一条ゆかり、著、『正しい恋愛のススメ』コミックス版1、遊戯だからこそ募る恋愛のマジ度

 『正しい恋愛のススメ』は、ベテランマンガ家一条ゆかりさんのマンガ作品。

 “たいした不満もないけどなんとなく退屈”な日々を送ってる17歳の高校生男子、竹田博明が、女性相手のレンタル・ボーイフレンド(売春はオプション)をバイト感覚ではじめて、あれこれ右往左往する様子を、コミカルなトーン(調子)で描いてる。
 ラブコメの類ではあるんだけど、恋愛の切なさも、きっちり描かれてる作品で、そこがいい。

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(『正しい恋愛のススメ』ヤングユーコミックス版、1巻、書影)

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(『正しい恋愛のススメ』集英社文庫版、1巻、書影)

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 『正しい恋愛のススメ』は、1990年代の半ば頃から雑誌「コーラス」に掲載された作品で、全5巻のコミックス版は、1996年から1998年にかけて刊行された。
 TBS系で放映されたTVドラマの、原作でもある。

 今は、集英社文庫版(全3巻)が入手し易いはずだけど。
 ここでは、ヤングユーコミックス版(全5巻)を踏まえて紹介したい。

 とりあえず、コミックス版の第1巻。
 17歳、ルックスよし、彼女ありの竹田博明は、「ちょっとずるくてだるい」今風の高校生。
 彼女の美穂ちゃん(小泉美穂)と、デートの途中、渋谷の多分ホコ天で、同じクラスの委員長、護国寺(護国寺洸)を、みかける。
 ネクタイを締めたスーツ姿の護国寺は、ちょっと高校生にはみえない。しかも、サングラスをかけた年上の女と、イミシンな雰囲気のカップルだった。

 “たいした不満もないけどなんとなく退屈”な日々を、なんとなーく送ってた博明は、学校では、秀才で堅物で通してる護国寺を通じて、レンタル・ボーイフレンドのバイトをはじめることになる。

 護国寺が学校には秘密(もちろん!)で、所属してる事務所「M企画」の営業は、売春専業のウリ専ボーイじゃぁない。
 事務所の営業方針は、まー、お店を構えてない出張ホストって感じ。
 セックスは、お客様のご要望に応じてのオプションで、職種の割には、結構、品のいい営業形態だ。
 これはリアルぽくないって言えばリアルぽくはなくて。『新宿スワン』(和久井健、作)なんかとは、もーノリからして違います。

 『正しい恋愛のススメ』は、この辺のリアルにはありそうにない設定は、はじめっから織り込み済みの作品と思える。
 つまり、現実にはちょっとありそうにない設定の内に放り込まれた博明クンの、右往左往とかウロタエぶりとかが、まず、おかしい(笑)。

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 作中の出張ホストは、こーゆーのあるといいなー、と思う女性はかなり多いだろう営業形態。アタシも、護国寺クンなら、オプション抜きでいいからレンタルしたい(笑)。

 掲載誌だった「コーラス」って月刊誌は、世間ではレディース・コミックスの雑誌に数えられてるかもしれないけど、いわゆる“レディコミ”とも、チョビっとノリが違う。むしろ少女マンガを主食に育ったお姉さんたちのためのマンガ雑誌。
 多分、M企画の出張ホストも、想定されたメイン読者層の願望に沿った設定だろうと思える。

 もちろん、フィクション作品はどんな願望を描いたって構わないんだけど。
 ただ、願望充足の経緯が描かれるだけでは、つまらない。
 願望充足に最適化されたストーリーは、ドラマチックではなくなってくし、何より、最適化されればされるほど、1部マニア限定のお楽しみになってくしかないから。

 フィクション作品は、どんな願望を描いても構わないんだけど、現実には充足され難い願望があるとしたら、その経緯や事情なども描いてくれた方がいい。

 『正しい恋愛のススメ』だと、まず、「ちょっとずるくてだるい」、今時の高校生、竹田博明と、実は、今時珍しいようなクラシックでハードな純愛をしてる護国寺洸との、食い違いまくりの友人関係が面白い。
 生活環境や性格が違うキャラ同士の食い違いありの関係を、コミカルに描くのは、一条ゆかりさんの得意とするところで、楽しめます。

