一条ゆかり、著、『女ともだち』、女ともだちのような母娘が交わす恋愛談義
ベテランマンガ家一条ゆかりさんの『女ともだち』は、雑誌の「りぼん」に連載されてた作品。雑誌には、1990年代の頭頃に掲載されてたはず。
幼い頃、両親を事故で失った高2の菜乃(荒井菜乃)は、女優をやってる美人の叔母、瑤子さん(西願瑤子)と暮らしてる。
引き取られて、15年も瑤子さんと暮らしてきてる菜乃だけど、行き当たりばったりで、いい加減なノリの瑤子さんと、そりが合わない。何かと批判的だ。
それはなぜかと言うと……。
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手もとのコミック版(全3巻)をみたら、『女ともだち』は、1991年~1992年にかけて刊行されてる。
このマンガは、アタシ(紹介者)には、とても少女マンガらしい作品に思えて。そこが好き。
「子どもっぽい内容」って言う人もいるけど。アタシは、それってちょっとピントがずれてると思う。
確かにオトギ話っぽい展開は目立つ。特に恋愛関係の展開などで。
オトギ話に「子どもっぽい」とこもあるのは実は当たり前で、だからよくないとなるとは限らない。
このマンガのいいとこは、作中で描かれる主人公の母娘関係が、あまりベタベタしてない感じで、ぶつかり合いを通して、母娘の関係が、いい感じの関係に育ってく様子まで描かれてるとこ。
第1巻の40頁すぎあたりの導入部で明かされることだし、少しだけネタバレさせちゃうけど。瑤子さんは、実は菜乃の生母。
偶然、育ての母(瑤子さんの姉)が、生前出してた手紙を見ちゃった菜乃は、はじめて秘密を知ったショックから、瑤子さんと言い争って家を飛び出す。
「さい…てい…」
「二日酔いで苦しんでる人が母親だなんて最低!!」
「瑤子さんがあたしのママだなんて最低だよお!!」
両親(育ての親)の仕事の関係で、アメリカで暮らしてた幼い菜乃が、瑤子さんにはじめて会ったのは、葬式の日のことだった。
“初めて会ったのは/パパとママの/葬式の日だった/
深紅のルージュに/ひときわめだつ容貌が/葬式に不似合いで/
きれいな泣き顔は/映画のワンシーンを/見てるようだった”
「叔母と姪だなんて/思わなくっていいわ/
女友達のように/暮らしましょ」
「自分のことは/自分で決めてね」
「あたしに迷惑さえ/かけなければ/何をしても/かまわなくてよ」
“さし出された/手をつかむのを/
ひどく/ためらったのを/覚えている--”
“子供心にも/わかったのよね/
あんな女だって/
瑤子さん見て/暮らしてたら/地味で真面目が/一番と思うわよ”
この回想は、菜乃が、産みの親が瑤子さんだったって知っちゃう、ちょっと前のヵ所からの引用。
回想は、今の菜乃の“いつか--パパとママのような結婚をして子供を産んで/アメリカで過ごしていたような穏やかな家庭を作るんだ”って想いで区切られる。
菜乃は、追想の中の両親との暮らしを理想化してる感じ。
どこまでが美化でどこまでがリアルな記憶かは、わかんないけど。身近な瑤子さんと比べて、理想化はしてるっぽい。
それで、自分の将来を「大学でてOLして結婚して子供を産んで真面目に暮らす」とかイメージしてる。
そんな菜乃の将来像を「つまらない人生/退屈で死んじゃうわよ」と言う瑤子さんに、菜乃は反撥してたわけ。もしかしたら、理想化もされてる幼い頃の思い出にケチつけられてるような気分も、感じてるんじゃぁないかな。(瑤子さん見て暮らしてたら地味で真面目が一番と思うわよ)
瑤子さんも瑤子さんで「やっぱり姉さんに似たのよね/あたしの姪とは思えないわ」とか言うし。
鶏が先か卵が先か。
つまり、菜乃が自分の幼少時を理想化してるのが先か、それとも、瑤子さんとソリがあわないのが先か。
「叔母と姪だなんて/思わなくっていいわ/
女友達のように/暮らしましょ」
「自分のことは/自分で決めてね」
「あたしに迷惑さえ/かけなければ/何をしても/かまわなくてよ」
