『現代萌衛星図鑑』著/しきしまふげん 漫画/へかとん 監修/松浦晋也 萌えといっても『人工衛星は俺のヨメ』ではなく、『人工衛星は俺の娘』な感動のドラマ!
タイトルに『萌』の文字がついているように、この本は人工衛星を萌えで擬人化して描いた本である。
が、『萌』といっても、我が友人の椎出さんの慧眼が見抜いたように、パンツではない。
この本にパンツはない。乳もない。なぜなら、擬人化された萌え人工衛星は『俺のヨメ』ではなく、『俺の娘』だから。自分の愛娘のパンツを、他人に見せたがる父親はいない道理だ。
この、「嫁ではなく娘」という視点が、本書の一環したトーンだと思う。健気で、頑張り屋さんな人工衛星=娘たちの活躍を、愛を込めて語る本なのだ。
この愛や、なぜ愛するのかを理解できぬ人も多かろうとは思う。
だが、著者のしきしまふげんさんたちの、人工衛星にかける愛を疑う人はおるまい。そして愛が本物だからこそ、多少の趣味嗜好の差を超えてでも、伝わるものがあるのだ。
これから読む方への注意として、本書は、泣かせの演出がとても強い。うかつに通勤通学の電車の中で読むと、泣いてしまって周囲にドン引きされる危険がある。
どのくらい耐えられそうかは、まず表紙をめくって最初のページを開いて判断して欲しい。
>>>
希望の星を掲げよう。僕らの頭上に僕らの星を。
>>>(p1)
ここで目頭が熱くなったなら、人前で本書を読むのはやめるべし。ボロ泣き場面が目白押しだ。むろん、私は全部泣いた。えらくちょろいとは自分でも思う。
しかし、この感動させ、泣かせる演出こそが、まさに宇宙開発には必要なのだと思う。
たとえば、同じように宇宙開発への愛と夢をこめて語っている本として、監修の松浦晋也さんの『国産ロケットはなぜ墜ちるのか』がある。この本では、気象衛星ひまわりが、代替衛星をもてなかった予算の仕組みや、役所の思考について、強い形で警鐘を鳴らしている。
あの本を読んでいた時、私は、松浦さんの主張に同意すると同時に、果たしてどうやったら、それをより多くの人に「伝える」ことができるか、悩ましく思った。
理屈で詰め、論理を立てる形の伝え方は、結局のところ相手を選ぶ。相手が理屈を理解し、論理を検証するだけの知性、知識と“興味”が――現代日本人は前のふたつに不足はないので、とりわけ“興味”が――なければ、伝わらないのだ。
そして、“興味”を得るための有力なツールが萌えであり、感動なのだ。
本書の『ひまわりの章』を読めばそれがよく分かる。
打ち上げ失敗によって軌道に上がることなく散華した「みらい」ちゃんの代わりに、自分が頑張るだけなのだと、「ひまわり5号」が健気に決意する場面だ。
>>>
来るはずだった援軍は太平洋に散った。新しい気象衛星がやってくるまで早くても5年。しかし、観測に穴を空けることは絶対に許されません。もうすぐ定年を迎えるはずだった「ひまわり5号」は、観測機器の寿命を少しでも延ばすために、反射鏡の稼働範囲を小さくして摩耗を抑えるなど、涙ぐましい延命策が取られました。すでに引退していた4号も5号のバックアップとして配置についていましたが、最前線にバックアップにと11年働き続けた末、1999年にとうとう力尽きました。
5号は独りになりました。頼りの姉はもう居ない。地球からも援軍はこない。しかし倒れることも許されない。
>>>(p022)
だばっ(涙) ……いかん、引用のために入力してただけで涙腺が。
バックアップの衛星をもてず、予算の配分もおかしかった。組織としての日本の宇宙開発のありようにも、問題はあっただろう。だが、それらについて考える人をひとりでも増やすためには、やはり感動が一番だ。
そのための素材に困ることはない。
ロケットには、感動がある。
人工衛星には、感動がある。
宇宙開発には、感動があるのだ。
紹介したひまわり5号のエピソードにしても、擬人化や萌えによって強調はしているものの、苦難を乗り越えるための努力の数々は、元から健気であり、感動的だ。嘘偽りではない。
一昨年に参加したIF-CON6のイベント『本物に聞け! 惑星学者に聞け!』で平田成さんがうれしそうに楽しそうに、「はやぶさ」による小惑星イトカワの探査を語られていたように、現場で働く人たちはその感動と共に仕事をされている。
その感動の一端を、私のような門外漢にでも素早く伝えるために、『現代萌衛星図鑑』がとっている萌えと擬人化はかなり効果的なのだ。
本書で興味を持ったという方は、どうぞ、その先へ進んで欲しい。
そこには、もっと大きな感動が待っているはずだ。
>>>
「ひまわり」はこれからも3万6000kmのかなたから、地球を見つめて咲き続けます。その花言葉である「あなただけを見つめます」の意味のままに。
>>>(p26)
この記事へのトラックバックURL:
現代萌衛星図鑑 作者: しきしまふげん, へかとん, 松浦晋也 出版社/メーカー: 三才ブックス 発売日: 2009/06/10 メディア: 単行本(ソフトカバー) 人工衛星を擬人化して一山当ててやろう(...

最近のコメント
1日 1時間前
2週 4日前
2週 4日前
3週 10時間前
4週 3日前
5週 5日前
6週 5日前
8週 12時間前
8週 13時間前
8週 4日前