湯山玲子、著、『女装する女』とっ散らばってる多様な欲望のバラエティー
『女装する女』って、書名に惹かれて書店店頭で立ち読み。10章構成の第1章「女装する女」が、面白くて買っちゃった。
よく言えばバラエティーに富んだ内容。悪く言うと、とっ散らばってる本。
でも、とっ散らばってる感じも含めて楽しめました。
論旨にショート・カットや断定も目立つ気もしますけど。「軽い読み物」本としては、アタシは許容範囲。
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著者の書いたものは、初めて読んだんだけど。湯山玲子さんは、出版・広告ディレクターさん。1960年生まれの世代。
カバー袖のコピーによれば、『女装する女』は、「現代女性を消費の面から10のキーワードで痛快に読み解く。リアルな女の実態を知るための必読の書」。巻頭の「はじめに」にある著者ご本人の弁によれば「今に生きる女性の欲望の在り方を十通りの方向性で示した」本。
アタシ的には、「今を生きる女性が求める、多様なロール・モデルを検討する本」として面白かった。
「女の顔はひとつじゃないよ」
これは昔から、テレビのサスペンス劇場や小説の中でさんざん言われてきた言葉だ。
少年時の単純明快な個性がそのまんま、大人になったような男性というのは世の中、少なくはないが、女性の場合はそう単純ではない。「この娘がこんなコトを!」という男性が思わず奮い立つような言葉のとおりに、女性はその外見や普段の言行からは想像できない、さまざまな内面と欲望を持っている。
「男性だって、そんな単純じゃぁないよ」ってボヤキや野次が、どっかから聴こえてきそうな気もする(苦笑)。例えば、こーゆーとこは断定的な気もするけど。同じような感じの断定は、男性の論者にもあるわけだし。
これくらいは、まー、アイコじゃぁないかな?(笑)。
10章のそれぞれの章題になってるキーワード、例えば第1章「女装する女」とか、第2章「スピリチュアルな女」とか、第3章「和風な女」とかごとに、複数のロール・モデル検討されてて。挙げられたロール・モデルが、バラエティーに富んでます。
ロール・モデルの検討では、第7章「大人の女になりたい女」が読み応えありました。
例えば、ドラマ『セックス・アンド・シティ』の人気を支える女性視点が「背伸びすれば届くオトナの女像」を4人の作中キャラに求めてる、って断定とか納得力感じた。
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様々な女性のタイプごとに、求められるロール・タイプも多様化してるし、してくって視座は、アタシは説得力感じました。
で、女性に求められるロール・モデルが多様化してて、バラエティーが増えてるって見通しなわけで。
ロール・モデルを指向する「今の女性の欲望の在り方」の面では、やっぱり第1章の「女装する女」で描かれた「オヤジ化してる女性」が面白かったです。
例えば、安野モヨコさんの『働きマン』のドラマ版で「男スイッチ入ります」のシーンをクローズアップしすぎ、って主旨の意見は、アタシもわかると思う。アニメ版でも同じようなことは言えると思うな。
主人公の女性は仕事モードに突入するとき「男スイッチ入ります」とポーズを決めて叫ぶ。そこのところが番組宣伝コマーシャルに多用されていたのだが、原作が持つ仕事女のリアリティーは、主人公が彼氏とデートしたり、イケメンと会ったりするときに着飾り、女っぷりを上げるための「女スイッチ入ります」の方にこそあったのである。原作では確かに「男スイッチ入ります」というギャグシーンは存在するのだが、あまり深い意味はなく、それをクローズアップしてしまうと、根本的な誤読が起こってしまう。
「女スイッチ入ります」ってセリフは、確かマンガ原作にはなくて、著者(湯山玲子)の読み採りの要約表現だと思うんだけど。アタシ(紹介者)なりに補うと、言動からオヤジ化が進行してる働きオンナが女装する、ってことね。
アタシみたいに、戸籍は♂だけど本人オンナのつもりで暮らしてるヤツには、微妙にネジレた感じで(笑)想像できます。
「誤読」についても、アタシなりの意見を書き添えておくと。誤読がイケナイわけではないと思うのね。
「誤読の結果、独特の面白みが損なわれてる」ようなとこが、『働きマン』ドラマ版の欠点。こーゆー意味なら、著者の意見にアタシも同感。アニメ版にも同じような欠点はあると思う(こっちはアタシの私見)。
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この、とっちらばった印象の本が、実はどんな狙いで書かれたかについては、おそらく「あとがき」にある文章が1番掴み易くて。
「本書は女性が持っている潜在的・本能的なインサイト欲求を明らかにし、女性に向けた新しいマーケットのデザインを行うべきであり、そこから開発されたマーケットやビジネスは、男性も含めた日本の消費構造を大きく変えるはずであると主張する、博報堂アーキテクト代表の大谷研一氏にインスパイアーされ、執筆を始めるきっかけをつくっていただいた」。
上に引用したヵ所、なぜか読みづらい複文になってるけど。「執筆のきっかけ」は、掴み易くて、わかりました。
アタシ的には「女性に向けた新しいマーケットのデザイン」とか、「日本の消費構造を大きく変えるはず」のマーケットやビジネスの話は、まー、玉石混交の面白さ。
(だって、大きく変える「はず」のお話だもん。あんまり興味持てなかった)
女性のロール・モデルの多様化、その根っこにある女性の欲望の多様化、って筋にフォーカスあてて読んで面白かったです。
この本のいいトコは、「女性自身が求める」ロール・モデルの多様な様相が検討されてる点。
この本の弱点は、「女性自身が求める」欲望の在り方も、産業社会の動向に誘導されてはいないか? 的な批評的検討が弱いとこだと思う。
ただ、この手の弱点は、軽い新書ではしばしば見受けるので、この本だけのものともいえない。弱点も含めて「楽しく読める」点は、いいと思う。
上に挙げた「弱点」を克服してる本って、例えば橋本治さんが書いたものとか。さすがに、橋本さんの批評本と比べたら『女装する女』は見劣りするのも仕方ない、とか思うアタシですけど。
例えば『絶滅女類図鑑』とか『虹のヲルゴオル』と読み比べてみるといいと思います。
『女装する女』については、他に、各所に記された、物語商品や商品的アイコン(要するにキャラクターとかの類ね)の読解センスにみるべきものがある。
著者の読解センスには、マンガ、ドラマ、映画、CM、などなど、様々なジャンルを横断しながら、かなりの納得力が感じられる鋭さがあって。さすがは、プロの出版・広告ディレクター。これは、多分、著者のイニシアティブ。
ただ、多様化してる女性の欲望-多様化してる女性のロール・モデル-あり得る新しいマーケットやビジネス・モデルって連鎖が細かく反復されてる本で。それで、全体としてとっ散らばった印象になっちゃってたのは、残念。
でも、軽い読み物としては楽しめました。
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【書誌情報】
湯山玲子,『女装する女』(新潮新書),新潮社,Tokyo,2008.
ISBN=978-4-10-610291-2

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