『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その23:イノベイター
機動戦士ガンダム00に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの23回目。
2ndシーズン第8話『無垢なる歪み』において登場したイノベイター。リボンズをリーダーとする人ならざる連中は、超コンピュータ、ヴェーダを掌握しアロウズを裏から操っている。
今回は、人造人間である彼らについてあることないことを語っていく。
いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいきたい。おつきあいいただければ、幸いである。
イノベイターが明らかにしたイオリアの計画は三段階に分けられる。
第一段階、ソレスタルビーイングの活動による統一政体の樹立。
第二段階、アロウズによる人類の意志の統一。
第三段階、外宇宙への進出。
どこまで本気かどうか。あるいは本気だとしても誰かに騙されていないか。はたまた、他にも語られていない裏の目的があったりしないか。
そのへんは置いておくとして、イノベイターは、自らこそがイオリアの計画を推進していると考えているようだ。
なぜ、人ならざる存在にイオリアの計画をゆだねるのか?
理由はやはり、イオリアの計画がきわめて長期にわたるものだから、であろう。夏休みの計画(7月中に宿題を全部終わらせる)ですら、守りきる人は少ない。ましてや数世紀にもおよぶ計画では、次から次へと伝言ゲームのように計画を受け渡すことになる。
宇宙移民のはずがいつのまにか世代交代型宇宙船そのものが世界になっていた『宇宙の孤児』(ロバート・A・ハインライン)ではないが、世代を重ねるうちに計画の目的が失われる可能性は高い。
計画をすべて知る超コンピュータ、ヴェーダがあったとはいえ、それだけでは足りないとイオリアは考えていたのではなかろうか。
長期にわたる計画を人間が守れない理由は、人間には計画以外にも大事なことがたくさんあるからだ。子供が夏休みの計画が守れないのは、宿題をするよりも遊ぶことが大事になってしまうからである。
イオリアの計画は、「計画のために祖国を裏切る」とか「戦争根絶を目的としているくせに武力介入する」、「ソレスタルビーイングに参加するために家族を捨てる」など、人としてさまざまな矛盾や葛藤を秘めている。
人間は、社会的な生き物である。頭では理解していても、家族や故郷、祖国や民族というしがらみをそう簡単に捨てることはできない。特に計画の第二段階である、アロウズの活動には無理が大きい。
そもそも祖国でもなんでもなく、わずか四年前に誕生したばかりの“連邦”という政体に、帰属意識を持ち忠誠を誓える人は限られてくるだろう。
だからこそ、イノベイターである。彼らは人ならざる存在である。故郷はない。家族もいない。所属する民族も国家もない。計画の遂行こそが存在意義であり、計画を遂行できないのであれば存在する価値もない。
イノベイターがイオリアの計画を歪みなく躊躇なく、実行し続けることができるのは、そのためだ。
その点で、イノベイターの存在は、『鋼鉄都市』(アイザック・アシモフ)シリーズから『ファウンデーション』(アイザック・アシモフ)シリーズへとつながるアシモフの宇宙史の中で、ロボットたちが『第零原則』に従って人類を導いたのとよく似ている。
しかし、イノベイターは計画の守護者であると同時に、計画を決定的な点で破綻させる危険もまた、はらんでいる。
やはりアシモフの『心にかけられたる者』で、ロボットたちはロボット三原則を守るためにはどうすればいいかを考えていき、恐るべき結論に達する。
ロボットは、三原則に従い人が危害を受けることを看過できない。
しかし、すべての人を救うことはできない。
とすると、人にはその能力や価値に応じた保護があってしかるべきである。
そして、もっとも人としての能力や価値が優れているのは――自分たちロボットである。
ならば、ロボットは“自分たちのような人間”を守り、“自分たちとは違う人間”は後回しにすべきだ。
このような、新人類テーマでもしばしば見られる主客の逆転は、イノベイターであっても起こり得る。いや、すでに起きている。
人類を救うためのイオリアの計画を無駄なく確実に遂行するためであれば、人々をどれだけ犠牲にしてもかまわない。第10話『天の光』で軌道上からのレーザー攻撃をアロウズに行わせたイノベイターは、手段と目的が逆転していると言っていい。
誰のために。
何のために。
人類を同胞と思えず、過去のしがらみを持たないイノベイターは、イオリアの計画の根幹にある一番大事な思いを、あっさりと捨ててしまえる。イオリアの計画以外に大事なものを持たない人造人間は、イオリアの計画が何のためにあったか理解できない。よしんば頭では理解できても、価値を見いだせない。
すべての人が。
幸せでありますように。
善意からはじまったはずのイオリアの計画が、決定的にねじ曲がっている。ここに、イノベイターすら手玉にとる“世界の歪み”の姿を私は見る。
イノベイターごとき勘違いを相手にしている場合ではないぞ、ソレスタルビーイング!
次回は、『天の光』で登場した衛星兵器をネタにあることないことを語っていきたい。
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