「佐藤さん」GA文庫テーマ大賞用プロット 中盤その2

 登場人物
 三ツ木 誠人(みつきまさと) これといって取り柄のなさそうな男。175cm
 佐藤 こまき(さとうこまき) 謎の少女。155cmくらい
 八木田 明輔(やぎためいすけ)その名前とふてぶてしい面から、人はヤギと呼ぶ。呼ばれると嫌がる。170cm

 佐藤さん 中盤締め話
 嵐がだんだんとひどくなるここ数日、何気ない誠人の一言で佐藤さんが嵐を止めに行く。
 それだけだと弱いので、誠人にも嵐を止めたい理由が欲しいところ。
 (たとえば「もうすぐ佐藤さんと遊園地に行くんだよな」とか。でその場所をラストのネタにからめて展開)
 基本のパタン「誠人のために佐藤さんが動く」という形からやや外れるような話になるので、佐藤さんと誠人のやり取りでそこらへんをうまく補強しなければ。
 
 
   ************
 
 
 窓を打つ雨音が、最近狭く感じる様になった部屋の中に充満している。
 窓には桜の花びらが大量に張り付いている。風が窓といわずアパート全体を揺らす。屋根ごと飛ぶんじゃないかこのボロアパート。
「台風じゃあるまいし……」
 と誠人が洩らした。
 猛烈な雨が、日本列島を襲っていた。
 気象庁の発表では、太平洋に歴史的な巨大低気圧が支配しているのだ。
 依然として収まる気配がなく、しばらくは列島に大雨が続くだろう。
 ……というのが、誠人が大学でラーメンを食べていた時に仕入れた情報だ。
 それから三日が過ぎていた。大雨のために、大学が休講。
「一体いつまで振るんだろうな……」
 うんざりと誠人が外を眺めている、その部屋の片隅で佐藤さんも同じく窓の外を見ていた。
「……っておい」
 くるりと誠人が佐藤さんのほうを向く。
「何でお前が居ついているんだ!」
 きょろきょろ。
 佐藤さんが自分のほうを見回す。
 はてな、というように首を傾げると誠人に尋ねる。
「誰も居ない」
「お前だお前!」
 佐藤さんは、例の鞄からエプロンを取り出し。
「ご飯の準備。しないと」
「いや、だからな……」
「何がいい?」
「飯はいいから」
「だって」
 佐藤さんが時計を指差すと、もう昼を過ぎていた。
「あれ、もうこんな時間か? 大学行ってないと時間感覚、無いな」
 ましてや誠人の家にはテレビも無いのである。
「何にする?」
「ん……そうだな」
 佐藤には悪いけど、魚もさすがに毎日続くとちょっとなあ……はて。
 誠人が首を傾げた。何かおかしいな。
 何かの話の途中だったはずだ、そうそう。
 佐藤が飯を作りに来てて……おい。何で佐藤が飯を作りに来ているんだ?

  ※ここで後半に繋がるようなやりとりを置く。
   中盤の流れ メカジキ → 佐藤さんが誠人を起こしに来るネタ(ここで後半に佐藤さんと誠人とどこかへ一緒に行くようにする) → この嵐のネタ 解決したら → 後半へ 二人ははれて出かける事ができる
   あるいは何か大学のイベントでも良い。

「わかった」
 佐藤さんが答えた。
「止めてくる」
「いや、ちょっと。止めてくるって、この低気圧をか?」
 こくりと頷く佐藤さんに、誠人が呆れた。
「……佐藤。世の中にはどうしようもない事ってのがあるんだよ。
 東から昇ってくる太陽を逆にはできないだろ?」
 誠人の言葉を聞いたのか聞いていないのか、すっくと立ち上がると。
「準備、してくる」
「え、おい。この天気の中、帰るのか?」
「ご飯の材料、置いておくから」
 鞄から、すよすよ眠る子豚。チャーシューをそっと置いて、部屋を出る佐藤さん。
「……食わねーよ」
 一人残された誠人の反論が雨音に消された。

