子からの連絡待ってるんだろ」
「待ってねーっての」
 そんな話を聞いてから数日。

 誠人が食堂でラーメンをすすっていると、八木田がどたどたと騒がしくやってきた。
「聞いたかっ?」
「うるせーな、なんだよ」
「佐藤さんが来たらしい!」
「そーか、俺は飯を食ってるよ」
「この薄情者っ! お前には野次馬根性がないのかっ。お父さん情けないぞっ」
「誰がお父さんだっ! とっとと佐藤でも鈴木でも見に行ってこい」
「うわーん! 写メ撮っても見せてやんないからなーっ!」
 携帯を握り締めて走り出す八木田を背に、ずるずるとラーメンを食う誠人。
 ラーメンについて滔々と考え出す誠人。
 俺はラーメンは具と麺をバランスよく処理しつつ、麺をすすり終えた後に、一口スープを飲んでからメンマか野菜を一口。
 水を飲んでから味をリセットさせて、最後にチャーシューを食べてスープを飲み干して締めることにしている。
 これが俺のラーメンに対するセオリーだ。
 しかしながら、ここのチャーシューはどうしてこうも薄っぺらいんだろうか。
 薄いことでまさか自己主張をしているつもりなのか?
 誠人は隣に少女が立っているのにも気がつかない。
 チャーシューを端で摘み上げて、透けるかなと掲げてみる。透けるわきゃないんだが。
「だとしても、薄すぎる……」
「もっと多いほうがいい?」
「ああ、薄くて何枚もというのはいいんだが、俺としては厚みが……」
「わかった」
 とてとてと少女が食堂から出て行き。
 やがて戻ってくる。
 じっくりと検分を終えた誠人がチャーシューを口に入れようとしたとき。
 横からそのチャーシューを掻っ攫う者があった。
「あああっ! 俺のチャーシュー!」
 そちらを見ると。
 ぷぎゅー。
 豚だ。
 子豚が少女に抱えられて、チャーシューを食っている。
「チャーシューならここに」
 と言って子豚を誠人に差し出してくる少女。
「違う! それはチャーシューの原料だ!」
「わかった……今から調理する」
「待て待て待て! そいつをここで捌くのかっ?」
 ぷぎゅう。
 子豚。こうしてみると意外にかわいい。
「問題ない」
 ごそごそと鞄を探ると中華包丁を取り出す少女。
「材料と道具はある」
 何でも入ってるなその鞄っていうか銃刀法違反だろ。
「チャーシューはもういい。頼むからやめてくれ」
「わかった」
 頷いて鞄に道具を仕舞いこむ。
 子豚もついでに鞄に仕舞いこむ。子豚の首から上だけが鞄から生えている光景はなかなかシュールだ。
 そこまでのやり取りをして、ようやく気づく誠人。
「って、何でお前ここにいるんだ?」
 そしてさらに気づく誠人。
 自分達が大勢のギャラリーに囲まれていることを。
 その中に、八木田の姿を見つける誠人。
「おいっ。ヤギ! これどういうことだよ?」
 聞く誠人に、八木田が静かに問い返す。
「なあ、三ツ木……その子のこと、知ってるのか?」
「ああ、これが前に言ってた砂糖の女だよ」
「ああそうだ、それが噂の佐藤さんだ」
 ……はて。
「え、だって」
 慌てて八木田に聞き返す誠人。
「こいつは何考えてるのかわからん」「俺達には到底及びもつかない頭脳を持った天才の」
「そりゃかわいいかも知れんが、無表情の」「憂いのまなざしの美少女」
「「謎の」」
「砂糖の女だぞ」「佐藤さんだっ」
「どうしてそうなるっ?」「この野郎ーっ! 生かしてはおけん!」
 俺か? 俺が悪いのか?
 助けを求めるように佐藤さんらしい少女を見ると。
 手にはメモ帳を持っていた。
「あ、それ」
 誠人がついうっかり自分の連絡先を書いてしまった奴だ。
 こくりと頷く少女。
 ぱたんとメモ帳を閉じると、表紙を誠人に見せた。
「げっ」
 誠人が呻いた。表紙にはマジックでこう書かれていた。
『おともだちノート』
「あなたが、最初のお友達……」
 ぽっと俯いて顔を赤らめる佐藤さん。
 ざわざわとギャラリーの声が聞こえてくる。
 ――なんでも運命的な出会いをしたとか。
 ――大学には何か理由があって来られなかったのを、その人が助けてくれたらしいよ。
 ――え、あんな冴えなさそうな奴が佐藤さんを? ホントに?
 ――大学にはその人を探しに来たらしいぜ。
 ――実はもう将来を誓い合った仲だとか。
 まずい、この状況はなんだかまずい。
「逃げよう」
 ぽつりと誠人はつぶやくと佐藤さんの手を取った。
 びしっと八木田のほうを指差すと。
「詳しいことはそこのヤギ顔の奴に聞いてくれっ。そいつが全部知ってる!」
 とたんにギャラリーからもみくちゃにされる八木田。
「ヤギって言うな! 三ツ木! 恨むぞーっ!!」
 そんな恨みの声を聞きながら、食堂を飛び出す二人。
 やがて人目につかなくなったところまで来る。肩で息を付く誠人。
「……なんか。走って、ばっかり。……だな」
 こくりと頷く佐藤さん。
「あの」
「ん、どうした」
「……手」
 佐藤さんがそう言って下を向く、誠人もつられて見ると。
 相変わらず手を握りっぱなしだった。
「わっ。す、すまん」
 佐藤さんがごそごそと鞄から再び何かを取り出す。
「この間のお礼に……」
 砂糖。
「いやそれはいいから」
 子豚。
 ぷぎゅぅー。
「……それもいらん。お礼はいいから、ちゃんと大学は来い」
 頷く佐藤さんが、少し微笑んだ気がした。
 ちょっとドキっとなる誠人。

 出会い編終了。

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