『大正野球娘。』作画:伊藤 伸平/原作:神楽坂淳 本を開く前に楽しみ、読んで楽しみ、読後もアニメに期待の漫画
原作の神楽坂淳さんの小説『大正野球娘。』はとても面白い本である。人気もあり、今年はテレビアニメとして放映もされる。
だから、漫画化されてもおかしくはない。
おかしくはないのだが――
最初にこの本を手にとった時の驚愕といったら、なかった。
表紙絵をみる。
みれば、分かる。
誰の絵かは、分かる。
伊藤伸平さん。
伊藤伸平さんである。
もしかしたら、別人かもしれないと表紙の文字を追うが、やはり間違いなく、『作画:伊藤伸平』と描いてある。
伊藤伸平さんは『モルダイバー』の頃からのファンである。今はなき月刊少年キャプテンで楽しみにしていたのはこの作品と、あとは『強殖装甲ガイバー』(高屋良樹)と『宇宙家族カールビンソン』(あさりよしとお)と『頑丈人間スパルタカス』(安永航一郎)と『アルプス伝説』(田丸浩史)と……しまった、考えてみれば、あの雑誌の漫画はほぼ全部、大好きだったんだ……まあ、とにかく、あの、伊藤伸平さんである。
好きな漫画家さんが、好きな小説のコミカライズをするのに、何をそんなに驚いているのかと言われそうだが、伊藤伸平さんのファンで、『大正野球娘。』を知っている人ならば、私の気持ちは分かるだろう。
何せ、伊藤伸平さんなのだから。
絵がどうこうというのではない。丁寧なすっきりした絵を描かれる方である。可愛い女の子のキャラも得意とされており、『大正野球娘。』の少女たちを描かれることに不安はない。
……が、いや。しかし。
いいのか?
たいへん、失礼で余計なお世話だと思いながら、私は表紙をながめつつ冷や汗をたらしたことを、ここに告白し、謝罪する。
いいのか? アニメ化するんだろう? 原作小説を、より多くの人に楽しんでもらうのが目的だよね? 伊藤伸平さんで、本当にいいのか?
まったくもって失礼で、本当にお前は伊藤伸平さんのファンなのかと怒られそうな思いにかられたことを、ここに告白し、懺悔する。
だって、伊藤伸平さんである。
あの絵で、あのキャラで、容赦も躊躇もなくいろいろぶちまける漫画を描かれる方だ。この原作付き漫画だって、最初の1ページ目には、女の子が骨をノコギリでぎこぎこ切断するような、猟奇的なナニかが描かれているにちがいないのだ。ああ、きっとそうだ!
かように。
本を開く前に五分はたっぷりと楽しんだ後で。
本を開いた後も、たっぷりと堪能したのである。
やはり、伊藤伸平さんは素晴らしい。原作小説のファン全員が、このコミカライズを良しとするかどうかについては疑問もあるが、この漫画に描かれる少女たちが、とても生き生きとしていることだけは認めてもらえるものと思う。
また原作小説では空気な存在であったそもそもの原因であるお嬢の婚約者の荘介クンとかが、まったくもって憎めない愉快なキャラになっているあたりもポイントだ。
微妙な小ネタが多くて楽しい漫画だが、ときどき、はっとするような描写もあり、ぐっと迫る演出もある。たとえば雪と環の幼なじみ時代のエピソードや、三郎と小梅のデートでの
「ほら、あれが野球ですよお嬢さん」(p164~165)
の見開きページの、吸い込まれそうな野球場の広がりなど。(そういえば今年は新設なった新球場、マツダスタジアムにまだ行ってないや)
そういうわけで、伊藤伸平さんの『大正野球娘。』は原作の持ち味を引き出し、ついでに一味を追加する、とても良い漫画だと思う。原作ファンの方はもちろん、アニメになるらしいからあらかじめどんなものか見ておこうという方にも、オススメである。(漫画の1巻ではまだ序盤なので、アニメで見る前に結末までは知りたくないという方にも良いと思う)



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