『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その22:アロウズとカタロン

 機動戦士ガンダム00に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの22回目。

 機動戦士ガンダム00の第二期では、四年前に結成されたばかりの連邦による歪みが、カタロンという反連邦組織と、アロウズという連邦直属の治安組織の対立が軸になっている。
 今回は、このふたつの組織についてあることないこと妄想していく。

 いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいきたい。

 反連邦組織カタロン。
 連邦政府の独裁的な政治や弾圧に反発して生まれた組織である、ということに一応はなっている。

 しかし、ここに疑問がある。
 そもそも反発されるほどの弾圧を、なぜ連邦政府はしているのだろう?

 1話では、カタロンに所属しているというだけで、多くのコロニー作業員が殺されている。ここからは、連邦政府にとっては、彼らを生かすことに価値が認められないのだと推測される。

 虐殺してもオッケーなコロニー作業員の価値は、いかほどなのだろうか?

 我々の頭上に浮かぶ国際宇宙ステーションで考えてみよう。そこで作業するのは、恵まれた素質と高い技量を持った宇宙飛行士である。金も技術も山のようにかかっている。どんな理由があろうが、虐殺できるような人々ではない。

 とすると、出稼ぎ労働者レベルだろうか?
 たとえば、建設ラッシュの続く中東のドバイには、数多くの出稼ぎ労働者がきている。多くは肉体労働に従事するために故郷を離れてドバイにやってきている。それほど学もなければ技術もない。
 しかし、そんな彼らが受ける虐待というのは、せいぜいが「冷房がきいたショッピングモールで買い物もしないのにうろうろするな」レベルである。もちろん給料や職場環境が悪いこともあろうが、それでも、全体としてみれば、そう悪い境遇ではない。あまりに待遇が悪ければ、逃げられてしまうからである。出稼ぎ労働者がいなければ、困るのは彼らに労働力の多くをささえられたドバイである。

 そこに、この問題の根幹がある。

 過去の社会において、労働者が弾圧されたり、労働環境が悪かったのは、相互に支え合う関係ではなかったせいだ。数多い労働者はいくらでも代替がきき、しかもひとりあたりの生産力も、消費能力もない。だからこそ、農奴のようにこきつかったり、場合によっては殺してしまっても問題なかったのだ。数多い労働者全員の待遇を良くするコストが、生産性などのメリットよりも高いからこそ、悪い待遇のままだったのである。

 現代の社会においては、そうではない。労働者を弾圧したり虐殺することは、たいへんなリスクとデメリットを負う。特に先進国では致命的だ。隠しきればいいのだろうが、情報化社会において、悪事を隠しきるのは不可能に近い。そして、そこまでして得られるメリットはというと――ありはしないのだ。
 確かに、安い金、劣悪な環境で働かせればそこそこに利潤はあがる。しかし、それはあくまで働くことを強制できるような閉鎖型の社会の場合だ。強制できないようであれば、生産性は極度に下がる。しかも、強制された相手がいやいや働くレベルの生産性では自由市場の厳しい競争に勝ち抜けない。
 ましてや、殺してしまえば、生産性どころの騒ぎではない。

 そうして考えると、アロウズがやっている、コロニー作業員の虐殺は、どうみてもコストに合う話ではないことになる。
 にも関わらず、金と資材と人を動員して、アロウズはコロニー作業員を弾圧したり、各地で連邦に反対する人を叩いて回っている。情報統制をして、そのことを隠蔽したりもしている。

 まるで――
 反連邦組織に、活動して欲しいと望んでいるかのように。

 ここでシナリオはふたつ考えられる。
 ひとつは、連邦に反感を持つ連中をカタロンという形で集めて、一網打尽にし、それによって連邦という組織を盤石にしようというシナリオ。
 そのために、あえて弾圧や虐殺という分かりやすい悪を演じてみせているというパターンである。

 もうひとつは、その逆で、連邦を破壊したいと考えている場合だ。連邦が誕生したのは、第一期におけるソレスタルビーイングの活動の結果である。イオリアの計画にも最初から連邦結成は織り込まれていたようだ。
 もしも、イオリアの計画を阻止しようという力があるのならば、アロウズに虐殺や弾圧をさせることで、連邦を破壊しようと考えていてもおかしくない。情報統制も、統制をしなければ、連邦政府なり人々なりが、アロウズの活動を掣肘してしまい、反連邦の動きが加速しないと考えてのことである。
 将来、アロウズの活動が人々に公開されたなら。人々は間違いなくアロウズと、アロウズを運営してきた連邦政府に嫌悪感を抱くだろう。もしかしたら、連邦政府の上層部すら、「そんなコトまでしろとは言ってないぞ」と仰天しかねない。

 どちらにせよ、アロウズの活動は常軌を逸している。

 作品の中でその常軌を逸した活動に一番違和感を抱いているのは、サジ君のようだ。
 逆に、実際に活動しているアロウズも、それと戦うカタロンやソレスタルビーイングも、アロウズの行動の異常さや無意味さに気が付いていないように見える。

 そこに私は、“世界の歪み”を見る。
 まるでカタロンや、ソレスタルビーイングの活動に正当性を与えるためだけに。そのためだけに、あえて弾圧や虐殺、非道をなすアロウズ。
 自分たちに都合のいい悪を演じてくれるアロウズの活動に、異常さを感じないカタロンとソレスタルビーイング。

 彼らはともに“世界の歪み”の掌で踊っているのではないか?

