あいの魂は、なぜ現世に戻ってきたか?(アニメ『地獄少女 三鼎』の観どころ)
アニメ「地獄少女」シリーズの主人公、閻魔あい。
彼女は、第3シリーズ『地獄少女 三鼎』の終盤4話(第23話~26話)で、完全復活します。
地獄少女としての完全復活が描かれるのです。
戦国時代に一度死んで甦ったあいは、閻魔庁の嘱託で、地獄流しを処理する地獄少女になった。
地獄少女は、依頼を受けると、現世の「晴らせぬ恨み」の相手を地獄に流す地獄流しを、「地獄通信」を媒介にして処理する(「地獄通信」は、戦国時代~江戸時代頃は「地獄絵馬」の形で営まれていたものの発展形だ)。
しかし、閻魔あいは、第2シリーズ『地獄少女 二籠』のラストで成仏。
そんな、あいの魂が“なぜか”現世に戻ってきたところからスタートするのが「三鼎」の物語。
実は、『地獄少女 三鼎』は、全26話を費やして描かれる、閻魔あい復活譚なのです。
この辺の概略は、不必要なネタバレを極力避ける方針で、別に紹介したけれど。
この論考文では、「必要なネタバレは避けず」に、「三鼎」で描かれた、地獄少女=閻魔あい完全復活譚のエッセンスについて論じたい。
【本文の想定読者とネタバレについて】
この論考文では、「三鼎」どころか、「地獄少女」シリーズ自体を観ていない方も想定読者に含んでみます。
最初のシリーズ、第2シリーズ(『地獄少女 二籠』)は観てても、「三鼎」は未見という方にも、この作文読んでもらえれば、筆者は嬉しいです。
ただ、読む、読まないは自己選択でお願いします。
何しろ「必要なネタバレは避けない」方針で書きますので。
人によっては、初見の前に知りたくないかもしれないことも、必要があれば書いてしまいます。
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一度、物語内で成仏し、地獄少女という苦役から解放されたあいが、地獄少女=閻魔あいとして完全復活する。そんな物語に26話が費やされる。とても正しい創作方針。
現世に戻ってきて、いきなり「気が変わった。やっぱり地獄流しがんばるわ」……、こんなだったら、「二籠」のラストはなんだったの? ってことになっちゃう。
ただし、「三鼎」の第23話~26話は、単に、閻魔あいの完全復活が、それまでのストーリーに新に付け加えられただけのエピソードではない。
例えば、それまで、どんな理不尽な恨み(逆恨み、八つ当たりの類)であっても、依頼を受けたら必ず地獄流し遂行をしてきた閻魔あいが、二籠のラスト近くで、三途の川の渡し舟をもどした様子をはじめて観る時、視聴者は「ああ、そうだったのか」と思うはずだ。
「ああ、そうだったのか、閻魔あいも今まで(数百年間)こらえてたんだ」と思うかもしれないし、「ああ、そうだったのか、地獄少女にも情はあったんだ」と思うかもしれない。
何を思うかは、視聴者それぞれだけど、必ず「ああ、そうだったのか」と思うはずだ。
あるいは、最初のシリーズの終盤近くで、生前のあいの物語、戦国時代の僻村で、人身御供のために生かされていた孤児の物語が語られる時も、視聴者は「ああ、そうだったのか」と思うはずだ。
同様に、「三鼎」のラストで、あいが、現世に戻ってきたのは何のためだったかを理解する時、視聴者はやはり「ああ、そうだったのか」と思うはずだ。
「三鼎」の第23話~26話は、単に、閻魔あいの完全復活エピソードが、それまでのストーリーに新に付け加えられただけの物語ではない。これまでのシリーズの物語を構成する、すべての断片と照応しあい、すべてのエピソードを新たな陰影で彩る、新たな光源なのだ。
そこがいい。
キーは、「あいは、何故、何のために現世に戻ってきたか?」だ。
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【ここから先は、ネタバレ注意!】
『地獄少女 三鼎』の終盤4話(第23話~26話)の、ハイライト・シーンは、蒼い彼岸花が咲き乱れる内、御影ゆずきの成仏を閻魔あいが送る場面。
「蒼い彼岸花」は、「蒼い薔薇」同様「この世にはあり得ないもの」の表象だろう。そうだとすれば、咲き乱れる場所は、「この世にはあり得ない場所」か?
