一条ゆかり、著、『正しい恋愛のススメ』コミックス版2、今時の恋愛事情とクラシックな恋愛
『正しい恋愛のススメ』は、ベテランマンガ家一条ゆかりさんの作品。コミカルなマンガだけど、恋愛の切なさが、きっちり描かれてていい。
「いろいろにぎやかなトッピングが楽しいけど、ビターな味のフルーツ・チップが利いてるスイーツ」みたいな感じ。
ルックス良し、可愛い彼女持ちだけど“積極性”の類が薄い高校生、竹田博明は、学校では生真面目な堅物で通ってる委員長、護国寺洸が、実は女性相手の出張ホストをやってることを知る。
ほのかに上から目線も感じられる護国寺への、対抗心や好奇心もあって、博明は、ピンチ・ヒッターとして出張ホストを勤めることに。
1度の代打で止めときゃいいのに、博明は、2度目にホストした玲子さん(岬玲子)相手の恋愛にのめり込んでいく。そうこうして、護国寺と同じ出張ホストの事務所に属すことになった博明は……。

(『正しい恋愛のススメ』ヤングユーコミックス版、2巻、書影)
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『正しい恋愛のススメ』は、1990年代の半ば頃から雑誌「コーラス」に掲載された作品。1996年~1998年に、全5巻のコミックス版が刊行された。
今は、集英社文庫版(全3巻)が入手し易いはずだけど。
ここでは、ヤングユーコミックス版の2巻を踏まえて紹介したい。文庫版だと、1巻の終盤から2巻の序盤にかけてのあたりの紹介になる。
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17歳の竹田博明は、ルックスがよくて本人も面食い。「竹田からアタックしたことなんかないんじゃない」「悪かないけどだるい男」。これは多分、中学が博明と同じだった女子高生のコメント。「中学の時から5人くらい」つきあった相手がいた、とかも言ってるから。
同じ学校の同学年女子の間では「二股かけたって噂はないよねぇ」「前つきあってた子が言ってたけど/優しいんだけどみょーにさめてて寂しかったってよ」とかも言われてた。
この辺のコメントは、コミックス版でも文庫版でも1巻巻末に収められてる特別番外編で描かれてる。この6頁の番外編は、本編で博明のイマカノをしてる美穂ちゃん(小泉 美穂)が、押しかけで博明をゲットした顛末が描かれるショート・ストーリー。
つまり、本編の「物語内の今」より前の時制のお話。ちなみに「人生平均以上あとはそこそこ適当ってタイプ」って担当教師のコメントもある(笑)。
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考え無しにホストのバイトはじめちゃった博明も、バイトのことはステディな美穂ちゃんに隠す。特に罪悪感も感じてなかったけど、やっぱマズイよね、くらいのノリ。
そんな博明だけど、玲子さんへの恋愛感情を自覚するに連れて、やっと、後ろめたいような感覚や、罪悪感らしい、何かが違う感覚を覚えはじめる。
そんなある日、誘われてはじめて美穂ちゃんの家に行ってみれば、玲子さんは美穂ちゃんのママさんだった。
「岬 玲子」は、TVドラマとかのシナリオ・ライターをやってる玲子さんのペンネームだったのだ。
と、この辺がコミックス版1巻ラストの展開。文庫版だと1巻中盤の少し後。終盤に入るあたり。
もちろん玲子さんも、博明が娘のイマカレだなんて知らなかった。
玲子さんは余裕で、博明はドキドキしながら、美穂ちゃんの前でははじめて会った同士の演技をして。
一人で帰る夜道で、博明は、自分が玲子さんへ恋愛感情を抱いてることに気づく。ホストと顧客の関係ではなくて、そーゆー意味では、はじまる前に失恋って自覚。ここの描写は、やるせなくて、切ない感じがいい♪
翌日、発熱して学校を休んだ博明を、プリントを届けるって口実で護国寺が見舞う。
偶然、玲子さんと美穂が母娘だと知った護国寺は、ホストのバイトを紹介したことに“少しは責任も感じてる”と告げる。
この辺も、特に仲がよかったわけでもない博明と護国寺の関係が、親密になってくきっかけになるようなシーンで面白い。
そして、電話で玲子さんに呼び出された博明は、家を抜け出す。
「さっきも/言ったけど/これはプライ/ベートよ」
「君には ちゃんと/拒否権があるの/自分で選んで」
「仕事でも/美穂の親でも/ない話よ/
中に入ると/ただの男と女の/話になるわ」
「私が開けたドアを/どちら側から閉める/かは 君が選んで」
マンションのドア口で玲子さんに告げられた博明は、脳裏に最近聞いた言葉が、ぐるぐると再現される。
「客とプライベートに会うのは絶対やめてちょうだいね/仕事に私情入れちゃロクな目に会わないわよ」
これは、事務所(M企画)の社長、原田さんのセリフ。
