『機動戦士ガンダム00』のSFネタ解説その27:恒星間航行
機動戦士ガンダム00に出てくるギミックや台詞を元に妄想をたくましくしていくSFネタ解説シリーズの27回目。
いよいよガンダム00の2ndシーズンも終了間際。本日(3/15)放映の第23話『命の華』では、スペースコロニーほどもあるイノベイターたちの大型母艦が登場した。リボンズ曰く、外宇宙航行用のノアの箱船らしい。
この外宇宙という言葉を、どこと考えるか。
たとえば、外惑星(がいわくせい)という言葉がある。地球軌道よりも内側を内惑星と言い、地球よりも太陽から遠い惑星のことを指す言葉だ。
谷甲州さんの『航空宇宙軍史』では木星以遠の諸国家が地球圏から独立するために連合を組んで戦う『外惑星動乱』という戦乱があるが、この場合は火星は内惑星扱いであったので、火星はどっちに入れるかはSFによっても違う。
外宇宙航行とは、この外惑星行きの宇宙船であろうか?
あるいは、惑星間航行のことかもしれない。軌道エレベータを建設したとはいえ、ガンダム00世界の人類の居住エリアは地球=月圏のようだ。火星や金星という、他の惑星に移民するための宇宙船かもしれない。
それでも、やはりSF的には風呂敷は大きく広げたい。
ここは、外宇宙を、太陽系の外。別の恒星系と考えてみよう。果たして、恒星間航行は可能なのだろうか。
いつものように真面目七分に法螺三分、大嘘ついても小嘘はつくなの三割精神でいく。最後までおつきあいいただければ、幸いである。
恒星間航行――なんとも、ロマンあふれる響きである。
人類は、なんだかんだ言って、20世紀の間に宇宙へ飛び出すだけでなく、月へ到着し、さらに火星や木星、土星へと探査機を飛ばすことに成功した。その中には太陽系の外縁にまで到達した探査衛星もある。
だが、今なお、恒星間航行は実現していない。パイオニアやボイジャーといった太陽系脱出速度(第三宇宙速度)を持つ探査衛星は、放っておけば、何万年、何十万年とかけて別の恒星系にたどりつく可能性もあるが、これはあくまで、ついでの話である。最初から恒星間探査を狙って打ち上げたものではない。
なぜならば、他の星までは地球から冥王星までが指呼の距離に思えるほどに長い、長い距離があるからだ。
太陽系に一番近い、プロキシマ・ケンタウリまでの距離は4.2光年。
光の速度=秒速30万キロメートルで4.2年かかる距離だ。ダブルオーガンダムがトランザムで秒速100キロメートル出して飛んだとしても、12万年かかる距離である。どう見ても現実的な数字ではない。
しかし、諦める必要はない。
恒星間航行であれば、大気や地面の摩擦で減速される地上と違い、慣性の法則が味方をしてくれる。ゆっくりであっても、加速を続ければ、速度はじわじわと上がっていくのだ。それこそ、光速に限りなく近づくことも、理論上は可能なのである。
ソレスタルビーイングの母船、トレミーことプトレマイオスにガンダムを搭載し、GNドライブで1Gの加速をしたとしよう。
1G加速とは、9.8メートル/毎秒の加速だ。これだと、地球上の重力と同じ加速なので、生活するのもたやすい。トランザムしなくても、このくらいの速度は出せるはずだ。
毎秒9.8メートルの加速で大丈夫なのかと思うが、宇宙空間であれば速度は常に積算されていく。
1時間後には秒速35キロメートルで、トレミーは地球軌道での太陽系脱出速度(第三宇宙速度)をオーバーする。
さらに100日たらずで光速の10%近くまで加速し、すでに冥王星軌道をはるか彼方にして深宇宙へと飛び立っている。
1年(宇宙船の外での時間)後には、トレミーは光速の70%を出し、太陽系の最外縁である彗星の巣のオールト雲を脱出するかどうかというあたりだ。
こうして相対性理論による時間の短縮も含めれば、数年の単位で近隣の星系までトレミーで移動できる計算になる。もちろん、無補給であるから、いろいろと不足するものはある。
一番不足しそうなのが、推進剤だ。
ガンダムにおける鬼門。イメージに使うのはいいが、具体的な数値計算をしたら誰もが不幸になる悪魔の言葉が推進剤だ。ツィオルコフスキーの公式と質量比は、冷たい方程式よろしくガンダムとは相容れない。
しかるにガンダム00世界でのGNドライブ=太陽炉は真空エネルギーポンプと同じく無限エネルギーの一種で、燃料も推進剤もいらないと仮定することでこの問題をクリアできる。
この話をするといつも永久機関を売り込む詐欺師な気分になるのだが、とりあえず、そういうことにしておく。
では、推進剤無用のGNドライブがない場合、恒星間航行は不可能なのだろうか?