新たに地獄少女の任につきながら、閻魔庁が定めたらしい「(地獄通信の)掟」を犯した御影ゆずきは、地獄に流されようとする。その時、一歩踏み出した、あい。
「裁きは、わたしが受けるわ」。
息を呑むゆずき。閻魔庁の意志を代弁、代行する三つ目蜘蛛も、さすがに一瞬の沈黙。
三つ目蜘蛛は、表情の掴めないキャラなので、この沈黙の意味は、視聴者がそれぞれに解釈するところ。
「人の世に恨みが消えぬ限り、お前は永遠に仕事を続けることになる。もう2度と解放されることはない。それでもよいのだな。……あい」
こうして、あいは、1度ゆずきに譲った地獄少女の役に再就任。地獄少女=閻魔あいとして完全復活したのだった。
そして、蒼い彼岸花が咲き乱れる場面。
御影ゆずきの体は、きらめく粒子のようになって宙に流れ出す。
あいは、怯えるゆずきに「だいじょうぶ」と囁きかけ、彼女を抱きしめる。
「どうして、あなたは?」と問うゆずき。それは視聴者も聴きたいところだ。
唇を併せてきたあいを、ゆずきが受け入れる感じになると、戦国時代からのあいの記憶が、一瞬にゆずきに流れ込んだらしいカットバックの描写。
あい「あなたは、わたしなのよ」
ゆずき「あいには彼氏がいたんだね。それだけちょぴり、羨ましいな」
ここで描かれるのは、別々の時代にそれぞれ世間に見放された孤独な魂の認め合いだ。
互いの孤独さが埋まるわけではないだろう。
ただ、「あなたも孤独だった」と了解することは、「わたしだけが孤独だったのではない」と理解することでもある。
ゆずき「あいには彼氏がいたんだね。それだけちょぴり、羨ましいな」
言葉の上辺だけを聞けば、ゆずきも随分酷いことを言ってると、とることもできる。
生前のあいは、戦国時代の僻村で、いずれ人身御供の生贄にされるために、共同体から生かされていただけの孤児だった。
アタシが思うに、幼い頃のあいは、共同体での自分の役割を、受け入れていたのかもしれない、気すらする。
“孤児なんだから仕方ない”
ムラの禁忌を破り、そんなあいを逃したのが、ゆずきが「彼氏」と呼んだキャラクター。仙太郎だ。
一部訂正:
文中、誤認を書いているので、正しておきます。
生前のあいは、孤児ではありませんでした。
「人身御供の生贄」にはされましたが、娘が不憫だと、従兄弟の仙太郎に山中のあいへ、食料を届けるよう頼んだのが、あいの両親。
あいは、仙太郎の援けを得て6年ほどを山中で生きたが、露見。村人たちは、あいの両親を殺害。あいは、その屍体と共に生き埋めにされ、後、蘇ります。(筆者)
あいが、村人たちによって生き埋めにされ、直後に甦って、一村焼き討ちのような荒ぶりを示したのには、もちろん怨念もあっただろう。しかし、より重要なきっかけは「一度、希望らしきものを与えられ、その後で、打ち砕かれたこと」と思える。
ゆずきが「(あいの)彼氏」と呼ぶ仙太郎も、村人の暴走を止めようとすらできなかった。あいには、そのことに対する悔しさもあったはずだ。
アタシが思うには、あいの記憶を得たとき、同時にゆずきには、数百年に渡ったあいの想い(情動記憶)も一挙に伝わったのだろう。
「彼氏がいたほうが、いないよりよかった」「たとえ、裏切られても」だから「ちょっぴり羨ましいな」
だから、あいはゆずきの言葉を受け止めれたのだと思う。「あなたは、わたし」なのだから。
あいも、ゆずきに言ってやればよかったかもしれない。