“さし出された/手をつかむのを/
ひどく/ためらったのを/覚えている--”
アタシが思うには、キーはここと思える。
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瑤子さんが産みの親だ、って知った菜乃は、瑤子さんの女ともだちで、マネージャーをやってる高井さん(高井留美子)に、文句を聞いてもらう。
高井さんは、どうしたいか、菜乃のしたいように協力する、って言ってくれるけど。
「話し合いましょそれでどうしたいの? 協力するわ」「父親に会いに行く?/それとも非行に走る?」「それとも世間に西岸瑤子の娘ですって公表する?」「菜乃ちゃんのしたいようにすればいいわ」
「高井さんって案外いじわる」「そんなことしないって知ってるんだから」
頭はいいのだ、菜乃は。
菜乃ってキャラは、女ともだちの、こずえ(大浦こずえ)のことを“ほんと女の子--って感じ”で、かわいいと思ってる。
自分のことはどう思ってるかと言うと、「あいそもかわいげもないって言われるくらい強い」女の子。このセルフ・イメージは、ラブコメの主人公のそれとしては、面白いと思う。
はじめてあった叔母に引き取られた(と思っていた)ので、“迷惑かけちゃいけないとか/早く自立しなくちゃいけないとか考え”て、“ひとりで”ごはん食べるのいやとか”、“寂しいとか言っちゃいけない”とか、“なんでもひとりでできるようにと/強くなろうとがんばった”。
“おかげであいそもかわいげもないって言われるくらい強くなっちゃった”。これが菜乃のセルフ・イメージ。
実は瑤子さんが産みの親だった、って知った後の想いだから、ちょっと腹立ち紛れの思考なんだけど。
“あのままアメリカで/暮らしていたら/
あたしだって/こずえみたいに/かわいい女に/なっていた/かもしれないのに/
誰が こんなに女に/したと/思ってるのよ”
この言い分は、半分くらいはあたってる。特に高2女子の言い分としては、かなりわかる。
育ての両親が事故で死んだのは、別に瑤子さんのせいじゃぁない。
でも、「あたしに迷惑さえかけなければ何をしてもかまわなくてよ」ってのは、瑤子さんの養育方針で。
“おかげであいそもかわいげもないって言われるくらい強くなっちゃった”。
女の友情に恋愛が絡んで三角関係になるマンガ、特に少女マンガの場合、主人公の方のセルフ・イメージが、「ドジでマヌケで取り柄のないカメですぅ」とかで、友だちを羨んでうじうじしてるような設定は、よくある。
この手のよくありがちな話だと、十中八九、彼氏が「そんなことないよ、かわいいよ」って言う展開が予想されるんだけど。
“なんでもひとりでできるようにと/強くなろうとがんばった”“おかげであいそもかわいげもないって言われるくらい強くなっちゃった”主人公が、「女の子らしい」友だちを羨んでて、同じ相手を好きになっちゃうって展開は面白い。
その後、身を引こうとか子供っぽいことを考えても、そんな考えどおりにはいかないのも恋愛感情。
レディース・コミックなら、あり得るストーリーだけど、小学生高学年~中学生くらいの読者を(多分)想定して、ラブコメにまとめて描いちゃったってのは、やっぱり凄い力量。
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『女ともだち』は、タイトルにあるように、女の友情がテーマの一翼で、そこに恋愛関係が絡む。
って書くと、三角関係を描く、よくある話に聞こえちゃうよね。
でも、そこは、メロドラマの達人、一条ゆかりさんのマンガ。
「女友達のように暮らしましょ」って言う母娘の関係、母親らしくない母である瑤子さんと高井さんとの女ともだち関係などが、菜乃の女友だち関係や、恋愛関係に重なるように描かれてて、物語を面白くしてる。
アタシなりの乱暴な要約で言うと、中盤以降「恋愛ってのはね、甘いもんじゃないのよ、だから頑張れ」的に、菜乃を叱咤激励する瑤子さんがいい。
菜乃と瑤子さんの関係がいい、ってことね。
