『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その20:ガンダムのパイロットになるには
機動戦士ガンダム00に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの20回目。
春に第一期が終了した『機動戦士ガンダム00』は、この秋から第二期の放映開始である。
期待もこみで、今回は、ガンダムのパイロットについてちょっと考えてみよう。
いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいきたい。
モビルスーツの操縦といえば、印象的であったのが『機動戦士ガンダム』の第一話、『ガンダム大地に立つ』において、アムロがVと書かれた操縦マニュアル片手にガンダムを動かしでザクを倒す場面である。
その当時においてすら、「いやいやソレはないだろう」的な見方もされたあの場面であるが、ドラマ的には今なお、「何も知らない主人公が、いきなりロボットの操縦をする」という展開は各作品に踏襲されている。
そもそも、(操縦するタイプの)巨大ロボットというものは、その黎明期にあたる『マジンガーZ』(永井豪)の兜甲児くんや、『ゲッターロボ』(永井豪、石川賢)の流竜馬や神隼人などからして、最初は巻き込まれて無理矢理に操縦させられるのである。それが定番の展開であり、盛り上がるなら文句はなかろう、なのだ。
しかしまあ、どの作品でも一応は、理由付けがなされている。
マジンガーZは甲児が馴れていたバイクの運転と共通性を持たせてあるし、ゲッター・チームはなんといってもプロの殺し屋に狙われても返り討ちするような猛者(石川賢の漫画版)である。『ジャンボーグA』の立花ナオキなんかにいたっては、元がセスナ機のパイロットで、巨大ロボのジャンボーグAもそのノリで動かせる仕組みになっている。
この中で便利で納得力も高く、汎用性があるのが「選ばれし勇者」パターンである。
もともと、神話伝承の時代から、勇者は特別な存在であり、それを示す特別な徴=スティグマを持っている。
はらぺこ英霊アーサー王の剣はつとに有名であるが、勇者であればこそ使える宝具があり、宝具というスティグマあるからこそ勇者なのだ。この、卵が先か鶏が先か展開はあらゆる物語の骨格である。
巨大ロボット物でいえば、巨大ロボットを扱えるからこその主人公であり、主人公だからこそ、訓練も何もなしで巨大ロボットを扱えるのである。
『エヴァンゲリオン』のシンジ君も、そうやって無理矢理「選ばれし勇者」扱いになってしまったわけだ。
「動くのか? アレがっ!」
「まさか、あの機体をああも扱えるパイロットがいようとはな……」
などという厨二病な展開は漫画だのアニメだので大量に使われているが、当然である。神話や伝承をみれば分かるように、我々はみんな厨二病展開が大好きなのだ。ヒトの集合無意識は常に厨二病を求めているのである。
しかしガンダムは、ヒトの深層心理に背を向けてしまった。
「選ばれし勇者」パターンを捨て、訓練しだいではアムロでなくても、セイラさんでもジョブ・ジョンでもガンダムを扱えるようにしたのである。
その後アムロがニュータイプに覚醒=スティグマを身につけることによって、アムロは「選ばれし勇者」となるが、ガンダムは最後までアーサー王で言うところのエクスカリバーではなく、その乗馬でしかなかった。そして最後は勇者アムロに捨てられてしまうのである。
その流れは、ガンダム00においても形を変えて続いている。
作中でガンダムは、確かに「選ばれし勇者」=ガンダムマイスターによって運用されたスティグマ扱いだが、モビルスーツそのものとしてのガンダムは、少し優秀なくらいでそう特別ではない。特別なのはGNドライブの方だ。
これは、モビルスーツが軍隊で運用される、集団での運用を前提にした兵器であることによるものだ。ガンダムはモビルスーツを戦闘機と同様に量産できる巨大ロボット兵器にしたため、一般兵でも訓練すればガンダムに乗ることができる。
