『ガザ紛争2008-2009』山崎雅弘(『歴史群像No.95』より) 敵よりも身内が怖い紛争

 イスラエルとパレスチナの紛争を、遠くはるか極東の島国から見ると、問題の解決方法は一目瞭然である。

 イスラエルは、パレスチナの人々の権利を保証し、彼らの自立を促し。
 パレスチナは、テロによる紛争悪化を止め、経済と生活を再建する。

 お互いに、相手の利益と権利を尊重する――

 子供でも分かるこの理論は、だが、これまで受け入れられることがなかった。山崎雅弘さんが記事のまとめに書かれているように、この問題は、イスラエルとパレスチナの戦いとして考えると、おかしくなる。

 これは、双方のマクシマリストミニマリストの“身内の戦い”であり、イスラエルとパレスチナの紛争とは、その“身内の戦い”の結果でしかないからだ。

 マクシマリスト(最大利益追求)とミニマリスト(最小利益受諾)とは、あまり日常的に使う言葉ではないが、あえて乱暴にまとめると強硬派≒マクシマリスト、穏健派≒ミニマリストであろうか。

 イスラエルの中にも、パレスチナとの戦いを何とかするには、譲歩が必要であると考える人(ミニマリスト)は大勢いる。しかし、そういう人たちは、同じイスラエルの中にいる、自分たちの手で自国と国民の利益を守らなければならないという強い危機感を抱く人(マクシマリスト)に対して、なかなか強く出ることができない。
 そのせいでラビン首相は暗殺されたし、2008年のガザ侵攻と空爆は、マクシマリストの不満をそのままにしては、総選挙に勝てないというイスラエルの国内問題ゆえである。

 そしてもちろん、パレスチナ側も同様の問題を抱えている。アラブやパレスチナの側では、イスラエルという国家そのものを否定し、侵略者であるユダヤ人はこの土地から出ていけという強硬な一派(マクシマリスト)がいる。
 現実問題として、イスラエルを潰すだの、ユダヤ人は出ていけだのが通るわけはないのだが、妥協しようという人(ミニマリスト)は、裏切り者、売国奴呼ばわりである。

 イスラエルも、パレスチナも、何とかお互いに折り合いをつけようという人々は、まず、身内に大勢いる、「ヤツらと妥協するなど、もってのほか」という人々を何とかしなくてはならないのだ。

 双方のマクシマリストにとって、相手側のマクシマリストはある意味でもっとも操りやすい相手である。
 イスラエルも、パレスチナも、相手のマクシマリストを挑発し、怒らせることができれば、和平への動きは簡単に阻止できる。ロケット弾を撃ち込み、空爆をし、デモ行進をして煽る。ブログで互いに相手を中傷するということも、やってるだろう。

 そして、それが積み重なれば、本来は多数派であるミニマリストたちも、疑心暗鬼にすることができる。

「あいつらにもいいヤツはいるだろうが……悪いヤツは、すごく悪いから、それは放置できないよな」

 現状はこんな感じであろう。
 だが、同時に、マクシマリストは愛国心や民族意識を高揚させ、生活も苦しく、未来に希望を持てない人々にとって唯一の拠り所になってもいるのだ。

 和平を進めるためには、相手を説得すると同時に身内のマクシマリストを何とかせねばならず。
 身内のマクシマリストを何とかするには、苦境にあえぐ人々に明るい未来や、幸せ――ぶっちゃけ、仕事と安全を与えねばならず。
 そして仕事と安全を与え、それが長期に持続すると思わせるには、和平が進まなくてはならず。

 いろいろと八方ふさがりで、互いにもつれ合っているのである。
 このもつれ合った糸をほぐすのは、当事者でしかできないことであるが、日本に住む我々に手助け(あるいは悪化させないために)できることはなんだろうか?

 私は、「悪いヤツを憎まない」ことだと思う。

――テロリストが悪い。
――イスラエルが悪い。
――いや、そもそもイギリスの三枚舌外交が発端だ。
――ぶっちゃけ、ローマ人が追い出したのが原因でね?
――というか、ユダヤ教にせよイスラム教にせよ、選民思想がそもそもの間違いだろう。

 悪いヤツは大勢いる。原因もいくらでもさかのぼれる。間違ったこともたくさんある。だが、この問題は、悪いヤツをやっつけても、原因を見つけても、間違いを正しても終わらない。ヤハウェの神様ならば天罰をくだして双方皆殺しにして解決するだろうが、現実に生きる我々にとっては、モノゴトは解決しない。

 罪を憎んで、人を憎まず。どこかで許し合わなければ、解決しないのであれば、その最初のステップは、悪いヤツを憎まないことだろう。
 悪を見逃せ、許せという意味ではない。
 悪は忘れないし、許さない――だが、悪いヤツを憎まない。

 この建前を押し通すのは、実際に家族や財産を失った当事者には困難だろう。だからこそ、憎悪の連鎖を拡大しないためにも、縁もゆかりもない遠い国の人間は、そうあるべきだと思うのだ。

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