「浮気してる?」
こっちは、最近みょーに優しいと、怪しんでる美穂ちゃんのセリフ。
“わかってる--”
“熱で うすらボンヤリ/した頭でも入っちゃ/いけないことは”
“これは ひどい/ルール違反だ”
“ここで入れば/もう後戻りは/出来ないんだ”
「決めなさい」
「それとも私に/閉めて/欲しいの?」
もちろん、博明は、半開きにされてたドアを開けて、マンションのあがり口で年上の玲子さんを抱きしめるって展開になる。
ちなみに、このマンションの1室は、娘も知らない玲子さんの隠れ家だそうだ。多分、仕事に煮詰まった時とかに退避するのでしょう。「昔の彼が手切れ金がわりにくれた」そうだ。維持費とか、玲子さんがどうやってひねり出してるかは、定かでない。
「私が好き?」
「すごく…」
「私と どう/なりたいの?」「お金…/関係無しで/
つきあいたい」
「オレ…/玲子さんと/恋愛したい」
「美穂は?/
嫌いになった?」「美穂ちゃんは好きだけど恋じゃない」
「じゃあ愛しい共犯者になってちょうだい」
「うんとステキでいい男になってくれたら/
それ以上愛してあげる」「一緒にいる時はお互いを見ましょそれ以外は今まで通りで/
美穂とも原田ともうまくやってくれればこの部屋の鍵をあげる」
玲子さんと博明が共謀して積み重ねていく関係は、ふしだらって言えばふしだら。「ふしだら」なんて日本語は、ほとんど死語だと思うんだけど。
作中で使われてる表現では「道徳観もぶっ飛ぶほど」。これは、博明の口から、玲子さんと共謀して恋愛関係を進めるって聞いた護国寺が、ちょっとびっくりした感じで評したコメント。
護国寺は護国寺で、恋愛関係ではいろいろ苦労してる奴なので、続けて「人にも物にもそんなに執着したの初めてだろ/遅咲きの初恋ってホントやばいな」ってコメントを、博明に語る。
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とゆーわけで、『正しい恋愛のススメ』のメイン・プロット(主筋)は、17歳高校生の母親ほど歳の離れた年上の女性との恋愛ストーリーで、年齢差22歳。
メインのプロットにだけ注目すると、昔のフランス映画とかに、あるかもしれないような話だ。
全5巻だと、2巻目の序版でメイン・プロットの仕込が終了(全3巻の文庫版だと1巻の終盤にあたってる)。
後は、ジェットコースター風の展開を楽しむだけ♪
ただ、「玲子さんと博明の関係が淫行ではないか」とか、憤然とする方にはお勧めできない(笑)。
玲子さんは、博明に選択権を委ねてるんだから、その面の問題があるとは考えられない。それでも淫行で罪だと言うなら、随分、窮屈な罪悪感だと思う。
母が娘の信頼感を損ねるようなふるまいを積極的にして、娘の恋人に共謀するよう教唆する、こっちの件のモラル的なもんだいはまた別。こっちについても、淫行罪とかなんとか、犯罪か否かで考えるようなことがらではないでしょう。姦通罪みたいな考えが通る世の中ではないんだから。
アタシ(紹介者)も、ふしだら(笑)だとは思うんですけどね。
言っちゃえば、博明は、玲子さんに出会う前は「セックスはできても恋愛のできない男」だった。
正確に言えば「恋愛らしい恋愛」と「セックス・フレンド」との違いが、よくわかってないのが物語初期状態の博明で。博明中心に物語を見渡せば、かなり不道徳な匂いもする年上の女性との恋愛を通じて、人間の幅が広くなってく様子がうまく描かれてる。
同じ物語を、玲子さん中心に見渡すと、逆マイフェア・レディーというか、逆光源氏というかなストーリー。年下の男の子をリードしていい男を育ててく快感が描かれてる。物語のこっちの面には、際どいとこもあるけど、うまくクリアされてるとは思う。
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『正しい恋愛のススメ』はメイン・プロットに注目すると、昔のフランス映画みたい、って書いたけど。
本人たちが盛り上がれば盛り上がるほど、傍からみれば常軌を逸してるようにしかみえないし、滑稽にすらみえちゃう感じも、描写に織り込まれてて。昔のフランス映画風にしても、結構シャレてる。
それに、『正しい恋愛のススメ』の物語は、トータルに観わたすと、決して「昔のフランス映画」みたいなフィールドだけにも収まってはいない。そーゆー「クラシックな恋愛」もきっちり描きながら、もっと別種の恋愛スタイルも周辺に描かれてて。その対照感が面白い
例えば、博明と美穂ちゃんのセックス・フレンド的恋愛関係がそうだし、護国寺がホストをやる理由になってるちょっと懐かしい感じの“純愛”ストーリーもそうだ。
多分、今時の若い人たちの間には、作中の博明みたいに、セックス・フレンドの関係と、ステディーな恋愛関係との区別があまりつかない、って人も珍しくないようだ。比率では(実数なんかはわかんない)増えてるだろう気はするし、これからも増えてきそうな気もする。