 翌日。
 ゆさゆさと揺り起こされて、誠人がまどろみながら答える。
「ん、何だ……?」
 おかしい、誠人は気づいた。
 何で俺とチャーシューしかいない部屋で、俺が誰かに起こされるんだ?
 ぐわばっと上体を起こすと。
 誠人の目の前には、異形の顔があった。
 飛び出さんばかりに大きく剥かれた目、横いっぱいに広がる巨大な口、薄気味悪い肌の色。
 蛙人間。
 そうとしか形容しがたい、何者かが誠人の顔を覗き込んでいた。
 誠人が絶句して、ぱくぱくと口を動かす。
 それに合わせるかのように、蛙人間の頬がチューインガムのように、ぷくぅと膨れた。
 激しく叩きつける雨音にも負けぬ、絶叫がこだました。

「お前は俺を永眠させる気か……?」
 涙目の誠人が少女を睨み、それにしても、と隣に置かれた蛙人間のマスクを見て、唸った。
「それにしても、これ。よくできてるな」
 CG顔負けのマスクだ。
「げこげこ」
「いったい何に使うんだ」
「お参り」
「……水神さまみたいなもんか?」
「大体あってる」
「ふうむ」
 ずいぶんスタンダードな雨の止め方だな、と思いながらも。誠人にはいまいち蛙のマスクとの関連性がつかめない。
「で、どこへ行くつもりなんだ?」
「ちょっと海外へ」
 ……。
 ……かいがい?
「は?」
「マサチューセッツ州まで」
 佐藤さんがぴらっとチケットを誠人に見せる。
 ボストン空港行き。
「これを持って?」
 誠人が鼻をひくつかせながら、佐藤さんが珍しく鞄の外に持ち歩いているものを指した。
 トランク一杯の、ふな寿司。
「これは、手土産」
「生ものって……海外に持ち込めたっけか」
「……」
「……」
 ざあざあざあ。
「……大丈夫、なんとかする」
「今の間はなんだっ!?」
 っていうか本当に『何とか。してしまいそうで』いや、正確には『何か。してしまいそうで』怖い。と誠人が思いながらも。
「一週間くらいで帰るから」
「あ、おう」
 蛙人間の格好で、ふな寿司を持って、米国まで、『水神さまのようなもの』にお参りに。
 ……だめだ、もはや俺の理解を超えている。
 諦めた誠人は佐藤さんがこちらをじっと見ているのに気づいた。
「……」
「ど、どうした?」
「留守にするから」
 と鞄から一冊の本を取り出す佐藤さん。古い、皮の表紙のぼろぼろの本。
 なぜか厳重に紐で縛りつけられてある。
「もし一週間たって戻らなかったら、これを開いて」
「ずいぶん大げさだな」
 と、誠人が本のタイトルを見る。そこにはこう銘打ってあった。
『根暗な巫女本』
 どんな本だ。
「これを私だと思って……」
「思えるかーっ!!」
 それにしても根暗な巫女の本って。
 根暗な、巫女。
「なあ……ちょっとだけ読んでもいいか?」
「ダメ、絶対」
 何故かそこだけは鋭く静止する佐藤さんに、誠人はちょっとたじろいだ。
 ……ヤバイ。
「そ、そうか」
「…んじゃうから」
 聞こえないくらいの声で何かをつぶやく。
「ん、何か言ったか?」
「なんでもない。行ってくる」
 立ち上がると、蛙人間のマスクをつける佐藤さん。
「なあ、それ現地についてからじゃダメなのか?」
「げこげこ」
「……まあいいや、何しにいくかわからんが。気をつけろよ」
「お土産、買ってくる」

