『MC☆あくしず Vol.10』 特集:真珠湾攻撃 弱者の勝利は奇襲攻撃にあり

 もはや怖いモノなしの萌えミリタリー雑誌『MC☆あくしず』がとうとう二桁の大台に。どこまで続くか楽しみである。私がテキストを担当している『放課後ワールドウォー 日露戦争編』は両軍の戦略から開戦までの流れ。まあ、戦争なんてぇのは、そうそう思い通りに行くわけがないのである。

 さて今回の特集記事は真珠湾攻撃太平洋戦争の最初に行われた、ハワイへの奇襲攻撃である。

 そも、戦いに勝つにはどうすればいいか。

 敵より強ければ勝てるし、弱ければ負ける。これが原則である。私が大好きな伊藤勢さんの漫画でも、黒眼鏡のオヤジが「戦闘は力学だ! 強い方が勝つ!」と何度ものたもうておられる。

 戦争における強さの基本は、何と言っても数だ。数が多い方が強いのである。もちろん、質の問題もあるだろうが、基本は数が多い方が強い。
 太平洋戦争開戦前まで、日本はこの数において仮想敵であるアメリカに負けていた。

 軍縮条約で決められた主力艦の比率は、アメリカ10に対し日本は6。

 しかし、ここで諦めないのが、出来る男というものである。日本海軍の参謀たちは、出来る男だったのだ。
 数で負けているのであれば、数以外の方法で強くなる方法を見つければいい。頭を使って、作戦で勝つことはできないだろうか?

 作戦とは、まとめてしまうと「敵を弱くして、味方を強くする」ものである。過去の戦いでアレクサンダー大王やハンニバル、ナポレオンらが数で負けても勝利できたのは、すべてその原則に則ったからだ。

 敵を弱くするには、敵を分断させたり、疲労させればいい。日露戦争では、ヨーロッパの北のはずれバルト海から、延々と大西洋を南下、アフリカの喜望峰をまわってインド洋からインドネシアのあたりを通ってようように日本までやってきた疲労困憊のバルチック艦隊を、待ちかまえていた連合艦隊はさんざんに打ち破っている。
 アレと同じように、太平洋をはるばる横断してやってきたアメリカ艦隊を、日本近海で待ちかまえて叩くのはどうだろうか?

 味方を強くするには、足りない数を補えるようにすればいい。戦艦がアメリカの六割しかないのは事実。けど、戦艦の主砲以外にも使える兵器はある。それが魚雷だ。この一撃必殺兵器は、魚雷を載せるプラットフォームが何でもかまわない。潜水艦だろうが、駆逐艦だろうが、航空機だろうが。とにかく魚雷を積んで肉薄できればいいのだ。
 航空機は昼間に空から。駆逐艦は闇夜にこっそりと。そして潜水艦は待ちかまえて。太平洋をはるばる横断してやってきたアメリカ艦隊を、日本近海で待ちかまえて叩くのはどうだろうか?

 敵を弱くして、味方を強くする方法を考えた結果、生まれたのが漸減邀撃作戦だ。ちゃんと理屈はあってる。
 敵がこちらの思うように動いてくれれば。

「んなわけねーじゃん」

 ギャンブルをこよなく愛す連合艦隊の山本五十六司令官はそう看破した。戦争が始まったら、最低でも一回はアメリカ艦隊が日本に向かうだろう。それは分かる。だが、漸減邀撃作戦とは、潜水艦の待ち伏せ、駆逐艦の夜襲、航空機による空襲と、何段階にも分けた方法で敵をすりつぶす作戦である。

 不利になった敵が、負ける、あるいは勝てないと分かって最後まで戦うはずはない。途中で「覚えてやがれ」とか言って引き返すだろう。特に、空母がやられた時点で早々に尻尾を巻く可能性は否定できない。
 ロシアのバルチック艦隊が逃げなかったのは、あれは逃げたくても逃げる場所がなかったからである。日本艦隊を突破してウラジオストックに入らないと、燃料の石炭の補給すらなくなって艦隊は自滅してしまうのだ。
 アメリカ艦隊にそのような制約はない。もしかしたらアメリカの国内政治がうまくいかなくて、そのような制約をかけられる可能性はあるが、それは作戦でどうこうできる範疇をこえている。

 ではどうすればいいか。
 漸減邀撃作戦は、不利な状況を「確実」に勝てるようにするため、敵の行動をこちらの都合のよいものに「限定」してしまった。でないと「確実」ではなくなるのだから、仕方がない。
 なら、「確実」を捨てよう。
 敵の行動がこちらに都合がよくなるという「限定」をしない。敵はこっちに不利な行動をする。戦争であるから積極的にする。
 それでも勝つ方法はないか。

 それが奇襲である。
 相手の行動を「限定」しないのならば、相手に行動を選ぶ余裕を与えなければいい。詐欺でいえば、相手が落ち着いてじっくり考える前に、ATMの前に立たせて振り込み操作をさせれば勝ちなのだ。
 つまるところ、奇襲とは、行動の余裕をなくすことで相手の強さを奪う作戦だ。酔っぱらって寝ているところを襲われれば、どんな強者でも無力な子供と変わらない。

 開戦劈頭の真珠湾攻撃は、こうして生まれた。敵であるアメリカ海軍は、対応の時間も情報も与えられないまま、空襲によって殲滅させられた。
 分断されたまま、真珠湾という港に停泊したまま、8隻の戦艦はその実力をかけらも生かせぬままに、撃破されたのである。

 漸減邀撃作戦が、どちらかといえば味方を強くすることに重点の置かれた戦いであったのに対し、真珠湾攻撃は、敵を弱くすることに全力を注いでいる。

 どちらが正しいかといえば、むろん、真珠湾攻撃だろう。
 どちらが悪役っぽいかといえば、むろん、真珠湾攻撃である。

 奇襲攻撃は、弱い悪役の、正しい作戦なのだ。
 正々堂々と正面から戦って勝てるのならば、苦労はない。勝てないから、策を練る。人質をとるのもそうだし、奇襲もそうだ。
 人は現実にストーリーを見いだす。目に見えるコトに物語を重ねることで理解しようとする。奇襲攻撃をせざるをえなかった時点で、日本は自らを悪役にしてしまったのである。

 かくして、真珠湾攻撃は“リメンバー・パールハーバー”の合言葉と共に、アメリカの戦意をかきたてた。敵の強さを引き出すことなく勝つ奇襲は、「実力で戦えばこちらの勝ちだ」と敵に思わせてしまった。

 戦闘の勝敗は、力学である。強い方が勝つ。
 真珠湾攻撃は、そしてそれに続く第一期作戦は、準備ができていない敵に力を出させないで、分散しているところを狙って勝利した。偶然でも奇跡でもなく、当然の結果である。

 だから、その後の敗北もまた、当然の結果なのである。

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