『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その26:軌道エレベーターの安全設計
機動戦士ガンダム00に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの26回目。
ガンダム00の2ndシーズン第17話『散りゆく光の中で』では、ついに軌道エレベータのうちの一本、アフリカ・タワーが倒壊寸前になった。
「刮目せよ! 一世紀以上かけて造り上げた人類の英知が滅びる様をな!」
もちろん刮目しましたとも。テレビの前で全裸で正座して。ところで、アロウズのおっちゃんはなんでそんなにノリノリなんでしょうか。
というわけで、今回は軌道エレベータの安全設計をネタに、あることないことを語っていきたい。
いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいく。最後までおつきあいいただければ、幸いである。
文字通り天まで届くバベルの塔な軌道エレベータが倒壊するということは、文明崩壊もありえる大惨事なため、それを防ぐべく軌道エレベータにはさまざまな安全設計が組み込まれている。
何かが倒れる、あるいは落ちることによる被害を防ぐ最大の安全設計は何かというと、「落ちないようにする」である。
そんなことが出来るのかというと、軌道エレベータだから出来るのである。
たとえば、バベルの塔もそうだが、高層ビルというのは、下から支えられて建設されている。土台があり、骨組みがあり、そのすべてが積み上げられて上に伸びている。
よって、崩せば全部落ちる。
しかし、軌道エレベータは、アンカー衛星による遠心力と地球の重力のバランスによって立っている。より大ざっぱに言えば、アンカー衛星によって上から引っ張られてぶら下がっている。
もし、軌道エレベータが本気で倒れそうになったら、このバランスを崩してやればいい。地上で固定されている箇所や低軌道リングや高軌道リングから切り離し、静止衛星軌道(高度3万6千キロメートル)より下側の質量をいくつかパージしていけば、引っ張る力の方が大きくなる。
そうすると、根本からスポーン、と引っこ抜かれた軌道エレベータは、アンカー衛星に引っ張られるまま、宇宙へと漂い出していく。
ちなみにそうやって引っこ抜かれた軌道エレベータの描写としては、『混淆世界ボルドー』(市川裕文)の2巻のエピソードがある。
けれどこの「軌道エレベータ引っこ抜き」は、安全設計としては最終手段だ。
人類が少なからぬ金と時間と資材を費やして作り上げた軌道エレベータを、そうほいほい捨てるわけにはいかない。
では、どうするかというと、「最終的にコレだけは残しておきたい」ものだけを残す設計にするのである。
ガンダム00の軌道エレベータというと、巨大な塔――筒のような形をしているが、この筒部分は実は軌道エレベータにとっての本質ではない。なくてもいいのである。
軌道エレベータの建設方法はSFでもいろいろ考えられているが、標準的なのは、お釈迦様の『蜘蛛の糸』(芥川龍之介)方式だ。
静止衛星軌道に建設ステーション(仮称:蓮の池ステーション)を建設し、そこからワイヤー(仮称:蜘蛛の糸)をつるつると下げていく。バランスを取るために、地球とは反対側にも、つるつると伸ばしていく。
そうやって地上まで長さ三万六千キロメートルものワイヤーを伸ばしたら、ワイヤーを地上基地で固定する。ちなみに、バランスの問題から、地球と反対側の宇宙空間にはそれよりも長い六万キロメートルを超えるワイヤーが伸びているが、ワイヤーにかかる負荷はもちろん、大気や重力の影響で地上側の方が大きい。
この静止衛星から地上への細い(かどうかは素材によるし、テーパー構造もありえるが、自重で切れないためにも無駄に太く重くないことは間違いない)ワイヤーこそが、軌道エレベータの命である。
蜘蛛の糸が切れてしまえば、天にカンダダがたどり着くことはない。よほどの事故があっても、このワイヤーだけは死守である。
逆に言えば、ワイヤーさえ無事ならば、そのワイヤーの周囲にくっついている外壁部分はなくなってもいいのだ。
最初に言ったように、軌道エレベータは、高層ビルのように下から積み上げられた構造にはなっていない。塔のように見える外壁部分は、上からぶら下げられたワイヤーにしがみつくようにしてその周囲を覆っているだけなのだ。