「ゆずきには、たくさんの友だちがいた」たとえ幻想だったとしても「それだけちょっぴり、羨ましいわ」と。
ともあれ。
御影ゆずきは、宙に消えていく、虚空に「ありがとう」の言葉を遺して。
完全復活した地獄少女=閻魔あいは、このようにして御影ゆずきを送る。
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戦国時代、生贄になるさだめにも関らず、“掟を破った”と、あいを引き立てた群衆は、彼女を生きたたまま地に埋めた。この場面で描かれる村人たちは、生贄の儀式といった式次第も無視した、ただの暴徒群衆だ。
つまり、最低限の習俗ルール(当時のルール)を成り立たせるだけの申し訳もたたない、むき出しの暴力に身を委ねる群衆だ。
「いっぺん死んで」みた、あいが、甦って、村人をほぼ皆殺しにしたのは、その日の晩のことだったと思える。
あいが、地獄少女=閻魔あいに就任することになったのは、村人を根切りに殺戮した後のことだ。
そして数百年。
『地獄少女 二籠』のラストで、閻魔あいは、唯一人の少年を救うために、閻魔庁の罰を被り、結果、成仏に至った。
そんなあいが、『地獄少女 三鼎』の最初で、魂の形で現世に戻ってきたのは何故か?
それは、「地獄少女になるさだめの少女」御影ゆずきを見守るため、だったと思える。
ゆずきのように「地獄少女になるさだめだった少女たちを、わたしは何人もみてきた」と、柴田つぐみは、ゆずきに語った。三鼎第24話「蜉蝣」でのことだ。柴田つぐみは、最初のシリーズで、地獄少女=閻魔あいの誕生秘話を探り出した柴田一の娘だ。
つぐみによれば、「彼女たちは、地獄少女にもなれず、かといって自分のさだめも受け入れられず、今も冥界と現世の間をさ迷っている」ようだ。
おそらく、「三鼎」の第1話で、あいが現世に戻り、ゆずきに憑依したのは、ゆずきだけは「冥界と現世の間をさ迷う」ようにはしたくない、との想いからだったのでしょう。
「あなたは、わたし」なのだから。
第25話「ゆずき」では、御影ゆずきが地獄少女になることを承認した後、あいは、1度姿を隠す。再度姿を現すのは「(地獄通信の)掟」を犯そうとするゆずきを止めようとしてだ。
あるいは、あいは、ゆずきが地獄少女を続けられるようなら“それはそれで仕方ない”的に思っていたのかもしれない。
けれど「罪も無く(地獄に)流された人々の恨みを晴らし」「現世を清める」という欲望に駆られた、ゆずきは、静止するあいを押し切ると、地獄通信の掟を犯してしまう。
決着がついてみれば、かつて「唯一人の罪の無い少年を救う」ことで成仏したあいは、「自分と同じ少女の罪を背負う」ことで、地獄少女として完全復活した。
つまり、三鼎の第1話~23話で、あいがこなした地獄少女の勤めは、中継ぎ、ショート・リリーフだったわけ(笑)。
決着がついてみれば、あいは、人の世に恨みが消えぬ限り、「永遠に仕事を続けることになる。もう2度と解放されることはない」と知っていて、それでも、地獄少女に戻った。
『地獄少女 三鼎』は、地獄少女=閻魔あいの復活譚なのだ。
アタシは、ゆずきの成仏をあいが送るシーンを観て「ああ、そうだったのか」と思った。
「ああ、そうだったのか。あいは、もうひとりの自分を救いたかったのね」と。
そして「世間に見放された魂の孤独を、あいは、数百年間抱えてきていたのね」とも、思った。
あなたは、どう思うだろうか?