そんなことはない。難しいが手はいくつか存在する。
まず王道として、自ら消費する推進剤を用意して出発するパターンがある。スペースシャトルやH2ロケットと同じく、巨大なタンクに推進剤を詰めてくくりつけ、使う端からタンクを捨てて身軽になって加速していくのだ。
実際にこの方式で恒星間宇宙船を設計して、計画にまとめた人々がいる。
英国惑星間協会による、ダイダロス計画がそれだ。
不撓不屈のジョンブル精神は、現在の技術の応用で恒星間航行を実現するために、数字がいかに無茶であろうが、経済的に不可能そうに見えようが、理屈を曲げること一切なしに、計画をまとめあげた。
総重量5万4千トン。
そのうち、推進剤と燃料が5万トン。
宇宙船のエンジン部分など使い捨てていくのが3千500トン。
宇宙船本体はわずか500トンである。
しかも、ここまで大量の燃料を積み込んで、出せる速度はようやっと光速の10%。しかも、減速はできない。減速せずのフライバイ方式で、目的地であるバーナード星(太陽系から約6光年)まで、50年かけてたどりつくという壮大な計画だ。
しかし、いくらなんでも壮大にすぎるとお考えのあなた。
モノゴトを小さくコンパクトにする日本人的発想法は、恒星間航行でも役に立つのだ。
それが、野田篤司さんの提唱する IPS (恒星間測位システム)であり、この方式を応用し、野尻抱介さんが『沈黙のフライバイ』というSF小説を書かれている。
これらのアイディアおよび作品でも、ダイダロス計画と同様に、光速の10%まで探査機を加速(減速はしない)させる。
しかし、推進剤と燃料を自前で用意するロケットでは、推進剤と燃料が多いと、『推進剤を加速するために大量の推進剤と燃料を使う』ことになる。ダイダロス計画が5万トンもの燃料と推進剤を抱えているのはそのためだ。
そこで、逆転の発想。
燃料と推進剤はもっていかない。外から加速してもらう――というのが、レーザー光推進システムである。
探査機が重ければ、レーザーの出力がべらぼうに高くなるが、IPSのように探査機を極限まで小さく軽くしてしまえば、そこそこの出力の(といっても、大都市のひとつやふたつの電力はまかなえるほどの発電力が必要になるだろうが)レーザー発振器で恒星間航行が可能になる。
ちなみに、何でも大きくパワフルにするのが好きなアメリカ人のSF作家、ロバート・L・フォワードの小説『ロシュワールド』では、水星軌道に大量の太陽光発電システムとレーザー発振器を用意し、人類が地球全土で使うよりも大きい電力を使って、こともあろうに有人探査隊をバーナード星まで送り届けている。(どうやって有人探査隊の乗った宇宙船を減速しているかを知りたい方は、ぜひこの本を読んで確認していただきたい)
また研究者でもあるフォワード博士は、この『ロシュワールド』でも使われたレーザー推進型宇宙船について専門の論文を書かれているとのこと。
さて、太陽光発電システムと莫大な電力をキーワードに、再びガンダム00世界に戻ってみよう。
最終決戦によって、イノベイターの外宇宙航行船、そしてガンダムに搭載されたGNドライブがすべて失われたとしても。
ガンダム00世界の人類は、恒星間航行に足る力を、すでに持っている。
軌道エレベーター。そして太陽光発電システム。
このふたつがあれば、たとえ時間はかかっても、人類は、レーザー光推進システムで外宇宙へと乗り出すことが可能なのだ。
物理法則にイカサマ的なGNドライブほどお手軽にはいかない。
それでも、創意工夫と情熱で、外宇宙へ乗り出すことができる。そのための力をすでに人は持っている。
夢を諦めることはない。
一人の知恵と力では届かないことでも、皆の知恵と力を少しずつ重ねていけば、どんな夢でもかなえる方法はきっとある。
英国惑星協会のダイダロス計画から、フォワード博士のレーザー光推進システム、そしてそれらの力を借りて考え出された野田篤司さんのISPや野尻抱介さんの『沈黙のフライバイ』がそれを示している。
後は、夢の達成のために、自分にできることをやればいい。
目指すべき星はいつも、天にある。
※ロシュワールドは残念ながら絶版の模様

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