『時間封鎖』R.C.ウィルスン 破天荒な設定を見事に生かした傑作SF、人間ドラマも評価は高い(私はのぞく)

 原題はSPIN。
 本作はヒューゴー賞を受賞したのもむべなるかなという、優れたSF小説である。

 ある日、地球がひとつの膜に包まれる。
 その膜は、地球低軌道をぐるりと取り囲み、時空的に地球を外の宇宙と断絶する。
 内外の時間差は1:100,000,000。
 地球で1日が経過すると、宇宙では1億日、すなわち27万年が経過する。
 地球で1年が経過すると、宇宙では1億年が経過する。

 とんでもない話である。
 ナニがとんでもないかというと、弥勒菩薩がすべての人々を救済に来るのが56億7千万年後であるから、今から囲まれてしまうと我々が生きている間に弥勒がやって来てしまうである……あ、だめだ、さすがに私は100歳こえてしまうか。残念じゃのぉ。

 さて、弥勒の救済については昔からSFファンの間によく言われているジョークがあり、弥勒が来たころには地球はないだろうというものだ。
 太陽系の誕生は、今から45億年ほど前のことになる。
 恐竜が闊歩していたのは1億年ほど前のことで。
 人類の祖先が誕生したのはおよそ200万年前。
 人類文明など、地球の長い歴史の中ではほんの一瞬なのである。
 もしもその一瞬が延々と引き延ばされたとしても、弥勒の救済は間に合わない。
 すべてのものと同じく、太陽にも寿命がある。太陽は老いるに従い巨大にふくれあがり、地球を焼き尽くしていく。そしていずれは燃え尽きる。爆発するかどうかについてはまだはっきりしないが、ブラックホールや中性子星にはならないだろうと考えられている。
 そしてそれはおよそ50億年の後と推測されている。弥勒菩薩が来るころには、太陽は赤くふくれあがっているか、すでに燃え尽きてガスをまき散らしたあげく白色矮星になっているかはわからないが、どっちにしろ人類が残っていないことだけは間違いない。人類どころか、いかなる生命も地球という星には存在しないだろう。太陽断末魔の衝撃波で大気すら吹き飛ばされ、焼けこげた地球に降臨した弥勒菩薩がいったいナニを救うのか、興味深い話である。

 話を戻そう。

 『時間封鎖』された地球の人々は、すぐに自分たちの運命を知った。内部にいる地球時間で50年後には太陽は寿命を迎える。地球の人々も皆死ぬことになるだろう。

 何とかして生き延びる方法はないか。
 タイムリミットは限られている。地球で1日考えるだけで27万年が。1年悩むだけで1億年がすぎてしまう。光陰矢のごとし。太陽老いやすく学成りがたしである。

 だが、この時間の流れの差は、必ずしも悪いことばかりではない。
 地球で10年、外の宇宙では10億年。しだいにふくれあがる太陽によって、太陽系の第四惑星、火星は少しずつ暖められている。
 この火星に、移住する方法はないだろうか。
 もちろん、火星の環境を変えるテラフォーミングは簡単にはできない。現代の技術でもっとも問題になるのが、テラフォーミングには時間が必要な点だ。火星に光合成するバクテリアを運んだとしても、大気が呼吸可能になるには、最低でも数万年、へたをすると数十万年から数百万年がという時間が必要になり――

 そうなのだ。
 外の世界であっというまに時間が流れるということは、宇宙規模の工学にはむしろ適切なことが多いのである。

 かくして、火星への移住計画が。そして火星もまたスピン膜に閉じこめられる前に作り出された生体工学技術により銀河規模の情報ネットワークの建設が行われることになる。

 『時間封鎖』は、このようにひとつのアイディアから、破天荒に面白いネタがぽんぽん飛び出す傑作SFである。
 傑作SFではあるのだが……少々(私としては)残念なところもある。

 それは、人間ドラマである。
 アメリカの『ダラス』とかの、家族を扱ったテレビドラマ的な内容の人間ドラマで、ここが丁寧に描かれている点が本作の高い評価にもつながっている。
 褒める人は多いが、残念だという人はあまりいないようである。

 だが、私は残念なのだ。
 『時間封鎖』というネタや、それを逆手にとったテラフォーミングなどのアイディアがものすごく(私としては)面白く、そこが読みたい、もっと読みたいという気分になるだけに、人間ドラマが始まるや、

「えー、そんなのどうでもいいから、テラフォーミングの詳細を描こうよー」

 などとなってしまうのである。ほとんど深夜アニメで「野郎はどうでもいいから、女の子(のパンツ、ないし乳)を見せろ」とほざいているのとノリ的には変わらない。

 もちろん、それほどに、アイディアとその展開が優れているということではあるのだし、読んで満足しているのも間違いないのだが……

 せめて半分ならなぁ……と思わずにはいられないのである。

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