 五日ほどが過ぎた。
 誠人は壮絶な戦いを繰り広げていた、己の心とそして――『根暗な巫女本』。
「ぬああっ! 気になるっ」
 ごろごろと畳を転がる誠人。
 佐藤さんにああは言われたが、やっぱり気になるものは気になるのである。
 もう何時この本の封を開いてしまうかわからない。
 だって、巫女だぜ巫女。とか意味不明な言い訳をしつつも、佐藤さんの顔を思い出しては我慢を繰り返す。
『ダメ、絶対』
 佐藤さんの声が誠人の中でリフレインする。
「……あの時の佐藤の目はマジだった」
 だがしかし。
 だがしかしっ!
 ぐわっ、と誠人の手が本に伸びる寸前。
 ――ぴぴるぴるぴる。
 なんと都合のいいことか、携帯電話に着信がきた。
 佐藤さんからだ。
「よう佐藤。ど、どうしたんだ?」
『……読んでない?』
「ま、まさか。そんなことは無いぞ」
 まさか……監視カメラっ!?
 誠人が慌てて、きょろきょろと見回すが元々、物が少ない誠人の部屋だ。そんなものがあればすぐ分かるだろう。
『……そう』
「ちっともさっぱりだ」
 携帯電話ごしには向こうの喧騒が聞こえる。
「それにしても、そっちはずいぶん賑やかだな」
 こっちは雨の音で賑やかだが。
『今、お祭り』
「へえ、楽しそうだな」
 耳を澄ますと、なるほど。
 確かになんとも言いがたい土俗的な音楽、そして声を合わせて同じ言葉を口にする人々の声が聞こえる。
 もっとも言葉が違うから何を言っているかはわからない、誠人には呪文のようにしか聞こえないのだが。
 そんな喧騒をBGMに、佐藤さんはいつもと変わらぬ調子で簡潔に答えた。
『これから戻る』
「そうか。なんだか分からんが、お疲れさん」
『読んじゃダメ』
 通話が切れる直前、最後にポツリと呟いた佐藤さんの言葉が妙に誠人の耳に残った。
『……滅んじゃうから』
 じっとりと嫌な汗が背中を伝った。
「何、何が……!?」

 それから二日後のことである。
 誠人はなんとも複雑な顔で窓を開け、外を見ていた。
「……本当に晴れるとは」
 いや、だが佐藤の行動とは無関係かもしれないぞ。と心の中で反論してみるが、その声は小さくなるばかりだ。
 もしかして俺は段々と佐藤マジックに嵌って来ているんじゃなかろうか、と思うときがある。
 ……。
「ま、いいか。晴れたし」
 久々に晴れわたった青い空を眺めていたら、そんな些細なことはどうでもいい気分になってきた。
 そんな誠人の元へ、また都合よくあの少女が帰ってきた。
「ただいま」
 ごちゃごちゃと紙袋をたくさん持った佐藤さん。
 それを見た誠人は。
「……なんかずいぶん色々買ってきたんだな」
「……」
 その言葉を聞いた佐藤さんは、しばらく無言で立っていたかと思うと。
 がちゃり。ばたん。
 部屋を出て行ってしまった。
「え、あれ?」
 誠人が反応に困っているうちに。
 がちゃり。また入って、そして一言。
「ただいま」
「……えーと」
「た・だ・い・ま」
 誠人ですら、佐藤さんの言いたいことが分かってきた。
 同時に、顔が熱くなる。
 しかし、じっと見つめる、佐藤さんの視線に耐え切れず。
 ついに誠人は言う羽目になった。あさっての方を向いて、小声で、だが。
「お、おかえり……」
「ただいま」
「……」
「……」
「ず、随分いろいろ買ってきたんだなっ」
 こくりと頷いて、部屋に色々と広げる佐藤さん。
「……って、お前本当に海外に行ってきたのか?」
 誠人が疑うのも無理はない。
 なんだかあまり可愛くないタコだかイカだかに似たマスコットキャラクターの絵が入った饅頭、ぬいぐるみ。
 そして挙句の果てには。
「……棒タラって」
「漁港だったから」
 お前、本当は秋田にいってきたんじゃないのか? と誠人は饅頭の包みを解きながら、言いたくなってしまった。
「あとこれ」
「……んがくく」
 更に、佐藤さんが取り出したものに。
 誠人は思わず口に入れた饅頭を喉に詰まらせた。
 巫女装束。
「……」
「……」
 必死で喉に詰まった饅頭を飲み込みながら、誠人は片隅で思った。
 ……本当に監視カメラ、ついてねーんだろうな。
 佐藤さんが心なしか、笑みを浮かべているように見えた。
 
 それから、ひどい台風が来ると、時々誠人は思いだす。
 あの時、あの本を読んでいたら一体俺はどうなっていたんだろうか、と。
 佐藤さんに聞く勇気は、無かった。
 ただあの本のことを思い出すたびに、佐藤さんと通話していた時の、あの祭囃子。
 そしてあのよく分からない呪文のような言葉がふと思い出されるのだ。
 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるふ るるいえ うがふなぐる ふたぐん。
 (最後の6行は追加するか微妙)

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