つまり、事故や攻撃で軌道エレベータがダメージを被った場合でも、外壁をはずしてしまえば、ワイヤーにかかる負荷が軽くなりワイヤーがちょん切られてしまう危険は少なくなる。
『散りゆく光の中で』でメメント・モリの攻撃を受けた軌道エレベータが外壁のオートパージをしたのは、そんな理由があったのである。
ではこれで万事問題なしかというと、問題はまだある。
たとえ軌道エレベータが倒壊しなかったとしても、オートパージされた外壁は地上に落下してしまうのだ。
外壁の分離を細かくしておけば、成層圏(高度50キロメートル)より上の外壁は、大気圏への突入時の衝撃で燃え尽きることを期待できる。高度1万キロメートルの低軌道ステーションから高度50キロメートルまでの長さ9950キロメートルの外壁は、だから当座は無視してもいい。うまく落ちないでデブリになったり、燃え尽きたとしても大気上層部に大量の塵が発生して異常気象の原因になったりするかもしれないが、それは後で何とかしよう。
問題は、高度50キロメートルから下の部分だ。オートパージされた外壁全体のわずか0.5%だが、何せ50キロメートルもの長さがある。外壁の平均的な直径が500メートルくらいだとして、表面積は78.5平方キロメートル。東京ドーム1700個分の外壁が天から落っこちて来るわけである。絨毯爆撃にもホドがある。
『散りゆく光の中で』は、スメラギさんの呼びかけに応じて、ソレスタルビーイング、カタロン、反乱軍含む連邦軍、そしてアロウズまでもがこの、東京ドーム1700個分の外壁を迎撃しまくりだったわけであるが、もちろん、全部を迎撃できたわけではなく、同時に全部を迎撃する必要もなかったと思われる。
画面上で確認してみると、アフリカ・タワーの周囲には、ベルト状の人口密集地帯があった。おそらく、ここは「(比較的)安全地帯」として設計されたのではないかと思う。
オートパージされた外壁は、ゼビウスのバキュラよろしく長方形をしている。空力学的によくできた形とはお世辞にも言えないが、パネルなどを羽根代わりに動かして、ある程度は落下を制御することも可能なはずだ。
軌道エレベータの設計者は、オートパージされる外壁一枚一枚に、簡単な電子チップを組み込んであるのではないかと思う。分離した外壁を、自由に飛ばすことはむろんできないが、「一定のラインで示された場所にはできるだけ落下しないように」バランスをとってそれるようにしてあるのではないか。誘導爆弾とは逆の原理である。
もちろん、外壁同士が衝突したりもするだろうし、オートパージの衝撃で故障、あるいは無闇な回転がついてうまく落下を制御できない外壁も多いだろう。何より、地上に近い側の外壁は、滑空する時間・距離的な余裕がない。
だから、刹那たちによる迎撃がなければ、かなりの外壁が人口密集地帯に落下したのは間違いないが、それでも、あそこに落下した外壁は、その外に落ちた外壁より最初から少ないように設計されているのではないか。
そんな風に、『散りゆく光の中で』を見ながら思ったりもしたのである。
さて、しかしそうは言っても、メメント・モリを発射したアロウズの司令官の
「刮目せよ! 一世紀以上かけて造り上げた人類の英知が滅びる様をな!」
という、ノリノリの言葉の謎は残る。
力と恐怖で人々を押さえつける目的に基づいて、計算尽くでアフリカ・タワーを攻撃したのではあろうが、なんとなく、テロリストを撲滅するために自国の都市を核兵器で吹っ飛ばすような、本末転倒ぶりがかいま見られる。
むしろ、アロウズの今回の蛮行は、カタロンでもソレスタルビーイングでも、連邦の一般市民すら相手にしておらず、単に連邦政府内部の良心的な連中を黙らせることが目的だったのではないだろうか。
これまで、アロウズの強引な手法には多くの異論反論、積極的消極的な反対が連邦政府内部でもうごめいていただろう。だが、アロウズがここまで「狂気」を見せると、もはやヘタなことはできない。
たかが世論操作のためだけに、軌道エレベータを崩壊までさせる、その異常さ。価値観のズレ。
話し合いとか、ネゴシエーションとか、根回しとか、従来の政治や派閥の手法が通用しない、コミュニケーションの断絶。
それを知らしめ、アロウズに反対する連邦政府上層部の人間をむき出しの狂気と暴力で動けなくする、政権内部に向けたテロ。
今回の事件の裏にあるのは、そんな“世界の歪み”なのではないかと考えてみたりもしたのである。
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