カルディア王国記『マジェティカのグルメ・ノート 火吹き竜の話』

 繁栄きわまる、わがカルディア王国の王都、アンティス。
 そのアンティスにそびえる王城を貫いて、王都の中央を一直線に走るのがアンティス中央通り――通称『王国通り』である。
 華々しさといったら、そりゃあない。馬車が4台も平行して通れるような広さで、地面はすべて石畳。
 そしてその通りを埋めるのは……なんと、これすべて商店なのである。
 日用品はおろか、宝石、衣類、家具、魔法具屋、まじない屋、武器屋、防具屋。果てはあの蛮族どもの住まう、ケセール大陸の品々まで手に入るというのだから。底知れない。
 そんな王国通りをはじめとした、王都の最新グルメ事情を広く大衆に伝えるのが、本誌『マジェティカのグルメ・ノート』である。
 本誌は、王都に住まう女神たちの努力を無駄にしたくはありません。
 故に、食後と深夜に本誌を読み進めることは、ご遠慮願いたい。
  『グルメ・ノート』編集長 ラング・マジェティカより

 
 第35誌 王国通り裏の『火吹き竜』 ティマ・サーラ記者による

 はいはい、こんにちは! サーラちゃんでぃす!
 私の記事もこれでにゃんと三回目になっちゃいましたね! もーびっくりですよー。
 思えば色々ありました!!
 編集長に出会ったり、彼氏に振られたり、酒場のオッちゃんと飲んだくれたり、それでも私は元気です!
 そいじゃー、例によって例のごとく。今日もガッツリ美味しいもの、いっちゃいますか!
 ……え、テンション高いって?
 皆さん! ダメですよ、今日はテンション上げてかないと!
 なんてったって、今日レポートするのは、『火吹き竜』ですよっ!?
 竜退治にいくんですからね! うかうかしてると……焼き殺されちゃいますよ!?
 さあ準備できました? 武器に防具にポーション。買ったら装備しなきゃ意味無いんだぜ、オッケィ?
 それじゃ出発、れっつごー!

 はいはーい。ただ今、王国通り南18にお店を構える、ランジェリーショップ『ネグロース』の目の前にいます。
 どうでもいいんですけど、ここ『ネグロース』では男性のお客さんが絶えないそーです。
 何故かっていうとですね。ここでは、なんと!
 じゃじゃん。
 お客さんが選んだ下着を、店員さんに試着してもらえるのだー!
 しかもしかも! オプションサービスでそのまま奥の個室へ直行ー! てな寸法なんですよ。にしししし。
 個室で何が……って?
 ……だからそれは、えっと。
 もー! 年頃の女の子に何て事言わせるんですかっ。やらしーなー。
 まあ。そんなことはさておき、この『ネグロース』の横、通りを一本裏に行ってみたいと思いますっ。

 ……おおっ! 並んでます! 行列ですよっ。
 こんなお店も何もない所に、人の行列。一体、奥には何があるというのでしょー?
 さあさあ、行列を追いかけて進みます!
 見えてきました……うわ、すごっ。すごい煙! どうやら、あれは屋台ですねー。
 お姉さん火事かと思っちゃいましたよ! さらに近づいてみまーす。
 じうじう、音もしますね~。どうやら焼き肉のようです。
 んんん、香ばしいにおい! たぶん、鳥ですね、これ!
 よっと。屋台の目の前まで到着です。
「いらっしゃぁい!」
 おおっ、良い男!
 ……じゃなかった。ええと、店員さん。ここでは何を売ってるんですか?
「うちは、ほら。これさ」
 おおお、串焼きの鶏ですか。うひゃあ……じりじり音を立てて脂がこぼれてます。
 でもこれじゃ『火吹き竜』じゃないですよね? 何でだろ。
「ま、いいから食ってみなって」
 はーい……それにしても、でっかいなぁ。これ、鶏半羽くらいの量がありますよ。
「そのままかぶりついてくれ」
 うあーなんか豪快。こういうのがあるから屋台っていいのよねー。
 ではでは、いただきまー。
「あ、ちょいとまった!」
 ん? 何ですか? 今すごく良いとこなんですけど!
「これ片手にもって」
 お? ジョッキの中身は……麦酒ですね。んー、良い感じに冷えてますけど。
「近くの井戸でね。冷やしてもらってるのさ」
 んー、私どっちかっていうと、麦酒は常温の方が好きなんだけどなぁ。
「ま、いいから。いいから」
 ふーん、まあ。いただきまーす。
 ……ふんふん。これはなんというか、予想通りの、焼き鶏というか。はむっ。
 塩味ベースですね、むん。おいしいけど。特別なんていう、か…か。
 ……かぁああああっ!?
 何これ!? 舌が、舌が焼けてる! 焼けてるっていうか痛い!? なに、火傷!?
 ててて店員さんっ! た、たすけてっ。
「麦酒、麦酒飲んで」
 あ、そか!
 ぐびぐびぐびぐび。くぅ~~っ!
 ……はああ。この一杯のために生きてるー! ってカンジよね。
 ……。
 じゃなかった! な、なんてものを食べさせるんですか!?
「で?」
 へ?
「味は、どうよ?」
 あっ、あんな火傷したら味なんて!
「舌? 火傷してる?」
 ……ん? え、いや。あれ? ……してない。どころか。
「どころか?」
 なんかもう一口くらいなら、いけそうな気が。
「……いっちゃえば?」
 むむむむ。
「やめてもいいけど?」
 ……くっ。
 この味の秘密! あとで教えてもらいますから! はんぐっ。
 むぐ、むぐ。……ぐうーっ!
 お兄さん、麦酒、麦酒もってきて! ジョッキ三つくらい! あと鶏、おかわり!
「へいへい、毎度っ」
 くあーっ! 麦酒うめーっ! 火ぃ吹くーっ!

 むぃ……もう食べらんない。
 店員さん。さっきのアレ……何?
「これ」
 何ですか、この細長くて、赤い実。干してありますね。
「竜の爪っていわれてるけどね」
 おお。いわれてみればそんな風に見えますね。竜、みたことないけど。っぽいですね。
 貿易品なのかな?
「よくわかったね、列島モノさ」
 へえー、これがあの火傷味のヒミツ?
「ま、そんなとこ。今ンところ、王都広しと言えど、扱ってるのはウチくらいだろうね」
 ……お、この屋台。銀猫亭の看板がついてますね?
「そそ、銀猫亭の息子みたいなもんさ」
 あー、銀猫亭って、貿易商さんが店やってるんだっけ?
「おっ! お姉さん頭いいね。一杯どうぞ」
 あ、どもども。えへへ。
 ん……つまり、ぐびり。貿易で手に入れたレアなものを、いち早く取り入れられるってことね。
「そゆ事」
 でもこの味、浸透するまでに時間掛かりそうですね。ぐびぐび。
「そーなんだよ、こないだなんかさ。騎士さんに食わせたら、えっらいことになっちゃて」
 あっはっは。
「それがまたよりによって騎士団長! もう牢屋にぶち込まれたときは、生きて帰れないと思ったね」
 生きて帰れてよかったねー。めでたいめでたい。じゃ、お酒、強いのちょうだい!
「おいおい、あんま飲みなさんなよ」
 だいじょぶだいじょぶ、もう取材なんて終わったようなもんだから。
 さー、今日は飲むぞー。お兄さんも付き合って!
 カンパーイ!

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