例えば、大分先の方のいいとこを、1ヵ所だけネタバレさせるけど。
無二の親友こずえと、同じ相手を好きになっちゃったって知る菜乃は、自分から身を引こうと決意する。さすがに恋愛のエキスパートの瑤子さんは、目ざとくそれに気づいて、「ずいぶんと姑息なまねしてるじゃない」と、菜乃をバカにする。
ここのやりとりとかいい。
「あたしは…」「瑤子さんとは違うもの…」と反論を試みる菜乃。
「嫉妬したり傷つけあったりはするのはいや!/あたしのせいでこずえが苦しむのも」「自分がどんどん醜い女になっていくのもいや!」「憎んだり悲しんだりする恋ならいらない」
とても子供っぽい考え方よね。
「嫉妬したり傷つけあったり」「憎んだり悲しんだり」しないで恋愛の美味しいとこだけ味わうことはできないから。恋愛のマガイ物の合成甘味料みたいな感情なら、苦味や渋み抜きで、味わえなくもないけどね。
でも、「自分がどんどん醜い女になっていくのもいや!」って、菜乃の気持ちもわかる。子供っぽいけど、わかる。
で、瑤子さんの受け応えが、またいいの。
「友情を取りたいのなら/もっと上手なうそつきになることね」「自分をだませるくらいの」
「あんたの恋に/とやかく言う/つもりはなかっ/たんだけど/
このままじゃ/恋も友情も/両方失くすわよ」
菜乃と瑤子さんの関係(女ともだちのような母娘)はいい。瑤子さんと高井さんの関係(大人の女の女ともだち)もよくって、こずえと菜乃の関係(高2女子の女ともだち)もいい。
女ともだち関係のレイヤーが、幾つも重なって描かれてるドラマが『女ともだち』の読みどころ。
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「友だちのような親子関係」ってのは、多分、団塊の世代と団塊ジュニアとの間で、一時ロール・モデルの1つとみなされてたような気がする。
これが、うまくいったり、いかなかったりは、実在の家庭ごとにいろいろあっただろうはずだけど。
アタシが思うに、真正面から「友だち」をやってけば、それはそれで、うまくいかなくもないんじゃないかな?
アタシは子供はいないし、結婚する予定も見込みもないから、想像だけど。フィクションで描かれた、菜乃と瑤子さんの関係は、そんなことも思わせる。
多分、今は、「友だちのような親子関係」なんてダメなんだ、って気分の方に、世間のトレンドは振れてる感じで。多分それで、「親は、親の権威を持たなくちゃだめ」的な意見はよく聞く。
その辺は、親の人が自分で考えて決めて、自分の責任でやってくことだけど。
「中盤以降『恋愛ってのはね、甘いもんじゃないのよ、だから頑張れ』的に、菜乃を叱咤激励する瑤子さんがいい」って書いたけど、これは、「恋多き女優」として売ってきた瑤子さんの「人生の先輩」としての権威を感じさせる言動でもあるわけ。
アタシに言わせれば、それって「真正面から『友だち』をやってく」ってことと、両立してる。マンガのなかのことだけどね。
現実では、「友だちなんだから、ただただ、仲良くやっていこう」的な考えなら、親子関係うまくいかないだろうと思える。だって、友だちって喧嘩もするもんじゃん。
一方、「親は権威があるから子供は言うことを聞くもの」的な考えなら、それもそれでうまくいかないと思う。
『女ともだち』は、マンガだけど。描かれた主人公の母娘関係は、友だちみたいでも、真剣な友だち関係ではあって、そこには人生の先輩としての権威はある。この内容は、凄い狭い尾根道を渡ってくような感じのフィクションだけど、面白い。
もっと言えば、安心感もあるストーリーと、微妙なバランス感覚で狭い尾根道を渡っていくような内容が、コインの裏表になってるとこが、ほんと面白い♪
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普通、『女ともだち』を紹介するとしたら、まず「ラブコメ」って紹介するだろう気はします。
もう何度か書いたけど、ラブコメ要素については、この作品は、オトギ話っぽい展開も目立つ。