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「三鼎」第23話~26話、最大の弱点は、第25話「ゆずき」で描かれる御影ゆずきの過去を巡る物語だ。
背景を戦国時代に設定された物語で描かれたあいが、「あなたは、わたしなのよ」とまで思いつめる少女の境遇を現在の日本を背景に設定して描き出す。かなり無理のある物語が描かれてしまった。
他にも描きようはあったかもしれない? と、思わないでもないけれど。
アタシ的には、欠点は欠点として認め、欠点はある「にも関らず」『地獄少女 三鼎』はいい作品だ、と言いたい。
おそらく、無理があることもわかったうえで、物語を描いただろう製作陣にも、敬意を表します。
「三鼎」第23話~26話の物語は、描かれないよりは描かれた方が、ずっといい。
『地獄少女 三鼎』は、「地獄少女」の他のシリーズと比べて、カリカチュア描写(誇張描写)や心理描写の面では無理が目立つ。けれど、少なくとも幻想描写のアヴェレージでは、他のシリーズに勝る。
ここで言っているのは「アヴェレージ」のことであって、各シリーズの単話をみれば、それぞれに幻想味の色濃い作品もあるけれど。
他のシリーズとの甲乙を論じることにはあまり意味が無い。シリーズ間で、他のシリーズと比較して遜色を言えない、そんなシリーズ。
好き嫌いは、視聴者のそれぞれにあるはずだし、一長一短もあるけれど。それはどの作品にも言えることで、一面をシンプルに比較していっても意味は無い。
他方「地獄少女」というシリーズ自体を好きになれない人も、少なからずいるでしょう。
それもそれで、わかるつもりです。
この件は、主に、物語内の現実の描写で、カリカチュア描写がことさらだ、といった面に集約されるでしょう。
アタシが思うには、この件についても、少し深まったやりとりが、作品内の描写に折り込まれたのが「三鼎」といった気もします。(反面、「三鼎」構成作には、無理の目立つカリカチュア描写も多いのですが)
例えば、「あなたは地獄少女になるさだめ」と、ゆずきに告げるあいは「人が人を怨むことも怨まれることも止められない」とも語る(第23話、第24話)。
これは、確かだ。
例え社会主義時代のソ連でも、ナチ政権下のドイツでも、あるいは大日本帝国でも、つまり、強権的な思想統制や、ポピュリズムによる群衆的言論統制が、現在の日本よりどれだけ厳しい社会でも「人が人を怨むことも怨まれることも止められない」はずだ。
けれど、人と人との関わりは、怨み、怨まれることだけではない。
「地獄少女」というシリーズが孕んでいる、クリティカルなポイントは、この点なのだけど。
その件を検討するには別の論考文、おそらくは、批評文が必要だろう。
ただ、アタシが思うには、「三鼎」の第23話~26話で描かれた物語は、そうした話題について考える場合でも、キーになる物語の1つだろう、と思えます。
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【おまけ】
別のレヴュー文にも記しましたが。
本文で論考した『地獄少女 三鼎』第23話~26話のDVD化の予定は、以下のようであるそうです。
第23話、24話が、2009年7月22日発売予定の『地獄少女 三鼎』八に採録される予定で、第25話、26話は、2009年8月26日発売予定の『地獄少女 三鼎』九に採録される予定、とのこと。
(2009年4月現在、地獄少女プロジェクトの公式サイト「地獄通信」による)
【改訂メモ】
・2009年4月12日、初稿公開。その後細かな改訂は重ねている。
・2009年5月8日、副題を「アニメ『地獄少女 三鼎』の観どころ」に変更。
(旧くは「アニメ『地獄少女 三鼎』第23話~26話」。この変更は、irc.cre.jpの#もの書き系チャンネルで6日にatakeさんからもらえたアドバイスに納得してのもの)
・2010年4月10日、文中に「一部訂正」を補足。
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