 さらに面白いのは、博明が、M企画の顧客の1人、玲子さん(岬玲子)相手の恋愛関係にのめり込んで、マジ度を上げてく様子。これが面白い。

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 博明は、護国寺のピンチヒッターで、1度出張ホストのバイトをするんだけど。
 バイト代を受け取りに事務所に出かけたとき、たまたま電話で予約を入れてきた玲子さん相手の営業を受ける。

 この時の博明は、玲子さん相手のホスト営業を、なんとなく受けちゃう感じだけど、実は、ライバル心未満って感じで、護国寺洸に張り合おうとするような心理が感じられる。
 この心情、博明本人がはっきり感じる様子が描かれるのは、実は、玲子さん相手のホストで、大失態を演じた後。それでも、アタシ(紹介者)が思うには、社長が銀行振り込みはしない方針だからって、事務所までバイト代を受け取りに行く時点で、博明もう、護国寺と護国寺がやってる出張ホストに対する好奇心や張り合い心を胎動させてるように思う。
(だって、護国寺に仲介してもらってバイト代受け取ったっていいんだし)

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 ところで、竹田博明は、小泉美穂と、広い意味での恋愛関係にあります。
 けど、博明の方では、実は恋愛感情ってのが、今イチよくわかってない。美穂ちゃんの方は、さすがにそれなりの恋愛感情に自覚的。

 つまり、美穂ちゃんにとっての博明は、「彼氏」ではあるんだけど、博明にとっての美穂ちゃんはセフレ以上、恋人未満な感じ。
 不真面目って言えば不真面目なんだけど、「まっいいかあ」が口癖の博明らしい。
 元々美穂ちゃんもその辺はわかってて、博明をゲットしてるようなとこもある。

「“まっいいかあ”/で 浮気なんか/しちゃだめだ/からね」
「でも ま そんな/バイタリティ/博明無いか/
 愛情も根性も/性欲も薄いし」
「ひどいな!/
 美穂ちゃん/世の中の基準/自分に合わせちゃ/だめだよ」

 この美穂ちゃんって女子高生も、ちょっと現実にはいそうにない。
 例えば『ティファニーで朝食を』(トルーマン・カポーティ)のホリー・ゴライトリーが、ちょっと現実にはいそうにないのと同じような感じで、ちょっといそうにない。

 博明の方は、出張ホストのバイトのこと“あれも浮気ってゆんだろーなやっぱり”と思っても、美穂ちゃんのことを裏切ったって真剣には思わないでいる。1巻の段階では。

“浮気かぁ…”
“あれも/浮気って/ゆんだろーな/やっぱり--”
“オレの気分を/犬みたいに感じ取れる/美穂ちゃんが すごく/好きだな とは/思ったけど--”
“彼女に対して/すごい 悪いことをしたなー/って気分でもないし/
 裏切ったなんて/実感も持って/ないんだよなあ”
“恋愛映画に出演/したみたいな--/

 パラレルワールドの/中で ちょっと/恋愛気分を味わった/みたいな/

--そんな感じ--”

 この時点の博明の意識は、身勝手って言えば身勝手だけど。

 いいとか悪いとかを一時棚上げにしてみると、ありそうな心理ではある。
 ちょっとした“浮気”をしちゃった時、女でも男でも感知しそうな意識ではあって。
 ステディな相手に対してマジであれば、この博明ほどシラっとしては思えないだろうけど、薄っすらとは感じることはありそうな気分。

 作品のタイトルは『正しい恋愛のススメ』だけど、恋愛のスタイルに正解なんかないことは、作者も承知の上でのタイトルと思える。
 正解はなくても、博明のセフレ以上恋人未満な恋愛感覚は、やっぱり、ちょっとどこか“違う”かもしれない。
 しいて言うなら、マジさが不足気味。この“マジさ”を、真面目さというべきか、本気さというべきか、その辺から先は微妙な話題だ。「恋愛のスタイルに正解なんかない」んだから。

 『正しい恋愛のススメ』で、博明は、顧客として知り合った玲子さん相手に、マジな恋愛感情を募らせていく。
 自分の母親ほど年の離れた玲子さんにのめり込んでいって、美穂ちゃんとも別れようとかも思うんだけど。
 これは、玲子さんの方から禁じられる。
 ちょっと展開を先取りするけど、玲子さんの方が、美穂ちゃんには隠して恋愛ゲームを続けるか、さもなければ、一切を無しにするって、博明に宣告するのがコミックス版2巻の初めの方での展開。(文庫版だと1巻の終盤にあたる)