90年代の頭頃の「りぼん」って、憶測だけど、読者層のボリューム・ゾーンから見ると、多分、高2女子は、「憧れのお姉さん」だっただろう気がします。
そうだとしたら、そういう読者層に焦点をあわせて描かれただろう物語のラブコメ的プロットに、オトギ話めいた展開がみえても、アタシには、それはむしろ当然なことに思える。
それよりも、オトギ話めいたラブ・コメディの展開に、「恋多き女優」でもある「恋愛と人生の大先輩」である母から娘への叱咤激励を絡めた料理の手腕を堪能したい。
瑤子さんは、菜乃のいないところでは、娘を気遣って困惑したりもしてる。
菜乃に「憎んだり悲しんだりする恋ならいらない」って言われて、「このままじゃ恋も友情も両方失くすわよ」って言った後、1人なってから“あんなこと考えたことあったっけ”とか自分を振り返る様子がかわいい。
うん、瑤子さんは、多分、菜乃みたいなこと考えたことはなかったと思うな(笑)。
その瑤子さんに、苦言を言ったり励ましたりしてる高井さんとのオトナの女ともだち関係。この辺も『女ともだち』の読みどころ。
よくぞ、これだけいろんなドラマを、オトギ話めいたラブコメにまとめて、料理してくれました♪
さすがは、メロドラマの達人、一条さん☆
女ともだちと同じ相手を好きになっちゃった主人公。
ある種“王道”っぽいパターンだけど。
パターンだから面白いわけじゃぁない。
パターンがアレンジされてるから面白わけでもない。
菜乃みたいな小生意気でもあるキャラが、恋愛を通して、少しずつ素直になってく様が面白いんだし。
瑤子さんは瑤子さんで、少しずつ女優としてのやる気を出してくような展開が面白い。行き当たりばったりの性格は変わらないけど、そこも面白い(笑)。
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『女ともだち』は、恋愛関係の展開には、オトギ話めいたところもあるけれど。
それでいいのだ☆
オトギ話めいた要素も含んで楽しめる。とても少女マンガらしいラブ・コメディー。
瑤子さんもイカスし、瑤子さんと高井さんの女ともだち関係も爽やかで楽しめます♪
アタシが「少女マンガらしい」と思うのは、やっぱり概ね小生意気な性格(笑)の菜乃でも、どこかにひめてるいじらいいような心情が、恋愛関係では表に出てくようなとこ、です。
だから、“王道”パターンとか知ってる読者でも、知らない読者でも、それぞれに楽しめる作品なのよ。
逆に、この「いじらいいような心情」の表現がいいと思えなければ、ただただ、お話のウソっぽさが気になって、しょうがなく感じることでしょう。そんな作品。
一条ゆかり、著、の『女ともだち』は、最初、りぼんマスコットコミックス版(全3巻)で刊行されました。
今は、多分、集英社文庫版(全2巻)の方が入手し易いと思います。
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書誌情報:
一条ゆかり,『女ともだち』1(集英社文庫),集英社,Tokyo,1999.
ISBN 4-08-617483-9
一条ゆかり,『女ともだち』2(集英社文庫),集英社,Tokyo,1999.
ISBN 4-08-617484-7
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一条ゆかり,『女ともだち』1(りぼんマスコットコミックス),集英社,Tokyo,1991.
ISBN 4-08-853568-5
一条ゆかり,『女ともだち』2(りぼんマスコットコミックス),集英社,Tokyo,1992.
ISBN 4-08-853602-9
一条ゆかり,『女ともだち』3(りぼんマスコットコミックス),集英社,Tokyo,1992.
ISBN 4-08-853615-0


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