 だとすれば、この構図に異常を感じるサジ君こそが。
 “世界の歪み”を射抜く切り札になるかもしれない。

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放映開始時は“世界の歪み”=近代世界システムの事?と思っていたのですが…

 どうもcomingsです。今回も興味深く読ませていただきました。

 ちょっと質問がありまして、エントリの最後の方で違和感、異常さを感じていると沙慈が“世界の歪み”を射抜く切り札になるかもしれないと書かれていましたよね。
 この“世界の歪み”が8話で示されたイノベーターの事なのか(だとしたらティエリアが先に“射抜いちゃった”=存在を確認するという事?にならないでしょうか)それとも銅大さんが以前のエントリで言っていた“超存在の介入”の事なのかが引っかかりまして。
 後者の場合沙慈が“超存在の介入”に気づくかもしれないと思わせるような素振りがあったかちょっと思い出せないものですから。
 投稿の日付からもし銅大さんが8話を見てない上でのエントリだった可能性もあるわけで、だとしたら、完全にこちらの勘違いというか空回りで申し訳ありません。

沙慈君にしか見えないものについて>comingsさんへ

comingsさんへ
 感想ありがとうございます。8話はまだ見ておりません。
 ですから上の記事では、サジ君が気づくのは“超存在の介入”、ソレスタルビーイングの創始者である、イオリア・シュヘンベルグが気が付いた“世界の歪み”のコトです。

 アリシア人やエッドール人(E.E.スミス『レンズマン』)やパク人(ラリー・ニーヴン『プロテクター』)のような存在ですね。

 では、なぜサジ君が“超存在”に気づくと私が考えているかというと、彼がガンダム00の登場人物の中で、アロウズやカタロン、ソレスタルビーイングらの勢力と争いを、離れたところから見ているせいです。

 サジ君は“自分の平和な世界”が欲しいキャラです。
 それを周囲のキャラには「自分だけ良ければいいのか」などと怒られていますが、これはよくよく考えてみれば「当然のこと」です。

 人間とは、まず自分を幸せにするために全力を尽くす生き物です。自分と、そして自分の家族を。仲間や友人を。
 自分や家族を犠牲にして、他人の幸せや、世界のありようを憂えたり、変革を求めるというのは――歪です。無理があります。志としては尊い気もしますが、長続きはしません。

 自分が幸せで満ち足りていれば、人は優しい気持ちになれます。他人の幸せを考え、社会を良くしようとすることもできるようになります。
 自分が不幸で不平不満がある場合は、人は厳しい気持ちになります。他人の失敗や無能、社会の不正や悪党が許せなり、それらを罰する、非難する方向に気持ちが向きます。

 サジ君は一期から不幸の連続で、家族も恋人も失い、職も失い、帰るところも失い、このままでいけば犯罪者確定です。
 不幸なサジ君は刹那に「お前達のせいだ」みたいな非難を浴びせています。これなど不幸な人間にありがちな他罰的な態度と言えるでしょう。

 これだけならば、00の他のキャラと同じですが、サジ君はひとつだけ、他のキャラにないユニークな立ち位置を確保しています。

 彼は、無力なのです。

 力も、金も、特殊能力も何もないサジ君は、他のキャラがやっているように戦うことができません。ソレスタルビーイングのように武力介入することも、カタロンのようにレジスタンス活動することも、マリナ・イスマイールのように人々に訴えかけることもできません。

 何もできないがゆえに、彼は戦いのただ中にありながら、戦いから距離を置くことができます。世界の模様を観察することができます。

 目の前の敵と戦うことで何かをしている気になっている、ソレスタルビーイングやカタロンには見えない“世界の歪み”を、無力であるがゆえに戦うことのできないサジ君が見つけることができるのではないかと。
 私はそう考えているわけです。

ご返事いただきありがとうございます

 まず、私の最初のコメント時には8話を見ておられなかったということなので、8話の内容に触れてしまいすみませんでした。以後気をつけます。

 質問していたことについては合点がいきました。サジが無力であるという事は、いずれ決断して行動しなければならないというメッセージを送るための布石なんだろうな程度にしか考えてなかったので、無力であるがゆえに何かを見つけることができるというくだりは、興味深かったです。


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