一条ゆかり『プライド』7,刹那のS.R.M.☆(改訂2版)
【この紹介文は】
この紹介文は、2007年5月に初公開した、一条ゆかりさん作のマンガ『プライド』7巻の紹介文です。
2007年5月に初公開した旧版を、2009年2月に大幅改稿した2訂版になっています。さらにその後、3訂版と差し替えました。
ベテラン・マンガ家、一条ゆかりさんの最新作『プライド』。
オペラ歌手の一流を目指す美女2人、史緒と萌の、ライバル関係を主軸に展開するラブ&バトル☆
7巻では、ライバル関係でもある2人、史緒(麻見史緒)と萌(緑川萌)とが加わる3人ユニットS.R.M.が、一瞬、再集結。
S.R.M.は、3巻で結成され、4巻であっという間に空中分解したけど。デヴュー直後から、彼らに惚れこんでた広告代理店のディレクターが尽力。
蘭丸(ラン)の“INVOCATIO(祈り)”を、清涼飲料水のCMソングとして採用する企画を成立させたのだった。
3人のメンバーたちは、ニューヨーク、ウィーン、ミラノから、それぞれの想いを抱いて帰日する。
この記事では、『プライド』7巻の内容について、不必要なネタバレは避けながら、読みどころをご紹介してみます。2007年5月に初公開した旧版を、2009年2月に大きく改稿しています。
6巻までの内容は、必要に応じて、随時言及しますので、ご了解あれ。
用語:プライドから、色々レヴュー記事もたぐれますので。よければ、どうぞ。
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『プライド』の7巻は、全編の内でも相当に盛り上がる♪
あんまり盛り上がりが続くんで、最初読んだときにはあっけにとられるくらい(笑)。
読み終わった後で、1巻から7巻までの長いプロットで想い返すと、脳内でぐーっと味わいが広がる憎い料理。
何しろ、4巻以降、久々にS.R.M.が奇跡のユニットの実演をして。
その後が、女装のピアニスト、ラン(蘭丸)の世界デヴュー。
さらに、史緒と、萌とが、同じコンクールで、1巻以来久々に、公式舞台での競い合いをって、次巻以降展開のプロローグみたいなエピソードが描かれる。
これは、嫌でも盛り上がっちゃう☆
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6巻のラストでは、S.R.M.のリーダーだった蘭丸が、師匠のお供でクリスマスのウィーンに。
蘭丸はオペラ留学してた史緒と再会するけど。婚約者の神野と連れ立ってる史緒に会って、ヘコむ。そこに、突然、日本から国際電話が。
「けっこう評判/良くてね あのCM/おかげで第2弾は/割とまかせて/もらえるんだけど」「リベンジ/しない!?/リベンジ!!」
「パリエ・コンガスに/一番似合うのは/曲もヴィジュアルも/絶対SRMだと/私は思ってる!」
S.R.M.のデヴュー曲“INCOCATION(祈り)”は、新人歌手eikoに勝手にアレンジされたヴァージョンが、清涼飲料水パリエ・コンガスのCM曲として先に使用されてしまっていた。
電話で、広告代理店美称堂の東が、「あのCM」と言ってるのも「リベンジしないか」と言ってるのも、eikoの曲を使ったパリエ・コンガスCMのことだ。
俺のディーヴァの/声を形に残す/ことが出来る!
--蘭丸は思った。
けれど「史緒クンは/萌ちゃんには/会いたくないと/思います」と躊躇う。
これが、蘭丸くんの読みの甘かったとこで(笑)。
話を聞いた史緒は、「私やる!!」「私やりたい!!」「もう一度/SRMで/歌いたい!!」と、断固即決(笑)。
一方、ちょっと送れて、東からリベンジCMへのオファーを受けた萌は--
信じ/られない……/
何で引き受け/るのよ あの女は/
あんな目に/あわせた私と/一緒に歌い/たいですって?/
神野さんと/結婚するくせに/
まだ蘭ちゃんの/役に立ちたいと/思ってるんだ
ああ嫌だ!!/
私は こんなに/堕ちて堕ちて/ドロまみれなのに/
「汚れたものは/きれいなものを/憎むか憧れるか/しかないの」(4巻)と語った萌らしい反応。
萌は、泣きながら電話に応じる。
「東さん/私 お金が/必要なんです」「これを引き受け/たら いくらもらえ/るんですか?」
ここまでが6巻。
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7巻で、ウィーンから日本に向かう史緒は、想いを巡らせる。
“萌さんは きっと/まだ私の事を/怨んでるわ/
でも--/
それでも一緒に/歌うことを/引き受けた”
クイーン・レコードの若き副社長、神野隆から申しだされた政略結婚的なプロポーズ。それは、煎じ詰めれば、社長夫人の役割を果たしてくれるなら、オペラ歌手を目指す史緒のパトロンになろう的な申し出だった。
恋愛感情について、小学生並みの理解度しかない元お嬢様の史緒にとって、神野の申し出はむしろ理解し易いものだったみたい。
3巻でプロポーズを受け入れた史緒だけど、理想を追い求める女は、ギブ&テイクのパトロン関係を、1種の共闘関係のように理解したのかもしれない。アタシ(紹介者)が思うには、これが、一方的庇護者のようなパトロン立候補だったら、多分、受け入れなかっただろう気がする。
その後、萌が神野を慕ってると知った史緒は、婚約したことを蘭丸や萌にナイショにして。これがバレたのは、4巻でS.R.M.が解散した後、史緒の発案で解散直前にミニ・アルバムを作るはずだった録音スタジオでのこと(5巻)。
この辺の、出来事の微妙な前後関係が面白いのよ♪
萌さんは きっと/まだ私の事を/怨んでるわ/
でも--/
それでも一緒に/歌うことを/引き受けた/大丈夫/
私の声と/萌さんの声が/重なり合って/共鳴する/
あの不思議な/充実感があれば/
それだけで充分だ/やっと--/
やっとずっと/気になっていた/
やり残していた/ことを形にする/ことができる/いつまでも/フラフラしている/自分の気持ちを/
思い出に変える/ことができるわ/
「萌さんは きっとまだ私の事を怨んでるわ」って、史緒が想うのは、主に、神野との婚約とそれを隠していたことよね。
S.R.M.の解散は、録音スタジオでの人間関係破綻よりも前に決まってて。それは萌が神野の申し出を受けて、S.R.M.脱退を宣言することで確定してた。
「やっとずっと気になっていた/やり残していたことを形にすることができる」は、S.R.M.の“INVOCATION”を形にするミニ・アルバムのこと、って思える。
じゃぁ「いつまでもフラフラしている自分の気持ち」って、何のことだろう?