では、一般兵が。つまり、私やあなたがガンダムに乗るにはどうすればいいだろうか。
第二次世界大戦におけるアメリカ陸軍航空隊のパイロット育成カリキュラムの例を紹介するとこんな感じだ。

30週間/7ヵ月というかなりの短期間の訓練で新兵を一人前のパイロットに育て上げて前線に放り込むわけだが、注目すべきはやはり、飛行訓練時間だろう。
とにかくパイロットというのは飛行時間が長いほどに腕が上がるものだ。アメリカ軍のカリキュラムにおける飛行訓練が210時間というのは、たとえ全体としての訓練期間は短縮しても、飛行訓練の時間は短縮しなかったためだ。その分、ハードにはなったろうが。
現在は大戦当時よりも優れたシミュレーターがあるが、それでもやはり飛行機は実際に空を飛ばしてなんぼである。
ガンダム00でのソレスタルビーイングは、秘密組織なのでシミュレーターを多用したろうが、刹那たちも実戦でガンダムの操縦時間を重ねたことで腕が上がった部分もあったと思われる。現代の戦闘機パイロットでも、年間に100時間は飛ばないと腕は維持できないし、150時間飛べばまずまず。200時間以上飛んでいれば腕は高いはずである。
ガンダムに限らず、リアルロボット物で一般兵を出すのであれば、このロボット操縦(飛行)時間は兵の練度を示すよい指標である。
総操縦(飛行)時間
200~300時間:新兵
1000時間~:古参、ベテラン
10000時間以上:ルーデル禁止
100時間未満:学徒動員兵
実際の数字は作品世界によって違うだろうが、雰囲気としてはこんな感じである。
おそらく一年戦争末期にゲルググとかドムとかに乗っていたのは、総操縦(飛行)時間100時間未満で、日本だと特攻機に放り込まれていたような若者だったのではないか。それを「戦果だけが問題なのでな……もろすぎるようだ」と切って捨てたキシリアの見解は正しくはあろうが、味方に後ろ、もとい、前から撃たれてもしょうがあるまい。
こうした、飛行時間と操縦技能が比例するロボットと、巻き込まれ型の主人公はあまり相性がよろしくない。巻き込まれた主人公に罪はないのだが、活躍しづらかろうとは思う。ガンダム以降でいえば、『機甲戦記ドラグナー』がそうだった。アムロのようにニュータイプとして覚醒しなかったので、なおのことである。
逆に巻き込まれ型主人公で飛行時間とは無関係で強くなれる「選ばれし勇者」タイプの王道は、ガンダム以降でいくと『聖戦士ダンバイン』である。現代人が異世界転移した上、地上人であれば誰でも強いオーラ力を持っているなど、これぞまさに厨二病の夢であろう。私もあなたもバイストンウェルなら聖戦士だ。バイストンウェル世界に嫌われていて世界のバランスが崩れてひどいことになりそうだが、死ぬか自滅するまでは、大いに活躍できるはずだ。
……なに? 巻き込まれ型主人公でありながら飛行時間どころか、パイロットの生死も関係なくむやみに強い『冥王計画ゼオライマー』(ちみもりを)がいい?
あれは記憶の混乱とか人格憑依とかあるので、オススメはしかねるなぁ。
それくらいなら、『伝説巨神イデオン』に――いやいや。これもラストはイデが発動して因果地平っぽい感じだ。
してみると、やはり。
分不相応に大きな力を手にするのは、その個人の幸せという面からも、よくないと言えるかもしれない。
『選ばれし勇者』が、幸せな結末を迎えるためには、選ばれるだけでなく、自らが勇者たるを選ぶ展開と覚悟が必要なのだろう。
そして、最後にはその力を捨てて日常へと帰還する。
巨大ロボットがなくとも、戦闘力がなくとも、人として強い。
そうなって、はじめて本当の幸せが手に入るのだ。
ならば長谷川裕一先生の『轟世剣ダイ・ソード』こそが、巻き込まれ型主人公を目指す時の指標と言えるだろう。
これまた楽な道ではないが、なに、戦争の根絶に比べれば、簡単なものである。
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