電撃リトルリーグ「夏休みの計画」 Zero2作「タカシマ姉妹」

 ご近所でも
 ――地獄に落ちろ。
 と言われるほど仲が良いことで評判のタカシマ姉妹。その片方が唸っていた。
「ヴぅ~ん゛」
「どうした? 扇風機の前で」
 姉の晴海が自らの喉を水平チョップで叩いて
「『ワレワレハ~ウチュ~ジンダ』みたいな声出して」
 それを聞いた途端。妹、美晴の目がギラリと光った。
「そんな声っ……出してっ! 無いじゃないっ!!」
「どわっ、おっ、あぶなっ」
 しゃがみ状態からのローキックで一回転。さらに立ち上がり様のバックハンドブローで一回転……をフェイントに、本命のローリングソバットが風を切り裂いた。もう少しで姉も切り裂かれる所だったが、そこは長年の姉妹の付き合いである。
 姉に必殺の回転コンボをかわされた美晴は何事もなかったように
「あのね、ちょっと悩み事があるの」
「そっか……でも即死コンボを叩き込んでおいて、ノーコメントで話題に入るのはお姉ちゃん感心しないな」
 美晴は、はふぅと一つため息をつくと、片手を頬に小首を傾げ『悩める乙女のポーズ』。
「でね? ちょっと相談に乗ってくれると嬉しいの」
「無視か無視なのか放置プレイか。お姉ちゃん、マゾだから別にいいけど」
 で、相談ってなんなんだ? という風にしてこの話は始まった。

 ぱしゃん。
「いけません!」
 ずぞぞ。
「何でよ!? おねーちゃんのけち!」
 ぱしゃんっ。
「彼氏なんてまだ早いっ」
 ずぞぞっ!
 相談の内容とは、かいつまむとこのような所であった。
 ――夏休みの間にどーにかして彼氏を作りたい。ついてはその計画作りを姉に手伝ってもらいたい。
「いやーっ。だって夏なのよ? バケーションなのよ! アバンチュールなのよっ!? それに、高校生にもなって彼氏の一人もいないなんて……あたし、あたしっ」
 ずぞぞぞっ。
 美晴はやりきれないように、姉がリビングを改造して作った『流し素麺マシン』から麺をひったくって、勢い良くすすった。
「こんな流し素麺しか思い出にならない夏なんてやーだーっ!」
「その割にはよくもまあ飽きずに毎日毎日」
「素麺に罪は無いからいいの」
 しれっと言ってから、この夏に入って通算百把目の素麺を食べ終えた美晴は、目を潤ませて姉を上目遣いに見た。
「ねえ、だってお姉ちゃんなら出来るでしょ?」
「うっ」
 この妹の『お願いモード』に晴海はめっぽう弱い。早くに両親を亡くして、女手ひとつで育ててきたからだろうか、年の離れた妹に、つい甘くしてしまうのだった。
 両手を顔の前で組んで、膝立ちで下アングルからせめてくる妹にもうタジタジ。
「だってお姉ちゃん、すっごい科学者だもんね。彼氏作りなんてカンタンだよね?」
「妹が学校で『絶対無敵生徒会長』とか言われてなければもっと簡単なんだろうけど」
 とため息をつきながらも、妹が生徒会長である事が誇らしいのは、姉の欲目か。ちなみに『絶対無敵生徒会長』これで『ラスボス』と読む。
「でもなあ、さすがに彼氏は……」
 抵抗がある、のである。
 そんな反応を見た美晴は
「お姉ちゃんが手伝ってくれなきゃ……あたし、あたしっ!」
 何かを決心したかのように手を振りかぶった。
「わかった! わかったから」
「本当!?」
「だから美晴、その包丁をしまなさい。お願いだから」

 で。
「おねーちゃーん?」
「何も言うな美晴。あとチェーンソーはダメだ、絶対」
「もう夏休み、もう十日しかないじゃないっ」
 ギュオオオオ!
「ひいいいっ! 大丈夫! できた、さっきできたっ!」
 オォォ……ン。
「本当?」
「ホントホント超本当。もうお膳立ても超完璧」
 生命の危機の姉、妹を連れ出し、近くの喫茶店まで。
「こんなとこまで連れ出してどうするの?」
「いいからいいから。……美晴。窓際の、そう。そこの席を見てみるんだ」
「一体何が……うひゃっ」
 声を上げるのも無理はない、そこにおわすは美晴のストライクゾーンど真ん中、ヅカ系美男子!
「いいか、美晴。今からアレに話しかけてくるんだ」
「えええっ!? で、できないよそんな」
「大丈夫、話しかけるだけでいい。もうそれでバッチリだ」
 あえて多くを語らず、お姉ちゃんを信じろ。と親指を立てる。
 やがて美晴は
「……うんっ。がんばる! あたし、やってみる!」
 意を決して喫茶店へ駆け込んでいった。
 科学者の晴海は考えた。彼氏を作りたい妹、しかし悪い虫が付くのも困る。どうすればいい?
 ――そうだ! 彼氏を『造って』やればいいんだ。
 今、喫茶店の中にいる美少年はメイドイン晴海の精巧なロボットなのだ! 時間がなかったから、性格は自分のデータを使ったが……おっと、始まったぞ。
「あ、あのあのあのっ。こここんにちはっ」
 真っ赤な顔で美晴が話しかけると、少年は形の良い白い歯を見せて笑顔キラリ。
『ようようねーちゃんいいケツしてんな。今日はどんなパンツはいてんのさ』

 結果的に、タカシマ姉妹は地獄に落ちたと言える。
 その日、町が地獄に変わったので。

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