ショートショート:トーストのようなもの

「これは何でしょうか?」
「トースト」
「『トースト』だったものではありませんか? 炭になっている経緯を訊ねてもよろしいでしょうか?」
「あーひどーい。ちょっと焦げただけジャン」
「真っ黒な『トースト』を見たことがある方の方が珍しいですよ。墨にでも浸したのですか?」
「墨じゃない。黒砂糖をたっぷり」
「常識的に考えて食べられません」
「たぶんおいしいと思うよ?」
「何で訊くんですか――味見もしてないってことですか」
「大丈夫、おいしいから。ちゃんと火も通したし。火力だけは気を使ったし」
「別の方向に情熱を傾けていますよ。これ」
「『これ』じゃない。『トースト』だよ。立派な」
「パンを黒くしてして煤にしたものは『トースト』ではありません」
「そんなに怒らないでもいいのに」
 がり
「お味の感想をどうぞ」
「ごめん。あたしが悪かったわ。これ、『トースト』じゃなかった」
「そうでしょうね」
「リクリツィアだ」
「もっと違うでしょうよ!」

この記事へのトラックバックURL:

http://drupal.cre.jp/trackback/2546

俺ならこう書く(甲殻)機動隊

 窓から差し込む朝日がまだ眠い目にまぶしい。我が家では朝はご飯と相場がきまっているのだが、今日は珍しく奴が朝食を作るというので、嬉し半分不安半分でリビングに降り立ってみると……。
 目の前には四角くて黒い何かがおいてあった。
「これは……なんだ?」
「何って。トースト」
 違う、トーストはこんなに濡れ羽のカラス色じゃあない、こんがりキツネ色というんだ!
「なによう、ちょっと焦げただけじゃない!」
「ちょっとか。お前はこれをちょっとと言い張るんだな」
 両手をグーの形で振り上げ、ぷんすかと怒るエプロン姿だけはもう、十分にすばらしいのだけれど。……ああ、料理の内容が伴っていないというのがこんなに悲しいなんて、俺はいまだかつて知らなかった。そんな俺の心内を知ってか知らずか、明るい笑顔で話しかけてくる。
「黒糖味だと思ってよー。ほら、えーと」
 なにかを思い出すように、眉をしかめて、ふ、ふ、ふー、とハ行を連呼する。その様ですらもう、ご飯3杯いけるかもしれないのに。
 ああなんたることか! 肝心のご飯が無い!!
「……もしかして、ふ菓子のことか?」
「そうそれ!」
 無理だろ。
「たぶんおいしいよ絶対きっと!」
 多分なのか絶対なのか、きっとなのか。量子力学のトーストを目の前にしながら俺は困った。困り果てた。これを美味しそうに食うのは……至難の技だぞ。自慢ではないが、俺は嘘がものすごく下手だ。しかし、食べないという選択肢はなかった。
 要するに……がんばれ、俺。明けない夜はない、明日はきっと来る、明日の朝食はぜったい俺が作る。
「じゃ、じゃあ食うからな」
「うんうん。食べて食べて!」
 まだ熱々のそれを手にとって……。
「あっぢぃ!」
 あまりの熱さに、思わず手を放してしまった。放られたトーストらしきものが、床に転がる拍子に、硬い音を立てて二つに割れる。見ると、トーストらしき物体の中身がなんてことだ、赤熱していやがる。
 俺は手を冷やすのも忘れて、思わずつぶやいた。
「料理じゃなくて錬金術だったのか……」
「どういう意味よー!」


この記事をブックマーク

人気コンテンツ