 なぜなら、美穂ちゃんは玲子さんの娘だったのだ。えーっ!? なんだってー?? ってのが、コミックス版1巻ラストでの展開(笑)。(文庫版だと1巻の後半)
 「岬 玲子」は、シナリオ・ライターを生業にしてる玲子さんのペンネームだったのだ。

 玲子さん視点から観ると、自分の息子ほど年の離れた出張ホストを相手にした、逆マイフェア・レディとゆーか、逆光源氏とゆーか、ってのが、『正しい恋愛のススメ』のロング・プロットになってく。

 玲子さんは、博明と共犯で、自分の娘を裏切るわけで、しかも教唆する主犯なんだから、非道いって言えば非道い女(笑)。
 これも、「ありそうにない」展開ではある。

 アタシが思うに、玲子さんってキャラは、「毒を食らわば皿まで」が信条なのでしょう(笑)。
 一応、書いとくと、玲子さんも、最初に博明を“買った”時には、娘の彼氏だななんて知らなかった。
 そんなこと、弁護したってしょうがないんだけど(笑)。
 全部バレバレになって、母娘で同じ男の取り合いに、って方が、まだ現実の世の中でありそうな展開だけど。さすがにそれだと、ドロドロしすぎて、コミカル・ストーリーにはなりづらいでしょうし。

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 「美穂ちゃんには共犯で隠す」ってのを絶対条件にして、隠しながらの逢瀬を重ねることで、博明と玲子さんの恋愛ゲームがどんどんマジ度をあげてくのがコミックス版2巻以降の展開。(文庫版だと1巻終盤からの展開で突入)
 遊戯(ゲーム)ではあるんだけど、それだけにマジ度があがって、恋愛感覚が濃密になってく。
 その様子が、『正しい恋愛のススメ』の読みどころ。

 正直、いいとか悪いとかで言ったら、博明と玲子さんの恋愛関係も、アタシはいいとは思えない。
 玲子さんの方には、博明とのこと、はじめから遊戯としての割り切りはあって、その件は博明にも繰り返し告げてるのは、まあフェアって言えばフェアなんだけど。
 私はいつでもこの関係を断ち切れる、みたいに年上の相手に言われると、かえって関係に束縛されちゃう若い男の子の心理って言うのもあって(笑)。博明の方は、どんどん本気で真剣にのめりこんでっちゃう。

 本気の恋愛関係の、絵空事っぽさと紙一重のような真剣さを、うまく描いてるのが『正しい恋愛のススメ』で、そこが面白い。ただ、コミックス版の1巻は、長いプロットで言えば仕込みの巻にあたる。

 コミカルなタッチではあるけど、博明の今風のキャラクターやノリは、コミックス1巻でも、よく描かれてます。
 やっぱり現実の男の子は見栄とか世間体とか、もっとグチャグチャするもんだろうとは思いますけど。今風なノリは、1面的ではあっても、うまく描かれてると思える。

 美穂ちゃんの方はちょっと、リアルにはいそうもないけど。博明と美穂ちゃんのセフレだか恋人だかよくわかんない感じも今風な恋愛関係の1つのタイプだと思うし。1タイプとしては、これも、うまく描かれてると思う。
 長続きはしなさそうに思えるとこも含めてね、うまく描かれてると思います。

 『正しい恋愛のススメ』は、面白いマンガなんだけど。ちょっと読者を選ぶ作品。
 母親が娘の彼氏と共謀して、意図的に娘を裏切るみたいな展開に、不快感を覚える方には楽しみづらいとは思います。
 その辺を、フィクションだし、コミカルなストーリーだから、と、割り切れる方にはお勧めします。

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書誌情報
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』1(集英社文庫),集英社,Tokyo,2005.
ISBN 4-08-618287-4

一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』1(ヤングユーコミックス),集英社,Tokyo,1996.
ISBN 4-08-864252-X

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 『正しい恋愛のススメ』は、ベテランマンガ家一条ゆかりさんの作品。コミカルなマンガだけど、恋愛の切なさが、きっちり描かれてていい。
 「いろいろにぎやかなトッピングが楽し


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