『反逆者の月3 皇子と皇女』デイヴィット・ウェーバー 3巻はロストコロニーを舞台にしたマスケット銃による独立戦争。ナポレオニックなウォーゲーマー大喜び
「月は宇宙人が残した古代の戦艦だったんだよ!」「な、なんだってーっ?!」でおなじみの『反逆者の月』の3巻。今のところ未訳のものもなく、これが最終巻。
1巻では、人類の歴史を影で操ってきた反逆者を討伐し、2巻では、宇宙の深淵からやってきた謎の敵との星を揺るがす大艦隊戦を繰り広げたこのシリーズ、果たして3巻ではどこと戦うのかと思いきや、なんと一気に時代をさかのぼり、ロストコロニーを舞台に19世紀風のマスケット銃メインな戦いとなった。
なぜ、そんなところで帝国の皇子と皇女が戦うことになったのかは、本書をお読みいただくとして(1巻、2巻が面白かったなら、迷うことはない。3巻も面白いのでぜひ読むべし)、そもそもマスケット銃な戦いとはどんなものであろうか?
マスケット銃というと、日本でいえば戦国時代の火縄銃のようなものを想像していただければよろしい。
先から弾を込めて、ずどん、また込めて、ずどん。
弾込めに時間がかかり、連発できないので、洋の東西を問わず「マスケット銃だけ」の軍隊が作られることはなかった。槍兵やパイク兵という、長柄の武器を構えた歩兵たちが戦列のバックボーンとなり、マスケット銃はその支援兵器として使用されたのである。
16世紀スペインで編み出されたテルシオ隊形をまず紹介しよう。
●がパイク(槍)兵で、□がマスケット銃兵だ。
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ごらんの通り、主力はパイク兵の槍衾である。分厚い密集陣形を組んだパイク兵の物理的・精神的衝撃力で敵の戦列を打ち砕く。マスケット銃兵は、その支援役というわけだ。パイク兵の角に位置するマスケット銃兵は、前後左右どの方角へも援護射撃が可能であった。
両軍が接近し、槍による殴り合いが始まったら、マスケット銃兵はパイク兵の隊列の後ろに引っ込むのである。
16世紀後半になり、旧教(カソリック)なスペインに新教(プロテスタント)なオランダが独立戦争を挑む。
ヨーロッパ最強国であるスペインのテルシオは、隊列に厚みがある分だけ鈍重で、機動力に欠けた。
オランダ側の指揮官であるマウリッツは軍制改革を行い、テルシオの半分の長さと厚みの戦闘隊形を編み出した。
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シンプルになっただけではない。パイク兵とマスケット銃兵の割合もまた、半々になっている。このマウリッツ型の戦闘隊形では、主力はパイク兵の衝撃力ではなく、マスケット銃兵の持つ火力だ。
この場合は、パイク兵の方が支援役なのである。もし敵の歩兵ないし騎兵が近接格闘戦を仕掛けてきたら、パイク兵が前進して、これを迎撃するのが、この戦闘隊形での戦い方である。
17世紀。三十年戦争がドイツで起きる。宗教戦争のような、国際戦争のような、とにかく延々と続く戦乱の時代である。
この戦争で、新教側であるスウェーデンのグスタフ・アドルフ王は、自らが鍛え上げた軍をもってドイツに乗り込み、赫赫たる武勲をあげる。
グスタフ・アドルフ王の戦闘隊形は、マウリッツ型をさらに薄くしたものだ。
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薄い隊形は脆くもあるが、火力の有効活用という点では優れていた。分厚い陣形では、後列は前列が邪魔で射撃ができないからだ。
グスタフ・アドルフ王は大砲も小型軽量のものを用い、戦場において活用した。旧式のテルシオ隊形は、マウリッツ型からさらに進化した横隊戦術によりさんざんに打ち負かされたのである。
このように、時代と共にマスケット銃兵の火力重視の戦闘隊形となったが、パイク兵、槍兵は完全にはなくならなかった。先込め式のマスケット銃ではどうしても発射速度に限界があり、槍兵や騎兵の突撃を受けると脆いからだ。
そこで逆転の発想。銃兵も槍兵にしてしまおうというのが、銃剣である。初期は銃口にナイフを差し込む形であったが、18世紀のフランスで銃口にリング型の留め具でとりつける銃剣が発明されるや、ついにパイク兵は戦闘隊形から姿を消す。
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フリードリヒ大王の七年戦争など、18世紀の啓蒙君主による戦いは、上図のような専門の槍兵、パイク兵が消えた戦闘隊形で行われたのである。
マスケット銃の登場以来、試行錯誤を繰り返して磨き上げられた横隊戦術のいわば究極がこれであった。
18世紀末から19世紀にかけてのナポレオン戦争では、この横隊に散兵を組み合わせて有機的に戦うオーダーミックスの戦いとなる。
マスケットからライフルへ、先込めから紙製薬包による後込めへと、さらに歩兵火力が増大したアメリカの南北戦争や、日本の幕末の戦いの結果、横隊戦術では損害が大きくなりすぎることが判明する。
そして味方の火力支援の元、遮蔽物から遮蔽物へと移動しつつ戦う現代的な歩兵戦術へと移り変わっていくのである。
なお、1巻2巻ではハイテク兵器ばかり登場していたため、あまり目立つことのなかった強化人間の設定が、テクノロジーが失われた惑星に漂着しての原始的な戦いでは俄然と存在感を増すのも面白い。裏(表?)のクライマックスである皇后暗殺計画では、反乱側も防衛側も強化人間なせいで大味な展開になっている点と読み比べてみても、強化人間の設定はテクノロジーがない時の方がオイシイのは間違いない。


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