空戦について/逆転ドラマを可能にする状況設定とは

 #もの書きのログを見ていて、 空戦についての質問 が出ていたので、これを補完する形でひとつ四方山話を。
 空戦に関しては、ログにもあるように、軍事的な資料やパイロットの回想録をはじめ、小説や映画、漫画など数多くの作品が存在する。
 ただ、初心者がそれらの資料を集めて目を通しても、「どこに着目して」読めばいいかが分からないと、読み取ることは難しい。苦手な科目の教科書や参考書を何遍読んでも、意味を把握できないようなものだ。

 そこで、空戦の資料に目を通すという人のために空戦のコツというかツボをいくつか紹介してみよう。

1.先に見つけた方が勝つ
 空戦の基本は、先に相手を見つけることである。
 相手より先に、相手の高度や速度を知ることができれば、勝利の確率はぐんと上がる。
 というのも、航空機というのはそれほど自由に空を移動できる存在ではないからだ。
 地上で言うのならば、全速力で走っている車やバイクのようなもので、この場合の急ハンドルや急ブレーキが事故の原因になるように、航空機だって、急に進路や速度を変えては事故の元になる。車やバイクのように周囲に障害物やはみ出す道路がないから、事故が即破滅につながらないだけで、事故は事故だ。
 また、広い空の上であっても、航空機はふらふら目的もなく飛んでいるわけではない。相手の位置と高度と速度が分かれば、どこに向かっているかも分かる。そこで、相手を先に発見できれば、相手の未来位置を予測して自らが優位を占め、相手に劣位を強いることができるのだ。

2.優位と劣位
 航空機の性能や武装にもよって違うが、おおむね敵の上、それも後ろ斜め上が優位である。こっちは相手を攻撃できるが、相手の攻撃はない、あるいは攻撃しにくい場所が優位であると考えればいい。
 相手がレシプロ時代の戦闘機であれば、攻撃手段としての機関銃は前方にしか撃てないことが多い。敵の後ろにつくことができれば優位なのは、そのためである。
 さらに後ろ斜め上が良いというのは、この位置であれば、相手がどう動こうが追尾が可能だからである。もちろん、こちらが第二次世界大戦のレシプロ機で、相手が現代のジェット戦闘機であれば、あっという間にぶっちぎられるので、彼我の性能差がさほどないという前提であるが。
 空戦を扱った映画や漫画では見せ場となる、航空機の格闘戦=ドッグファイトは、すなわちこの優位の取り合いである。前方しか攻撃できない航空機同士の戦いであれば、敵の後ろについた側が優位であり、勝てるからだ。

3.マニューバ(機動)
 相手より優位に立つための操縦方法、それがマニューバである。有名なインメルマン・ターンとか、零戦必殺の左捻り込みとか、それらのマニューバはすべからく、自機を相手より優位に立たせることを目的としている。旋回も、宙返りも、急降下も、とにかく、相手の優位を奪い、自らが優位に立つという目的のためである。
 お互いに相手より優位に立とうとしているわけだから、マニューバの成功率はそう高くない。こちらが捻り込めば、相手も捻り込む。こちらが急降下して振り切ろうとすれば、相手も急降下して追随する。
 よほど腕に差があるとか、機体の性能が違うとか、相手の思惑をはずして予想外の動きをしたとかでない限り、マニューバは成功しない。
 ドッグファイトとは、あまり効率がよくない戦い方なのだ。

4.レーダーと通信機
 それゆえに、空戦の進化はきわめてシンプルな結論へつながっていく。

・相手より先に発見し
・相手より優位を占め
・最初の一撃で落とす

 これが、第二次世界大戦から現代までの空戦の必勝法である。
 加えて、どんな場合であってもパイロットの技量が高くある方が有利なのは間違いないので、敵味方双方がパイロットの鍛錬には全力を傾けることになるが、その結果、パイロットの技量に差がつきにくい。むろん、飛行時間や訓練内容によってある程度の差は生まれるが、戦争末期で片方にだけベテランパイロットが枯渇したとかの状況でなければ、決定的な差にはなりにくい。
 そして、同じくらいの技量のパイロット、同程度の技術水準の航空機であれば、何よりも相手より先に発見することが優先される。
 そのための技術が、レーダーと通信機だ。レーダーがあれば、目による見張りよりも遠く、確実に相手を見つけることができるし、通信機があれば、それを空を飛ぶ航空機に伝えることができる。

 だからこそ、現代の空戦においてはレーダーを持つ空中警戒管制機が何よりも貴重なのだ。こちらに空中警戒管制機があり、相手になければ、必ず相手より先に発見が可能で、その指示に従って優位を占めることができ、勝利が可能になる。
 そしてもちろん、戦力差がありすぎて、優位に立とうが勝てない相手であれば、戦わないのである。空の戦いとは他の戦いと同様に力学であり、強い方が勝つ。頑張れば勝てるとか、戦うまで勝敗は分からないなどということはない。そもそも、空戦は制空権を取り合うための航空撃滅戦という大きな戦いのごく一部であり、そして航空撃滅戦とはすなわち消耗戦である。
 つまりは、相手より多くの戦力を“すり潰すことが可能”な側が最終的な勝利を収めるのだ。
 劣勢な側がマニューバひとつで華麗に逆転して勝利などというのは、ドラマの中だけである。

5.ドラマを作るために
 身も蓋もない現実を把握した上で、ここからがドラマ作りの腕の見せ所である。ドラマにはつきものの逆転を演出するためにも、現実を知っておくことは重要だ。
 設定レベルからいじり回せるのであれば、空戦を描くためにはいくつかのポイントがあることが分かる。
 その筆頭が、レーダーと通信機の存在である。レーダーも通信機もなければ、空戦は一気に航空機の性能とパイロットの技量が左右するレベルまで落とすことができるからだ。
 存在そのものを抹消できなくとも、一時的に使用不可能にすることでドラマ向けの状況設定を作ることもできる。
 いずれの場合も、大事なのは、存在しないこと、あるいは使用できないことを明記することである。便利な道具を、あるのに使わないという理由付けは、読者にフェアではないし、フェアな扱いをされなかった読者は語り手に対して不信感を抱く。良いことなど何もないのだ。
 設定をいじれない場合は、状況を限定させることでドラマを成り立たせることが可能になる。
 たとえば秘密作戦で、支援を受けられないパターン。あるいは、個人的な愛憎や確執があり、優勢な側があくまで個人的に決着をつけるためわざと支援を受けないパターン。
 これらのパターンならば、空戦の結果に機体やパイロットよりも重要な影響を与える味方の支援という要素を削ることができる。カメラの位置をパイロットから動かさなくていいわけで、展開がすっきりとし、かつ、逆転の要素を組み込むこともできるようになる。

6.まとめ
 どんな戦いでもそうだが、現実はキビシイ。勝つ側には、勝つ理由があり、負ける側には負ける原因がある。だから、逆転ドラマにもっともらしさと納得力を演出するためにも、現実を知り、どこを無視したり改変すればいいかを見極めるのが重要になるのだ。

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