読者的には、史緒本人が蘭丸に惹かれてる気持ちのことだろう、って思えるけど。
ここでは、史緒自身が自分の気持ちのことを、自分でどう理解してるか? 気になる。
史緒って恋愛経験値小学生並みだから。
アタシが思うに、ここでの史緒は、蘭丸のこと「音楽を志す同志」みたいな自己納得の仕方をしてるような気がして。これは、アタシの解釈だけど、そうも解釈できる曖昧な描写が面白い。
例えば、久しぶりに再開した蘭丸から、「(師匠である)ベティのワールドツアーでツインピアノを弾くことに!!」なったって、世界デヴューの話を聞いた史緒は、嬉しくって泣き出しちゃう。
“良かった……/
良かった…/
本当に/良かったんだ/
あの時の/辛い決心は/
まちがって/なかったんだ/
後悔しなくて/良かった/
本当に…/本当に/良かった”
ここで、史緒が“あの時の/辛い決心”って自己了解してるのは、ウィーンに渡る直前、成田の国際空港で、史緒を引きとめようと手を握る蘭丸に「手を離して」と言ったこととかでしょう。
要するに、史緒って、自分で自分の恋心について、無理のある理解を意識の上では、してて。そんな描写が面白い。
それはそれとして。
史緒がダメなとこは、思わず出ちゃった涙を、再開した蘭丸に見られちゃうとこ(笑)。
蘭丸の方は、これで、史緒が自分を拒絶してウィーンに渡った心意気を納得しちゃう。だって、史緒がウィーンに行かなかったら、蘭丸もベティについてニューヨークには行かなかったはずで。そうしたら世界デヴューもなかった。
蘭丸、史緒に惚れ直すのくだり(笑)。
史緒が「恋愛経験値小学生並み」って描かれてることで、「悪女の深情け」的展開になってないとこも『プライド』って物語の面白みよね。
こんなふうに整理すると、読者の方には、それって恋愛を綺麗事で処理したオトギ話なんじゃぁないの? 的疑惑も浮かんでくるかもだけど。
そうした批評的視点は、作中の萌が体現してきてる。
信じ/られない……/
何で引き受け/るのよ あの女は/
あんな目に/あわせた私と/一緒に歌い/たいですって?/
そう、史緒って、それなりに恋愛経験ある人間からみれば「信じられない」ようなオンナなのよ(笑)。
萌のキャラクターは、8巻から変貌をはじめるけど。それは先の話し出し、何しろ現在進行形の作品で、まだ未完だからどうなるかわかんない。
ただ、萌と史緒とが、作中で互いに互いを、批評しあうようなぶつかり合いは、続いて欲しいと期待したい。
『プライド』って物語の面白みは、あらかじめ勝敗の評価尺度が定まってる枠内での“ライバル関係”が描かれてるわけではない、ところにあるから。
史緒と萌とが、その言動のいがみあい、ぶつかりあいをもって、互いに互いを、批評しあってく関係が面白いのだ。
7巻での萌は、と言うと--
萌ちゃんが/部屋に入ったとき/
全員がすぐに理解したと思う/彼女がなれない/外国暮らしで/苦労してると/いうことを--/
萌は留学先のミラノで、そのムラっ気、気分屋なところを徹底的に叩かれ続けて。金欲しさでS.R.M.のCM収録に参加したものの、自信を喪失していた。
こんな萌を蘭丸が的確にサポートし、菜都子ママがフォローして、自信を回復させる。
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CM撮影では、まず、先行する音楽収録が、奇跡のように1発OK。史緒、萌、蘭丸のそれぞれが、グレード・アップしてるって描写。
続く、画像撮影現場の場面以降では、S.R.M.の3人、それぞれの想いが錯綜。
次々と小さな波乱が連鎖して描かれ、メロドラマの達人、マンガ家一条ゆかりの手腕が堪能できます♪
そんな内、苦労人の萌が、元お嬢様の史緒の甘いとこを突きまくるけど。この辺は、萌の言うことが正論で、史緒が甘いって場面で、読んでて面白い。
そんないろんな出来事の連鎖の内に、先々の大きな伏線も、さり気に仕込まれてるとことか、一条さんの料理は憎い♪
そんなわけで、頁数は割かれてるけど。イメージの上では、バタバタっと。あっと言う間に過ぎる印象の、日本でのCM撮影。
撮影終了後は、女装のピアニスト、ラン(蘭丸)の世界デヴュー。
そして、物語は、史緒と萌とが共に参加するコンクールに向かうのだった。
8巻では、久々に、公式舞台上での競い合いが読めますっ☆
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書誌情報:
一条ゆかり,『プライド』7(クイーンズコミックス コーラス),集英社,Tokyo,2007.
ISBN 4-08-865394-7

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