石田衣良、作、『ラストホーム』(『LAST』所収)、「でも、あんたがそう思うんならきっとそうなんだろう」
“渋井聡の転落は突然やってきた。”。
こう書き出される『ラストホーム』は、職場でいさかいを起こすたびに、職を転々としてきた渋井聡が、40代になってからホームレスになる話。
講談社の「問題小説」2003年2月号に掲載された石田衣良さんの短編小説で、短編集『LAST』に採録されてる。
この短編小説は、読んだ人によって評価が別れやすいだろう、と思います。
アタシ(紹介者)としては、もう少し長い分量で読ませて欲しかった作品。
作品の終盤部分が、ことに印象深いので、そこに至る経緯をもう少し読みたい気がします。
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主人公は渋井聡。トゲのある人物、と書かれてて、“大学をでて損保の中堅どころを振り出しに二十年近く、聡は数年おきに職場でいさかいを起こしては仕事を変わっていた”とも、記されている。
文庫判で38頁ほどの小説の、2頁め、作品を構成してる15の断章の内、最初の断章に書かれてる。
職を失った聡は、あまり多くない荷物を、小さなキャリーバックに詰めると、家賃を滞納してるアパートを夜逃げ。上野公園で暮らしてるホームレスの、1グループに受け入れられる。大筋としてはそういう話だ。
10番めの断章から3つの断章では、グループと一緒に駅のゴミ箱から雑誌を拾う主人公の様子が描かれ。12番めの断章の末尾近くで、聡は“ともに暮らす仲間を見つけたのだ”と、思い嬉しく思う、と、語られてる。
“学校を終えて二十年近く、いつもひとりきりだった自分が一夜にしてともに暮らす仲間を見つけたのだ。この暮らしが特別でなくてなんだろう。どこにいても居心地が悪かった自分に初めて居場所が見つかった気がする。あたたかな車両のなかで朝日を浴びながら、聡はただうれしかった。”
引用ヵ所は、主人公の聡が思っただけのことだ、と、直前にあるホームレスのリーダー、センセイのセリフで示唆されている。聡が、ホームレスたちのことを「世間のやつらよりよほどまともです」と言ったセリフに応えてのやりとりだ。
「上野のお山にくるまでホームレスなんてみんな同じだと思っていた。だけどみんな身なりはきれいだし、乱暴なやつもいないでしょう。世間のやつらよりよほどまともです」
センセイは新聞で顔を隠したまま返事をした。
「そうかい、そんなにいいことばかりじゃないけどな。でも、あんたがそう思うんならきっとそうなんだろう。別に同じ人間が暮らしてるだけだから、変わりはないと思うけどな」
ここに至る経緯で、聡は、ホームレスの別のグループに近づこうとして剣呑な感じで追い立てられ、途方にくれたままアメ横の通りで、冬の一夜を過ごした。この辺の描写も、聡の暗澹とした気分が相当に伝わってくる描写。聡の、“自分に初めて居場所が見つかった気がする”と、思う心理も、わかる気はする。
けれど、実際は聡を迎え入れても5人のグループにも、いつもぶつぶつと1人ごとのように文句を言ってる男もいれば、仲間から小金を騙し取って上野を去った奴もいる。聡は、その男の、いわば補充のようにしてグループに迎え入れられた形で。もんだいの男は、直接物語には登場しない。前、そういう男もいた、という話題で、間接的に語られるだけだ。
雑誌漁りにでかける間、他のグループのホームレスに、盗みを働かれないように、テントハウスに見張りを残す必要もある。
ホームレスの世間も、「そんなにいいことばかりじゃない」し、おそらく「同じ人間が暮らしてるだけだから、変わりはない」と、言うセンセイの言葉の方が正しい。
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何度か『ラストホーム』を読んで、アタシ(紹介者)の印象に一番強く残るのは、文庫判で6~7頁ほどと長めになってる最後の断章と、その直前の断章だ。
このパートでは、渋井聡が、自分もいつか公園のテント・ハウスで死ぬのかもしれない、と、腑に落ちるように思う様子が語られる。聡が、ホームレスの小さなグループに受け入れられるよう、口をきいてくれた老人が、そう遠くないうり、自分は公園で死ぬ、といったことを話すやりとりの間のことだ。
別にミチヨ老人が哀れだとは聡は思わなかった。死ぬ時は別と誰もがいう。いつか順番がまわってくるのは、自分も同じことだった。最後に暮らすホームが、ブルーシートの家でもかまわないではないか。広い世の中に自分を受け入れてくれる場所など、どこにもなかった。自分もいつかこの青いシートを見ながら死ぬのかもしれない。〔後略〕
聡がこんなふうに思う、前後のやりとりは、印象深い。
あるいは、センセイが聡に「でも、あんたがそう思うんならきっとそうなんだろう」と、語った、聡にとっての小世間が描かれたのが、終盤の2つの断章なのかもしれない。
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この短編小説は、読みようによっては、主人公の心理変化に無理があるように読めるかもしれない。微妙なところだ。
アタシなんかは、終盤の展開をもう少し描いてもらいたいように思ってる。
例えば、聡が、1度「世間のやつらよりよほどまとも」と思ったホームレスのグループが、やはり「同じ人間が暮らしてるだけだから、変わりはない」と思えるようになったうえで、それでも「自分もいつかこの青いシートを見ながら死ぬのかもしれない」と思うようだと、なおよかったような気もするのだ。
この辺、読んだ人によって、評価が微妙に別れる作品だろう、と思います。
『LAST』の講談社文庫版に採録されてる、文庫版のための長いあとがき「AFTERWORD」によれば、石田衣良さんが、デビュー前に朝日新人文学賞に応募した作品から「設定の一部をそのまま使用した」そうだ。
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