『正しい恋愛のススメ』って作品は、クラシックな恋愛のスタイルが、いくつかある恋愛スタイルの間でワン・オブ・ゼムになってる状況を踏まえて描かれてるわけで。そこがいいのだ。
例えば、「純愛」って言葉も、この言葉を聞いて人が最初に連想する人間関係は、随分変わってきてるようだ。
辞書で言ったら第一義に挙げられるような語意について、なかなか合意がとりづらくなってきてるはず。
例えば、ほんの一例だけど、2006年に第1回ケータイ小説大賞を受賞した『クリアネス』(十和)は、文庫版では「限りなく透明な恋の物語」と副題が付されてて。映画版を含めて「ピュアな恋愛(のストーリー)」とか「純愛(のストーリー)」とかのコメントもよく聞く。
自宅で売春をしてる女子大生が、ホストと恋をするって、ストーリーが「純愛」か? って言うと、アタシとかは首をかしげちゃう方だけど。「これは純愛ではない」みたいに言い募る気もない。
ここでアタシが書いてるのは、「純愛」にしろ「恋愛」にしろ、コンセプトとしては拡散してる、ってこと。社会的な共有度や意味の収束度が減じてると言ってもいいし、言葉が担うコンセプトが拡散してると言ってもいい。
一方で『冬のソナタ』みたいな、昔風の純愛ストーリーがもてはやされたりすることも、今でもある。
先に「クラシックな恋愛のスタイルが、いくつかある恋愛スタイルの間でワン・オブ・ゼムになってる」状況がある、って書いたけど、それは、「冬のソナタ的純愛」が、「純愛」って言葉から連想される複数の恋愛スタイルの間でワン・オブ・ゼムってことになっちゃってるのとパラレルと思える。
リアルな世の中では、恋愛スタイルなんて、当事者が、自己責任で選んでくしかない。何かが正解って恋愛スタイルなんてないのだ。
もうちょっと細かく言うと、当事者同士が、綾取りでもするように、互いにとって一番いいスタイルを編んでいくしかないのが、「コンセプトとしての恋愛が拡散してる」状況。
この状況のいい/悪いを、ここで云々する気はない。いい面もあればよくない面もあって、その件にはいろんな意見があるはずだから、ここで論じるつもりはない。
恋愛コンセプトが拡散してる状況も視野に入れながら、『正しい恋愛のススメ』では、どうしても恋愛らしいと思える心理関係が、きっちり描かれてて、そこがいい。
残念なことに、と書かないとならないけど。
“色と欲”の“欲”の方の絡みは、『正しい恋愛のススメ』では、あまり描かれていない。金銭欲、経済関係とか、金銭絡みの支配欲とかの面は、あまり掘り下げられてないのだ。
「当事者同士が、綾取りでもするように、互いにとって一番いいスタイルを編んでいくしかない」、恋愛コンセプトの拡散状況では、当事者たちが考えなくてはいけないことの項目に、当然、経済関係や、支配や依存や協同性などの関係、それらの絡みも含まれちゃうけど。
『正しい恋愛のススメ』は、“色と欲”の金銭絡みな面は、綺麗に遠景に押しやって、あまり描かれていない。
大まかな言い方をすれば「生活感」の類は薄めだ。
それで、ある種、綺麗事ぽい雰囲気も帯びちゃってる作品だけど。描かれてる恋愛心理は、決して綺麗事だけではない。
年上の女性がリードする逆マイフェア・レディー、逆光源氏の物語相も考えると、物語の生活観の希薄な面との、バランス・シートも、そう悪くないと思う。
こうした評価は、読んだ読者のそれぞれが好きに下す事柄だけど。アタシ的には、そんなに悪いバランスでもないと思える。
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書誌情報
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』1(集英社文庫),集英社,Tokyo,2005.
ISBN 4-08-618287-4
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』2(集英社文庫),集英社,Tokyo,2005.
ISBN 4-08-618288-2
一条ゆかり,『正しい恋愛のススメ』2(ヤングユーコミックス),集英社,Tokyo,1997.
ISBN 4-08-864281-3
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『正しい恋愛のススメ』は、ベテランマンガ家一条ゆかりさんの作品。
高校生男子と、母親ほど年の離れた女性との、周囲に秘密な恋愛が、コミカル・タッチで描かれてるマンガ。


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