ショートショート「とある地獄」

 閻魔殿をくぐったおれを、褐色の鬼が出迎えた。
 鬼の頭には、角を隠すためなのか、ファッションなのかはわからない、重そうなくらいに布がぐるぐると巻きつけてある。
 そいつはなにやら訳の分からぬ言葉を呟くと、広い室内の一角におれを座らせ、白い牙をにいっと見せて奥へと立ち去っていった。
 地獄というのは、言葉まで違うものか。

 おれは改めて、ぐるりと辺りを見回した。
 そこには先客が幾人かいた。
 まず目に付いたのは、おれの隣に居る小太りの中年男だった。
「辛いですか」
 そう聞くまでもなく、そいつは苦悶の表情を浮かべていた。
 滝のように流れる脂汗を拭きもせずに、ばたばたと流したままにしている。
 そのあまりの様子に、おれは思わず目をそらした。
 その視線の先には、女が座っていた。
 おれより少し前に来たばかりなのか、背筋を立てて涼しげな顔で座して、待ち構えている。
 何が来ても揺らぐまいとする、その美しい表情も、あの男のような表情に歪むのだろうか。
 そして、おれもまた。

 たいした時間も待たずに、最初の褐色の鬼がそれを手に戻ってきた。
 赤黒い色をした液体が煮立っている。
 時々、おれを哄笑するかのように、ごぽりとあぶくを弾けさせる。
 さあ、対決のときだ。
 おれは覚悟を決めて、両手を合わせた。
「いただきます」
 おれはそいつを飯の上にかけると、スプーンを口の中に運んだ。
 しばらくした後。
 おれの絶叫が響いた。

 インドカレー屋に。

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