『復活の日2010』:小松左京さんの名作SF『復活の日』の時代設定が(来年)2010年だったら……という想定での一場面
2009年4月30日現在、豚インフルエンザの流行が進行しつつあります。そのニュースや関係機関、そして人々の対応を聞くと、病気や衛生に関する知識と情報が広く、正確に知られるようになってきたことが分かります。
1964年(昭和39年)に出版された、小松左京さんの名作SF『復活の日』は、1980年(昭和55年)に映画になったことでご記憶の方も多いかと思います。この作品は、当時の近未来である1969年に、とある理由から未知のインフルエンザが大流行して人類が滅亡へと追い込まれるという骨子になっています。
人類の滅亡が描かれた1969年の作品世界から40年。人類は、より多くの知識と技術を手にしました。果たして、あの『復活の日』の状況がもしも発生したら、どのような展開が待っているでしょうか。
原作では第一部第三章『初夏』のあたりを想定して、一場面を描いてみました。
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「さて――これで、全員そろったのかね?」
「待て、ロン・チャイハン博士がまだだ」
「中国か。大丈夫かね、このボイスチャットの回線は?」
「大丈夫というのが、どういう意味かは知らぬが、中国の公安当局が監視していないかという意味なら、“もちろん”監視しているとも」
「そもそも我々は、身分もログも隠すことはできんし、そのつもりもない。むしろ、相手が誰かに関係なく、ひとりでも多くの人に知って欲しいからここに集まった。違うかね?」
「違いませんね。事態がココまで悪化した以上、情報の隠蔽に意味はないし、21世紀の現代ではそのようなことがそもそも不可能なことを、我らが黒服の監視者たちも理解していい頃合いです」
「諸君、雑談はここまでだ。我々には――いや、人類には時間がない」
「では、WHOを代表して私から現状を。一週間前にフェーズ6、すなわちパンデミックに入った“チベットかぜ”で、すでに全人類の五分の一、十二億人が死亡していると推定される。言っておくが、これはもっとも楽観的な数値だ。貧困層が多く、大量に死者が出ているアジア、中南米、アフリカではすでに医療体制どころか国家そのものが崩壊しており、正確なデータはもはや手に入らない。悲観的な数値では二十億から……そろそろ三十億になるかもしれない」
「全人類の半分か――人類の医学と防疫の、完全な敗北だな」
「去年の“メキシコかぜ”、つまり豚インフルエンザの経験が悪い方向に働いたな。あのウィルスは伝染性は強く、たちまち世界中に蔓延したが毒性はきわめて低かった。北半球が夏になる頃には下火になり、秋には再び活発になったが、すぐに抑えることができた」
「そうだ。だが、経済に与えた影響は大きかった。そうでなくとも不景気だった世界経済は、半年にわたった“メキシコかぜ”対策でさらに悪化した。そしてその恨みは、WHOや各国で感染症対策をする保健機構に向けられた……パンデミックを最低限に抑えるためにとった施策の多くは、市場経済とやらとは相反するものばかりだったからね」
「七月から八月……下火になってからがひどかったな。毒性の低い、死者もあまり出ない病気のせいで、全世界で億に近い失業者が出たんだ。欧米の金持ちが風邪で寝込むのを防ぐために、貧乏人が飢えて死ぬことになった――そんな風に受け取られた」
「過去を悔やんでいる場合ではありません。“チベットかぜ”は現在進行形の問題だ。いや、問題は“チベットかぜ”ではありません」
「“チベットかぜ”ではない? どういう意味ですかな、リンスキイ博士?」
「リンスキイ? ああ、失礼。私はリンスキイ博士ではありません。彼の――その、患者のひとりで、エドワード・マイヤーといいます。今回はリンスキイ博士に無理を言って、IDと回線を使わせてもらっています」
「それはいったい――いや、それよりも問題は“チベットかぜ”ではないとはどういう意味でしょうか?」
「私の推測が正しければ、“チベットかぜ”は、あくまで隠れ蓑に過ぎません。我々は、皆さんは、これを新種のインフルエンザであると考え、インフルエンザを予防するための手だてをとってきました。ですが、その結果はどうです? 去年の“メキシコかぜ”の経験と対処方法が、何一つ活かせなかった。それどころか、かぜに罹っていない人ですら、死んでいくのを止められないのではありませんか?」
「その通りでス……遅れて申し訳ありませン」
「おお、ロン博士。来られましたか」
「中国の最新の情報を整理して持ってきまシタ。本来ならば国家機密ですが、首相と相談し、このデータは即座に公開すべきとの結論をえまシタ。すぐにftpしますので、受け取ってくだサイ」
「これは……ロン博士、このデータと数値に間違いはないのですか?」
「はイ。中国は今も共産党幹部とそのシタの軍部が強いため、特権階級がタミフルやワクチンをはじめとする薬を優先――独占してきまシタ。そして、それゆえに、本来なら病気に罹らナイ集団の健康状態を調べた結果が出たのでス」
「ワクチンが……まったく効いていない。確かに、日本でも、医療関係者や警察・消防に優先的に薬を回しているが、思ったよりも効果が薄いというデータは出てはいるが……」
「いや、ワクチンは効いている。インフルエンザにも、かかってない。それでも、バタバタと死んでいる――!」
「“チベットかぜ”の影に隠れて、明らかに違う病気が進行している。むしろ、そちらが本命だ。リンスキイ、いえ、マイヤー博士、あなたが言いたいことはこれだったのか」
「はい。皆さんはRU300系列という細菌をご存じでしょうか――?」
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いろいろ考えてみたのですが、小松左京さんの原作にあるような、無菌状態の南極が生き延びるという展開よりは、マイクル・クライトンさんの傑作SFで映画にもなった『アンドロメダ病原体』に近くなりました。
原作では国家機密などの壁で最後まで明らかにならなかった“チベットかぜ”の正体ですが、現代か近未来を舞台にした場合、中盤にはバレてしまいそうです。これは、国家機密が漏洩するようになったというよりは、統計データから異常さが浮き彫りになるだろうと考えたためです。
あくまで、原作展開に忠実となりますと、生き残るのは南極よりは、国際宇宙ステーションの方がありえそうです。ただ、あそこではいかにも小さすぎるので、近未来にして、ある程度の人口が宇宙に生活するようになったという――『星海への跳躍』(ケヴィン・J・アンダースン&ダグ・ビースン)的な舞台展開になりそうです。


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