『ご主人様は山猫姫 辺境見習い英雄編』鷹見一幸 軽いノリとディープな世界を楽しむための図版2枚
『蛮族娘をマイフェアレディにする話』という王道中の王道を書きたいという話を鷹見さんから聞いたのはいつだったか。
確か私も、『ヴァイキングの血筋をひくロシア貴族(兼傭兵隊長)が、巡回先で徴貢した田舎娘を、地中海経由で花の都コンスタンティノープルでビザンチン貴族に売っぱらった翌年、そこで令嬢として磨き上げられた少女と出会って恋に落ちる』という速水螺旋人さんが好きそうなネタを披露したように思う。それともこのネタはどっかで速水さんが書いてたのを読んだのだっけか?
とまれ、紆余曲折のあげく、こうして本になったのを読むことができて、本好きとしてたいへんうれしい。
より多くの人が、この本を楽しめることを願い、図版としてキャラ相関図と、世界図を作ってみた。いずれも1巻の時点での暫定版であり、のちのち、追加や修正があることをお断りしておく。
『山猫姫』キャラ相関図
『山猫姫』世界図
世界図を作ったついでとして、ココで主役の晴凛とミーネに登場してもらおう。本編中でも晴凛は家庭教師として作品世界の延喜帝国の歴史や地理を教えているはずだから、その時の会話を想定してみる。
ミーネ:
これが延喜帝国の地図か。東は海というものがあるのだな。字はさんずいのはは、水の母か。
晴凛:
そうです。僕も実際には見たことがありませんが、水の母と呼ぶにふさわしく、この大地そのものと同じくらい広いそうです。大地という言葉に対して大海という言葉もありますし。
ミーネ:
それだけ水があれば、沿岸に住めば水に困ることはないな。草もよく茂るだろう。うらやましい。
晴凛:
いえ。海の水は塩が大量に溶け込んでいるので、そのまま大地に撒いても草は枯れてしまいますよ。帝国が専売している塩は、この海の水からとれるのです。そしてそれを、河や道を通して内陸部まで運んでいるのです。
ミーネ:
元となる海の水は無尽蔵なのであろ? 帝国の人間はけちくさいの。塩は採れる何百倍もの高値で売られているそうではないか。
晴凛:
それはそうですが、国家に税金は必要不可欠です。財源がなければ、帝国は維持できません。道路や運河を造るお金、兵隊を雇い軍を維持するお金。そのためにはどうしてもお金がいります。
ミーネ:
我がシムールでは、税金はないぞ。その点では帝国よりも優れておるな。
晴凛:
そうなんですか。うらやましいですね。
ミリン:
ンなわけがあるものですか。この太平楽な山猫の言うことを信じてはいけません。
晴凛:
あ、そうなんだ。やっぱり。
ミーネ:
むむ! どういうことじゃ、ミリン。我がシャン族は、族長の父上も含めて全員が羊を飼い馬を駆り、猟をして暮らしておる。税金などどこにもないぞ。
ミリン:
税という形式をとっておらぬだけです。たとえば部族の長は、季節ごとに祖霊の祭祀を司ります。そのさいに納められる財物は実際には税なのです。またシムールの王は各部族を巡回しておられますが、その時に王へ贈答する財物も実際には税ですね。
ミーネ:
なんでそんな分かりにくいことをするのだ。祭礼だの、贈り物だの。
晴凛:
税金の徴収は、とても難しいんだ。誰だって、税金を払わされるのはいやだから、あれこれ作戦や理由を作って払わないようにする。税金が減ったら国は新たな税金を作ったり、取り締まりを強化することになる。この連鎖が続いて民の不満が高まり、滅びてしまった国もあったくらいだ。
ミーネ:
なんと。金の恨みは恐ろしいの。
晴凛:
コホン。その点でいくと、塩税は、塩の密造なんかの問題は常にあるけど、比較的、税収が安定していて、徴税のための仕組みが簡単で人手も少なくてすむ。すべての人が塩は使うし、人によって消費に極端に差がでないから公平性も高い。納得させやすい税なんだ。
ミーネ:
そうやって集めた税金で、帝国は道路や運河、大きな町を作るわけだな。シムールが税をもたぬ――祭礼や贈り物の形で少ししか税を集めぬのは、良いことだと思っていたが……
晴凛:
でも少しの税金では、運河は造れない。
ミーネ:
うん。荒れ果てた大地に水をひくには、帝国のように広く集めた大金がなくてはできないのだな。
晴凛:
税金はだから、使い方なんだよ。北方に住む人だけのお金では、荒野の灌漑はできない。南方に住む人だけのお金では、氾濫する河の堤防は作れない。辺境に住む人だけのお金では、国境を蛮族から守る兵士を雇えない。みんなのお金を集めて、うまく使うことができれば――いたたっ。
ミーネ:
誰が蛮族だ! シムールは、都市はないが、野蛮な民ではないぞ!
晴凛:
えと、その。今のは慣用句……じゃなくて、シムールのことじゃないって。
ミーネ:
む? では、蛮族とはどこに住んでおるのだ?
晴凛:
帝国は長い国境線を持つからね。東西南北、多くの国や民族と接しているんだよ。蛮族というのは――まあ、それは今度にしよう。

最近のコメント
1日 20時間前
1日 21時間前
3日 21時間前
3週 53分前
3週 2時間前
3週 3日前
4週 6日前
6週 1日前
7週 1日前
8週 3日前